46作目はロシア古典戯曲

『桜の園』

『三人姉妹』 共にチェーホフ著、神西清訳、新潮文庫、昭和42年刊


 古典的名作を読む修行において、初の戯曲だ。

 小説ではないが、未だに本作をベースにした演目が絶えることなく披露されるので、読んでおくべき作品と判断した。


 どちらも「消えゆく時代への哀愁」を背景に、登場人物たちの「思い通りにならない人生」の様々な側面を見せていく。ロシアの変革期を舞台にしながら、いまも読み継がれるのは、そこに普遍的なものを見出せるからだろうと思った。いつの時代も、人は悩みながら生きていくものなのかと思わされた。


 驚いたのは、状況説明的なセリフが冒頭から連発されていることだ。「小説の冒頭では説明し過ぎるな」と戒めを受けていた修行中の身としては、やり過ぎかと思えるほどのその種のセリフの乱発に戸惑った。


 また、登場人物たちのセリフが非常に感情的で、内面を平気で吐露し続ける点は、心情理解には繋がるが、果たして現実にこんなことは起きるだろうか?無理ではないのか、と「劇場型」の特殊性に気を奪われてしまう。


 不思議に思ったのは、登場人物たちはとにかくみな好き勝手に振る舞い、好き勝手なことを言って、自分のことしか考えていないような俗物ばかりなのに、読み終えると、なんとも言えない「不完全な人間への哀愁」を抱くことだ。 欠点だらけの彼らを、最後にはどこか愛しく思えてしまうのは、なぜだろう。


 時代背景を考えると、「時代に翻弄された登場人物たち」とも評されるのだろうが、私には、それは言い訳に思える。

 自分の人生で最も大切なものは何か、という命題を各々が見出す勇気があったら? また違った展開になっているのではないかと感じた。

 けれども、そうした命題を観客に突き付けながら、それでも、決断を下せない人間の弱さも否定しない。そこに温かさを感じるし、無為に時が過ぎる中で、嘆きながらも生きていく、強かさも感じた。

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