第3作目は文庫本

 今日は少し時間に余裕があるので文庫本一冊に挑戦しようと思う。

『あん』ドリアン助川著 ポプラ文庫


 *読了20160917 17:30 音読箇所は中盤から約1万字程度を選び約30分間。


 選んだ理由は、大好きな映画の原作であること、作者が詩人なので言葉の選択やリズム感を学び取りたいこと、また音読を前提としているので詩人の文章ならより効果的かと思ったからだ。


 桜の舞うポスター&あの河瀬直美監督の作品というのに惹かれて、昨冬にリバイバル上映を探してわざわざ銀座までこの映画を観に行った。

 美しくも悲しい人間の性を、揺蕩う自然と共に見せてくれた名作だった。

 日本ではメジャー扱いではなかったが、多数の海外の賞に輝いたのは納得だ。


 樹木希林さんの、自然体かついぶし銀の光を静かに放つ演技に釘付けになり、若い頃のツッパリ野郎の印象だった永瀬正敏さんの心の機微を繊細に魅せる落ち着いた演技には歳月を感じて自らの来し方にまで想いを馳せ感慨深かった。中学生役の内田伽羅さんがあのモッくんのお嬢さんだなんて、私も歳をとるわけだ、などと嘯いて、目尻に滲むものをそっと拭いながら映画館を後にした。

 その日のウチにネットでポチした原作が、この『あん』だった。


 作者のドリアン助川さんは、作家と言うよりNHKの対談番組や若者向けのに良く出ている面白い詩人さん、として認識していたので、どんな文章を書くのだろう、と読み始めた。


 映画化の原作としてももちろん興味があったが、原作とは名ばかりの小説も結構あるのは知っていた。 

 しかし拍子抜けするくらい、この映画は原作の世界観を大切に具現化したものだとすぐにわかった、まるで卵が雛に孵るのをじっと温めて見守ったかのように。


 扱うテーマは非常にデリケートなものだ。

 それを作者は真正面からどう描くんだろう、と思ったら、冒頭から肩透かしを喰らう、もちろん良い意味でだ。

 感情を煽ることなく、ただ淡々と筆は進む。むしろそれが心地よい。


 そして実は、前半部の盛り上がりの一つで私は読むのを止めていたのだった。 

 半年以上の放置だった。

 栞を挟んであった。

 なぜその先を読めないでいたのか。分かっていたけれど言葉にはしたくなかった。それはいまも同じだ。けれども、今はやはり読み通そうと思う。ここを避けては通れない。無理はしないつもりだが、読み終えた時、きっと少しでも前に進む力を得た自分に出会えそうな気がする。

 音読部分の1万字相当をどこにするかを考えながら読むのも楽しみだ。

 

 読了後、加筆。29160917 19時

 音読箇所は結局、中盤の徳江がどら春を去ってからの部分にした。

 当初、辛くて読めなかったその手前部分は、なんとか通り抜けられた。

 

 読了感想だが、作者が詩人であることはあまり気にならなかったが、スルスルと読み進められるということは恐らく、凡人には分からぬ術があるのかもしれない。

 淡々と進む3人称視点の小説で、自然の描写が上手く、人間性を突く深いメッセージに心がジンと来た。

 桜の季節にまた読み返したいと思う。

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