第5話 ある夏の記憶

俺は夢を見ていた。


 俺の人生の中で最大の幸福な時間の夢を。


 脳裏にこびりついて離れない幸福の記憶。


 それはゲームで勝った時のものではない。


 夏・・・プール・・・水着・・・お尻・・・


 その世界は神の祝福に満たされていた。天国。


 そう・・・天国。




 その日、小学校のプールの授業は1時間完全に自由時間だった。


 その年最後のプールの授業だ。


 担任の先生は今年最後のプールだからみんなおもいっきり遊ぶんだぞ!!といった。


 俺は神に感謝した。


 ああ、神様。この場を準備してくれたのはどこの神様でしょうか?


 キリストか?ブッダか?それとも恵比寿様か?どの神様か教えてくれたら俺は敬虔なる教徒になろう。


 俺はどこの神様かわからない神に尻神様と名付け、敬うことにした。





 俺はある2つの大きな決意をもってこの場にいた。


 今年最後のプールの授業。


 女子のお尻を生で拝める今年最後の機会。


 まず、1つ目。今年最後の女子の晴れ舞台を俺の眼球の奥の網膜に焼き付けること。


 これは、問題ない。


 ガッチリ見るのではない。一瞬。それだけでいい。


 瞬く瞬間そのすべてを脳に記憶する。


 それだけで、地獄のような冬を乗り切れる。


 その記憶だけでまた次の夏まで我慢しよう。


 俺は、ある女子に狙いをつけた。


 彼女はほっそりとしたスレンダーな体の持ち主だ。


 まだ胸の凸はほとんどなかった。


 ただ、彼女の魅力・・・それは胸なんかではなかった。


 尻。そう尻だ。彼女のお尻は俺の見た中で最高の形をしていた。


 きゅっと締まっていて、大きくもなく小さくもなく程よい大きさ。


 そして、なにより太もも裏とお尻との接続部分この部分が最高だった。


 俺はここの部分を勝手に絶対神域と呼んでいた。


 彼女は男子に混ざり昼休みにサッカーをするような活発な女子だった。


 そこで鍛えられた彼女の太ももの後ろ側は、細いながらも筋肉がついているのが分かった。


 そしてその少し上、お尻の半球部分。


 そこには脂肪があった。ただ、脂肪だけではなかった。


 しっかりとした筋肉の下地があった。


 その二つの要素を詰め込んだ芸術的比率の半球がそこにはあった。


 俺は興奮していた。


 彼女の太もも裏から半球にいたるまでの絶対神域には目の離せなくなるような魅力があった。


 この世のものではないような崇拝したくなるような・・・見てはいけないものなのではないか・・・そんな罪悪感を抱くほどの存在感がそこにはあった。


 俺は、頭の中でシャッターを切りまくった。


 顔を右から左へ動かすその中に彼女の後姿を入れて、一瞬の記憶を脳内に焼き付けるように、俺はシャッターを切りまくった。


 ふぅー。




 俺はまず一つ目の任務を完了した。


 俺はこの記憶だけでこの冬を乗り切れるそう思った。


 ただそこで事件は起こった。


 俺はこの事件を尻神様の奇跡と名付けた。



 彼女の友達その1があろうことか彼女の後ろに回り、水着を思いっきり食い込ませた。


 俺はあまりの衝撃に目を覆いたくなった。


 だがそうはしなかった。


 これは尻神様が敬虔なる信徒である俺に与えた奇跡の御業。俺への褒美。


 それを受け取らないなんてことできようか?いいやできない。


 なぜなら俺は尻神様の敬虔なる信徒だったからだ。神から与えられる祝福は受け取るのが信徒の義務なのである。


 だから、俺は彼女のお尻を眺めた。


 もはや、ちらりと見るなんてことは頭の中から消えていた。ガッチリ見た。ガン見した。


 さっきまで布で覆われていた、半球の上部分が露わになっていた。


 あまりの興奮に心臓が壊れるかと思った。


 そして、彼女はすぐにある行動を取った。


 そう、あれである。食い込みを直すあの動作のことである。


 水着とお尻の間に指を突っ込み、水着を引っ張って元の位置に戻すあの動作である。


 俺は異常な高揚感に襲われた。この世にこんなに魅力的な行動があるのか。


 俺はそう思った。


 俺はこの記憶を一生忘れないであろう。


 死んでも忘れないだろう。地獄に落とされてどんな責め苦を受けようが、この記憶さえあれば耐えられるそう思った。


 彼女はもうすでに水着を元の位置に戻し、いたずらをした友達その1を追いかけ回していた。


 俺はもう満足だった。幸せだった。


 敬虔なる信徒に祝福を与えた尻神様に感謝した。


 俺は、この神様に一生を捧げよう。そう思った。



 その後、俺は友達と水中鬼ごっこをしたが、身が入らなかった。


 この辺の記憶がすごく曖昧だ。


 頭の中は彼女のお尻でいっぱいだったからだ。


 その隙をつかれて鬼の友達からお尻をタッチされて鬼にされた。


 そして、俺は思い出した。


 俺の決意を。


 今日。俺は男になる。その決意をしてこの授業に臨んだはずだった。


 尻神様の祝福によって想像以上の収穫を得た俺はそれに満足し、決意したことを完全に忘れていた。


 俺は思い出してしまった。


 二つ目の決意を。それは彼女のお尻にタッチするという欲望を実現し男になること。


 これこそが真の目的だったのだ。


 これを実現するための計画を昨日寝ずに考えた。それを実行に移さなければならないとそう思った。


 今の俺には尻神様がついている恐れるものはなにもなかった。


 俺は作戦実行に向けて考える。条件を整えるにはどうするのか。


 まず、この状況は作戦段階その1の状況をクリアしていた。


 必要条件は下の3つだった。


 その1。友達と水中鬼ごっこをする。


 その2。ターゲットである彼女がプールの中にいること。


 その3。逃げる側であること。


 この3つの状況を整えれればできる。俺は間違いなく男になれる。そう思った。


 その2も程なくしてクリアした。彼女は友達その1を許してプールの中に入ったところだった。


 あとはその3。それさえクリアすれば全てが整う。


 そこからの俺は必死だった。いつ状況が動くかわからない。急いで友達をプールの端に追い込み鬼を押し付けた。


 きた。状況は整った。やれる。尻神様もついている。失敗する要素はない。


 俺の作戦は最終段階に移行した。


 まず、鬼を挑発した。そして彼女との位置を確認する。


 彼女は今ちょうどプールの真ん中付近にいた。


 位置関係としては俺の右斜め前10m程、彼女は俺に右半身をさらしていた。


 OK、クリア。


 挑発された鬼は俺のことを追いかけてきた。


 俺は必死に逃げるフリをして彼女に向かって近づいた。


 そして潜水した。


 水中ゴーグルは事前に準備していた。ぬかりはない。


 右斜め前3m程に彼女のお尻があった。見間違うはずもない。


 先ほど脳裏に焼き付けた鮮明な記憶のお尻。それをロックオンした。


 彼女のお尻の左側を避けるようにして、進み、真横付近で平泳ぎの要領で目の前の水をかきわけた。


 平泳ぎの手の動きで水をかき分けるときに彼女のお尻の左半球を俺の右手がとらえた。




 シルクのマシュマロだった。




 まず手に伝わったのはキメ細やかな肌の感触。ツルっとしてたがでも温かみもあった。


 そして次にきたのは弾力だった。


 俺の手はシルクをかき分け奥に入り込んでいった。


 手には心地よい幸せな感覚、そして、指先には俺の侵入を拒むかのように、でもやさしく、力強くおれの指を押し返す弾力を感じた。


 それが俺の幸せの最後の感覚だった。


 俺の手はそのまま彼女のお尻を離れて、水をかいた。



 俺は男になった・・・成功した。


 そして、逃げた。


 息が切れるぎりぎりまで水中を進み人目をさけるようにスラロームのように人の足の群れの中を逃げた。


 俺は逃げ切った。


 その後の事は覚えていたない。


 ただ、脳裏に焼き付く彼女のお尻と手に残るあの感触。


 それだけがあの夏の記憶のすべてだった。

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