第13話 口下手アルテ先生の魔術講座

俺がアルテに師事してからもうすでに10日が過ぎていた。


 あの日リディアを慰めたあとアルテの弟子になる許可をもらった。


 そのことをアルテに話すと、アルテは「そう」とだけいって師事することを許してくれた。


 ついでにナツキもアルテに師事することになった。


 自分の身くらい自分で守れるようになりたいとは彼女の言葉だ。


 そこから俺たちは10日間アルテの魔術講座を受けた。 


 そして俺は、召喚術が使えるようになって―――いなかった。





 俺は救世主なんだから実は天才的な召喚術師の才能がある。


 みたいな、感じの流れになると思ってた。


 アルスの魔術によって必然的にその流れになると思っていた。


 だが、ならなかった。



 既に10日が過ぎている。


 俺は焦っていた。尋常じゃないくらい焦っていた。



 正直ここまでたどりついたなら後はセミオートと思っていたのに・・・。


 おい、アルスどうなってんだ!!




 そんな俺は今、リステ砦2階のホールにいる。


 俺とナツキは弟子になったその日にこのホールを掃除した。


 そして、使ってない部屋から机をもってきて教室にしていた。



 俺たちの生活はここ10日、アルテの魔術講座を中心にまわっていた。


 朝起きる、朝食、魔術講座、昼食、魔術講座、晩飯、魔術講座、風呂、寝る。


 これを10日間ただ繰り返した。




 この10日間の間の出来事に触れよう。



 リディアは1日に1回は必ずやってきて、俺とナツキがアルテを相手に四苦八苦しているところを見て優し気に微笑んでることが多かった。


 彼女は例の1件依頼明るくなった。


 本来の彼女はこっちの姿なのかもしれないなと思った。


 休憩時間にリディアに日本国産面白話をすると快活に笑ってくれた。


 それに、なんとなく信頼したような目で見られることが多い。


 頼られるのは悪くない。むしろ嬉しい。


 リディアの様な可愛い子に頼られるなら俺は頑張れる。どんなに辛い修行にだって耐えらえる!!



 リディアが普段何をしてすごしているかはわからないが、彼女なりに動いてくれてるのだろう。


 リディアの手に黒いインクがついていることがあったので書状なんかで色々なところに手回ししているに違いない。





 カースさんとフォクシーさんもちょくちょく顔を見せてくれた。


 この二人も魔法が使えないとのことだったので、たまに講座に顔を出してはうんうんという感じに魔術講座を聞いていた。


 あまりに酷いありさまだったんですぐに退席していたが・・・。


 これに関しては後で話そう。



 後フォクシーさんが教えてくれた情報によると、


 この世界では魔術というのは希少スキルなのだそうだ。


 魔術を習うにはまず二通りの方法がある。


 一つが魔術学校に通うこと。


 アルティア王国には一つだけ魔術学校があった。


 だがその魔術学校に通うためには多額のお金が必要であり、とても一般市民が通えるようなものではなかった。


 しかも、通えたとしても実際魔術が使えるようになるのは生徒の半分くらいなのだそうだ。


 そして使えるようになったとしても初級の攻撃魔法しか教えてくれないそうだ。



 もう一つは、俺とナツキのように魔術が使えるものに師事することである。


 魔術師という生き物は弟子を取りたくない傾向にあるらしい。


 アルテも弟子をとるのは初めてなのだそうだ。


 教えてもできるか分からない奴に細かく教えるのも面倒なんだろう・・・。


 なので、今回のようなことは非常に稀なんだそうだ。


 リディアとアルテに心の中で感謝した。




 エリスはここには一度も顔を出さなかったが、たまにご飯時に一緒になった。


 エリスに一緒に習わないかと誘ったが断られた。


 エリスには精霊術があるそうでそれがあれば魔術はいらないとのことだ。


 精霊術とはなんだ?というのはおいておこう。とりあえず魔術が最優先だ。


 エリスはよく砦の外に出て『ワーキンブル』を狩りにいっているらしい。




 『ワーキンブル』


 牛とバッファーローを掛け合わせたような姿をしている。


 体長は3m-5mで草食の魔物である。


 大人しい性格だが逃げるときの速度は時速120kmにもなる。


 お肉はなかなか上質で食用に向いている。 



 最近の晩御飯にはエリスが狩ってきた『ワーキンブル』が並ぶことが多かった。


 この世界では魔物を食べるのは普通らしい。


 魔物の中でも美味しいもの、美味しくないもの、毒があるものなど様々だ。


 それを見極め狩って食す。


 これがこの世界での常識だった。


 ちなみにこの世界にも動物はいる。普通に畜産もある。


 動物と魔物の線引きは魔臓という臓器を持つか持たないかの差でしかない。


 この魔臓があるからといって魔術をつかってくるかというとそうではない。


 ただ臓器としてそこにあるだけである。


 しかし例外は存在する。




 魔物は知能と強さ、脅威度によって4段階に分けられている。



 一番下が低級魔物といわれる。


  スコープウルフやワーキンブル、バルーンバットもここに分類される。


 知能は動物並みでその辺りの山などに生息する。


 群れることがあるが所詮動物程度の力しか持たないものがここに分類される。




 その次が中級魔物である。


  グランド、オーク、ゴブリン、リザードマンなどが分類されている。


 知能が人並みかそれ以下で群れて小さな集落を作っていることもある。


 戦術を用いて戦う。


 しかし、ここに分類される彼らは静かに暮らしていることが多く基本的には無害である。


 ちなみに、中級魔物の中ではリザードマン亜種のリザードマジシャンが魔術を使う。



 その次は上級魔物である。


  ドラゴン種、バーサーカー種、バイス種、一角種などである。


 この上級魔物はさらに二つに分かれる。


 一つは、基本的には無害だが強すぎる魔物である。


 ドラゴン種や一角種、バイス種は縄張りにさえ入らなければ無害である。


 ただし、縄張りに踏み入ってしまえば殺される。


 こいつらを討伐するには軍隊の大隊クラスが必要だと言われいる。


 よって縄張りが見つかったらそこは立ち入り禁止区画に指定されるのである。


 ちなみにこいつらは魔術のようなものを使うことが確認されている。



 そしてもう一つ。


 強さは中級魔物程度だが好んで人の集落を襲う魔物である。


 バーサーカー種がそれにあたる。


 彼らが出現すると国を挙げて討伐することになる。


 現状としてはもう狩りつくされていてほとんどこの大陸には存在しないそうだ。



 そして最上位の神級魔物である。


  デュラハン、メデューサ、竜族、アークゴーレムなどが確認されている。


 彼らが大陸に出現すると、戦争が一時的に休戦状態になる。


 これに関しては国同士の協定が結ばれている。


 各国家の最高戦力をもって対応するべき魔物たちである。


 この中でも有名なのはアークゴーレムである。


 彼は100年前にこの大陸にやってきた。海を渡りこの大陸に到着した。


 体長40m-50mと言われており、ゴーレム種の王だという。


 こいつはただただこの大陸を斜めに通過した。


 各国家の最高戦力をもってしても傷を付けることも叶わず、最終的にこいつの進行方向から人を退避させひたすらに通り過ぎるのを待ったと言われている。


 災害レベルの魔物だ。



 このような分類になっているが、基本的に食用とされるのは下級魔物だ。





 ここ10日間での人間関係はそんなものだ。





 では、問題の俺たちの魔術講座についての説明をしよう。



 まず、俺たちは魔術ってどんなの?というのをアルテから聞き出すのに4日かかった。


 そう4日。


 普通の人なら1日かかるかどうか、という項目に4日かかったのだ。


 何故かと言うと・・・



 アルテは重度の口下手だった。



 それはもう口下手という言葉の概念を覆すほどの口下手だった。



 俺たちがした一番初めの質問。


 「アルテ。まず魔術ってどんなものか教えてください。」


 アルテの回答。


 「魔法を使うこと」




 絶望的だった。


 俺は軽く眩暈を覚えたほどだった。



 ナツキはなるほど心理ですな。


 なんて言っていたが呑気なものである。




 俺はそこから考えた。


 魔術って何?の答えを得る方法を。





 そしてその方法にたどり着いた。





 それは質問攻めをすることである。


 アルテの回答は基本的に『そう』『ちがう』『短文での回答』の3種類しかなかった。



 俺はそこからRPGの知識を生かし仮説を立てまくって、アルテにぶつけ続けた。



 アルテの言葉には二言目というのは存在しない。


 一言で簡潔に帰ってくる。


 俺の質問に少し悩んだ仕草を見せることもあったが回答が二言になることはなかった。


 もはや、二言以上しゃべってはいけない呪いにかかっているのではないか?と思うほどだった。


 そして4日かけて俺はアルテのQ&Aをつなぎ合わせてこの世界の魔術理論についてまとめあげた。



 その結果がこれである。



 魔術とは魔法を使う技術のことである。



 初めに魔術はその性質によって3つに分かれる。


 一つ目は攻撃魔法。


 二つ目は治癒魔法。


 三つ目は召喚魔法。である。



 まず一つ目の攻撃魔法についてである。


 大半の魔術師はこの攻撃魔法しか使えない。


 魔術の中でも初歩の初歩であると言える。



 この攻撃魔法は初級魔法、中級魔法、上級魔法、神級魔法の4つに分けられる。


 さらにそのなかで4属性に分けられる。


 4属性とは火、水、地、風のことだ。


 RPGでよくあるやつである。


 ただ、光や闇などは存在しない。理由はまた後で。


 初級魔法は各属性1つづつある。


 『基礎』魔法と言われる魔法である。


 ちなみに火の初級魔法は『フレイムアロー』である。


 火を魔力によってこの世界に顕現させそれを矢の形に造形し放つ。


 これが『フレイムアロー』である。


 水の初級魔法は『ウォーターエッジ』


 地の初級魔法は『ロックスマッシュ』


 風の初級魔法は『ウィンドカッター』である。


 威力に関しては一定。そこら辺にある、人ほどの岩を弾き飛ばせるくらいの威力である。


 この初級魔法に関しては威力は同じなのである。


 すべての攻撃魔法の基礎であるといえる。




 そしてここからの理論の解明が非常に難しかった。


 中級魔法の名前について教えてもらおうと思ったら、「ない」といわれたのである。


 ここから先に進むのに1日費やした。



 結論から言うと、


 この世界では中級魔法、上級魔法、神級魔法には決まった名前はないのである。


 それぞれについて術者が勝手に名前を付けるからである。


 なぜなら中級魔法とは基礎魔法である初級魔法を術師が『アレンジ』したものを指す。


 わかりやすく言うと、『フレイムアロー』の形を変えて『フレイムボール』にしたらそれは中級魔法にあたるのである。


 初級魔法は基礎魔法で固定4種である。


 中級魔法は応用魔法で数は無限にある。


 ちなみに、上級魔法、神級魔法についても応用魔法で数は無限にある。


 ではその線引きはどこにあるのかというとそれは威力である。


 中級魔法については初級魔法と同等から上級魔法威力未満のものをさす。初級魔法よりも威力が下でもそれは中級魔法に分類される。


 上級魔法は10mほどの岩を砕ける威力を指す。


 神級魔法は山一つ吹き飛ばすほどの威力以上を指す。



 ちなみに自己申告制で勝手に名乗れてしまうのでそこに意味はあんまりないそうだ。


 あくまで魔術師という肩書がステータスになるというらしい。



 まとめると、攻撃魔法はまず基礎の4つの初期魔法がある。


 それをどこかしら『アレンジ』したものが中級、上級、神級魔法にあたる。


 中級、上級、神級魔法の区別は威力だけである。


 とこういうことだ。


 ちなみに『フレイムアロー』の威力だけを『アレンジ』して山一つ吹き飛ばせる威力に磨き上げればそれは神級の『フレイムアロー』のような魔法となるが、それは新種の魔法として扱われるのである。




 そして、その使い方についてだが・・・。


 結論から言うと俺はまだこれすらもできていない。



 それはおいといて、とりあえずどんな手順で発動するのかを説明しよう。


 まず、アルテに『フレイムアロー』を見せてもらった。


 アルテは窓の方へ歩いていって『フレイムアロー』を窓の向こうへ放った。


 何が起きているのかを理解するのに時間を要した。


 何回かやってもらって初めて何をしているのかを理解できた。


 アルテはまず右手を胸の前くらいに持って行った。


 そしてアルテの人差し指が光った。


 これは、魔力を指に集中させた。というのはアルテの言葉である。


 アルテはその人差し指で空中に文字を書いた。


 それは『y』のような形だった。


 その文字はアルテの指の光と同じように輝き、その空間に定着していた。


 実にファンタジーな世界だった。


 アルテは次にその文字に向かって右手の平を当てた。


 次の瞬間、『フレイムアロー』は発動し窓から外へ向けて炎の矢が通り過ぎて行った。


 これがこの世界における魔法の発動手順である。



 魔力を込めた指で空間に文字を書く。


 恐らくこれは他のファンタジー世界にあたる魔法陣みたいなものだと思う。


 その次にその文字に手を当て魔力を送り込む。


 それだけで魔法は発動するのだ。



 ちなみにアレンジするというのは、『フレイムアロー』の場合は『y』の文字に一画付け足したり、□で囲んだりとするこで威力が上がったり、形がかわったりするらしい。

 しかし、そのアレンジがこの世界の理論に当てはまらなかった場合、魔力だけ吸い取られて不発に終わる。


 『y』は式にあたるようなもので、その式が正しくなければ答えはこの世界に顕現しないというのが魔術師の理論なのだそうだ。


 ちなみに普通の魔術師の場合基礎の『フレイムアロー』を3発撃てば魔力切れを起こし、指に魔力を集められなくなって使えなくなるそうだ。


 そういう背景もあって、なかなか上級以上の攻撃魔法の開発は難しいのだそうだ。


 光とか闇とかの系統の魔法がない理由は光と闇の初期魔法が見つかっていないからだ。


 初期魔法さえ見つかればアレンジ次第で色々使えるんじゃないかなと想像する。





 で、俺が何故この10日間で魔術が使えないままなのかというと、


 まずそもそも指に魔力を集められていないからである。


 魔力を指に集中する。と言われても・・・念じても・・・心を無にして指にだけ神経を集中しても、光らないものは光らないのである。


 これができないと空間に文字を書くということすら出来ず魔法の発動など夢のまた夢である。


 ちなみに、ナツキはできた。


 割とあっさり。


 ナツキは窓の外に『フレイムアロー』をぶっ放して遊んでいた。


 ダメもとでアルテにどうやったらできるんですか?とコツを聞いたら、


 アルテは人差し指を俺の前に差し出し。「こう」と指を光らせていた。


 わからねえよクソ師匠があああ。



 ナツキにも聞いたが『んー』と考えてアルテと同じように「こう」ってやっていた。


 お前ら同類かよ!!




 そして、驚いたことにリディアもこれができた。


 魔法の発動こそさせなかったが、指を光らせて「えへへ」と笑っていた。


 「これは感覚的なものなので説明は難しいです」といっていたのはリディアだ。


 俺はかれこれ6日間これの練習に明け暮れていた。




 おっと逸れてしまった。魔術の説明に戻ろうか。


 次は治癒魔法である。


 これに関しては謎が多い。


 何故かと言うとアルテがそもそも使えなかったからだ。


 これは魔術学校でも教えていない・・・というか教えられないものなのだという。


 これを使える魔術師はこの大陸には4人いた。


 それは賢人エーラとその弟子3人だという話だ。


 アルティア王国にその弟子の1人がいたらしいが先の戦争で死んだらしい。


 よって現在は3人ということになっている。


 その賢人エーラはベイス神王国にいるらしい。




 この治癒魔法においても初級魔法、中級魔法、上級魔法、神級魔法の4つがあるらしい。


 初級魔法は骨を繋げたり、傷を塞いだりできるそうだ。


 中級魔法はそれのアレンジ。


 上級魔法は臓器の修復とかちぎれた体の部位の再生ができるそうだ。


 神級魔法はなんと死者の蘇生ができると分類されているらしい。



 残念ながら神級に到達した治癒術師は存在が確認されていないらしいので結局死者を蘇らせることができる訳ではないという。


 ちなみに賢人エーラは上級だそうだ。





 さて、ここからが問題の召喚術についてである。


 召喚術師はこの大陸には300人ほど確認されているらしい。


 その中でもトップ5にはシフォンの称号が与えられるのだそうだ。


 ちなみにアルテはシフォンの称号を持っていて・・・というかトップである。


 NO.1なのである。





 この召喚術は例外で初級やら中級やらそんなものはない。


 召喚術はまず二つのタイプに分かれるのである。



 一つは創造召喚術と言われる。こちらは世界に2人しか使えないらしい。この2人はともにシフォンの称号が与えられている。


 これは魔術というよりかは学問である。


 この世の魔法理論の謎を解き明かし式を組む。


 そして魔力の式で編み上げたものをこの世に顕現させる。


 つまり自分の魔力を式で制御してこの世にそれを創造することができるらしい。


 この2人は祝福を持っているらしいとされているが詳しくは謎らしい。


 でも、人里離れたところで研究しているのかと言われればそうではない。


 彼らはキスカ王国の王宮に部屋を借り研究している。


 そして、彼らはその研究成果をほとんど発表しているのである。


 彼らの研究成果の発表によってキスカ王国はアルスメイ帝国の属国として生きることが許されているという仕組みだそうだ。


 これに関してはアルテも手を出せない分野らしい。


 なんせ研究成果の真似をしても同じようにはできないのだそうだ。


 なにかキーになるものを外して発表しているのだろう。


 俺でもそうする。



 さてもう一つが契約召喚術である。


 これがこの世界でのスタンダードな召喚術である。


 名前の通り魔物など、この世の生物と盟約を結ぶことにより術者の元へ召喚することが可能であるそうだ。


 この契約召喚術は魔物を召喚するゲートを作ることに魔力を割く。


 そしてそのゲートを通ってきた生物は召喚主と契約状態になり命令には絶対従うという。


 そして、召喚主はその生物と視界などを共有することができるらしい。


 召喚主の命令は脳を通じて召喚された生物に与えられる。


 考えただけで命令をすることができるそうだ。


 これは召喚主が契約状態を破棄するか、召喚された生物が死ぬまで続く。 




 そしてここからが難しい問題なのだが、契約状態の生物は命令を与えなければ動かないという点である。


 分かりやすく説明すると、3m走れという命令を出したとする。


 契約状態の生物はその命令に従って3m言われた通りに走る。


 そして命令待ちの状態になるのだそうだ。


 つまり契約された状態の生物は逐一命令を与え続けないと役に立たないということらしい。


 そこでアルテはその問題を解決する方法を編み出した。


 その方法は契約状態のまま野生化させることだ。


 契約された状態のまま野生化させることによって、普段は近くでペットのようにしておき、必要な時に命令を伝えて使役するのがアルテ流なのだそうだ。ちなみに下級魔物は知能が低いのでペットのように懐くのだそうだ。




 今のは下級魔物の場合の説明をしたが実際にはこの世界ではアルテ以外は中級以上のものとしか盟約を結べないのである。


 理由は後で説明する。


 では中級以上のものとしか契約を結べない普通の召喚術師はどうするのかというと、必要な時に呼び出し使役する。そして大半の召喚術師は終わったら殺してしまうのである。アルテも中級を呼び出した時はこうすることもあるそうだ。


 そのほかにはゴブリンを森や人里から離れたところまで移動させ契約を解除させるという手段もあるそうだが、面倒くさくなって殺してしまうことが多いとか・・・。


 他にも命令待ちにしたまま放置するとか、牢屋に閉じ込めるやら。やりようはあるのだが、彼らも生き物だ。お腹が空いたら食べ物を与えなければならない。よってお金がかかるので殺してしまうそうだ。


 残酷な世界である。





 契約召喚術には二つ準備が必要である。



 この一つ目にアルテが世界でトップの召喚術師であることの理由がある。


 それは・・・真名である。


 真名とはこんな字を書くが字がそのままの意味ではない。


 これは、各種族の魔物が持っている召喚コードみたいなものである。


 これは各種族の魔物と盟約を結ぶことによってその魔物達から教えてもらうことで入手するのである。


 教えてもらわないといけないのである。


 つまり、知能をもっていない下級魔物からは教えてもらうことができないのである。


 よってアルテ以外の召喚術師は知能のある中級以上の魔物しか召喚できない。



 だが、盟約を結んで教えてもらうというのは実際ほぼ不可能とされている。



 何が悲しくて召喚術師に使役されるためのコードを渡すのか・・・。


 普通に考えて、仲良くなったところでそんなコードを渡すことなどあり得ない。


 ではどうするのかというと・・・半殺しにするそうだ。


 命ぎりぎりまで追い詰めて真名を吐かせるのだそうだ。


 酷い限りである。


 召喚術師はこうして真名を集めて召喚するのである。




 ただ、例外もある。


 残りのシフォンの称号を持つ双子の姉妹がその例外にあたる。


 彼女達は一角に育てられたのだそうだ。つまり一角は家族同然である。そしてその親の高い知能をもつ一角は彼女達にその真名を告げたと言われている。


 その二人はアルテと同じく上級魔物である一角を召喚することができるのである。


 こういう例外以外を除いては、ほぼすべての召喚術師は真名を得るためにかなりえげつない事をしているのである。



 では・・・何故アルテは下級魔物や上級魔物を召喚できるのかというと・・・



 祝福である。


 アルテも祝福持ちだったのである。


 その力は・・・見ただけでその魔物の真名がわかるというものだった。


 つまり、彼女は一度魔物を見さえすれば、真名を魔物から教えてもらわなくても使役することができるのである。


 これには例外はない。彼女にはドラゴン種の真名を知っており、召喚しようと思えばできるのである。


 これが彼女がシフォンの称号を得られた秘密である。


 間違いなくチートキャラである。


 では、なぜアルティア王国が滅ぼされそうなこの時にドラゴン種を召喚しなかったのか・・・


 それは召喚しなかったのではなくて、できなかったのである。


 理由は召喚する時に必要なもの、その2である。





 召喚する時に必要なものその2。



 それは共鳴石とよばれる鉱石である。


 これは召喚する魔物の種類によって必要な分量が決まっており、それが無いと真名を知っていても召喚できないのである。


 この共鳴石は非常に高価なものだった。


 そして残念なことに、この共鳴石はアルティア王国では採掘できないのである。


 戦争中だったアルティア王国はこれの確保が出来ずアルテを上手く使うことができなかったのだった。


 アルテの手元にはこの共鳴石が約500g程あるといっていた。


 ちなみにドラゴン種を呼ぶには8kgが必要だそうだ。


 どこからか入手したらしいが、細かくまでは教えてくれなかった。




 まとめれば俺が使える召喚術は契約召喚術で、必要なものは真名と共鳴石である。


 真名はアルテから教えてもらうとして、共鳴石の残量が俺の召喚できるものを制限している。


 これが現状である。





 そして残念なことに、召喚術を使用する際には攻撃魔法のように指に魔力を集中させて、真名を空中に書かないといけないのである。


 俺はその段階で躓いていた。






  こうして救世主の俺は指に魔力を集めることができないまま10日間たってしまったのである。



 ・・・。




 ・・・。



 ・・・。



 ・・・。



 実は俺はこれを解決する方法を知っている。


 裏技だ。


 できるだけ自分の力で身につけたかったが、できないものはしょうがない。


 そんなことにこだわってる余裕は今はない。


 いち早く俺が召喚術を使える用になるのが最優先。


 俺はそう言いきかせて、教室を出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る