第4話『天命』
『血液型占い、今日のガッカリデーはAB型。やることなすこと空回り。泣いちゃうくらい不幸な一日になりそう……』
地球人とは、占いというものに一喜一憂する生き物である。
預言者となる人間が何か基準を決めて、運命を告げるらしい。テレビではランキング形式にして人の運気に順位を付けたり、個々の運を示していたりもする。
私の星にはない文化だ。
私は普段、ジョシダイセーの
こういう事前準備は、ちゃんと出来ていたんだけどなぁ……。
いや、己の失敗を振り返るのはやめよう。今は目の前に居る地球人達について、じっくりと研究してやるのだ。
私は高度な文明の中で生きてきたメイター星人だ。この身一つでも地球を支配して見せる。
「理奈子ちゃんは、今日の占いどうだった?」
少女が私にそう問いかけてきた。
彼女は
高度な文明を持つ私が、下等な地球人と友達などという関係に収まるのは不本意なのだが、これも地球人について調べるために仕方ない。
「私、朝はあんまりテレビ見てなくて」
いや、テレビは見ていた。だけど私はその問いかけに答えることは出来ない。この星での血液型が判別出来ないので、答えようがないからだ。
「そっかー、変なこと聞いてごめんね」
涼香は申し訳無さそうに微笑む。彼女は、私が思い描いていた平和ボケしきった地球人そのものだった。
秋山先輩のように厳しい地球人がいるだけに、こういう想像通りの地球人を見ると思わずホッとしてしまう。
ああ、いけない。私は涼香をしっかりと観察しなくてはいけないのだから。
「私、AB型だから今日何か怖いことが起きるんじゃないかって、ちょっと怖くて」
「そんなの気持ち次第よ。気にしたら負けだって」
「うん、そうだね。ありがとう理奈子ちゃん」
涼香は、まるで赤ん坊みたいに無垢な笑顔を浮かべた。いけない、この子は私から闘争本能というか、侵略への意欲を奪っていく。
私は友達選びを間違えたのかもしれない。が、今更理由もなく友人関係を切って、周囲の心象を悪くするのは得策でない。
そもそも、別に涼香は悪い子じゃないし……って、そうやって流されるのが私の悪い癖ではないのか。ここは一つ心を鬼にして……!
「あ、理奈子ちゃん誕生日いつだっけ」
「え? 六月の……一二日だけど」
「じゃあふたご座だね。えーっとふたご座は……今日は今月一番のラッキーデーだって、やったね!」
「あ、そ、そう。ありがとうね」
駄目だ。くっ、地球人とはこうも人の心を掌握するのが上手いとは思わなかった……!
というか、これはただ私が押しに弱いだけなのか?
「ラッキーカラーはイエローだって。そうだ、私の黄色のハンカチ貸してあげる!」
と言って、涼香は自分の鞄からハンカチを取り出した。朝からまだ使ってないのだろう、シワもなく綺麗に畳まれている。
占いなんて信じてない私は別に借りたいとは思わなかった。でも「まだ他にあるから」と、断る間もなく私はラッキーアイテムを押し付けられてしまった。
涼香と別れて自宅へ戻る帰り道、私は黄色いハンカチを手に乗せながらふと思った。
この星の人間は占いに頼りすぎてはいないだろうか。自分のことを自分で決めるという決断力に欠けているのではないか、とすら思える。
「あー、アイスこぼしちゃったよ」
「もしかして、お前AB型? 今日の運勢最悪だってさ」
「マジかよー。これ以上悪いこと起こったらマジ凹むわ」
男二人組が商店街のアイスクリームショップで騒いでいる。なるほど、性別を問わず地球人は占いに信頼を置いている輩が多いようだ。
気持ちを落ち着かせるための手段としては、安上がりでいいのかもしれない。
私の星に「占い」という文化が根付いていないのは、偏に我々がそういった不確実性の高いものに頼らないからだ。
涼香には悪いが、このハンカチは使わずに終わりそうだ。あ、でも流石に洗って返さないとマズイだろうか。
そんなことを考えながら、私は今日の買い物を済ませる。しばらく買い物をサボっていたせいか、気づけばあれもこれもと大分買い込んでしまった。まだ給料日まで長いというのにこの出費はなかなかに痛い。
「お客様、三千円以上購入されましたので、福引券をプレゼントします」
ほう、そんなキャンペーンをやっていたのか、知らずに買ってしまっていた。これはラッキーだ。
……はっ、いや、これは別に占いの恩恵を受けたわけじゃない、断じて。
そう、ただ私が確認をせずに買い物をしていただけだ。ほら、よく見れば商店街のあちこちに福引キャンペーンのチラシが貼ってあるじゃないか。まったく、危うく騙されるところだった。
なるほど、こうして地球人は占いというものに騙されていくのか。なかなかやるな、流石は人の心を惑わすのが得意な種族だ。
だが、残念だったな、私は高度な文化の中で生きてきた、誇り高きメイター星人……この程度のことで騙されるような、程度の低い種族ではない!
アーッハッハッハッハ!
「おめでとうございます! 二等賞、即席麺詰め合わせ一ヶ月分でーす!」
「…………」
「では早速ご住所の方を」
当たりを告げる安っぽいベルの音が、ひたすら頭の中に響いた。
数日後、私はいつものようにバイト先へ向かう。
「おはようございます、秋山先輩」
「おはよ……最近妙にカラフルだけど、どうかしたの?」
「別にどうもしませんよ、アーッハッハー!」
今日のラッキーカラーはブルーとグリーン。
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