ゾンビに自我が生まれました
@touyafubuki
第1話
ゾンビに自我が生まれました。
ゾンビ映画を見たことがあるだろうか?
もしくはキョンシーでも、なんだったらエイリアンものでも何でもいい。
死者という存在が蘇って生きた人間を襲う物語を知っているだろうか?
大体が接触もしくは体液交換を持って感染するのだが、まあ、そういう設定の物語だ。
要は死者が死者を生んでその連鎖が積み重なった上で世界が滅んでいく。
残された人間が精一杯の抵抗をして生き延びる生存劇が売りで、最終的には全滅する………もしくは結末を曖昧にするのがテンプレートだ。
ただし、
異世界なんてもんに召喚された上に、召喚された王国がすでにゾンビエンドの結末を迎えていたなら話は別だけどな!
ということで、きらびやかだった王様の応接間に押し寄せるのは不自然に体が上下する人間らしきものの群れ。そして、誰もが顔色が悪い上にどう見ても死んでいるであろう様子の連中が多々としている。
定番のように低いうめき声を上げて、生者めがけて這いより忍び寄ってくるのだ。
高い天井に石造りの広い部屋。本来だったら異世界召喚マジかよ?! とテンション上げるところなんだけど、正直何のとりえもない上にコミュ症の俺としては、戸惑いつつも後ずさりするしかない。
「あ、あなた異世界人でしょ? 何とかしなさいよ!」
そんな声に振り返れば、細身の金髪美少女が細い腕で己の胸をかき抱いて、
「早くわたくしを救い・・・げぇあ!」
その首筋に死者が喰らいつき、引きずり倒された。続くのは耳を覆いたくなるような悲鳴と肉の引き千切られる生々しい音だが、そんなのは関係なかった。
人でなしと思うなら思ってくれ、何しろ正直それどころじゃないのだ。
なぜなら、
「ウーアー」
異世界召喚というエキサイティングな体験をしている俺なんだが、360度見回した上でゾンビしかいないこの現状、
「100%詰んでる状況で召喚とかありえなくないか?」
異世界に憧れる年頃です。
だけど、そういった物語ってさ、これから反撃を始めるとか、危機を迎えつつあるからわらをもすがってって言うのが定番じゃないのか?
なんで、俺と王女っぽい女以外全滅した世界に召喚、しかも、その王女っぽい女が捕食された世界に召喚されなきゃならないんだよ?!
これからスタートっていうか完全に詰んでる状況の召喚って罰ゲーム以外のなんでもないし、俺を元の世界に帰せるかもしれない存在が真っ先に死んでるからな?!
これが夢じゃないなら生還の可能性はゼロ。
うわー、もともと自分ってなんで生きてるんだろ? とか厨二くさいこと考えてたけど、こうやって生々しい現実と向き合うと思うわ。
「死にたくない」
手が伸びてくる。360度から低い呻きと青白い手が伸びてくる。
逃げ道なんてない。
視界の端では王女っぽい何かが手足やらを引き千切られて、腹を開かれた上で複数のゾンビに群がられていた。うん、美少女も台無しだね。
俺もそうなるのか?
って後ろから捕まれる感触。そして、触れる肌と肌の温度はびっくりするほどの格差だ。なんでこんなに冷たいんだ? ああ、死体だからか。そう納得しながら振り返った俺の視界に映ったのは不健康そうに浅黒く染まった口蓋だった。
「うーあー」
三日経ちました。
俺が召喚という罰ゲームを受けて三日です。
そしてあえて言いましょう。
俺は三日前に死にました。
死んだ俺がなんでこうやって思考できるのか?
簡単なことなのです。
だって俺、ゾンビですから。
マジふざけんなよ?!
わくわくドキドキの異世界召喚でゾンビエンドってなんだよそれ?!
しかも、あっさり死んでしまって勇者よ情けないならともかく、死んでやり直しもループもない上に死にっぱなしって酷くないか?
そして、ゾンビって言う最低の存在に生まれ変わって意識を保ち続けられるって、どんなバッドエンドだよ。
まあ、死後の世界は知らないけどゾンビの世界はありましたとさ。
ちなみに、ゾンビな俺ですが地球という世界から召喚された高校生です。
誰に向かって自己紹介しているのか意味不明ですけど、今更ながらの自己確認。だって、死んでしまったかもしれないけど、自分で自分のことを認識できなくなったらそれこそただの死体以下ですよ。
「あーうー」
言葉はこれくらいしか言えないけどね。
って名前を思い出せない。どういうことだ?! ゾンビになったからこその弊害か?! 確かに体の動きはすごく鈍い。ゆらゆら帝国な感じの動き方だ。でも、思考ははっきりしてるんだ。なのに、なんで名前が思い出せない?! 脳が腐りかけてるのか? いや、それだったら思考すら止まっているはずだ。
急に怖くなった。
死んだとき、これが死か。そう思った。
痛みと覆いかぶされる感触に絶望した。
しばらくして意識が浮上した。
浮上という言い方はおかしいかもしれないが実際そう思った。まどろんだ意識がもぐった水面から開放される時の快感、それに似ていたんだ。
と、ここまで理解も出来るし知覚できるのに自分の名前が思い出せない。
マジかよ。
つーかここどこだよ?
「うーあー」
呻きつつ視界を回す。というか体の動き鈍すぎ。
視界に映るのは街並みだった。正確に言うなら街だったところだ。
うん、いつの間にか俺城の外に出てたんだね。
そして、改めて思う。酷い光景だ。
本来なら石造りの街並みは古代のローマを思わせるような感動的な風景だったんだろうな。それこそ、映画の中でしか見れないような世界観だ。行き交う人々も籠を頭に載せたり印象的な衣装を身にまとっていたかもしれない。
でも、俺の視線の先にいるのは、
「・・・・・・・」
死体の群れだ。
日の差す街並みを闊歩する死体の群れだ。
どいつもこいつも顔色が悪い上に、四肢が欠損している存在もいる。
だけど、生きていた頃の習慣なのか、出店のカウンターに立っている連中や、何らかの制服を着た奴等が定期的な巡回をしていたりする。それは素直に面白いと思った。
んでもって俺。
名前は不明。年齢不詳。でも、そこまで歳はとっていないという予想。だってスマホ世代だしね。
「うーあー」
としか言えない今日この頃。でも、思考はこの通り。
まあ、なんというか死んでしまったから、声帯がだめになったのかな? でも、死んでたら思考すらできないから、色々考えないといけない。つーか、死んでしまったのに考えないといけないっておかしくないか?
頭が良い奴なら検証くらいできるだろうけど俺はそこまでじゃないぞ?
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