近づく距離
彼女が人工透析に行った後、彼女に再開出来ず、そのまま次の日に退院した。
退院して学校に行けば、トロイ、チャド、ジーク、ワイルドキャッツの仲間達から激しく歓迎されて、髪の毛ぐちゃぐちゃになっちゃった。
足が治るまで1月ちょっと、毎日のようにケルシーに会いに行った。
トロイ、チャド、ジークには毎度からかわれてしまったけどね。
「やあ、ケルシー」
病室に入ってそう尋ねれば、彼女はふわりと微笑んでくれる。
それが、僕は堪らなく好きで。
「今日は何のお話を聞かせてくれるの?」
僕がベッド横の椅子に座れば、彼女はベッドに腰掛けて座る。
「今日はね………」
学校の色々な事を沢山話すと、彼女は目を輝かせてくれる。
きっと、彼女は学校に通いたいはずなのに…通えないから、話だけでも聞いておきたいんだろう。
「…私ね、夢があるの」
そんな事を考えていたら、不意にケルシーに話しかけられた。
「…夢?」
僕が聞き返せば、ケルシーは笑って。
「うん…私の夢は、学校に通って…ピアノを弾きたいの」
彼女は僕の目を見ながら、目を輝かせてそう言った。
「…ピアノ、弾けるの?」
僕が尋ねれば、彼女は嬉しそうに頷いた。
「幼い頃からピアノを習って、弾いていたから…入院するまでは、ね」
彼女は鍵盤を弾くように指を動かした。
「病院のピアノ、たまに弾くのよ?ご老人から大人から、小さな子達やドクターやナース達の前で」
「緊張するけど、皆が楽しそうに聞いてくれて、知ってる曲だと歌ってくれて…凄く楽しくて…幸せになるの」
彼女は前に弾いた時のことを思い返すような表情をして。
「もし、病気が治ればケルシーはプロのピアニストになれそうだね」
僕が何の気なしにそう言えば、彼女は少し頬を染めて。
「…まだまだ半人前のピアニストだけど…そう言ってくれて、ありがとう」
彼女は照れくさそうに笑った。
「でも、私の病気は治る事はないの…悪化することはあっても、ね」
治らない、病気…?
「どうして、治らないの?」
僕が尋ねれば、彼女は少し俯いた。
「腎臓疾患は、ドナーから腎臓を提供して移植しない限り…治らないの」
彼女は泣きそうな表情になって。
「じゃあ、僕がドナーになれば…」
僕がそう言えば、彼女は首を横に振った。
「ドナーが居ても…適合しなかったら移植出来ないわ」
「拒絶反応で…最悪、死ぬことになるもの」
悲しげな表情で、僕を見つめた。
「そもそも、ドナーと患者の適合率は低いの…とってもね」
「だから、私みたいに一向に治療出来ない患者も沢山いるのよ…臓器はそれぞれにしても、ね」
涙を拭いながら、ケルシーはそう言った。
僕はただ、黙ってケルシーを抱きしめた。
ケルシーは最初は驚いていたけど、僕の身体に腕を回して抱きしめ返してくれた。
その日は、そのまま解散することになった。
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