第10話 スーパータケノコ


 「ちょっと!! そろそろ降ろしなさいよ!!」


 タケノコ城を飛び出して暫くは知った先の草原でマリアが怒鳴る。

 しかしルイーズの肩に担がれてジタバタしている様は何とも情けない。


「あ~~~ごめんねお姉ちゃん~~~」


 勢いで走り出し暫く時間が経った事でルイーズもようやく冷静になったようだ。

 立ち止まりマリアを地面に下す。


「まったく、あんたは普段は大人しい癖にスイッチが入るとすぐ暴走するんだから……」


「ごめんね~~~」


 ルイーズには感情を抑えられなくなる切っ掛けが二つある。

 一つは山奥のマンションで披露済みのお化けなどで恐怖が臨界点を超えた時。

 もう一つは可愛いもの、綺麗なものが酷い目に遭っている場面に遭遇した時だ。

 今回の暴走は二番目の方に該当する。


「それはそうと、あのビビンバ大王とか言うワニ、もう見えなくなってしまったわね」


 額に手を当ててマリアはビビンバ大王が飛び去ったであろう遥か空を見つめる。

 

「それはそうですよ、なにせ空を飛べるんですからね、追い付けという方が無理がありますぜ」


 お手上げのポーズで首を振るアッシー。


「お前が飛べればこんな事にはならなかったのに」


「ちょっ!! それは無いでしょう!?」


「冗談よ」


「まあまあ~~~方角は合ってるはずだし~~~地道にあるいていきましょ~~~?」


 ルイーズが言うまでも無く彼女たちにはそれしか手段がない。

 幸い草原には草が刈られて整備された道が伸びており、恐らくその先にある国へと繋がっているはずだ。


「しゃあないわね、言ってしまった手前プラムを助けないわけにもいかないし……行くわよ二人とも」


 マリアが先導しルイーズとアッシーもその後に続いて歩き出した。


「ねえお姉ちゃん~~~?」


「何よ?」


「一つ聞きたいんだけど~~~どうしてお城ではあんなにプラム様に対して冷たく当たったの~~~?」


 並んで歩きながらルイーズが質問してきた。


「ああ、その事? そうね~~~第一印象から気に入らなかったからかな?」


「そんな~~~彼女のどこが気に入らないの~~~? あんなに可愛らしいのに~~~」


 眉を八の字にして悲し気な表情をする。


「そりゃあ私だってプラムの外見は可愛い部類に入ると思うわよ? でもどこかわざとらしい感じがするのよ、整った見た目も優雅な仕草も……しいて言うなら作り物とでもいうのかしら、上手く表現できないんだけどね、要するにカンよカン」


「よく分からないわ~~~」


「そりゃあそうよ、私だってよく分からないんだから」


「でも~~~お姉ちゃんのカンが外れた事は無かったからきっと何かあるんでしょうね~~~」


 実は今までマリアたち姉妹の数々の冒険に置いて、マリアのカンに助けられた場面が多々あったのだ。

 迷った時、枝分かれした道のどれが正解かとか、複数並んだ宝箱のどれが罠でどれがお宝かとか、数え上げればきりがなかった。

 その実績からルイーズはマリアのカンによる言動には一目置いているのだ。

 そうこうしていると前方にまたタケノコが群生している場所に出た。

 それはマリアたちがこのタケノコ王国来た時の状況に酷似していた。

 その時同様にタケノコたちは軽く痙攣し次々と地面から抜き出て来た。


「タケノコ王国の国民よね、丁度いいわビビンバ大王とプラムを見なかったか聞いてみよう」


「ちょっと待って姐さん、このタケノコたち、どこか様子がおかしいですぜ……」


 アッシーの言う通りタケノコたちは目が吊り上がり、口元からは牙が生えている。

 その上身体からは黒い霧の様なものが立ち込めていた。


「何なのコイツら……」


「どう見ても普通じゃないわね~~~」


 ジリジリとにじり寄って来るタケノコたちに対してマリアとルイーズは臨戦態勢に入る。

 次の瞬間、彼らは一斉にマリアたちに襲い掛かったのだ。


「オラァ!!」


 パンチにキック、全身をくまなく使ったコンビネーション攻撃で大勢のタケノコを相手に立ち回るマリア。


「ごめんね~~~痛いかもしれないわよ~~~」


 複数のタケノコをまとめて持ち上げ玉のように丸めると前方から迫りくるタケノコの大軍にぶつけるルイーズ、二人の戦い方は実に対照的であった。


「あわわわ……おいらはどうしたら……」


 近くにあった木の陰に隠れるアッシー……彼には戦闘技術など微塵も無かったのだ。


「あっ、アッシーちゃん危ない~~~!!」


「えっ? ひぎぃ~~~!!」


 アッシーの立っている真下の地面が小さく飛び出している。

 ルイーズが声を掛けたとほぼ同時にタケノコが飛び出してきたのだ、アッシーに避ける時間は無かった。

 弾丸の様に螺旋を描いて飛び出してきたタケノコはあろうことかアッシーのお尻の穴を捉えていた。

 浣腸よろしく尻の穴に刺さったタケノコはそのままアッシーの身体の中へと入っていってしまった。


「アッシー!! 大丈夫!?」


「アッシーちゃん~~~!!」


 粗方襲い掛かってきたタケノコを撃退したマリアとルイーズはアッシーに駆け寄る。


「んほっ……!! んほおおおおっ……!!」


 奇声を上げ地面に倒れ込みのたうち回るアッシー。

 彼のお腹が内側から縦横微塵に蠢いている、アッシーの腹を突き破りそうな勢いだ。


「いきみなさい!! 卵を産むように!! いつもやってるんだから出来るでしょう!?」


 マリアに言われた通りお腹に力を入れるアッシー。


「ンヲオオオオオ……!!」


 ポン……。


 アッシーの尻の穴から何と黄金に輝く卵が産まれた……その卵は直視できない程の眩い光を放っていた。


「何なのこの金の卵は……!?」


 帽子の上に載せてあるゴーグルを目に当て、マリアは金の卵を手に取った。

 彼女の両掌に丁度収まるくらいのサイズだ。

 そして卵は自然にヒビが入り勝手に割れた……するとどうだろう、中からは卵と同じく金色のタケノコが出て来たではないか。

 しかしこのタケノコはタケノコ王国の国民と違い普通のタケノコだ、顔も足も付いていない。


「ゴクリ……」


 喉を鳴らすマリア、何故だか分からないがこの金のタケノコを見ていると強烈な食欲が涌いてくるのだった。


「パクッ……モグモグ……ゴクン……」


「ああっ!! お姉ちゃん!?」


 無意識にマリアは食欲に抗えずタケノコを口に入れ噛み砕き飲み込んでいた。

 心配するルイーズが見守る中、マリアは突然苦しみだした。


「がはっ……うあああああああっ……!!」


「お姉ちゃん!! お姉ちゃん!! しっかりして!!」


 蹲るマリアの肩に手を掛け呼び掛けるも全く反応がない、既に意識は無くただ絶叫を張り上げるのみ。

 しかし次の瞬間マリアの身体に異常が起きた……彼女の身体が徐々に大きくなっているのだ。


「これは……」


 驚きのあまりルイーズはマリアから手を離し後ずさる。

 幼児体系だったマリアの腕が足がほっそりと伸び、胸も膨らみ顔も大人びていった。

 

「はあああああ……」


 深くため息をつくとマリアの身体の成長は止まり、その姿はルイーズとほぼ同じ大人の女性の体型へと変貌を遂げたのであった。


「あれ……? 私は一体……?」


「お姉ちゃん!! 大丈夫なの!?」


「ルイーズ……あんた随分背が縮んだわね……」


「何を言っているの!? これを見て!!」


 ルイーズが懐から取り出した手鏡を見せられマリアは仰天する。


「はぁ!? これが私!?」


「お姉ちゃんが金のタケノコを食べたらこうなってしまったのよ~~~!!」


「うへぇ……それ本当!? 気持ち悪い……何てもの食わせてくれたのよ!!」


「……あんた自分で食ったんでしょうが!!」


 地面にぐったりと横たわったまま突っ込みを入れるアッシー。


「それはそうと、身体の奥から湧き上がるこの力は何だろう?」


 ふと目に留まった大木にマリアは拳を放った、するとまるで小枝を折るかのように簡単に大木をへし折ってしまった。


「凄い……これならどんな強敵が来ても怖くないわ!! そう、あのビビンバ大王大王でさえも……」


 グッと拳を握り締める、しかし次の瞬間……。


「あれあれ!?」


 何と見る見る内にマリアの身体が萎んでいくではないか……遂にはいつものチンチクリンの幼児体系に戻ってしまった。


「何だ、制限時間付きか……あっ!! そうだわ、いい事思いついた!!」


 残念がるマリアであったが、すぐに何かを思いついた様だ。

 マリアは傍らに倒れているタケノコを抱え上げた。


「アッシー、こちらに尻を向けなさい……」


「ひっ!! まさか!!」


 アッシーの顔が恐怖に歪む、マリアは文字に現せない程の下衆な笑みを浮かべている。


「そのまさかよ!!」


 ブスッ!!


「ひぎいいいいいっ!!」


 そして再び金の卵が産まれ、その後続々と金のタケノコが量産されるのであった。

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