第4話 過去の救世主と地獄からきた救世主
俺は今、応接間のような・・・執務室のソファーに座っている。
俺の後ろには大使館にあるような大きな執務机があり、目の前には少し大きめのガラスのようなものでできた商談用机がある。
向かって左側のソファーにはエリス、青髪魔法使い風、メイド。
右側にはリディア、執事が陣取っている。
つまり俺はお誕生日席のような、一人用ソファーに腰かけていた。
さーて必要な情報を集めなきゃならんのだが、何から始めようか・・・。
とりあえず自己紹介かな。
「では、僭越ながら自己紹介をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
俺はリディアに同意を求めると、はい。と返事が帰ってきた。かわいい。
「俺の名前は・・・・ユウと言います。以後ユウとお呼びいただけると嬉しいです。
特技はRTSジャンルのゲームです。慣れる時間さえ与えて頂ければどのタイトルでも世界一位を取ってみせます。」
本名を名乗ってもよかったのだが、ここにいるメンバーか明らかに日本関係の人たちではなかったのでなんとなくゲームで使っているプレイヤーネームを言ってしまった。
14年間使ってきた名前だし、もはや本名といってもやぶさかではない。
「ユウ様ですね。よろしくお願い致します。
あーるてぃーえす??・・・げいむ?で合っていますでしょうか?
不勉強で申し訳ございませんが、もしよろしければどのようなものかお教えいただけませんでしょうか?」
RTSとゲームが分からないときたか・・・。
「では、その前に一つだけ質問させてください。リディア様は日本という国をご存知でしょうか?」
「あ・・・。いいえ。存じ上げません」
「ふむ・・・お手数ですが、この世界の地図をお見せいただいてもよろしいですか?」
薄々は感じていたが、さすがに世界3位の経済大国を知らないなんて事は・・・ないな・・・。やはりそういうことなのだろう。
リディアも感づいたかな。
そうこうしてる間にメイドが後ろの執務机から地図を持ってきてくれた。
その地図には日本どころかユーラシア大陸、アメリカ大陸すらなかった。
全く見たことのない形の大陸が並んでいた。
まーそうですよね。わかってましたよ。
「なるほど。分かりました。
どうやらここは私がいた世界とは違う世界のようですね。
その場合、ゲームについての説明は文化が違いすぎるので多少時間がかかります。
ですのでまた、別の機会にさせていただいてもよろしいですか?」
「はい。かしこまりました。失礼致しました」
どうやら俺は異世界に来てしまったらしい。
まあ、いいや。薄々わかってた。そんな感じの物語だって知っている。現実にこうなるとは思ってもみなかったが。
元の世界に帰してっていっても無理かなー?でも一応。
「あと1点だけ・・・元の世界に戻る方法なんてご存知ありませんよね?」
「申し訳ございません」
おもいっきり頭下げられた。
知ってましたよ。ええ。わかってたよ!!
どうやら腹をくくるしかないみたいだ。
「わかりました・・・。大体状況は飲み込めてきました。
では、リディア様以外の4人の方、自己紹介をお願いしてもよろしいですか?
ここにいるということは、要人という認識でよろしいんですよね?」
「はい。おっしゃる通りです・・・エリス」
「エリス・バークロードよ。リディア様の近衛騎士であり、
4大精霊の地の大精霊『グディム』様と契約を交わした精霊騎士。
以後お見知りを」
「はい。よろしくお願いします」
ファンタジー。実にファンタジー。
異世界ファンタジーここに誕生ってか。
赤髪ショートカットのエリスちゃん。年齢はどんなもんだ・・・16くらいかな。
目が少しツリ目で気が強そう。でも結構かわいい系かも?
服装はまさに戦士って感じ・・・違うな今は戦士っていうより冒険者かな。
この服の上に甲冑とかつけるんかな?
というか、リディアですら綺麗な敬語使ってくれてるのに偉く尊大な態度だなこいつ。
一応にこやかに返事はしておいたが・・・。
ああ、さっきの根に持ってるのか。
許してくれよー。
「アルテ・シフォン・レイリティ。召喚術師。」
「彼女は世界中の召喚術師の中でも最も優秀とされる5人に与えられるシフォンの称号の持ち主です。訳あって我が国の為に尽くしてくれています。ユウ様のお力にもきっとなっていただけるかと」
続。ファンタジー。
口数少ない魔法使い系キター。鉄板やね。
その中でも、召喚術師にいくとはなかなか渋い。
青髪で髪の毛結構長い?ローブの中に髪入っちゃってるんかな?ようわからん。
見た目幼い感じだが、これは年増ロリの可能性・・・。
ってか美味しそうな称号・・・。
「フォクシー・エルステッドと申します。リディア王女専属のメイドでございますが、
もし、何か御用がございましたら。ご用命くださいませ。」
「はい、フォクシーさんよろしくお願い致します。」
こちらに向かって立って華麗にお辞儀までしてくれた。
なかなか教育が行き届いているようで。すばらしい。
さて、お約束のいっときますか・・・。
「ええと・・・、フォクシーさん。」
「はい。なんなりと」
「情報収集が得意だったり、暗殺、戦闘技術に秀でてたりしますかね?」
「!!?」
「!!」
「何故お分かりになったのですか?気配が出ていましたでしょうか?」
「いやあーお約束ですので。」
「お約束・・・ですか・・・?」
「ええ、お気になさらず」
「彼女は以前、我が国の諜報機関に所属していましたが。
色々ありまして、今は私の傍でメイドをしてもらっています。」
「なるほど、ありがとうございます。」
お約束通り近衛侍女ってところか。
諜報機関ってCIAみたいなもんなんかなー。
お約束を言い当てられてフォクシーさんも他もすげぇ驚いてた。
少し気分がいい。
フォクシーさんもつり目で非常に見目美しい。エリスがかわいい系ならこっちは綺麗系だな。
あんなに、綺麗なら諜報系としては非常に目立ってやりにくいんじゃ・・・。
ああそうかあれか。ハニートラップってやつか。
服装メイドさんだけど、そういわれてみれば目つき鋭すぎるかもしれないな。
メイドさんがこれなら当然こっちも只者ではないか。
「カース・インディスティアと申します。私は王女専属の執事をさせていただいています。
何かございましたら、私めへもご用命くださいませ。」
「はい。カースさんもよろしくお願いします。
・・・。
カースさんは先代国王の懐刀だったりですかね?」
「ハハハ。ご名答でございます。
私は先代国王の近衛騎士でございました。先代国王の遺言に従い、リディア様をお守りしております。
いやあ。ユウ様は人を見る目が非常に肥えていらっしゃる。それでこそ救世主様というところでしょうか」
「いえ、かいかぶらないでください。お約束ですからね。」
「お約束ですか。」
「ふふ。お気になさらず。」
お約束パート2!!
短髪白髪の元近衛騎士で執事ってもうお約束通りすぎるな。
まあ、カースさんに関しては執事というよりかは剣握ってる方が似合いそうな体格してるしな。
まあよくもこんだけ武闘派を集めたもんだ。
いつでも戦える状況を想定していないといけない状態ということか・・・。
一通り自己紹介もしてもらったことだし、そろそろ本題に入るか。
「じゃあ本題だけど、俺は何すればいい?」
「・・・私たちを・・・いや、アルティア王国をお救いください。」
リディアが答えてくれた。
さっきまでの笑顔はなりを潜め、すがりつくような目をしている。
そんなに、追い詰められてるのか?。
救ってっていわれてもなー。俺はただのゲーマーの日本人だぜ?まだ17歳の高校生だぜ?
何をしろってんだよ。
ああ、あれか、元の世界の知識を使って問題を解決しろとかそういうことか?
そういうことなのか?
よし、そういうことなら任せろ。
物理とか科学は得意分屋だ。理系の底力みせてやんよ。
「ふーむ。じゃあがんばって考えてみるから今の状況を教えてくれ。」
「はい。では少し長くなりますがご容赦を・・・」
そういい、リディアはアルティア王国の・・・リディア達の置かれている状況を教えてくれた。
詰んでいた。
完全に詰んでいた。
神聖アルティア王国はリストワード大陸にあり海に面した国だ。
この大陸には4つの他の国がある。アルテワード王国、アルスメイ帝国、キスカ王国、ベイス神王国。
アルティア王国を入れたこの5ヵ国でリストワード大陸の覇者をめぐり、かれこれ700年も戦争を続けてきたらしい。
700年かけて、色々状況は動いたんだが、結果どこの国も大陸統一に至っていないのだという。
ここ50年程はアルテワード王国とアルスメイ帝国、アルティア王国の3ヵ国でにらみ合いが続いていたそうだ。ちなみにキスカ王国はアルスメイ帝国のベイス神王国はアルティア王国の属国になっているらしい。
この状況でバランスが取れていたそうだ。
だが、1年程前にとうとう西国に位置するアルスメイ帝国とアルティア王国の間で歴史上最大規模の戦いが起こったらしい。
その大戦争のさなか事は起こった。
アルティア王国の大臣が裏切り、アルティア王国側の情報をすべてアルスメイ帝国に流したのだそうだ。
それをアルティア王国は知らないまま戦い、そして歴史上最大規模の戦いはアルティア王国の大敗となった。
それを機にアルスメイ帝国はアルティア王国の領地を瞬く間に制圧、そしてアルティア王国首都エルティハーを攻め落とした。
リディアは数人の部下を連れ、命からがら首都を脱出。アルティア王国の北部に位置するこのリステ砦に逃げ込んだのだった。
そして、リディアは救世主の力を求めて儀式を行ったのだという。
その結果、登場したのがこの俺ということだそうだ。
この状況で救ってくれと言われても・・・無理じゃね?
俺が例えば、ゲームに出てくる最強魔法とか使えたら一気に形勢逆転とかいけるんだろうが、そんなんできねーしなー。
ってか首都落ちてる時点でもう絶望的じゃね?
大戦争かまして大敗した時点で逆転の目なんかなくね?
救世主の力を求めて出てきたのが俺って運なくね?
呼ぶならもっと違う世界のべらぼうに強いやつ呼べよ。なんで俺なんだよ!!
ってか救世主ってなんだよ。こんなランダムで出てくるような儀式に国賭けんなよ!!
俺はふぅーっと息を吐いて、脳の混乱を鎮める努力をする。
その態度を見て、リディアは悲しそうな、今の状況を恥じ入るような・・そんな顔をしていた。
そんな顔もかわいい・・・。
「そもそも救世主ってなんなんですか?」
「救世主様は・・・」
そこからさらに、リディアの救世主話が始まった。
まとめると。救世主は・・・救世主らしい・・・。
昔々、初代神聖アルティア王国の王は死にかけていた一人の魔術師を助けたらしい。
その魔術師の名は『始まりの魔術師』アルスという。
アルスはアルティア王に感謝して、お礼にアルティア王国全土に『ある術』をかけたという。
そして、アルスは王に言った。
これからこの国は様々な窮地に立たされることもあるだろう。
その時の為に、ある術をこの国にかけた。
その術はこの国が立ち行かなくなった時、発動する。
そう言って去っていったという。
この物語は非常に有名な物語で本になっているらしい。
大陸全土に流通しているらしい。
そしてアルティア王国が滅亡の危機に瀕した時、救世主は出現したそうだ。
出現したといわれる救世主はこの700年で4人といわれている。
一人目は『豪鎚』と言われる人物。
650年程前に、アルテワード王国との戦争で敗戦。滅亡に瀕した時に現れたそうだ。
『豪鎚』は凄まじい戦闘力を持っていた。その力で滅亡寸前の国をたった一人で救ったらしい。
まさに、英雄。まさに救世主であった。
二人目は『白士』と言われる人物。
400年程前に、こちらもアルテワード王国との戦争で負けに傾いたところで登場。
現れた『白士』は魔法使いだったと言われている。
戦争のさなか現れた『白士』は戦場をまるまる一つ吹き飛ばしたそうだ。
敵味方関係なく戦場を一つ吹き飛ばした。
その光景は白い柱が天を突いたと言われている。
そしてその跡は現在湖になっているという。
三人目と四人目は同時に現れたという。
『光翼』と『耕王』の二人だ。
230年程前に現れた。その当時リストワード大陸は飢饉と疫病で滅亡寸前だったという。
アルティア王国もその例に漏れずボロボロだった。
『光翼』はその病気を治す薬を瞬く間に作り出し、この大陸をまわったと言われている。
『耕王』は痩せた大地を回復させる方法を授け、すぐに実のなる種を配ってまわったとされている。
この二人はいつも行動を同じくし大陸全土をまわって救った英雄といわれている。
この二人の伝記は後世に語り継がれ、大陸で知らないものはいないくらいの有名人だそうだ。
そして、『始まりの魔術師』アルスの魔術をアルティア王国は研究してきたそうだ。
救世主をこの世界に呼ぶ際に必要なものがある。
それは御子と呼ばれる存在である。
救世主がこの世界に降臨する時。それは、御子が6歳の誕生日を迎えた時とされている。
御子は左の二の腕に茨の装飾のついた棺のような紋様をもってこの世に生まれてくるそうだ。
その子が6歳を迎えたとき、御子の魂を生贄に救世主の魂を自分の体に下す。
そして6年前・・・。
とある村で御子が産まれてしまった。
アルティア王国に震撼がはしったという。
そりゃそうだ、6年後に国が亡ぶ様なことが起こると予言されたようなものだ。
アルティア王国はすぐに、御子を親元から取り上げこのリステ砦に移したそうだ。
そしてこの砦に信頼のおける家柄の人物を世話役としてつけ、御子を育ててきたのだという。
使用人以外誰もこのリステ砦には近づかせなかった。
そして、つい先ほどその御子が6歳の誕生日を迎えたのだという。
アルティア王国は滅亡の危機にある。
そこで、伝承の救世主の俺に力を貸して欲しいと。そういうことらしい。
確かめてみたらこの体の左の二の腕に茨のついた棺の痣のようなものがあった。
本当のことらしい。
っていわれてもねー。
どうするよ。
『豪鎚』や『白士』のようにえげつない力を持ってる訳じゃないしなー。
『光翼』や『耕王』の状況だったら科学の力でなんとかなったりするんだろうけど・・・。
これ、アルス魔法ミスったんじゃね?
寄りにもよってこのクソ大事な時に日本の高校生(ゲーム馬鹿)呼ぶとかさすがにないわー。
ったく。どうしろってんだよ。
「OK、大体わかった。この状況を今すぐひっくり返す案は思いつかないがとりあえず把握はできた」
リディアが少し残念そうな顔をしていたが、こればっかりはどうしようもない。
大体の整理はできたが、詰め切った感じじゃないな。
わからないことはそのままにしておくのは嫌な性分なので、とりあえず納得するまで詰めさせてもらおうか。
「質問攻めですまんが、もう少し付き合ってくれ。」
「はい。私が答えれるものならなんでもお答え致します。」
じゃあスリーサイズをといいたいところをぐっと堪えて、溜まった疑問をどうにかしようか。
「まず、一つ目。リディアはこのリステ砦についたのはいつごろだ?」
「大体3カ月前くらいでしょうか」
「となると、なぜこの砦は攻撃を受けていない?」
一番初めに思った疑問だった。
逃げ帰ってきて、ピンポイントで救世主降臨などと都合が良すぎるのではないかというのがなんか引っかかった。
まあ、このイベントがアルスの魔術によって起こってるので、そこまで予期しての魔術だった可能性もあるのだが・・・。
「アルスメイ帝国は現在、アルテワード王国と戦争中です。」
「なるほど、火事場泥棒ってところか。」
「そうですね。
アルテワード王国は、過去の救世主によって手痛い被害を唯一受けた国です。
ですので、今まではアルテワード王国とアルティア王国はにらみ合いの状況ではあったのですが
実際のところ救世主による意趣返しを恐れて我がアルティア王国に攻め入ってくることはないだろうと私は考えていました。
でも、アルティアの豊かな大地をアルテワード王国が欲しがっていたのも事実です。」
「つまり、アルティアの手から離れた土地になら手を出しても問題ないという考えか。」
「そういうことです。」
ふむ、すぐ明日にでも攻め込まれるということはなさそうだな。
ちょっと安心。
じゃあ次だ。
「なんで過去の救世主たちの力があって、アルティア王国は大陸統一ができなかったんだ?」
「それは、過去のことになるのであくまで仮説になるのですが、
恐らく彼らを御することができなかったのではと思います。
彼らは一度アルティア王国に協力した後に消息不明になっています。」
「なるほど。『光翼』も『耕王』もアルティアからしたら敵国を助けてまわったってところから見るに制御しきれなかったってところか。OK。ありがとう。」
ふーむ。なるほど。
彼女らとしては、救世主の力を手にしたまま大陸統一したいということで、俺にはできる限り丁寧に接したいところかな。下心ありか。
こちらとしても大事に扱ってもらえるならそれで助かる。俺が役に立つかはおいといて・・・。
「そういや『豪鎚』や『白士』は6歳の御子の体に魂を下したんだよな?
俺の常識から考えると、魂だけをこの体に移したところで体は御子のままだと思うんだが
どうやってその力を行使したんだ?
『豪鎚』も名前だけ聞く感じ相当な筋肉量が必要な戦い方をすると思う。
『白士』も魔法を使うには魔力が必要なんじゃないか?」
「この辺も仮説になってしまうのをご容赦ください。
先程、魂を下すと説明しましたが、恐らく御子からは体の側だけを受け継ぐのでは?という結論に至りました」
「ん?どういうことだ?」
「前の世界にいたときの体組織をそのまま御子の存在に転写するようなものだと私たちは考えています。」
「ふむ、『白士』の魔力とかは前の世界から引継ぎできたということか・・・。魔力がどこの臓器に入っているかはわからんが・・・。
だが、『豪鎚』に関してはわからんな。俺から見ても筋肉は前の世界と比べてみて明らかに落ちてる。」
「『豪鎚』に関しては、鎚を使用したという文献が残ってはいるのですが・・・
幾分不十分なので憶測になります。
『豪鎚』も魔術師だったのではないかと考えています。体を強化する魔術が非常に優れていたとすると話はつながります。」
「たしかに、筋は通るな。脳に関しては記憶や知識などをこっちに引き継いでいることも俺が確認できているから『光翼』『耕王』についても筋は通る。OK。これも解決だ。」
ふーむ納得はできるがなんか違和感がある気がするな。
転写っても、さすがに俺のこの体の中に入っている臓器はさすがに御子の物だろう。
子供の体に元の世界の俺の臓器をつなげるってのは流石に厳しそうだ。
ってことは、記憶を引き継いでるから、脳だけとっかえた感じか・・・。
この辺は今のところ進展はなさそうだな。
とりあえずこれで納得しておくか。
よし次。
「この体の御子のことだが、この御子は魔力が飛びぬけて凄いとかはないのか?
後は名前とか教えてほしい。魂だけでも弔ってやりたい。」
「この砦に移した時に、一応魔術師に見てもらったのですが
紋章を持っている以外は普通の子供だというのが魔術師の見解です。
それと名前ですが・・・ありません。
その子は御子様と呼ばれて育ち、御子として生涯を終えました。」
「残酷だな。」
「ええ、言い返す言葉もございません。」
リディアは悲しそうな顔をするかなと思ったが、
悪びれもせずいいやがった。
フォクシーさんが何か言いたそうな顔をしていたな。
一人の人生を国の為に生贄にする。
それに対する王女の覚悟というやつか。
わかっているならいい。もう何も言うまい。
あとは・・・そうだな。
「ベイス神王国は属国なんだろ?なんで助けてくれない?」
「ベイス神王国は協定にて他の4ヵ国間の戦争への関与ができない誓約を結んでいます。
ですので今回の私達を救うことができないのです」
「宗教保護みたいなもんか?」
「そうですね。彼らは国というよりベイス神を崇める集団という組織のようなものですね」
頼りがいのない属国もあったものだな・・・。
さて、最後はこの世界に来て最大の疑問だ。
「リディア。」
「はい。」
「お前、俺がこの世界に来たときなんかやったよな?あれなんだ?」
「あ・・・。はい。そうですね・・・。どのみち分かることですのでお話します。
あれは、この世界では祝福と呼ばれるものです。
この世界には様々な祝福が存在すると言われています。
私はその中でも人の脳に干渉する祝福を持っています。
これは後天的なものではなく、先天性のものです。
私はこの祝福で、あなたの言語を司る部分に干渉しこの世界の言語構造を送り込みました。」
「ふむ、特殊能力みたいなものか。
・・・。
その能力はアルスの影響か?」
「はい。私もつい先ほどまでこの祝福がたまたま私に宿ったのだと思っていましたが、
どうやら、救世主が現れる時のためにあるのかもしれませんね。
救世主が登場する時代の王族やそれに付随する家系にこの祝福を持ったものが産まれるということですね。」
「祝福に関する文献とかは残ってないのか?」
「祝福を持っていると、人々の中で生活するには幾分か不便だと聞きます。
よって祝福の持ち主はそれを隠して生きていくことが多いのです。
私もこの場にいるもの以外にこの祝福の存在を明かしてはいません。」
「なるほど、特別というのは異端に結びつくもんな」
「ご理解いただけたでしょうか?」
「ああ、十分だ。それで何ができるのか聞きたいことが多いが長くなりそうだしな、とりあえずは十分だ」
特殊能力か・・・。
実際にやられているからな。
流石にいまさら疑う余地はないか。
いやー日本にはありふれたお話で助かった。
理解はできなくても受け入れることはできた。
これで問題なく話がつながったな。
「ありがとう。俺の中での筋は通った。これで大体把握できたよ。」
「はい。ご理解が早くて助かりました。」
さて、話が分かったところでどうしようもないことを説明せにゃならんな。
「みんなには悪いお知らせがある。」
この場にいる面々に緊張の色が走ったのがわかった。
「いやいやいや、そんなに警戒するな。
俺はできる限りリディアやここにいるみんなの力になってやりたいと思ってるよ。」
「では、どういうお知らせですか?」
「俺は現状を覆すには力不足だという話だ。」
「・・・いえ。そのようなことはないと思いますが・・・。」
リディアにはいったい俺の何が見えているというのだろうか・・・。
日本の高校生にこの状況を覆すだけの力があるんだったら、日本はもはや最強国家だよ!!
俺は格闘技も触ったこともなければ、喧嘩一つしたことないからな。
それをいきなり戦争中で国が滅ぶんで助けてください。っていわれて、
任せとけってサムズアップする自信はどこにもねーよ!!
「実際問題、俺は戦闘どころか喧嘩すらしたことないんだよ!!
そんなやつを戦争中の国の主要部分に置く意味がわからんなって話だ。」
「それは関係ないと思います。」
「どういうことだ?」
「過去の救世主様の事を考えると、必ず救世主様はこの世界に適応した何らかの力でこの国を救える人が選ばれます。
『豪鎚』『白士』の二人は即戦力になる力を。
『光翼』『耕王』は即戦力になる知識をそれぞれもってました。
ユウさんはお話しを聞く限り後者の人間だと私は思っています。」
「ああ、それは俺も考えたさ。
この状況をどうにかできる知識が俺の中に眠っている可能性を・・・。
だがな、よくよく考えたら矛盾が生じるんだ。」
「矛盾・・・ですか?」
「そうだ。決定的な矛盾だ。
この戦時下で役に立つ俺の元いた世界での知識を持つ者という条件だと考えよう。
たしかに俺の頭に眠る何かを捻り出せば俺もこの世界のどこかで役には立てるかもしれねえ
でもな、俺の世界には実際に戦争で戦っている兵士、指揮官それぞれ大量にいる。
つまり、俺をその理由でこの世界に呼び寄せるっていうのは最適解とは言えない。
それがこの魔術の矛盾だ。」
「そうですね・・・でも
逆に考えると、ユウさんはその大量の兵士と指揮官を差し置いてここにいる。
そこに何らかの理由があるはずなんです。」
「いや、俺は正直に言わせてもらうと学生だ。
日がな一日ゲームに明け暮れる怠惰な人生を歩んでき・・・」
ん?まてよ?
俺が現役兵士を差し置いて抜きんでてるものっていえば、ゲームしかねーな。
まがりなりにも世界一を取ったわけだしな・・・。
でも、あれはゲームだぜ?RTSの知識と技術を使ったとして、この状況をどうにかできるとは思えない・・・。
いくらマウスとキーボードを上手く使って仮想の兵士を動かせるからといってだからどうなんだと・・・。
だめだ、混乱してきた・・・。
「なにか思いつきましたか?」
「いや、確かに俺が元の世界で一位になれるものがあった。
だが、どう転んでも今の状況で役に立つとは思えん。」
「先ほど言っていた、あーるてぃーえすでげいむのことですか?」
「ああ、そうだ。俺は元の世界でRTSのゲームで世界一になった。
そして、その瞬間にこの世界に召喚されたんだ。
あまりに文化圏が違いすぎて上手く説明できるかどうかは分からんが、そこから理解してもらうところから始めないといけないか・・・。」
ん?
あっ!!
「リディア」
「はい?」
「お前、人の脳に干渉できるってさっきいってたな?」
「はい。その通りです。」
「なら、俺の記憶読み取るくらいはできるんじゃないか?」
「そうですね・・・可能ですがよろしいのですか?」
「あれやこれや全部見られるのは流石に勘弁して欲しいけど、
ゲームに関することだけ読み取るっていうのはできないのか?」
「その部分を強くイメージしていただければその部分を鮮明に読むことは可能だと思います。、
しかし、その他の部分に関してはできる限り見ないようにしますが
最終的には私を信用してくださいとしか言えませんね。」
リディアも上手く使う自信がないのかえらく曖昧な物言いだな。
「わかったそこは信用しよう。」
「ありがとうございます。では、やってみましょうか。」
「ってもしかしてさっき脳を直接捕まれる感じのやつやるの?」
「それに関しては大丈夫です。
あれは、脳に書き込む時だけ必要な動作です。
記憶を読み取るだけなら手の接触だけで問題ありません」
あーよかった。
あの脳を直接捕まれるやつは正直もう今後一切勘弁して欲しいところだ。
「じゃあ、俺はゲームのことを考えてればいいんだな?」
「はい、その方が鮮明に読み取れると思います。」
俺はとりあえず、脳内一人RTSを始める準備をして右手をリディアに差し出した。
リディアは俺の右手を両手で包み込み、目を閉じた。
これで、大丈夫なんだろうか?
っていうかリディアの手小っちゃくてかわいい。すべすべだ。
「っ」
あ、ばれた。今絶対バレた。俺の頭の中読んでるんだもんな、そりゃバレるか・・・。
ってか顔真っ赤になってる。雪みたいな白い肌が真っ赤になってる。
かわいすぎる。デジカメでとってPCの壁紙にしてーな。
「もう!!ユウさん集中してください!!」
怒られた。
これ以上やったら嫌われるから脳内一人RTSに集中するとするか・・・。
俺は目を閉じて一人RTSに没頭することにした。
・・・。
・・・。
・・・。
数分たった・・・。
ん?
リディアの手すっげぇ震えてるんだけど・・・。
俺は気になって目をあけた。
リディアの顔が真っ青になっていた。
おいおい、どういうこった????
「リディア様」
それに気づいたカースさんが無理やり俺の手からリディアを引き離した。
「リディア様、大丈夫ですか!!リディア様!!」
カースさんが必死になってリディアの肩を揺らしている。
リディアはうっすらと目を開けて呆然と目の前の空間を眺めていた。
いったいどうなってんだ!?
俺の記憶のどこに、そんなに恐怖するものがあるっていうんだ????
っておい!!
気づいたらエリスが俺の胸倉を掴んでいた。
こいつ動きはえー。
「貴様、リディア様に何をみせた。言え!!何を見せた!!」
「いやいや。落ち着けって。俺がこの状況で変なもん見せてどうするよ!!
お前がもう少し冷静になれ。」
「エリス・・・やめなさい。私は大丈夫ですから・・・。
落ち着きなさい。」
リディアの仲裁でエリスはソファーにボフッと深く腰をおろした。
ふぅー助かった。
でも、仲裁してくれたリディアはまだ呆然としていた。
カースさんが、なだめてくれてはいるが、いったいどうなってるのか俺にもわからん。
とりあえずリディアが落ち着くまで待ってみることにした。
「リディア様、もしよろしければ何が見えたのか私共めにも教えていただけますか?」
カースさんが、少し落ち着いてきたリディアに言った。
「はい、取り乱して申し訳ありませんでした。」
リディアは深呼吸して続きを話し始めた。
「まず、初めに見えたのは荒地で戦闘をしているものたちでした。
その戦闘を指揮しているのは、ユウさんでした。
その時のユウさんは幼子のようでした。
幾分かたち、ユウさんの指揮していた軍が敗北し、
ユウさんの街の建物は敵によって破壊、蹂躙されていきました・・・。
その後、気づいたらユウさんはまた新しく村を作っていました。
そして、また戦闘がはじまって・・っぐ・・・負けて・・・たくさん人がっぐ死んで・・・
また・・・作ったまちぉお全部ぅううっううっぐ壊されて・・・
また、幼いユウさんはぁあっえっぐ新しく・・・まちを作って・・
えっっぐ・・・壊されて・・っぐ・・人も・・ユウさんのまちの人ぉっも
みんな殺されて、でっもユウさんはぁっぐまた・・・っぐまぢをづぐっで・・へっ・・
そでで、ユウさんは壊れたようにぃ・・っぐ・・・笑っでで・・・
そででも、戦いはぁ終わら・・えっぐぇぇなくて・・・
なんがいも・・・なんがいも・・つづいてぇ、ごばざれてぇ・・・ユウさっんばぁあ
まだまぢをつくってぇえ・・でも・・壊されてえっっくっく・・・殺されてぇぇっく
でもユウざんばぁ笑っててぇええん・・何千回もぉ・・つづいててぇええ・・・
なんかいも・・・っぐ・・・なんかいも・・・ずぅっとユウざんばあごばされてぇ・・
きずいたらあぁぁあっぐえゆうさんは・・・っぐ大きくなっててぇ・・・もう
でんでんわらって・・・なくて・・っぐ・・機械のようにぃ無表情でぇ・・・
・・っぐ人おおおころして・・たくざんごろして・・ごわして・・・
それでも・・っぐ・・・戦争はぁぁあ・・おわらなくてえっぇっぐ
最後にぃ・・・ゆうざんはぁああ、、まだぁあ・・こどもみたいにぃ・・
笑いながら・・・えっ・・壊してぇぇ・・・ころぢてぇ・・
こわしてぇぇ・・・何十回も・・・何百回も・・・何千回・・・もぉお・・・何万回もぉおおごばじで・・・ころぢてぇ・・
えっぐ・・・ひっく・・・・」
最後の方はもはや言葉になっていなかった。
これトラウマになるやつか。
いやね?ゲームのところの記憶だけをうまく繋げて読んだんだろうけどね。
どこの修羅の国の人間の記憶みたんだよ。
聞いてる最中に笑いかけた。
まあね、小さい頃からRTS触っててひたすらに負け続けたさ。
そりゃゲームやってんだもん笑うさ。子供だもん。
そりゃ何千回も負けた記憶あるもんね。そりゃそれを今みれば悲惨だろうさ。
それを実際の人間だと思ってたら地獄の住人そのまんまだわな
大きくなってきて、笑うすきもないほどガチでゲームやってんだもんそりゃあ顔は無表情にもなるわな。
でも、そんな殺戮マシーン見たいな言い方せんでもよくね?
んで最終的には、余裕でてきて笑いながら街を蹂躙する人格破綻者が完成したわけか。
ってかあれか、俺の今までのゲームの記憶全部見たのかな?
総プレイ時間軽く3万時間超えてるもんな・・・。
ああ、そうだな。確かに彼女からしたら戦争の記憶3万時間パックを見せられたと同じなんだろう。
そんなもん見せられたら精神不安定になるわな。
今のリディアに俺はいったいどう映っているんだろうか・・・。
その他の面々もなかなか渋い顔をしとるな。
エリスですらも、俺の人格破綻者完成への記憶の話をきいて悲しみの表情を浮かべてる。
なんかもう色々、誤解しすぎててどこから解いていけばいいのかわからんな。
リディアは嗚咽を頑張って殺してはいるが泣いてるし。泣いてる姿もかわいいけども・・・。
「ユウ様。大変申し訳ございませんが、
リディア様がこうなってしまった以上、これ以上の話し合いは今日は難しいと思われます。
ですので、また続きは明日にお願いしてもらってよろしいでしょうか?」
「ああ、こちらこそなんか・・・すみませんでした。
こんなつもりではなかったんですがね。
さっき誕生日迎えたってことはもう深夜ですからね。今日はゆっくり寝かしてあげてください。」
「では、申し訳ございません。お先に失礼します。」
そういって、カースさんは号泣するリディアを連れて部屋を出て行った。
「ごめんなさい。」
なぜか、エリスが俺の方を向いて謝ってきた。
?
「正直あんたの軽薄な態度とかあんなんとか見たからあんたのことを心のどこかで見下してた。
あんな壮絶な状況で育って生きてきて。でもあんたは、そういうの隠して、笑って・・。
自慢するでもなく、私たち・・・を助けてくれようと話聞いてくれて・・・。
あんな地獄で育ったあんたから見れば、私たちの状況なんか全然大したものじゃないのかもしれないけど・・。
でも、助けて欲しい。今の私にはどうにもできないから・・・。」
エリスが・・・さっき胸倉掴んでたエリスがシュンとしてるー!!
あんなんってなんだよ・・・。ああ廊下のあれか・・・。
もういいや。誤解とくのは明日にしよう。そうしよう。
「もういいよ。気にすんな。とりあえず今日はゆっくり休もう。俺も疲れたよ」
「わかった。失礼する。」
そういってエリスも部屋を出て行った。
さて俺も寝るか。俺の部屋とか用意してくれてるんかねー?
「フォクシーさん。すみませんが、僕のお部屋ってありますか?」
「はい。ございます。ご案内します。」
フォクシーさんもえらく暗い顔してるけど、誤解だからね。それ誤解だからね!!
フォクシーさんはそういって部屋まで案内してくれた。
案内っていうか・・・隣の部屋だったんだけどね!!
アルテはいつの間にかいなくなってた。
幽霊かあいつは!!アルテも変な誤解してくれてないといいなーなんて無理か。
あーもう明日明日!!また明日!!
俺はすべてを明日へ投げつけ、さっきの執務しつより一回り大きい部屋のキングサイズベッドに飛び込んだ。
なんか今日一日ですげぇ疲れた。
・・・・
・・・
・・
・
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