3.それが唯一絶対の真実でなくてはならない①

 王伊は物心つく前から彼女の夢を見ていたが、その頻度は年を追うごとに低下していった。最近では一年に一度か二度見るだけだ。

 それはひどく寂しかったが、彼が彼女を忘れる理由にはならなかった。

 彼女は。

 夢の中でいつも輝いていた。

 赤い髪が揺れる。

 そのたびに泣きそうにいとおしいと思う。

 夢の中なのに。

 ひどく胸が痛い。

 約束をしたのだ。

 遠い昔に。

 必ず、迎えに行くと。

 夢は断片的で、一つの物語をなさない。

 だからわかるのは彼女の笑顔と。

 赤い髪の綺麗さと。

 声の優しさと。

 約束。

 彼女の欠片を探して文献を漁った時期もあったが、何もわからなかった。

 王伊は最近あまり眠れていない。

 彼女の夢を見ないのが怖い。

 彼女の夢を見ない夜を過ごすたびに、彼女が砂のように指の間から落ちていってしまうような気がする。

 十九年間、彼女のことばかり考えてきたが、何をすればいいのかわからない。

 いっそ旅にでも出た方がいいのだろうか。

 彼女を捜す旅に?

 王伊は笑う。

 そうすれば面倒な継承問題にわずらわされずにすむし、一つの手段かもしれない。

 けれど彼女はどこにいるのだろう。

 眠れない夜が続く。

 夢を見たい。

 そう、思う。

 彼女の夢を見たい。

 笑顔だけでいい。

 声だけでもいい。

 見たい。

 聞きたい。

 けどそんなのは全部嘘で、本当は。

 抱きしめたい。

 一瞬、声が聞こえた気がした。

 遠くで。

 彼女の匂いがする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る