5.そして馬車は動き出した②

 その日はまだ暗い内から慌ただしく、早苗は義姉達が出かける準備に忙殺された。王宮から迎えの馬車が来た時には屋敷はひどいありさまで、義姉達は馬車に乗る時に早苗にこう釘をさすのを忘れなかった。

「いい? 今日中に全部片付けておくのよ」

 早苗は笑って答えた。

「はい、お義姉様。いってらっしゃい。お気をつけてね」

 早苗は義姉達が馬車の中に入ったのを見届けると、御者の男にも手を振った。

「よろしくね」

 彼は義姉達が出かける時は必ず御者を務める信頼できる男だった。どうやら先日重い荷物を運ばされた際の筋肉痛はもう治ったらしい。

「お嬢様も、お気をつけて」

 御者の男は早苗に頭を下げた。そして馬車は動き出した。

 義姉達を見送ってから一息ついた早苗は、嵐の後のような周囲の惨状を見渡して少し困ったような顔をした。

 玄関先であるというのに、色とりどりのスカーフが散らかり靴が転がっている。慌てていてぶつけてしまったのか花瓶も落ちて割れてしまっていて、今朝早苗が生けたばかりの花がその花びらを散らしていた。

 これが義姉達の部屋まで続いている。

 これでは予定の時間より遅れそうだ。まずその連絡をせねばなるまいと、彼女は踵を返した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る