第9話 タケノコ王国のプラム姫?
赤いタケノコ、チクリンの案内でマリア一行は程なくしておとぎ話に出て来るような立派なお城へと辿り着いた。
純白の外壁に尖った屋根がいくつも立っている大きなお城だ。
「へぇ~~~中々立派じゃない!! 気に入ったわ!!」
廊下に敷かれた朱色の絨毯の上を、お上りさんの様に城内を見回しながら歩くマリア。
ルイーズはその様子を微笑ましく見守っている。
「さぞかしお宝がたんまりとあるのでしょうね……」
「何か仰いましたか?」
「いえいえ~~~こちらの話しです」
ついうっかり呟いてしまった。
マリアは心の中の本心が駄々洩れになっているのを慌てて抑え込む。
「こちらが謁見の間です、どうぞお入りください」
チクリンに促され、マリアたち三人は大きな扉をくぐり部屋の中へと入る。
中には両側の壁に沿ってずらりと側近と思しきタケノコたちが整然と並んでいる。
彼らのユーモラスな外見に反して得も言われぬ緊張感が謁見の間を支配していた。
正面の壁側には段階的にひと際高くなった床とその上には玉座があり、そこには一人の人物が鎮座していた。
「ようこそおいでくださいました勇者様方、わたくしはこの国を治めるプラムと申します」
美しいブロンドのロングヘアーの上にちょこんと乗った小さく可愛らしい王冠、豪華なフリル特盛の薄紅色のドレスを纏ったプラムは玉座から腰を上げるとスカートの両端を白い手袋に包まれた細くしなやかな指で摘まみ上げ、優雅にお辞儀をし優しく微笑んだ。
「うわ~~~とても美しいお姫様ですね~~~素敵ですぅ~~~」
ルイーズの瞳に煌めく星が宿り潤んでいる……彼女は美しいものと可愛いものに目がなかった。
「ふ~~~ん……」
対照的にマリアは特に感心が無い素振りを見せる。
(あれ? なんだか姐さんらしくないな……)
あれほど金目の物に並々ならぬ執着心を見せるマリアが無反応なので傍から見ていたアッシーは違和感を覚えた。
「私はマリアよ、こっちが妹のルイーズ、そこの爬虫類がアッシー……」
「ちょっと姐さん、もちっとマシな紹介をしてくださいよ」
「何よ偉そうね、不要家族の分際で」
「姐さん字が間違ってますって、扶養です扶養」
「二人とも、今はプラム姫の御前ですよ~~~静かにしましょう~~~」
ルイーズのボディブローがマリアとアッシーの鳩尾にめり込む。
「……ゴ、ゴメン……」
床に蹲って腹を抑えながらかすれた声で呻くマリア。
アッシーに至っては白目を向き泡を吐いて卒倒している。
可愛いものの邪魔をする行為は許さない……例え尊敬する姉のマリアであっても容赦しないルイーズであった。
「ねぇプラム、ひとつ質問いいかしら?」
「どうぞ」
あったばかりの一国の主に対して呼び捨ての上ため口をきくマリアに側近のタケノコたちがざわついた。
プラムは相変わらず微笑みを湛え、唇の前に人差し指を立てる。
するとどうだろう、今にもマリアに意見しようとしていたタケノコたちが一斉に静まり返ったではないか。
(へぇ、中々のカリスマ性を持っている様ね、甘い見かけに騙されると痛い目見るかも……)
マリアは帽子を目深に被りニヤリと口角を上げた。
「所で何故あんたは私たちがこの国を訪れる事を知っていたのかしら?」
「何故そうお思いになったのかしら?」
「質問に質問で返さないでくれる? まあいいわ、私たちが現れたところにタケノコたちが既に地面に埋まっていたわよね、それはつまり私たちが……誰かがそこに来ることを事前に知らなければ出来ない事よね?」
帽子のつば越しに上目遣いにプラムを見上げるマリア。
「ウフフフッ、マリア様は実に聡明なお方ですわね……仰る通り、以前から知っていましたよあなた方がお越しになることは」
「ふぅん、で?」
あくまでも不遜な態度を取り続けるマリアに対して嫌な顔一つせずにプラムは言葉を続ける。
「お告げがあったのですよ、高名な占い師様のね……近い将来天空からこのタケノコ王国を救う二人の少女と一匹のお供が現れると」
「俺はお供かよ……」
アッシーは納得していない様だ。
「わたくしの依頼を受けてくださればあなたの言い値で報酬を差し上げましょう、あなたにとっても悪いお話しではないと思うのですが……」
プラムはしなやかな所作で両手を広げて見せる。
「そこまで国を挙げての取り組みに大盤振る舞い……このヤマは相当ヤバいものの様ね……帰るわよあんた達……」
「えっ!? プラム様のお願いを聞かないんですか!? 姐さんほどの守銭奴が!?」
驚くアッシー。
「ほんっと一言多いわねあんた……だけど命あっての物種っていうでしょう? お金は欲しいけど私は命の方が大事だわ」
「そうですか……とても残念です……」
そう口では言っているがプラムの顔は全く残念そうには見えない、寧ろ満面の笑みを浮かべているではないか。
「じゃあね姫様、悪いんだけど元の世界に帰る方法だけ教えてもらえないかしら?」
「ええ、それくらいはさせて頂きますわ」
プラムがそう言った途端、彼女の背後の壁が大きな音を立てて崩れ去る。
この時ばかりはプラムの顔から笑みが消え、驚きの表情で振り返った。
「ガハハハッ!! プラムよ!! 余が直々に迎えに来てやったぞ!!」
埃が立ち込める瓦礫を踏みしめ大きな影が崩れた壁の穴から現れた。
「ビビンバ大王!!」
ビビンバ大王と呼ばれた巨大な影……埃が落ち着くと徐々に姿が明らかになってきた。
まず現れたのはゴツゴツとした鈍色の醜悪な顔、長く突き出す口に並んだ無数の鋭い牙、それはワニそのものであった。
矛先の様に研ぎ澄まされた手足の爪、
鎧の様に硬そうな皮膚を纏った身体に真っ赤なガウンを羽織り、頭には身体に不釣り合いな王冠を申し訳程度に載せている。
「再三に亘る余のプロポーズを無視しおって、今日という今日は我慢ならん!! お前の返事など関係ない、力ずくでもお前を我が嫁に娶ろうぞ!!」
ニチャァと唾液を垂らしながら下卑た笑みを浮かべるビビンバ大王。
言うが早いかプラムを強引に腕に抱え、背中から生やした悪魔のような羽を羽ばたかせ壁の穴から飛び去って行った。
「きゃあああーーーっ!! 助けてーーー!!」
悲痛なプラムの声がこだまする。
しかしその姿はビビンバ大王ごとどんどん遠ざかっていく。
僅かな時間の出来事でマリアたちを含めタケノコたちは何も出来なかった。
「ああっ!! プラム様がーーー!!」
頭を抱え狼狽えるチクリン。
他の側近タケノコたちもパニックを起こしている。
「ちょっと落ち着きなさいチクリン!! あのワニ野郎は一体何者なのよ!?」
「はっ!! これは失礼しました!! あの者はビビンバ大王と申しまして隣国のユッケ王国の国王です……この所しつこくプラム様に結婚を申し込んできていたのですがプラム様はお断りし続けていたのです……しかしあの暴君の事、脈がない事を認めず実力行使に出たのでしょうね」
「はあ? 馬鹿じゃないの? 今どき略奪婚なんて流行んないのに」
「お願いですマリア様!! どうかプラム様をお助け願えないでしょうか!?」
チクリンは土下座をして額を床に打ち付ける。
「そうは言ってもね~~~本人たちの問題でしょう? 私達には関係ないし……」
とことんやる気がないマリア。
「お姉ちゃん!!」
「はいっ!!」
いつになく強い口調のルイーズの気迫に圧されつい気を付けの姿勢を取ってしまうマリア。
「それじゃあプラム様が可哀そうでしょう~~~!? それにこれは人道的な問題です~~~!!
プラム様があんな醜いワニスケのお嫁さんにされてしまうなんて想像しただけで……分かりましたチクリンさん~~~私たちが責任を持ってプラム様を連れ戻します~~~!!」
「ちょっと!! 何勝手に返事してんのよ!? わわっ!?」
鼻息の粗いルイーズに米俵の様に肩に担ぎ上げられなす術も無く連れ去られるマリア。
「待って下せーーー!! ルイーズの姐さーーーん!!」
その後をアッシーが必死に追い駆ける。
彼女たちが目指すはプラムが連れ去られた方角……ユッケ王国だ。
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