第2話
更に三日経ちました。
わかったことといえばゾンビの身体は睡眠や食欲は無いようです。時々、ゾンビ仲間が生きたねずみや犬、猫を追っているけど、それは状景反射のようなものであって本能ではないようだ。
ちなみに、睡眠が無いのは辛い。
食欲皆無は構わないんだが、睡眠皆無はマジ辛い。
だって、人間は意識を手放してリラックスできるんだぞ?!
24時間体勢で思考するってなんて罰ゲームだって今更思った。
最初の頃は放心してたから我慢できたけど、今は疑問しかないから24時間態勢で脳が稼働中だ。
・・・死んでるけど。
いやだって、ゾンビって死んでるんだよ? 自覚してても死体じゃん。そして、これが終わりじゃないんだろ?
そんな疑問をさておき鏡を見る。
この世界で鏡は貴重品らしい。まあ、そうだよな。
ちなみに俺がいる場所は目抜き通りの裁縫屋さんだ。周りには手を前に差し出したゾンビたちがうろついているね。
よし、改めて鏡を見る。
うん、黒髪だな。肌はまあ日本人? 着ているのは学生服か。つまり、俺は学生なのか。
そして、青白い顔色に痩せ型の体。身長は170いくかいかないかくらい。
なんにせよ、首筋に残った噛み痕は印象的だったね。
美少年じゃありませんでした。
いや、知っていたよ。
どこにでもある顔でいまいち感はんぱないです。
だけど、青白い顔。
うーあー言う口元。これが俺なんだと思った。
更に三日経ちました。
「あー」
語彙も減っているけど変らない毎日です。
とはいえ、いくらかわかったこともある。
王国内を徘徊したことでこの世界にはゾンビしかいないということだ。
凶悪な魔物もいないし、敵対するような存在はいない。
俺達は毎日うろうろしているだけの存在で、時折生きている何かの存在を追っているだけらしい。
プラス、少しの発見がある。
俺には食欲と睡眠欲がない。
これはまったく構わないんだけど、他のゾンビはそうじゃないらしい。
彼等は食欲・・・というか良くわからないが、生きている存在を探して襲っていく。理由はわからないが、時折発生する知的生命体を発見すると群がっていくのだ。
ちなみに俺にその欲求はない。
耳に届くのは悲痛な叫びだがそれをどうにかする手段は俺にはない。
むしろ、俺を助けてほしいくらいなのだが、それをどうにかする手段を知らない俺がそれを願うのは酷な事だろう。
だから、俺はできないことをしないことにした。
さらに三日経った。
「うーあー」
まったく変らない現状。
というか、十日近くも経って俺の体が腐敗していない。崩れ落ちていない理由はなんなんだろうか?
時折鏡は見ている。見るたびに覚悟の瞬間なんだけど期待を裏切られたことはない。
顔色は悪い。首筋の噛み跡だって健在だ。
だけど、それだけだ。ゾンビになってから変らない。
んでもって食事もしていないのにこの体を維持できる理由がわからない。質量保存の法則はどこにいったんだよ? ん? それは違うのか。まあいいや。
ちなみに、改めて確認したところ、俺以外のゾンビは食事を取っていました。そのグロイ現場を確認したので間違いないです。その上で考えると、なんで俺は生きていられるのだろう? いや、死んでるんだけど、それでもノー補給でやせ細らない理由はないし、何らかの不思議パワーで動いているにしろ身体は劣化しなければならない。それに、この数日見続けた固体の中で明らかに腐敗が進行している奴らだっているのだ。
俺が異世界人だから?
だったら、最初っからゾンビにならない加護を持たせろよと思わなくもないが、徐々に腐っていく自分の姿なんて見たくもないし、ゾンビ化しない加護が合ったとしても、あの場で生きたまま引き裂かれるエンドを考えれば現状が一番ましかと思わなくもない。
まあ、召喚されないのが一番の未来だったかもしれないけど過去は変えられないので前向きに考えよう。
「あーうー」
そう呻きながら石造りの街並みを歩く。というかそれしかすることがない。
もちろん、二十四時間態勢で散歩しても、何一つ面白いことなんてありはしない。
なので、今日も散歩しつつ向かう先は図書館だ。
進む石畳の先に見えるのは二階建ての巨大な建造物と、だだっ広い道を行きかう無数の死体の群れだ。
誰もが呻きながら道を行きかい、時折肩をぶつけて進路をずらしていくが、それはあくまでルーチンワークであり何かが起こることは無い。生きた人間がぶつかったのなら話は別かもしれないけどね。
なんにせよ、ここには死体しかいない。嗅覚がなくなっているのが唯一の救いかもしれないけど、死体の群れの中を歩くのはそれなり視界的なストレスだ。まあ、十日もたったからある程度は慣れたけど。
「あーうー」
開かれっぱなしの図書館の入り口をくぐる。
図書館自体は石造りの建物であり明かりを灯すようなランプもないが、各所の壁に設置された嵌め殺しの窓と、天井全てがガラス張りの採光窓になっているので薄暗さは感じない。夜になったらどうするんだろうという疑問と、落下物があれば天井窓は粉々だよね、という疑問はあるが、それはその時に任せよう。
入り口脇にあるカウンターには女性職員思しきスタッフが立ち尽くしていたが、その頭は半分かけていた。うん、なまじ綺麗な横顔なので正面から見たときの衝撃は今も忘れない。
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