第16話 第一回神聖アルティア王国防衛会議inリステ砦

「では、第一回神聖アルティア王国防衛会議inリステ砦を開催します」


 俺は出来る限り明るく大きな声で宣言した。


 ここにいる人への俺なりの配慮である。ここで弱気な態度を取るのは愚策だ。士気が下がる。


 といっても戦闘要員など数える程しかいないのだが・・・。


 この執務室にはリディア、ナツキ、エリスとメイドのニナさん、アルマさん、ラニアさんがいる。


 戦闘要員はエリスくらいしかいなかった。


 一応ナツキとリディアは魔法を使えるが戦闘させるつもりはない。


 彼女たちは俺の勝利条件の一つだ。それをみすみす敵に晒すことなどしない。


 「で、アルテはどうした?」


 俺はリディアに聞いた。戦闘要員その2のアルテが何故この場にいないのか。単純に疑問だった。


 「準備がある。といって部屋から出てきてくれませんでした。」


 リディアは少し顔の角度を下に向けて言った。


 別にリディアを責めてる訳ではないよ。と軽くフォローしておく。


 アルテは準備中か。でも何の準備だろうか?


 俺は色々召喚術の準備について考えたが思いつかなかった。


 まあいい。アルテが準備すると言ったんだ。何かしらの手助けにはなるだろう。彼女は口数こそ少ないが俺たちのデメリットになるような事はしないはずだ。そもそも、リディアの護衛その2だしな。

 後で細かいところをすり合わせにいこう。



 「よし、じゃあ進めよう。まず俺たちの状況からだ。リディア頼む」


 俺はそういって、リディアに振った。


 「はい。現在の神聖アルティア王国領地についてお話させて頂きます。

  つい先ほどこの砦の近くのケール領がアルスメイ帝国軍によって占領されました。

  そしてケール領が我が神聖アルティア王国の最後の領地でした。

  つまり、このリステ砦以外全てがアルスメイ帝国の手に落ちたということになります。」


 リディアには情報収集に徹してもらっていた。


 まだアルスメイ帝国の手が届いてない領地の領主に手紙を出して、帝国軍が来たら戦わずに降伏して情報だけをリステ砦に集めるようにと伝えていた。


 俺としても時間稼ぎはしたかったが、無為に兵を危険に晒すことだけは避けたかった。そして俺の描いたアルティア王国の復活劇には彼らの協力は必須で、出来るだけ数を残しておきたかった。


 「そして、情報によると後3日後にこのリステ砦に到着する予定です」


 「そうか。ありがとう」


 俺は顔に笑みを張り付けたまま自信満々で言った。


 実際俺はそんなに焦っていなかった。


 いずれこうなることも分かっていたし、打てる手は打ってある。状況としてはそんなに悪くはないと思っている。


 「リディア、こちらに向かっている兵の数はあったか?」


 「はい。ケール領に来た兵が5000で、こちらに向かっているのは2000と書いてありました。」


 「ふむ。ありがとう」


 2000か。こっちの戦闘要員は実質3人だ。3vs2000って結構燃えるシチュエーションだなと呑気に考えていた。


 恐らく大臣が裏切ったことでエリスと救世主がいることがバレているのだろう。それで2000を差し向けたと考えるのが妥当か。いや救世主と対峙するには少ないな。エリスの戦力は俺の中では未知数だがリディア曰く500人に相当する戦力を持っているとのことだ。そう考えるとやっぱり少し少ないな・・・。とりあえず保留。


 エリスに色々聞いても彼女はあんまり答えてくれない。


 ただ、戦場では敵味方関係なく巻き込んで戦うので一人で敵陣に突っ込むことしかできないと教えてくれた。


 まあ、予定通り事が進めば彼女の出番はほとんどない予定だ。保険程度に考えておこう。



 さて、じゃあこっちの陣営の話を始めようか。


 「では、こちらの陣営の割り当てを発表する。

  まず、エリスにはこのリステ砦の門を守ってもらう。侵入してくる兵を全て殺せ。」


 「わかった。任されよう」


 エリスは自信満々に頷いた。


 予定通り進めば、敵兵がこの砦に辿り着くことなどない。それまでに全員殺す。彼女はあくまで保険だ。


 「アルテは・・・今いないが、エリスと共に砦の門の防衛だ。エリスの戦闘の補助をしてもらう予定だ」


 アルテに関しても保険だ。今回の防衛戦では実質敵と戦うのは俺一人の予定だ。それで問題ない。


 「ナツキとリディアは俺の傍にいろ。お前たち二人を守りきることが俺の第一勝利条件だ。」


 「はい」

 「わかった」


 ナツキとリディアはそれぞれ神妙な顔つきで頷いた。リディアもナツキも緊張して顔が強張っている。リディアは戦争は経験済みだと思うが、ここで負けるような事があればアルティア王国が滅亡するんだ。そりゃあ緊張もする。ナツキは戦争どころか、戦闘もしたことないだろうからな。


 二人は俺の傍にいてもらうし、万が一危なくなったら先に逃がす。彼女達を危険に晒すことはない。


 「ニナさん、アルマさん、ラニアさんには万が一に備えて隠し通路の先の馬車に物資を移してもらう。

  戦闘が始まったら馬車で待機だ。俺の勝利を祈っててくれ。」


 「かしこまりました。ユウ様」



 ニナさんがゆっくりと頷いてくれた。

 彼女達は本当の意味での保険だ。もし万が一俺が負けた時は国が滅びようが関係なく逃げる。国を守りたいという思いはあるが、命さえあればどうにでもなる。逃げ延びて準備をして反撃すればいい。俺にはその力がある。


 隠し通路というのは、書庫にある。そこから山を抜ける坑道があり、それを抜けると山の反対側まで出ることができる。反対側はアルスメイ帝国の領地内だが、少人数で潜伏することならできるだろう。


 「フォクシーさんとカースさんが帰って来たら物資の移動を手伝ってもらう。二人はそのあと馬車の防衛についてもらう。


  二人の帰還は予定通り進んでるんだよな?」


 「はい。先ほど伝令が帰ってきて、二日遅れで到着するそうです」


 フォクシーさんとカースさんと詰め所にいた兵士10人には今回の戦いを見据えて、一番大事な任務に着いてもらっている。


 それは共鳴石の確保だ。


 隠し通路の先の山の向こう側から少しいったところに鉱山都市メルキアという街がある。


 そこは、アルスメイ帝国の領地なのだが共鳴石がよく取れる。そしてそこでは共鳴石が取引されているのだ。


 国としてアルティア王国に輸入することは出来ないが、カースさんとフォクシーさんに個人として買い出しに向かってもらっている。お金はこのリステ砦に備蓄されていたもの全て持たせた。共鳴石はかなり高価だが約25kgは確保できるだけはあるだろうとのことだ。


 そして先日、石の確保には成功したと伝令から連絡が来た。フォクシーさんのかなりの活躍があったそうだ。

 売ってくれない商人に対してハニートラップで近づき殺したんだそうだ・・・。強盗殺人事件だった。俺は少し頭を抱えたが、アルスメイ帝国の領地ということで考えないことにした。民は国とは関係ないという正論はこの際無視する。


 そしてその二人は現在リステ砦に向かっている。二日後に到着予定らしい。




 「二日後か。間に合うな。よし。みんな聞いてくれ。

  俺の見立てが間違ってなければこの戦いは勝利だ。しかもこちらの怪我人は一人も出さない。完全勝利だ、みんな安心してくれていい」


 ここにいる人を勇気付けるために自信に満ち溢れた表情をして、みんなの顔を見る。


 みんな完全には緊張を解いてはいないが、少し安心した表情をしてくれている。


 「そうはいっても、実際どういう作戦でやるんだ?」


 エリスが信じられないという顔でこちらを見ていた。


 エリスにはあんまり俺の召喚術に関しては詳しく話はしていない。


 聞かれなかったし…。


 「そうだな。ではこちらの作戦も教えておこう。

  フォクシーさんとカースさんが持って帰ってきた共鳴石を使ってルードラゴンを3体呼び出す。

  それで終わりだ。完全に連携の取れたルードラゴン3体で敵兵を空中から殲滅する。負けるビジョンすら見えない。」


 「お前にそんな事ができるのか?」


 「ああ、できるさ。そのためにわざわざ二人には買い出しに行ってもらったんだ。無事に帰ってきた段階で俺たちの勝利は確実だ。」


 「わかった。お前を信じよう。」


 エリスは少し安心したようにソファーに座った。


 これが俺の立てた作戦だった。カースさんとフォクシーさんが25kgの共鳴石を持ち帰って来る。俺はそれを使いルードラゴンを召喚する。攻め込んできた兵士を森ごと焼き払い殲滅する。負ける要素がどこにもない作戦だった。ちなみに、ルードラゴンを召喚するには8kgの共鳴石を使う。3体が限度だ。


 

 『ルードラゴン』


 生息地不明。どこからか現れて山を縄張りにする。


 ドラゴン種の中では小柄で体長は8m~12m程。


 口からブレスや炎球を吐きだし周囲一帯を炎で焼き尽くす。


 爪は鋭く、空中から地表の獲物を取る姿も確認されている。


 ドラゴン種は群れることはなく単独で縄張りを持つ。


 生殖については現在は不明。どこかにドラゴン種の集まる山が存在する可能性がある。


 リスト歴453年にアルティア王国が討伐に成功。だが、死者832人を出した。


 以後現在に至るまで存在は確認されていない。



 ちなみにアルテはこいつを一度召喚したことがあるらしい。興味本位で召喚したらしいが扱いにこまり自殺させたそうだ。改めて召喚術師にはロクなやつがいないな。


 ん?待てよ。


 最後にこの大陸に出現したのが453年。そしてアルテが真名を見るためには実物を見る必要があるそうだ。で今は703年らしい・・・。アルテって最低でも250歳オーバーってこと?

 やっぱり俺の直観が正しかった。あいつはロリババアだ。間違いない。


 アルテの事は今回の件が片付いたら話を聞くとして、おいておこう。


 単体で832人も殺してしまうルードラゴンを今回は3体同時に召喚して戦わせる。俺が頭になって細かく指示を出し連携させる。たかが2000人くらいどうにでもなるだろう。

 だから俺はこれを頭の中で前哨戦と位置づけている。


 なぜならアルスメイ帝国の戦力にはドラゴンスレイヤーと呼ばれる奴らがいるからだ。

 火の精霊術師―――イマルク・エルド

 水の精霊術師―――メルテオ・エルド

 そして、

 アルスメイ帝国の第二皇子 


 竜殺し―――キンドレッド・レイ・アルスメイ


 こいつらはアルスメイの英雄と呼ばれている。


 ルードラゴンの上位種である『ライズドラゴン』をたった3人で殺したとの噂だ。


 間違いなく強い。


 だからこいつらとの戦いが最大の山場になる。こいつらを殺してアルスメイ帝国の戦力をそぎ落として首都を奪還する。その後、アルスメイ本国に踏み込み制圧する。俺はそういう筋書きを頭の中で考えている。だから今回のは前哨戦なのだ。負けることは許されない。


 だが、今回の戦いで腑に落ちないことがあった。


 「なあ、リディア」


 「はい。なんでしょうか?」


 「火と水と竜殺しはこっちには向かってきてないんだな?」


 「はい。火と水は二人ともニルスで、竜殺しはアードで確認されています。

  今からこっちに向かっても間に合わないでしょう。」


 これが一番腑に落ちないところだった。


 アルスメイ帝国側も救世主の存在と恐ろしさについては承知しているはずだ。


 そして場所もバレている。そこに最高戦力を集めない意味がわからない。


 過去の救世主の事を考えると、たかが2000程度の兵ではどうにもならないことくらい解るはずだ。


 現に俺も2000程度の兵が来たところで恐怖すら感じない。


 『光翼』や『耕王』みたいな知識タイプだったらまだしも、こんな戦時下だ。必ず武力タイプが出てくるだろうと考えるのが普通だろう。ここに関しては気持ち悪さが残る。だが考えたところで答えは出なかった。相手の慢心とも取れるが・・・最後の詰めを誤るような相手なのか?相手は大陸最強になろうとしている国である。その可能性は低いと見ていい。そんなアホが大陸を統一なんてできるわけがない。


 なぜだ・・・。


 とりあえず保留しておいて、3日後の前哨戦に備えよう。そう気持ちを切り替えた。



 俺はそのあと「なにか質問ある人?」と聞き、誰も手を挙げなかったので解散とした。




 俺の心は少しの不安に苛まれていたが、二日後にカースさんとフォクシーさんが無事到着したと聞いて晴れた。


 戦力は揃った。今回の戦いで出てこないならそれでいい。俺は勝利を貰うまでだ。そう思うことで、もう不安な気持ちは無くなっていた。


 そのまま俺は屋上に上がりカースさんから受け取った共鳴石でドラゴンを3体召喚した。


 ドラゴン種の中では小柄といっても十分な大きさをしていた。


 鋭い牙に爪。大きな翼。俺の顔程のサイズのある瞳。目の前に立っただけで身震いがした。


 召喚したらすぐに服従状態にして、屋上で待機させた。何もすること無くただそこに居るドラゴンを見ると少し間抜けだなという感想を抱いたが、一匹を使って動かし方の練習をしていたらそんな感想は吹っ飛んだ。


 凄まじい力だった。


 飛行速度はジェット機のように早く空気を割く音がしていた。空へ向けて炎球を吐かせたら、俺はその余波だけで尻もちをついた。その炎球は雲近くまで届き爆散した。


 負ける気がしなかった。



 アルテに見に来るように言ったのだがアルテは部屋から出てこなかった。


 何を準備しているかは分からないが、布みたいなものに魔法を使う時に使う式をひたすら書いていた。


 何か聞いても教えてくれなかった。ただ、アルテはその時笑っていた。失礼かもしれないが不気味だった。今まで一度も笑ったことの無いアルテが笑っていた。それだけで異常事態だった。


 その後アルテは門の防衛にはつかないと言った。俺としてもあくまで保険だと考えていたのとアルテの不気味な笑いもあって、分かったと返事をしてしまった。指揮官としてはどうなんだと思ったが怖かったものは仕方ないのである。




 そして、防衛会議から3日後、奴らがきた。


 アルスメイ帝国の兵が隊列を組んでやってきた。

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