第一章 第四話
ネウロイのビームがついに、赤城を直撃した。
分厚い鉄板が消失した円形の穴。
その奥で
「しまった!」
「宮藤! 宮藤!
* * *
爆風で開いた
「宮藤! 宮藤!」
インカムからの坂本の声だけが、
「宮藤! 宮藤……宮藤………宮藤…………宮……………」
(……………………あれ……この声)
半ば
「………………か………しか…………芳佳…………芳佳…………芳佳……」
(お父さんの……声だ)
「芳佳……芳佳……」
「お父さん……ごめんなさい……私、何もできない」
今、自分に見えているのは、父との、最後の別れの時の光景だろうか?
はっきりとはしないが……。
「芳佳……お前には、母さんやおばあちゃんに負けない大きな力がある。その力で、みんなを守るような立派な人になってくれ」
父の声は、芳佳に告げていた。
「お父さん」
(これって……)
そう。
一か月前、ブリタニアから送られてきた、父の写真と同じ光景だ。
四年前に
一緒に写っている坂本も、今より
そして、背景には、父が開発したと聞かされたストライカー・ユニットが。
「!」
芳佳の
顔を上げた芳佳の視線の先、格納庫の
あの、モノクロームの写真に写っているのと同型のストライカー・ユニットである。
「…………」
芳佳は
今まで耳に入らなかった対空
戦いはまだ続いているのだ。
芳佳は自分の右手のひらに視線を落とした。
そこに宿る、ほのかな光。
「私に、できること……」
芳佳は
* * *
扶桑皇国
「もはや、これまでか」
重苦しい空気の中、赤城の艦長は
「……総員に、退艦命令を……」
だが……。
「だ、誰だ、あれは!?」
「どうした!?」
副長を
「発艦エレベーターに、誰かいます!」
「何!?」
艦長も甲板に目をやる。
中央の発艦エレベーターが起動して、何かがせり上がってくる。
白煙に包まれたエレベーター上に立つのは、ひとりの少女。
「私にできること……」
使い魔と一体化した
「約束を守るため……」
足には、
「みんなを守るために!」
それは、決意の表情で空を見上げる、宮藤芳佳の姿だった。
「何者だ!? なぜストライカー・ユニットを装備できる!?」
「坂本
「宮藤芳佳です!」
顔を上げる宮藤。
「宮藤!?」
艦長は息を
「あの宮藤博士の!?」
* * *
キュウウウ!
ブロロロロロッ!
足元に現われる、光の
「まさか!」
「宮藤?」
上空の坂本も、ストライカー・ユニットの起動に気がついたのか、赤城の甲板を振り返る。
「行きます!」
芳佳は甲板員の合図にうなずき、急加速して
だが、ハンガーを切り
ズギュン!
またもビーム
艦橋の屋根が
弾薬の
「きゃっ!」
爆風で芳佳の体勢が
滑走路の
「引き起こせ! あとがないぞ!」
(いくしかない!)
だが、ストライカー・ユニットはそのまま、放物線を
「飛んでーっ!」
必死に立て直す芳佳。
「飛べぇーっ! 宮藤っ!」
坂本も叫ぶ。
海面まで5m……4m……3m……2m……1m!
バシャッ!
海水に
そして、着水寸前。
落下速度が加わったことでようやく離陸できるスピードに達した芳佳の
「飛べた! 飛べたーっ!」
芳佳は
「なんてヤツだ……初めてストライカーをつけたというのに……」
「坂本さあああああああん!」
芳佳は坂本のところまで飛んでくると……。
「宮藤!」
そのまま、速度を落とせずに通過していった。
「私、手伝います!」
かなり離れてしまってから、声をかける芳佳。
だが。
ネウロイが標的を坂本から芳佳に変えて、ビームを集中させた。
「宮藤!」
警告を発する坂本。
「きゃあああああ!」
直撃!
と、思われた
シールドがビームを
「何て大きなシールドだ……あれがあいつの
自分の数倍の大きさがある芳佳のシールドを見た坂本の口元に、
「
心
「宮藤!」
「坂本さん!
自分の横についた坂本に、芳佳は自分の持つ13mm
「それはお前が使え」
「え……?」
「守りたいんだろう?」
「……はいっ!」
坂本の問いに、芳佳はハッキリとうなずく。
「よし!」
坂本はガッと芳佳の
「よく聞けよ」
雲の切れ間をゆく巨大ネウロイの上部を、
「あのあたりに、
「はい! やってみます!」
「よし! 二つ数えたら、私について来い!」
坂本は芳佳から
「おりゃあああああああああ!」
ネウロイの放ったビームが坂本に収束する。
一方。
坂本が
初めて
(このまま……引き金を引けば!)
だが。
ピカッ!
最初に坂本が
いったん下がらざるを得ない芳佳。
「
「は、はい。すみません……」
と、謝ったところをビームが
坂本はかわすが、直撃にシールドごと押し返される芳佳。
「だ、大丈夫です!」
坂本の視線に気がついた芳佳はそう答えたが、息はかなり上がっている。
「初めての飛行に、初めての実戦、体力が限界か……」
坂本はつぶやく。
だが。
「もう一度、お願いします!」
芳佳の目に宿る、強い決意。
「……分かった。気を引き
「はいっ!」
芳佳は再び
「さっきと同じことをしても、またやられちゃう……どうすれば……」
ネウロイの真上に出た芳佳は、考えを
自分も坂本も、たぶんもう限界。
あとはない。
坂本に視線を落とすと、ネウロイの体表ギリギリのところで攻撃を仕掛けている。
「……そうか!」
芳佳は急降下し、ネウロイに
(坂本さんみたいに!)
「スレスレまで近づけば、きっと当てられない!」
ネウロイのビームは芳佳を狙おうとするが、
(やっぱり!)
前方に、体表組織に
風を切って飛ぶ芳佳は、機関銃を構えた。
(いけるっ!)
自信を持って、その指がトリガーにかけられる。
しかし。
(……あ、あれ?)
照準が合わせ
初めての飛行で
二重にも、三重にも見える目標。
「しっかりしろ、宮藤芳佳! 私がやるんだ!」
芳佳は頭を
「……みんなを、守るんだ!」
何とか照準を合わせて、
ダダダッ!
命中。
体表組織がはがれ、コアが
「あれが、コア!」
(次! 次で、ネウロイを
だが、目が
トリガーにかかる指から、感覚がなくなる。
身体がふらつき、だんだんコアから遠ざかってゆく。
(あと一発! あと一発でみんなを……みんなを助けられるのに!)
「っ……ダメ……もう……」
と、照星から視線を外した、その時。
パーン!
一発の
さらに続けて、九発の銃声が芳佳の耳にとどく。
「やった……の、かな……」
頭がぼんやりとして、自分が撃ったのかどうか分からない。
芳佳の意識は、ふっと暗転する。
プロペラが停止し、落ちてゆく芳佳。
その身体を、回り込んだ坂本がそっと
「大した
「あそこまでやるとはな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます