第9話 託された願い
食堂を出ると早速ナツキがリステ砦内を案内してくれた。
「こっちが厨房よ」
そういって、食堂をでてすぐ隣の扉を開けた。
ナツキはドカドカと奥までいってしまった。
いったいこの少女はなんなのだろうか?
ここにいるみんなが一目置いてるのが態度からわかる。
雇われているというよりは、もうこの砦の主だといわんばかりの態度で練り歩く。
うーむ。落ち着いたら聞いてみるか。
ナツキについて行くとナツキは3人のメイドを紹介してくれた。
「こっちが・・さっき会ったわね。ニナさんで、こっちのお姉さんがアイルさん。でこっちのおばあちゃんがラニアさんよ」
「どうも、初めまして救世主のユウです。」
俺はとりあえず自己紹介をした。
なんかメイドさんの視線が痛い。
俺なんかやったか?いや。睨んでいるという感じではない。ただ見られていた。
「俺の顔になんかついてますか?」
おずおず、という感じで聞いてみた。
「大丈夫。綺麗な顔よ。よろしくお願いしますね救世主さま。」
そういって、ニナさんは俺の手を両手でとった。
アイルさんもラニアさんも笑みで返してくれた。
「ほら、次行くわよ次。」
「あ、ああ。」
俺はその場で失礼します。と頭を下げた。
メイドさんズも会釈をしてくれた。
ナツキはもう部屋を出るところだった。
俺も走ってナツキに追いついた。
次にナツキが案内してくれたのは、書庫だった。
「ここは書庫ね。見たらわかると思うけど。」
「普通、砦に書庫ってある?」
「もともとは無かったけど、本が増えたら必要でしょ?だから作ったの。」
「お前が作ったのか?」
「まあそうね。」
そういってあっさり違う部屋に向かった。
俺としては本を読んでもっとこの世界の情報を集めたかったんだが・・・。
まぁいい。後で一人で来ればいいんだもんな。
真っ直ぐいくと、中庭みたいなものが広がっていた。
「ここが中庭。特に何もないけど、よくあの木の下にアルテさんがいるのを見るわ。
あとエリスがよくここで棒振ってるわ。」
「へー。精霊騎士でもやっぱり素振りとかするのか。」
「そこはよくわからないわ。私は戦闘なんて無縁だし・・・。」
「お前もしかして、強かったりとかしないのか?」
「そう見える?」
「いや・・・見えんな・・・」
でしょう?といって胸を張っていた。
そこ胸を張るタイミングなのか?
ナツキは非戦闘員なのか・・・出てくるタイミング的にバリバリのチートキャラの可能性を疑ったがそうではないらしい。
となると、この少女は謎だな。
戦闘もできないのに、こんなに我が者顔で砦内を歩き回っている。
単にアホなのか・・・?
中庭から見える景色を見るに、この砦はロの形になっていて3階建てだった。
ロの中の部分がこの中庭である。
「この砦って、割と小さいのな?」
「そうね。ここ以外に砦を見たことがあるわけじゃないけど・・・小さいわね。」
「ってかここって兵士いなくね?」
「そうね。この中には兵士なんて入ってこないわ。」
「どういうこと?」
「この砦のすぐ外に、兵士の詰め所があるのよ。
兵士はみんなそこにいて、ここを守ってるのよ。」
「そんなもんなのか?」
「わからないけど、この砦の周りって3方山に囲まれてるのよ。
だから砦の中で守るより、外で守った方が効率がいいんじゃない?」
ふむ。一理あるな。
確かに、3方を守る必要がないのなら1方の防衛ラインを押し上げることで優位に守ることができる。
「次行くわよ」
そういってナツキは砦入口の横の階段を上がっていった。
2階に向かう階段でフォクシーさんとすれ違った。
「おはよう」
「おはようございますフォクシーさん」
「おはようございます。ユウ様。ナツキさん」
フォクシーさんは俺たちをみて優しく微笑んだ。
なんかみんなナツキを見る目がすごく優しい。
人柄の良さ・・・というやつだろうか。
確かに面倒見のいい姉御って感じではあるが・・・。
フォクシーさんは挨拶もそこそこに階段を下りて行った。
「ナツキってさ・・・。フォクシーさんと親しいの?」
「どうなんだろう・・・。別に親しいって訳ではないけど、あの人はいい人よ。」
親しくないならお前のその態度はなんなのだと・・・。
あの人、元諜報機関の人だぞ?ぜったい苦無とかつかって暗殺するタイプの人だぞ!!
怖い人だぞ!!
俺のそんな視線を完全に無視して、ナツキは2階を案内してくれた。
2階はパーティー用だろうか?あんまり使われていないホールと昨日の執務室。
それと俺の部屋があった。どうやら俺の部屋はVIPルームらしかった。
ってか砦にパーティー用のホールとか必要?
この世界の文化はようわからんな。
3階に上がる。
「ここはみんなの個室があるわ。」
「俺以外みんなこの階なの?」
「そうよ。王女様もこの階よ」
どうやらこの砦には大した施設はないらしい。
まあ砦って本来そんなもんか・・・。
ちなみに、トイレは各階についており、お風呂は一回にあった。浴槽もあった。
文化レベルがよくわからんな。
電気は無いみたいで、明かりはもっぱらロウソクやら松明だ。
ナツキは迷うことなく歩いていきある扉の前にとまった。
俺もそれに追従する。
ナツキは扉を開けて、中に入った。
中に入るとナツキは椅子に座り、俺をベッドに座るように促した。
「ん?ここってもしかして・・・?」
「私の部屋よ」
初めて女の子の部屋に入った。
緊張の入室というイベントをやりそびれた・・・。
ってことはこのベッドはナツキの・・・
「こら、クンクンすんな」
チョップされた・・・。
「し、してねぇし・・・。」
「ホントにデリカシーもなんにもないんだから!!」
「すんません。」
そういうと、ナツキはふふふと笑った。
「で?」
「でって?」
いきなりで?って言われてもなんのこっちゃ?
「もう!!さっき朝ごはんの時に考えたいことがあるっていってたでしょ?」
「ああ、そのことか・・・。これをナツキに相談したとして解決するかどうか疑問なんだが?」
素直に言ってしまった。俺がこの世界に来た理由なんて聞いたところでナツキが答えを教えてくれるとは思えなかったのは事実だが・・・。
自尊心を傷つけてしまったか?
「はぁー。本当に子供ね。一人で考えるのと二人で考えるのどちらが効率いいと思うの?」
ナツキは呆れたと言わんばかりの表情をしていた。
確かにそうだ。正論だ。
効率で考えるならば二人で考えた方がいい。
「二人です。」
諦めた。
「それに違う世界からきたユウが一人で悩んで意味があるの?言ってる意味わかる?」
追撃が入った。ナツキは少し怒っていた。やはり自尊心を傷つけてしまったか。
彼女の言葉は間違っていない。
「わかります。」
諦めた。
「よろしい。」
上手く誘導されている気がする。なんかそんな気がする。
彼女には、逆らえないな。
本能的に彼女には従順に従うように仕組まれている気がする。
まー。確かにこの世界の常識をもってる人に相談できるというのはありがたい。
話してみるか。
「実は俺、この世界に来た理由がわからないんだ。」
・・・。
「ぐっ。おい・・・やめろどうした。何を・・・」
ナツキが。憤怒の形相で俺の胸倉を掴みそのまま押し倒した。
激怒していた。さっきまでの優しく対応してくれていた少女はもうそこにはいない。
目を吊り上げ顔を赤くし、俺の事を親の仇かと言うくらい強い意思で睨んでいる。
「お前!!お前!!お前の口からそんなことが・・・許さない!!・・・許されない!!」
彼女の声は俺の耳の鼓膜を痺れさせた。心に溜まった怒りを吐き出して俺にぶつけるように俺に怒っていた。
どういうことだ?意味が分からない。
どこで地雷を踏んだ?
何がそんなに許されないことなのか?
「来る意味がないなら返してよ!!返してよ!!・・・うっ・・・っぐ・・・うっ」
「まて、落ち着けよ・・・。どうしたんだよ・・・。」
ナツキは泣いていた。
涙をながしながら、鼻水をながしながら、怒っていた。
ナツキは力任せに俺の頭をベッドに何度も何度も打ち付けた。
「返してよ!!・・・お願いよ・・・私の生きる理由だったのよ・・・」
彼女の指が俺の首の頸動脈にかかる。
俺はとっさにやばいと思った。
首にかかる手を振りほどこうとしたが、まったく離れなかった。
やばい、これはダメだ。殺される・・・。
彼女の涙で俺の頬が濡れる。
生暖かい。そんな事を思った。
時間が止まっているようなそんな感覚に襲われる。
意識が遠のく・・・。
視界に霧がかかっていく。
白くもやがかかっていく。
手が動かない。痺れている。
ここで終わりなのか?こんなところで意味も分からずに殺されるのか?
もうダメだ・・・白が広がっていく・・・。
痛い。苦しい。辛い。助けて。誰か・・・。
それはどこからかやってきた。
何かは分からなかった。
ただ、それは俺の心に浸透していく。
何かが入ってきた。もう何がなんだかわからない。
もうなんでもいい。
何かが胸の中から溢れてくる。
俺は何かを・・・。
俺は擦れた声で何かを絞り出した。
「・・ナーちゃん・・・・」
その声を聴いてナツキは動きを止めた。
驚きで瞳孔が小さくなった。
涙と怒りで塗りつぶされていた表情に新たな感情が芽生えていた。
そして、震えていた。
寒くて寒くてたまらないというばかりに震えていた。
そしてゆっくり俺の首にあてられた手をどけた。
開放された俺は咳き込みながら酸素を取り込む。
痺れた手が少しづつ感覚を取り戻していく。
白いもやが晴れていく。
ナツキは倒れこむように俺に抱き着いてきた。
「ごめんね。ごめんね。苦しかったよね。ごめんね・・・・ごめ・・っぐ・・・」
泣いていた。
俺は何故そうしたのか分からなかったが、彼女を抱きしめて背中を撫でてあげる。
そうすると彼女はより激しく泣き出した。
子供の様だった。
置いて行かれないように必死に親にしがみつく子供の様だった。
俺はそんな子供をあやすように何度も何度も背中を撫でる。
何がどうなっているのかはよくわからなかったが、とりあえず彼女を優しく撫でる。
今、殺されかけた相手なのに俺には負の感情なんてほとんどなかった。
ただ、彼女を泣かせてしまったという事実が俺の胸を締め付けた。
自分でも理解不能な感情だった。
ただただ、彼女が愛おしく思えた。
守ってあげたいと・・・そうしないといけないと・・・そう頭が考える。
本当に意味不明だった。
10分くらい俺はあやし続けた。
するとナツキも落ち着いてきた。
「ごめんなさい・・もう・・大丈夫だから・・・」
彼女は俺の横へゴロンと転がった。
手が俺の頭の後ろに回っていたので、腕枕をされる形になった。
「本当に大丈夫か・・・?出来れば説明して欲しいんだが。」
ナツキは何もいわずに俺の頭の下から腕を引き抜き体を起こした。
頭が強引に揺らされたので抗議の目線を向けたがこちらを見ていなかった。
俺もとりあえず体を起こした。
彼女は机の中から白い手紙を取り出し無言で俺に差し出した。
その手紙は封が切ってあった。
そして、『救世主様へ』と書いてあった。
俺は中の紙を取り出し、中身を読んだ。
「救世主様へ
救世主様お元気ですか?
ナーちゃんはそこにいますか?
もし、いなかったらこの手紙は捨ててください。
この手紙を救世主さまが読んでるということはもう僕の記憶は無くなっているんだと思います。
だから、一つお願いがあります。
ナーちゃんを幸せにしてあげてください。
救世主様は強い力をもっているのですか?
凄い魔法使いですか?
そうだったらその力を使ってナーちゃんを幸せにしてあげてください。
ナーちゃんはその救世主様が使っている体を6年間育ててくれた人です。
そしてぼくのこの世界で一番大切な人です。
ぼくは救世主様の為にこの魂を捧げます。
それを可哀想と思ってくれるなら。この願いを叶えてください。
他にも救世主様のために、この世界で生きて行くために必要なものを必死に覚えました。
それがもし、役に立ったならナーちゃんの事を幸せにしてあげてください。
わがままを言ってごめんなさい。
でもナーちゃんはぼくの世界で一人の家族だから・・・お願いします。
御子より」
読み終わると同時にナツキの存在の意味がわかった。
彼女は、ずーっと6年間御子を育ててきたのだ。
そして、昨日離れた。
それまでの彼女と御子の間に何があったのかは知らない。
それでもこの手紙とナツキを見るに笑顔でさようならとはならなかっただろう。
俺は御子の面倒を見てた人がまさかナツキだとは毛程も思わなかった。
昨日離れた愛する人の中に違う人格が入っているのだ。
そんなこと普通の人間が耐えられるはずがない。
頭のどこかでそんなことを考えていた。
でも現実はどうか。彼女は今朝俺の事を笑って面倒を見てくれたではないか。
一体どれだけの葛藤があったのだろうか・・・。
そして同時に思い出す、あの泣きそうになりながら必死に作っていた笑顔を。
どれほどの愛があればそんなことができるのだろうか・・・想像すらできない。
そして、俺は彼女になんて言っただろうか。
この世界に来た理由がわからない。そう言った。
許されざる暴力だった。
彼女はきっと涙ながらに送り出したはずだ。
救世主がこの国を救ってくれると信じて・・・。
それを・・・俺は・・・。
「ごめん・・・」
俺は取り返しのつかないことをしてしまった。そう思った。
できることは謝ることしかなかった。
「大丈夫・・・よ・・あなたの中に彼が・・・いたから・・・」
とっさに口から出たナーちゃんという言葉は俺のどこかに御子の人格が少しでも残っているからだろう。
俺はそんな単語は知らなかった。
そして、泣く彼女を撫でていた時の感情。
守ってあげないといけない。そんな感情が沸いた理由。
・・・
「本当にごめん」
俺は彼女に許してもらわないといけなかった。
彼女を幸せにする。
それは必ずやり遂げないといけない。
どんな形でもいい。彼女が幸せと思える環境をつくらなければならない。
そのためには彼女に許してもらわないといけなかった。
ナツキはそれを聞くとおずおずと俺に抱き着いてきた。
そのまま押し倒された。
「じゃあ、もう少しだけこのままで・・・」
俺は彼女が満足するまで何時間でもこうしていよう。そう思った。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
さて・・・どうしたものか・・・。
彼女は俺の上で抱き着いたまま眠ってしまった。
昨日は、ほとんど寝てなかったんじゃないだろうか?
御子と別れ苦しみ。そこから何かがあって、朝から俺の面倒をみてくれた。
何かが、何なのかは分からないが彼女の気持ちを動かすものだったに違いない。
それでもゆっくりと眠れる精神状態ではなかっただろう。
面倒を見るといっても、その段階ではどんな救世主が召喚されたかは知らないはずだしな・・・。
『あーもうなんか気張って損した気分だわ。救世主様なんて大層な肩書してるけどまだまだ子供じゃない』
そうか・・・俺の目には彼女は余裕がある女で、俺をからかっているとそう見えたが。
実際には、かなり緊張していたはずだ・・・。
強いんだなナツキは・・・。
こう考えると、この砦のみんながナツキを見て様々な反応をしていたことも納得がいく。
こんな、心の強い人間はそうそういない。
そして・・・
『少しは覚えてくれてるのかな・・・』
俺は胸を鷲掴みされたような痛みを覚えた。
あの時の彼女の顔・・・泣いているような笑顔・・・その理由を考えると息をすることすら辛い。
俺は報いなければならない。
ナツキが愛した御子から受け継いだこの生に。
ナツキが愛した御子から受け継いだこの思いに。
俺は報いなければならない。
もう、甘い考えは捨てよう。
自分がこの世界にきてもできることなどないなんて考えを捨てよう。
自分がこの世界に来たのがアルスの手違いなんて考えを捨てよう。
俺がやらないといけないのだ。
もう、誰もこの絶望的な国を助けることはできない。
俺以外。
俺のやらないといけないことは二つ。
一つはこの国を救うこと。
一つはナツキを幸せにすること。
それを成し遂げるにはRTSの技術が必要だということ。
それは理解した。
俺が元の世界でやっていたことで救世主に選ばれるならば、それしかない。
疑う余地がない。
俺にはそれしかないのだから。
問題はどうやって?ということだ。
この世界にはキーボードもマウスもそれで言うことを聞く兵士もいない。
あの上から戦場全体を見渡せる神の様な視点もない。
そこまで考えると、もぞもぞと俺の上に抱き着いていたナツキが動き出した。
「もう・・・大丈夫か?」
「大丈夫」
そういってナツキは体を起こし、ダルそうな動きで俺の目の前の椅子に座った。
俺も体を起こしてベッドの縁に座り直し、ナツキと向かい合う。
「さっきはすまなかった。言い方が悪かった許してくれ」
「いい。あんたの中に御子様が少しでも残ってるのがわかった。今はそれだけでいい。」
話がかみ合っていないような気がするが、まあ今はいい。
ナツキはんーっと両手を上に伸ばして伸びをした。
その動作が終わった時にはナツキの顔から険がとれたようなすっきりした表情をしていた。
許してくれた・・・のだろうか・・・。
「で、さっきの話だけど。詳しく話なさい。」
話を聞いてくれるのだろうか?あんなことがあったのに・・・?
もう俺に拒否権はない。できるだけ言葉に気を付けながら彼女に現状を説明する。
「俺には、前の世界で世界一位をとれるような特技がある。
それは、戦闘に関する知識と技術を使うものだ。
だがそれを使うには色々条件がある。
この世界でその条件を満たすのは現状難しい。
だが、見つけないといけない。条件を満たす方法を・・・。
すまないが、手伝ってくれ」
できるだけ真摯に事実を伝えたつもりだった。
ナツキは少し驚いていた。そして少し微笑みながらいった。
「ユウ、少し表情変わったね?」
そうなんだろうか?
もうやると決めた。
ならばそれに向かって進む。
それだけだ。
「おかげさまで。」
そんな俺をナツキは穏やかに見つめていた。
少ししてから、ナツキは考える表情を作って俺に言った。
「ユウの世界一位の知識と技術について教えて」
俺は少し考えて、できるだけ伝わりやすくかみ砕いて伝えた。
「人形をたくさん同時に動かす知識と技術だ」
「人形?」
「そうだ、俺の世界の戦争は人間は参加しない。
人形達を戦わせて勝利を決める。
俺はその戦いでここ3000回は負けていない。」
嘘を混ぜて分かりやすく伝えたつもりだ。
「3000回も戦ってるの!?」
「実際もっと戦ってる。全部あわせれば4万~5万近くは戦っている」
実際俺の生涯戦闘数はそれくらいだった。
「5万・・・ユウって17歳っていってたよね?」
「ああそうだ。大体1戦30分~1時間で決着がつく。小さい戦いを繰り返すのが俺の世界のやり方だ」
「なるほどそういうことね。でも5万はおかしくない?」
「俺が初めて戦いに出たのは3歳の時だ。」
「狂ってる世界ね。」
「ああ。狂ってる。でも俺は戦い続けた。そして世界一位になった」
少し話が逸れてしまったな、話を戻そう。
「だが、この世界には俺の指示に従う人形がいない、まずそれが問題なんだ。」
「なるほどね。それさえあれば戦えるってことね。」
ナツキはうーんという感じで腕を組んで考えている。
そして、少し考えた後絞り出す感じで言葉にした。
「それって・・・人形じゃないとだめなの?人とか・・・この国の兵士じゃだめなの?」
「ああ、ダメだな。」
「なんで?」
ふーむ。ダメだという確証はないが、恐らく違うだろうくらいに俺は考えていた。
その考えをできるだけかみ砕いて伝える。
「そこに意思があったらだめなんだ。
意思があったとしても、俺の命令を絶対に聞いて。命を捨てて戦ってくれるものじゃないとダメなんだ。」
「ユウの戦い方は味方のために死ねって言う戦い方っていうこと?」
「ああ。そうだ。それができるのはやはり人形のような意思のないものしかダメだ」
「もっと、普通の指揮官みたいにはできないの?」
「それが必要なら俺はここに召喚されていないだろうな。」
「なるほどねー。」
なんとなく自分の中で整理がついてきた。
この世界で俺の言うことに絶対服従な人形を手に入れないといけないのか・・・。
しかも大量に・・・。
間違ってはいないだろう。
俺がここにいるということは、この世界に、しかも手に入れれる範囲にそれがあるということだ。
「OK、条件その1はこれだ。
その他の条件についても話してみてもいいか?」
「いいわよ。」
正直俺は驚いていた。
いつもは一人で頭の中をこねくりまわして結論をだしたり整理したりするんだが、
人と話すことでこんなに整理しやすくなるなんて思わなかった。
人と相談するっていうのもいいもんだなと思い始めた。
「次の条件は上空からの視界だ。」
「上からじゃないとダメなの?」
「ああ、そうだ。俺の能力を最大限引き出すためには必要だ」
これは絶対だ。
なぜなら、これがないと指示が出せないからだ。相手の位置の確認。自分の兵の位置の確認。相手の兵種の確認。相手の数。戦況。その他の仲間の動き。そのすべてをこの視界から読み取る。これがなかったらいくら絶対服従の人形を連れていても勝てないだろう。
ナツキはうーんと唸りながら考えてくれている。
答えはでないだろう。だがいい。
ナツキは聞いてくれるだけでいい。
相談というものはなかなかいいものだ。
俺の頭の中で絡まった糸を解いてくれる。
すこし待ってもナツキから結論はでなかった。
俺は気にしないで続ける。
「これが最後の条件だ。それはリアルタイムで指示を送れるシステムだ」
「テレパシーみたいな感じ?」
「こっちの世界にはそんな魔術があったりするのか?」
「昔、本で読んだことがあるわ。」
これはなんとかなりそうだな・・・。
「でも・・・」
ナツキがなんか難しいそうな顔をしている。この世界にその方法があるなら糸口にはなるだろう。
「確かすっごく難しい魔術って読んだことある・・・。
ユウそれ使えるの?」
なんとかならなそうである。
今から魔術を習ってそれを覚えたとしてどれだけ時間がかかるんだろうか?
難しい魔術なら一朝一夕での習得は不可能だろう。
その間に、ここも攻め込まれるかもしれない。
これもなにか考えないといけないな。
でも、これで条件ははっきりした。
俺がこれからまずやらないといけないこと。
・絶対服従の人形を探す。
・上空からの視界を得る方法を探す。
・リアルタイムで指示を送れるシステムを探す。
この三つがあればなんとかなりそうだ。
改めて考えてみてもなかなか厳しい条件だな。
ナツキは既に、考えることを放棄していた。
考えてるフリをしているが、こいつの目はもう考えていない。
思考放棄している奴の目だ。
「お前・・・考えてるフリしてるだけだろ?」
「え!?・・・バレたか・・よく見てるわね。」
「俺の対戦相手は途中から今のお前と同じような雰囲気を出すことが多いからな」
ゲームの経験上俺は相手が諦めたとかの判断が上手くなっていた。
まあ、なんの役に立つのかといわれれば微妙なところだが・・・。
「だって、しょうがないじゃない。知らないことは知らないんだから。」
「まあそうだな考えるだけ時間の無駄だな」
ナツキはでしょう?とでもいわんばかりに同意を求めてくる。
さて、ここからどうしようか。
とりあえず分からないことがあったら調べよう。
そういう方針でいこう。書庫もあったし情報を得られるだろう。
「じゃあ、聞きにいこうよ」
「ん?」
「わからないことがあったら知ってそうな人に聞くのが一番早いよ」
俺の方針を無視して、ナツキは言い放った。
まあ、確かに聞くのが早いな。
人に答えを求めるには、自分でまず調べてからとかいう謎の俺ルールが発動する寸前でナツキに止められた。
確かに、子供の頃はなんでもとりあえず聞いていたような気がするな。
いつからだろうかこんな考え方になってしまったのは・・・。
そうだな、今はそんなに時間をかけてる余裕はないな。聞きに行こう。
「誰か今の条件を知ってそうな人はいるか?」
「んー。ニナさん、ラニアさん、アイルさんは分からないと思う。
私と同じようなことしか知らないはず。」
「根拠は?」
「6年間色々話はしたからねー。そんなに特殊な家庭の人たちってことはなかったよ」
「なるほど」
ナツキが言うならまあその通りかもしれんな。
彼女達が隠し事をしている可能性もなきにしもあらずだが・・・。
俺もさっき会った感じだと実は魔道の達人でした!!とかいう人達の感じではなかったしな。
「となると、リディア、エリス、アルテ、フォクシーさん、カースさんあたりか?他にこの砦にはいないのか?」
「いないわ。」
「そうか。じゃあ片っ端から声かけていくか。」
「うん」
そう言って部屋を出る。
なんか最後のナツキの声が楽しそうに聞こえた。
彼女も思うことがあるだろうが心を許してくれたんだろうか・・・。
許してくれなくても、彼女の元気な声が聞こえるだけでなんとなく救われた気がする。
自分勝手だが、この状況でも彼女が楽しんでくれることを勝手に祈ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます