第8作目は実験的習作&朗読について

『風の涙と愛の花』 久保田弥代 著

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054881775414


 全音読了(約1万1千字) 約30分 20160927 17:30


 この作品のために『地獄変』を先に読んだのは前話に記した通りだ。

 音読の際は、意外なまでに苦戦した。どこがどうと上手く説明し切れないが、本作の概要説明にあるように、久保田氏が様々な試みに挑戦していることも影響しているのだろうか――「古典みたいな文体での書き方が出来ないかという習作。短編でも章分け公開すべきなのかの実験台としても。」(上記作品概要より抜粋)


 病の床にある文豪レオナルドは、かつて貧しさから手放した愛娘・クラリッサを死の間際に取り戻す。そんな二人を見下ろす天使と堕天使は禅問答のようなやり取りを交わし、やがて最期の時を迎えたレオナルドはクラリッサに手紙を残す。そこに書かれていた言葉は……。


 レオナルドの苦悩が語られる場面は、芥川龍之介の『地獄変』を読んだ時と同じように、喉の奥が痛くなって読み辛かった。

 クラリッサを得てからのレオナルドの喜びと愛情溢れるシーンは、一転して、豊かな情景を思い浮かべながらすらすらと読めた。

 天使と堕天使のやり取りは、愛と罪、罰、赦し、という人類の永遠のテーマをいささか古風な口調で繰り広げられるのだが、ここが一番シンドかった。言葉に籠められた重みが口の動きを妨げる。天使と堕天使の愛と憎しみが表裏一体なところを読み込むのに苦労した。

 その後のレオナルドの最期、ラストの風の舞う花園のシーンは、再び情景を思い浮かべながら自然に音読できたと思う。


 同じ作家が書いた文章でも、内容や言い回しによってここまで読み易さ(あくまで私にとっての、だが)が変化するのには驚いた。これは全文を音読することで分かったことなので、やはり手を抜かずに読み抜いて正解だったと思う。こういう時はちょっとだけ自分を褒めたくなる・笑 誰も見てないから分からない、という悪魔の囁きはいつも私を惑わせるのだが、天使が勝ってくれてホッとしている。


 私が久保田氏の作品に惚れ込んでいる理由は、『凍土の英雄』に代表される豊かで荘厳な表現力と文章力、構成力、伝える力、などが挙げられるが、今回の作品を読んで改めて気付いたのは、もう一つの着目点――生と死、愛と生を真正面から描いておられることだと気付いた。それが、『昇る日』をカクヨムで最も大好きな作品として挙げることにも繋がる。


 ちなみに、現在私はその『昇る日』の朗読ができるようになりたいと練習を重ねているが、昨夜プロアナの友人がスカイプ経由で練習に付き合ってくれ、様々アドバイス&課題を貰った。さすがプロ、と唸るようなダメ出しの連続であった。どうして声を聴くだけで「いま猫背で喋ったね?」なんて言えるんだか、参る。(音声通話のみ)


 朗読において最も大切なのは、書き手である久保田氏が作品に籠めた想い&描かれた人物像を自分なりに咀嚼して膨らませ、朗読する自身の言葉と音にそれを載せること、だそうだ。

 そして、自分がどう読むかではなく、「聞き手にどう伝わるか」を常に意識し、朗読したものを録音して聴くことを繰り返し、納得いくまで練習することが大切と学んだ。プロでも毎日練習するそうだ。頭が下がる。だからこそのプロなのだろう。自分の録音した声を聴きたくないという素人は多いが、あたかも通過儀礼のように、それを乗り越えないとプロの域には辿り着けないものらしい。

 素人にどこまでできるか分からないが、少なくとも作者と作品に失礼に当たらぬように、きちんとできるようになりたいと思う。




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