第7話 投票

休憩が宣言されてから一時間が経過した。会場にゾロゾロと宇宙人が戻ってくる。ヒロはミカの隣に座った。


「ミカはどっちに投票する?」


「もちろん開示には賛成ね。なにしろ、サルゴン議長がそう言っているのだから逆らう手はないでしょ。それに、この投票は議論が錯綜している。論理的に判断できる問題になっていないのよね」


ヒロは複雑な気分になった。ここで開示という世界的イベントを起こすか、何もしないか。その差は甚大だ。ただ、イベントの内容がブラックボックスに近い。ミカのいう通り、投票はナンセンスだとも思う。そんなことを思っているうちに、壇上に司会者が現れた。


「皆様、定刻になりましたので投票に入りたいと思います。その前にサルゴン議長から簡単なお話があります。それではサルゴン議長、よろしくお願いします」


サルゴン議長が壇上に立ち、喋り始める。


「皆様はこの1時間をどう過ごされましたでしょうか。お考えは既にまとまっているものと存じます。私もこの1時間、いろいろな方から質問を受けました。一番多かったのは、何をどう開示するのか、それでピルシキ星人は納得して交渉の場を持てるのかというものでした。具体的な表現や範囲は未定ですが、とにかく人類が地球外のDNAを持った生物であり、それは宇宙人による遺伝子操作により生まれたということを科学者の研究結果として発表すること。これは決まっています。それ以上の情報や表現方法、媒体については未定ですが、投票はこれに賛成か否かという形で行います。従いまして、事前の意見表明や質疑は行いません。よろしいですね」


会場がざわついた。しかし、サルゴン議長はそれだけを言うと、さっさと壇上から消えて行った。再び司会者がマイクを持つ。


「それでは早速、投票に入りたいと思います。投票は過半数を持って有効とし、挙手により行います。それでは、人類が宇宙人の遺伝子操作により生まれたことを開示するのに賛成の方、挙手をお願いします」


一斉に手があがる。


「賛成、440名。ありがとうございます」


「では、反対の方、挙手をお願いします」


「反対、88名。よってこの議案は可決されました」


会場に大きな拍手が起こる。結局、ヒロは賛成した。ケリーは反対だった。後はヴェーダ博士の仲間が反対したようだ。いずれにしても、これが大きな決断であることは間違いない。誰もがその場に立ち会ったことに少なからず興奮しているように見えた。


再び、サルゴン議長が壇上に上がる。


「皆様、この歴史的な議案に賛成いただき有難うございます。早速、開示に向けた専門家プロジェクトを立ち上げたいと思います」


野心のある宇宙人が次々と壇上に駆け上がり、サルゴン議長と握手している。ヒロはこれが宇宙人のゲーム、宇宙人の楽しみ方なのかと思った。そして、人間が宇宙人に似ているのか、宇宙人が人間に似てきたのかなどと思い、少し可笑しくなった。


「ヒロ、ここからがゲームよ」


ミカが言った。


「開示が行われることで産業がどう変わるか、国際関係がどう変わるかを分析しないと。私たちは、どこにベットするのか。興奮しない?」


ミカはそう言うと、もうパソコンを広げて何やら作業を始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る