神聖アルティア王国編

第3話 尻フェチ救世主降臨

――死ぬと思っていた。


 光に飲み込まれた瞬間に覚悟した。終わったのだ。ゲーム以外ほとんどなにもしていなかったが、そんなに悪い人生でもなかったと思う。

 ゲームをする。学校に行く。ゲームをする。寝る。ゲームをする。それだけを繰り返した日々だった。

そのおかげで世界で一番人口の多いネトゲで世界一位になることができた。


 いままで色々迷惑をかけた、じいちゃんにも恩返しができると思った。

 優勝賞金は俺が死んだら、ちゃんとじいちゃんに届くのだろうか・・・。


 親父とお袋がどこかに消えた。それからは、お袋のじいちゃんが面倒を見てくれた。あんまり口数の多い人ではなかったけれど、不思議と二人でいるときの沈黙も不快ではなかった。

 じいちゃんは勉強だけはしっかりしろとそれだけは口酸っぱくいった。俺の世界はゲームを中心に回っていたけれど、俺も勉強だけには力を入れた。勉強に力を入れるといっても、学校以外では一切触らなかった。それでも学年5位以内にはかならず入れた。それくらいの成績を取っているうちはじいちゃんは俺のゲーム生活について小言をいってくることはなかった。俺は脳構造に少し異常のある、要領のいい人間だった。


 俺が初めてRTSというゲームを触ったのは3歳の頃だった。親父がやっていたのだ。その頃は何をしているのか全く分からなかった。ただ、小さい兵隊が戦っているのを見ているのが楽しかった。


 そのうち気づいたら俺はそのRTSというゲームに熱中していた。やり方はひたすら親父に聞いた。わからないことがあったらその都度聞いた。まだ3歳の子供がやるにはあまりにハードなゲームだったが俺は呑み込みが異常に早い子供であった。4歳になるころには、対人戦を始めていた。ただ、勝てた記憶など一度もなかった。その時の俺はただただ、小さい兵隊が俺の指示に従い相手と戦う。ただそれだけで楽しかった。


 だが、飽きた。負けるということに飽きたのだ。


 そして、俺は小さいながら自分の頭で考えるということを始めた。いわゆる自我の目覚めというものであろうか。まず、初めになぜ負けるのかということを考えた。今考えればこの時点で論理的思考というやつが根付いていた。自分のことながら末恐ろしい。


 負ける理由はすぐにわかった。今までひたすらに負け続けたのだ。回数にして千は軽く超えていただろう。そのなかで自分が負けるパターンが数種類であることが薄々わかっていた。それにならないように努力した。細かく言えばミクロを磨いた。相手の兵隊が細かくうごいていることをそのまま真似した。そうしたら戦闘でこちらの兵隊が負ける回数がすくなくなっていった。

 だがそれでも一度も相手に勝つことができなかった。当然だ俺は歩兵や弱いユニットだけで相手を倒そうとしていたのだ。この時に理論値まで自分を追い込むことができていれば歩兵のみで相手を蹂躙することができたのであろうが、たかだかもうすぐ5歳になろうという子供である理論値など遥か彼方の話であった。


 かわりに俺は強い兵士を作る。ということを覚えた。やり方については親父に聞いたと思う。俺はこのときの親父の驚いたような呆れたような表情はいまでも覚えている。これを学ぶことで戦術の幅は凄まじく広がっていった。いわゆるマクロを覚えた瞬間であった。


 そして5歳の誕生日を迎えた次の月、俺は初めて勝利というものをつかみ取った。

この記憶は鮮烈に脳に刻み込まれている。嬉しかった・・・というよりかは胸が熱かった。この表現のしようのない感情は俺の小さな体を暴れまわった。そして俺は勝利というものにいままで以上に貪欲になっていった。ここから俺はRTSというゲームジャンルに順応していった。


 他の据え置きゲームについても触る機会があったのだが、毎回同じ動きを繰り返すCPUに対して熱くなれなかった。相手の意思の介在していないゲームなどでは、面白味を感じ取ることができない脳になってしまっていたのである。ただRPGをやっている時は楽しかった。ゲームをしているというよりは絵本を読んでいる気分ではあったがストーリーがしっかりしていて面白かった。


 このころからだろうか、俺は頭の中で3,4種類のことを同時に考え答えを出すことができるようになっていた。わかりやすく言うと足し算と割り算と引き算と掛け算すべて数字の違うものでも答えを同時に吐き出すことができるようになっていたのである。RTSという脳に異常な負荷がかかるゲームを幼少の頃からやり続けたことの弊害であろうか。だが同時に考えることができても出力するための口や手は1ポートしかなかった。残念なことにRTSでもそれは同じだった。

 これが異常であると気づいたのは高校生になってからだ。教師に聞いてもそんなことできるはずもなかろうと冗談めかして笑い誰も相手にしてくれなかったが、同時に俺はこれが武器になると思っていた。




――足の裏から硬い感触がかえってきた。


 もう死んだと思っていたが、どうやら違うらしい。何がどうなっているのか全く理解できない。しかし昔の話を思い出していたからか心は自分でもびっくりするくらい落ち着いていた。


――気づいたら俺は目を閉じていた。


 おかしいな。さっきまで白の世界にいたときは閉じようとしても閉じられなかったのに気づいたら目を閉じているのだ。いったいなんだというのだ。


――俺はゆっくりと目を開いた。


 そこには金色があった。


 失礼、金髪の頭が目の前にあった。

 心は平静を保っているのだが目の前には全く理解できない光景が広がっていた。


 目の前には、前列に1人金髪のセミロングくらいの女と後列には4人左から黒髪、赤髪、青髪、銀髪。

 その5人が何故か俺に向かって片膝を折り頭を垂れて微動だにしなかった。


 改めて眺めてみても、理解できなかった。


 まず、なんでこいつら俺に頭さげてんの?ってかここどこよ?ってか金は許容できても銀とか赤とか青とかファンキーすぎんだろ。どんだけグレたらそんな色に染めようと思うの?馬鹿なの?

 あ、ってか銀じゃなかったこれ白髪だわこの人はファンキーじゃねえな真面目な人だ、そうしておこう。


 自分の状況がまったく理解できていないのでとりあえず頭髪について考えをまとめた。

 いや、意味はないのだが。


 そして、今頃になって大きな異常に気が付いた。


 視界が低いのである。


 俺は今立っている。立っているのだが、金髪の頭が俺の目の前にある。


 おかしい。

 俺は身長170cmくらいで決して大きな方ではなかったが、さすがに片膝をついている女と変わらないくらいというのはおかしい。


 ということはこいつらみんな2mオーバーってわけか。髪の色もおかしければ体格もおかしいのか。なーむー。

 なんておもいつつそこでようやく自分の体に思い至る。


 右手を見てみる。小さい。ってか俺の手じゃねえ。手相違うじゃねーか。なんだこれ。


 は?意味がわからない。


 体をみてみる。なんか俺は白い長袖のワンピースみたいなものを着ている。幽霊のコスプレでもしてるのだろうか・・・。

 おかしい。俺には女装癖はないはず。こんなもの好んで着ない。


 ってかなんだ床まで近けぇ。足短っ!!胴体短っ!!


 あれ?もしかして・・・俺縮んでる????


 鏡ねーのか鏡と思って俺は咄嗟に、目の前の金髪セミロングに声をかけた。


 「おい、ねーちゃん。鏡ないの?」

 その声を聴くと同時にビクリッという効果音が似合いそうな反応をみせた。

 そして俺も驚いた。自分の声じゃなかった。なんというか声変わりのしていない少年の声だった。

 なんとなく自分の体ではないというのをうっすら受け入れつつも自分の声じゃないものが喉から出てくるというのはなかなかの恐怖である。


 するとゆっくりとした動作で金髪セミロングが顔を上げ、俺と視線がぶつかり合った。


 声にならなかった。

 そこにはすさまじい美少女の顔があった。色は雪のように白く、あごはすらっとしており目が大きい。フランス人形というよりかは、日本で発売されてるドールのようだった。3次元と2次元の間のような、しかし不気味ではなく完璧な比率で整った顔立ちというのであろうか。なんというか・・・そう、神々しさをまとった少女がそこにはいたのだった。


 俺は後悔していた。なんでこんな美少女にあんな乱暴な言葉をかけてしまったのだろうか。

 俺だって男の子だ。しかも17歳。こんなかわいい美少女とお近づきになれるとわかっていればもっと丁寧な言葉遣いだってしただろうに・・・。


 少女は視線を俺にあわせたまま、何故か目に涙を溜めていた。


 「いやいやいやいやいや。悪かった。俺が悪かった。ごめん言葉遣い悪かった。

  泣かないで。頼むからこの通り――すまんかった」


 そうして、俺は日本人パワー炸裂といわんばかりに、全力で頭を下げてあやまった。

 ある程度日本人特有の連続ごめんなさい。を繰り返したあと。ふと美少女の顔を見ると涙は引っ込み

 かわりに「???」が頭の上に浮かんでそうな顔で小首をかしげていた。


 俺もその状況に意味が分からず美少女の真似をして小首をかしげた。


 まったく意味わからんづくしである。

 目が覚めたら目の前で凄まじい美少女が片膝ついてた。

 なんか自分の体じゃないし。

 なんか美少女泣いてるし。

 俺はなんか日本人パワー炸裂してるし。

 もうどないせえとおっしゃるのか。


 そこでふと思い当たる。


 そうか・・・よくよく考えてみれば・・・。俺としたことが・・・。

 この史上最高美少女はどう考えても日本人じゃない。

 日本語が通じるわけがないのだ。

 そりゃあ「???」も浮かべたくもなるわな。わけわからん言葉でしゃべりだしたと思ったら、急に頭をペコペコしている。俺が美少女側なら困惑通り越して落ち着け!!と一発ぶん殴ろうかと思う。


 すると美少女はピコンという音とともに「!!!」を頭の上に乗せたかのような顔で立ち上がり手を胸の前あたりで合わせた。

 うん、この美少女もなかなか聡明な娘なようだ。きっと同じことに思い当たったのだろう。

 そのまま美少女は俺の目の前にずずずいっとでてきて向かい合う形になった。


 俺は美少女を下から見上げる形になった。


 なんというかすごく新鮮な感じである。自分と同じかそれよりも少し下くらいの年齢の女の子を下から見上げるというのは初めての経験だった。ってかかわいい・・・やっぱりかわいい。


 美少女はそれから俺にやさしく微笑み・・・俺の頭を鷲掴みした。


 俺は肩がビクリとするほど驚いてしまった。だって・・・だって。こんな美少女がいきなり頭鷲掴みって・・・俺は驚きを通り越して硬直していた。

 こんな虫も殺せなさそうな子が鷲掴みってどういうことですか。


 美少女は俺の反応に気を使ったのか頭をやさしく撫でてくれた。


 気持ちよかった・・・いや、俺は緩んだ顔を引き締める努力をすることにした。

 すると美少女は再び俺の頭を鷲掴みにした。


 これに、いったい何の意味があるのかわからないが、とりあえずそのまま様子をみようとそう決めたその時、変化があった。





 彼女が俺の脳を鷲掴みしていた。




 いや、実際にはわからない。俺にはその光景がどういうものなのか分からない。だってやられてる本人ですもの!!


 どうなってるかはわからないが俺の脳はしっかりと鷲掴みされていると認識しており同時に。俺の体のサイレンは鳴り響きまわっていた。全身身の毛のよだつとはこのことだろうか全身の毛という毛が逆立っているかのような感覚におそわれる。

 このまま彼女が俺の体から脳みそを引き抜けば一瞬で死ぬのだろうか。そんな心臓に手をかけられた感覚に体が拒絶せよと大合唱している。やばい・・やばい・・・やられ・・・???・・・ん?


 気づいたらその感覚は無くなっていた。


 そして彼女は一歩下がり俺から距離をとった。


 「私は神聖アルティア王国 王女のリナルディア・レイン・アルティアと申します。

  皆は私のことをリディアと呼びます。

  救世主様もよろしければリディアとお呼びくださいませ。」


 リディアは満面の笑みで自己紹介を行ったのだった。


 声は言わずもがな美しいものであった。


 ん?


 俺、救世主なのですか?



 「ん?もしかして・・・救世主って俺の事?」

 「はい。救世主様。」


 リディアから自己紹介され、救世主と呼ばれた俺は現状の把握に努める。

 これはもう癖なのである。分からないことがあれば整理して解決する。

 小さいころからそうしてきた。理を詰めて積み上げる。

 それこそが俺の思考回路。


 何をされたかは分からないが意思の疎通は可能になったようだ。

 リディアは自分のことをアルティア王国の王女だという。

 ということは、後ろの4人は部下ということだろうか。

 俺は違う人の体に乗り移ったのだろうか、自分の体ではない。

 だが、現状この体は俺の指示に従い動かすことができている。


 この場所はどこなのだろうか?

 王女がいるということはアルティア王国ということなのだろうか。

 聞いたこともないな。地理には特別詳しいわけではないが聞いたことないくらいの小国なのだろうか。

 足元は石畳で壁も石。なにかの建物の一室。

 広さは自分の部屋より大きい。15畳くらいかな。

 この室内には松明みたいなものが壁にかかっている以外は何もない。

 誰かが生活しているという感じではなさそうだ。

 ぐるりと見渡す。何もはまっていない窓のようなものがあった。

 その向こうの景色は真っ暗でなにも見えない。

 うーん、情報が少なすぎるな。

 話を聞いて情報を得ることが俺が今やらないといけないことのようだ。

 リディアは俺に敵意を向けることはなくニコニコと俺に視線を向けている。

 歓迎されているのだろう。彼女は救世主様と俺のことをいっているくらいだし・・・。


 状況を動かそう。とりあえず、リディアに話かけるとして相手は王女様だ。

 失礼の無いようにできるだけ丁寧な口調でがんばるとしよう。


 「リディア様。色々聞きたい事があるのでお話しを伺いたいのですがよろしいでしょうか?」

 「はい。なんなりとお尋ねください」

 「あーと・・・そのまえに後ろの4人の方も顔をお上げください。というかお立ち下さい」


 4人は俺の指示を聞き、素直に顔を上げ立ち上がってくれた。

 左から黒髪メイド、赤髪女戦士、青髪女魔法使い、白髪執事じいちゃんだった。

 コスプレ大会でもやっているのだろうか。

 4人ともしっかりとした目線で俺の顔に焦点を合わせていた。敵意は無かったと思う・・・たぶん。

 視線には謎の信頼感がのっているような気がする。こいつらからしても俺は急に現れた存在だろうに。

 どうなっているのやら・・・。


 さーて、ここから情報を集めるとして話長くなるよなー。


 「リディア様。この建物には応接室みたいなものはあるのですか?

  これから色々聞かせていただくとしてかなり長くなると思いますので、

  できればゆっくりとできるところでお話しをお伺いしたいのですが」

 「あっ!大変申し訳ございませんでした救世主様。

  わたくしとしたことが。こちらです。ご案内いたします。」


 恥をかかせてしまっただろうか。リディアは恥じ入るように顔を赤らめ優雅に謝罪をして入口の木製のドアの方へ歩いて行く。俺も遅れないようについていく。

 自分の体ではないのを薄々受け入れてはいるものの歩幅が明らかに以前と違うので凄くギクシャクした歩き方になってしまった。


 ドアを抜けるとさっきの部屋と同じような石造りの廊下が広がっていた。壁には一定間隔ごとに松明があり廊下を照らしていた。


 先頭をリディアが歩き、その後ろを俺。さらにその後ろをさっきの4人がついてきている。


 ふと気づくと俺はリディアをまじまじを観察してしまっていた。目が離せないようなカリスマを感じる。


 先ほどは薄暗くてあんまり分からなかったが。リディアは白い修道服のようなものを身に着けていた。

頭には何も着けていないが、あの綺麗な顔でマリア様と祈る姿を想像するだけで神秘的な空間が脳内に出来上がっていた。

 身長は今の俺の体がどれくらいなのかはわからないが、丁度目の前にリディアの肩甲骨があった。

そこから目線を下に向けていくと、なんとも小ぶりながら艶めかしいお尻がそこにあった。

 修道服のようだが彼女の体にフィットし、リディアの体のラインを強調するような服であった。


 ・・・。


 ここで実に急な告白となるのですが。実は俺・・・極度のお尻フェチなのです。

 俺は世界中の女性の価値は99%をお尻が占めていると信じて疑わないくらい女性のお尻を愛しています。

 男にも尻があるではないか!!という輩がいるかもしれない。

 そいつは全然わかっていない。何もわかっていない。童貞風情が偉そうにのたまうな!!

 俺も童貞だがそんなものは今は関係ない!!

 だいたいそういう輩に限って胸がいいだのなんだの言いだすに決まっている。そう決まっている!!

 大体男にだって胸だってあるではないか!!乳首だってついてるではないか!!

 お前はそれを触って興奮するのか!?いやしないだろう!!

 大体胸なんてものを好きになったところで悲しいだけなのだ!!女性からしたらコンプレックスの塊みたいな部位なのである。

 では言わせていただこう!!胸狂信者が仮に性格、顔すべてが好みの女性と両想いになれたとして、もしその胸が自分の好みのサイズではなかったらどうするのだろうか。妥協するのであろうか!?

 いやきっとしない!!狂信者はしない。俺のお尻への愛と同格に女性の胸を愛することができるという人間がいたとして、そこでは絶対に妥協しない。俺はできない!!

 そうなると、悲しむのは女性である!!その女性は胸が好みじゃないという理由だけで振られるのである。

 そんな傲慢!!許されるものではない!!きっとその女性は心に一生ものの傷を負って生きていくのである!!ああ、悲劇!!胸を愛した者がこの世に振りまく悲劇だ!!


 その点、お尻はいい!!胸と同様に大きい小さいはあれど、その形においては一定のもとに平等なのである。大きいお尻でも、小さいお尻でも一定の比率のもとあの芸術的な曲線および造形は平等なのである!!

 そして、お尻という最大の利点!!それは理想のお尻は造れるということである。

 筋肉質なお尻、柔らかいお尻、少し垂れたお尻、そしてそこから伝わる肌の感触。すべて努力でどうにでもなるのである!!

 胸のようにただ脂肪だけが胸板に乗っかっているだけではないのだ。

 お尻には3つの筋肉がついている。大殿筋、中殿筋、小殿筋その3つを鍛えることによって形、大きさ、感触すべてを創造可能なのである!!努力によって理想のお尻は造れるのである。

 胸のように脂肪の柔らかい部分だけがお尻ではない。お尻は脂肪と筋肉の調和とその比率こそが個性なのである!!

 そう、先ほどの胸以外完璧な女性。振られてしまった女性。その女性はお尻を愛する者たちによって救われる。

 仮にさっきの状況が俺に当てはまるとして俺はお尻以外完璧な女性と何も迷うことなく結婚する!!

 そして、一緒に理想のお尻を求めて努力する。俺も理想に近づけるように最大限協力し必ずたどり着いてみせる!!これこそが夫婦のあるべき形なのではないだろうか。

 そうである。これこそが夫婦の真の姿なのである!!


 もう一度言おう!! 


 この世界中すべての女性において、お尻は平等なのであると!!






 だめだ、彼女の尻から目が離せない。無理だ。ここに一つの芸術がある。神秘がある。触ってみたい。撫でてみたい。叩いてみたい。そんな暴力的な欲求が体の奥底から湧き上がってくる。


 俺はその欲求と戦闘状態に入った。 


 今。今はだめだ。俺は彼女のことを良く知らない。そしてリディアは俺のことを良く知らない。

 今この瞬間が第一印象なのだ。第一印象というのはその人の90%を外見で判断すると言われている。

 だがしかし、今。この体は俺のものではない。おそらくリディアはこの体の持ち主のことを知っている。俺のことを初めて見たときの涙は、恐らく俺に向けてではなくこの体の持ち主に向けてのものだったのだろう。

 ということは、今この状況での態度こそが第一印象のすべてである。

 ここで間違えを起こしてはならない。その瞬間にリディアは俺のことを好色な人間と判断する。

 それはこれから始まるであろう、彼女との関係を悪い方向へ導く。それだけは断じて行ってはならない。

 これからどうなるにせよ、俺と彼女は出会ってしまっている。そう出会ってしまっているのである。

 つまり、出会ってしまった以上可能性はあるのである。一国の王女であろうがなんだろうが、突き詰めて行けば男と女なのである。そこには家柄なんて関係ない。そういう物語を俺はたくさん知っている。

 その可能性の芽をここで摘み取る行為。それは蛮行。蛮行だ!!

 顔は間違いなく好みだ。芸術作品だ。もはや国宝レベルだろう!!

 そんな、神に愛された顔の造形を持つ彼女のことである。きっとお尻の造形に関しても俺が口を出すレベルではないだろう。

 たとえ、理想のお尻ではなくても努力することで理想に近づけることなどいくらでもできる。


 そう、これは俺に与えられた神からの祝福なのである。尻神様からの祝福をなぜこんな目前の欲求でふいにできようか。

 これは試練なのである。祝福を得るための資格があるかどうかを試されているのである。


 ここで目の前のお尻に手を伸ばしてしまう者に、神は祝福をお与えになるであろうか。断じて否。言語道断だ。


 俺は手を伸ばしたい欲求を拳をギュッと握ることで抑え、強引に顔をあげ視界からお尻を引き剥がした。


 ふーーっ。と俺は大きく息を吐き心を落ち着ける。




 俺は勝利をもぎ取った。


 暴力的な欲求に対して未来の可能性という理性を全力でぶつけ欲求を封殺することに成功した。




 ふと現実世界に戻ってくると、俺の横には赤髪女剣士風がいて訝し気な目を俺に向けていた。


 やばいっ!!気付かれたか!!


 俺のそんな動揺をよそに、赤髪女剣士風はこほんと咳払いして俺を嗜めた。


 「救世主様。大変ご無礼なのを承知で一言だけ言わせていただきます。

  リディア様は神聖アルティア王国の正統な王女であらせられます。

  その神聖なる王女の腰周りを・・・」

 「エリス」

 「しかし、リディア様この者は」

 「エリス!!」


 リディアは前を向いたまま一度目はやさしく、二度目は語気を強め子供を叱るようにエリスと呼ばれた赤髪女剣士風を諫めた。

 エリスは子供が叱られたようにシュンとして俺の右後ろへ下がっていった。


 まずいな。これでリディアは気づいてしまっただろう・・・。

 第一印象が悪くなってしまっただろう・・・。


 リディアはそんなこと気にしていませんよとばかりに、凛とした姿勢で歩みを進めている。


 顔が見えないのが不安だったが。


 どうこう考えても仕方ない。


 ここから取り返すしかない。


 そんなことを考えながら応接室に向かった。 

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