第8話 ハローアンダーグラウンド


 「うわあああああああっ!!」


 マリアたちは宙を落下していた。


「どうなってるのよ!? ここは土の中じゃないの!?」


 マリアの言い分はもっともだ、黄金の土管に入って下に降りたのでここは本来地下のはず、しかし実際は上空高くに放り出され絶賛空中を落下中だ。

 周りも空間も地上の空の様に青く澄み渡り、所々白い雲が浮かんでいた。


「どうやら空間がねじ曲がっている様だな、ここから先は俺らの常識が通じるとは思わない事だ」


「ガトちゃん!! 何をそんなに落ち着いて語ってんのよ!!」


 同じく落下中のガトーは腕組みに胡坐を組みつつ落ち着いていた。


「流石です~~~冒険家っていうのはどんな事態にも動じないんですね~~~」


「ルイーズ!! 感心してるんじゃないわよ!! このオヤジは頭がおかしいのよ!!」


「何だと!?」


「ちょっと!! そんな言い争いしている時じゃないでしょうが!!」


 自由落下中に喧嘩をするという異常な光景にさすがのアッシーも声を荒げる。


「どうすんのよ……このままじゃ地面に衝突するわ……そうなったら私たちは……」


 少しでも落下速度を落とそうと大の字に手足を伸ばす。

 服の生地がバタバタと音を立てて踊る。

 ほんの少しだけ冷静になって地面のある下側を見る……そこには緑の大地が広がる前時代的な感じを受けるのどかな光景が広がっていた。

 しかし美しい景色に見とれている暇はない、数分後には自分はそこに衝突し緑が赤に染まるのだ。


(常識が通用しない……? じゃあもしかしたら……)


 先ほどガトーの言った事がふと頭を過ぎる、すると丁度マリアのすぐそばに雲が迫ったいて。


「それっ!!」


 駄目で元々、その雲に手を伸ばす……すると何という事だろう、水蒸気の集合体である雲を掴むことが出来るではないか。

 マリアはそのまま雲にしがみ付きぶら下がり、落下から逃れることが出来た。


「ふう、危なかった……何でもやってみるものね」


 雲の上に昇り、滲み出る額の汗をぬぐいほっと一息……そして皆に声を掛ける。


「みんな!! 雲を掴みなさい!! この雲は触ることが出来るわ!!」


 それを聞いたルイーズも同様に雲に掴まり、アッシーは噛み付いて事なきを得た。


「みんな無事!?」


「はい~~~ありがとうお姉ちゃん~~~」


「俺も無事です!!」


 マリアが自分が乗っている雲から下を見下ろすと下層の雲に乗ってこちらに手を振るルイーズとアッシーが見える。

 どうやら二人は無事の様だ。


「良かった……あっ、そういえばガトちゃんは!?」


「ここだ!!」


 上の方から声がする、マリアが見上げると遥か上の雲に乗っているガトーが見えた。


「はっ!? 何でそんな早くから雲に乗ってるのよ!?」


「そりゃあ早いうちに雲に乗れる事に気付いたからな!!」


「それなら早く私達にも教えなさいよ!!」


「これくらい自分で機転を利かせられなければ生きていけんぞ!?」


「ふざけんなっ!!」


「あ~~~あ……またやってるよ……」


 また言い争いを始めた二人にアッシーはあきれざるを得ない。




「これなら少しづつ下の雲に移っていけば安全に地上に降りられるわね。


 マリアたちは下を確認しては手近な雲を見つけてはそれに飛び乗り着実に地上に近付きつつあった。

 彼女たちは元々身体能力が高かったので常人では渡れないほど離れた距離の雲にも軽々と飛び移ることが出来たのだ。


「うわわわっ!!」


 アッシーが足を滑らせ雲から落下した……が、その口から長い舌を伸ばし雲にぶら下がり事なきを得る。


「ちょっと!! 気を付けなさいよ!!」


「マリアの姐さん……俺の事をそんなに心配して……」


「違うわよ!! あんたにはこの得体のしれない世界で食料を産んでもらわなきゃ困るのよ!! 美味しい卵をね!!」


「酷い……」


 アッシーは一瞬でもマリアを優しいと思った自分を海よりも深く恥じた。


「おーーーーい!!」


 ガトーのほとんど聞き取れない程の声がした。


「何やってるの!? まだそんなところに居るなんて!!」


 見ると先ほど言い争いをしていた場所から殆どおりていない様だ。


「運悪く近くに降りられる雲がないんだよ!! 何とかしてはもらえんか!?」


「はあ、あんたさーーーさっき自分で何とか出来なければ冒険家じゃないみたいなことを言ってたじゃない……こっちだって道具がないんだからあんたを助けられないわ、自分で何とかしてよ!!」


「ぐぬぬ……」


 確かに自分でそう言ってしまったのは事実、ガトーも黙るしかない。

 そうこうしている内にマリアたちは地上まであと僅かの位置に来ていた。


「とうちゃーーーーく!!」


 最後にぴょんと飛び降りワイの字にポーズをとる……やっとの事で暫くぶりの地面を噛みしめる。

 

「一時は死ぬかと思ったわ……」


「危なかったね~~~お姉ちゃん~~~」


「生きた心地がしませんでしたよ……」


 三人はめいめいに地面に倒れ込んだ……緊張と疲労で体力を消耗したのだ。


「それにしてもまさか地中にこんな不思議な世界があるなんて……今も信じられないわ」


「見てお姉ちゃん、タケノコがいっぱい生えてるよ~~~」


「あら、そうね……って、ちょっと待ちなさいよ何これ……」


 一心地ついてから周りを見回すと、周囲には不自然なほど大量のタケノコが生えていた、しかも彼女たちが知っているタケノコよりかなり太い……マリアの胴体程の太さがある。

 そして不自然なのはそれだけではない、ここは良く日の当たる草原で近くに竹林など無いのだ。

 そう思ったのも束の間、タケノコが一斉に振動を始めたのだ。

 一斉にぽこんと地面から飛び出すタケノコたち……地面から現れたそれらにはみんな短い脚が生えていたのだ、よく見ると目鼻、顔もある。


「みんな気を付けて!! このタケノコ、どこかおかしい!!」


「そりゃあ見れば分かりますよ……」


 普通、タケノコには顔も足も無い。

 そしてあっという間に大量の人面タケノコに周囲を囲まれてしまった。


「ああっ……その太くて逞しいモノで私たちを責めるのですね~~~」


「ルイーズ!! 間違っちゃいないかもだけどおかしな言い回しをしないで!!」


「ひぎぃ!!」


 地面でへたり込み上気させた頬を手で押さえ息を荒げるルイーズと変な悲鳴を上げたアッシーを一喝し、マリアはタケノコたちを睨みつける。


「ああ、そんなに警戒なさらずに……我々はあなた方をお迎えに上がったのですよ」


 タケノコたちを押し退け、一本(一人?)の赤いタケノコが前に出てマリアに話しかけてきた。


「シャベッターーー!!」


 タケノコがしゃべるなど前代未聞、マリアは驚きのあまり叫んでしまった。


「驚かせて申し訳ありません、私はここ【タケノコ王国】の宰相をしておりますチクリンと申します、以後お見知りおきを……」


 うやうやしくチクリンと名乗ったタケノコはお辞儀をした。

 

「ああ、こちらこそ悪いわね大声出して……でもよく考えたら珍妙な生物ならウチにもいたわ」


「誰の事を言ってるんです……?」


 マリアの視線は完全にアッシーに向けられていた。


「で? そのタケノコ王国とやらが私たちに何の様かしら?」


「はい、私共はとある重大な問題を抱えておりまして……是非地上人であるあなた方にお力をお借りしたいと思う次第でして……」


「ふーーーん、もちろんタダじゃないでしょうね? 私たちは確かに冒険家だけど慈善事業をしている訳じゃないからね」


「えっ? いつから冒険家に?」


「あっ、あんたは黙ってなさい」


 マリアは慌ててアッシーの口を塞いだ。

 ここは自分たちは冒険家の振りをして話に乗り、報酬を頂こうという作戦なのだ。


「もちろんタダとは申しません、ここでは何ですので我々のお城までお越しくださいませんか?」


「そうね、そうさせてもらおうかしら」


「ではこちらに……」


 チクリンの先導でマリアたちは一路タケノコ城へと向かうのであった。




「あの、俺まだここに居るんだけど……」


 上空の雲の上で取り残されるガトーであった。

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