第7話 ガトーちゃんペッ!!
「ぬぬぬぬぬぬ……」
マリアが苦虫を噛み潰したような顔をしてある建物の前で立ち尽くす。
それは勿論、シムラ陰天堂の前である。
「マリアの姐さん、気持ちは分かりますがね、起っちまったことは仕方ない……素直にありのままを報告して爺さんに謝ったらどうです?」
背後から声を掛けるアッシー、しかし次の瞬間、振り向きざまのマリアに首を掴まれていた。
そのスピードの速いの何の、アッシーは全く反応出来なかった。
「そんな事はあんたに言われなくても分かってるのよ!! だけどそれを言ったらどうなるか分かってるの!?」
「ぐえっ……ぐるじい……」
マリアたち姉妹はシムラ陰天堂の二階に住み込んでいるが、家賃をもう半年も滞納している……おまけに彼女らが仕事で損害を出さない方が珍しく、その弁償金はシムラ元が全て立て替えているのだ。
要するに常に借金をしている状態であり、今回のマンションの倒壊で発生した損害も当然その借金に加算されるのは目に見えている。
「お姉ちゃんやめて~~~!! アッシーちゃんが死んじゃう~~~!!」
「あっ……」
「ゲホッ……ゲホッ……」
ルイーズの声にハッと我に返りマリアは手の力を緩め、解放されたアッシーは激しく咳込んだ。
「ごめんね~~~私が屋敷を破壊したばっかりに~~~」
「済んだことはもういいわ……いつもは私の方がやらかすことが多いし……」
マリアは帽子のつばで目元を隠す。
「へぇ、姐さんも自覚はしてるんですね」
「お前は一言多い!!」
「ぐはっ!!」
アッシーの頬にマリアの右ストレートがめり込んだ。
「もう、分かったわよ……こうなったら覚悟を決めるわ!!」
マリアは勢いよく陰天堂の扉を開けて中へと入った。
ルイーズとアッシーもそれに続く。
「よう、仕事は終わったかい?」
相変わらず下品な笑みを浮かべ元は彼女らを出迎えた。
「それが……そのぅ……終わった事は終わったんだけど……」
「何じゃ? お股が痒そうにモジモジしおってからに」
「そんなんじゃない!!」
セクハラ発言についムキになってしまう。
元はニタニタと嬉しそうだ。
「あの、私から言います……実は……マンションを壊してしまって……」
「ルイーズ……」
ルイーズがマリアの前に出て元と対峙する。
「ほう、まあお前らの事だ多少の損害は予想しておったよ……で、どの程度壊したんだ? 壁に穴でも空けたか?」
「まことに言い辛いのですが……全壊させてしまいました……」
「あんだって?」
元は耳が遠かった、再び耳に手を当て聞き返す。
「ですから全壊させてしまいまして……屋敷は全て瓦礫になってしまいました……」
「あんだってーーー!?」
驚きのあまり元は腰を抜かしてしまった。
「ああ……もうおしまいだ……」
頭を抱えて蹲るマリア……彼女の顔面はチアノーゼを起こしたかのように真っ青だった。
「な~~~んてな!!」
元は何事も無かったこのように立ち上がった。
「えっ?」
「実はな、お前さん方に今回の仕事を任せたのはあの屋敷を解体してもらうためだったんだよ」
「何だってそんな私らを騙すような事を……どういうつもり!?」
マリアは元の胸倉に掴みかかった。
「少しお前らにお灸を据えてやろうと思ったんだよ」
「何だと!? ふざけるな!!」
「じゃあ聞くが一回かワシの依頼をしっかりこなしたことがあったか?」
「うっ……」
そう言われた途端、マリアの手から力が抜けていく。
実は彼女らは今までに一度だって元の仕事を損害無しに完遂したことが無かったのだ。
「そう言う訳でこの仕事に関してのお咎めは無い……良かったの、初めてワシの依頼を完璧に達成出来て」
「ぐぬぬ……おのれ……」
マリアは悔しそうに奥歯を噛みしめる。
「まあ良かったじゃないですか、借金が増えなくて」
ギロリ……。
「ひっ……!!」
マリアに睨まれアッシーは身も心も縮み上がった。
「じゃあ私らはこれで帰るよ、埃塗れで早くシャワーを浴びたい……」
「まあ待て、そう急ぐこともあるまい……お前らに紹介したい人物がおるのよ、おい入って来いよ」
元が奥の部屋に声を掛けた。
するとゆっくりと男が一人、店内へと入って来た。
「初めまして、俺はガトー・チャン……しがない冒険家だ、以後よろしく……」
その男の外見は強烈であった……禿げ頭の頂上にろうそくの火のようなひょろひょろの髪の束が生え、牛乳瓶の底を二つ繋ぎ合わせたグルグル眼鏡をかけちょび髭を蓄えた腹巻をした子供くらいの身長の壮年オヤジだった。
「ぷっ……ワハハハハ!! 何その恰好!?」
「お姉ちゃん~~~笑っちゃ悪いわよ~~~!!」
そういうルイーズも口元が引きつり笑いを堪えているが見え見えであった。
「ぬぬぬ~~~失礼な奴らめ!! ガトーちゃんペッ!! ペッ!!」
ガトーは右手の人差し指と中指を揃え前に突き出すと、思いきりマリアとルイーズの鼻と口の間を勢いよく突いた。
「痛ったーーーい!! 何するのよこの禿げオヤジ!!」
「~~~~~……!!」
顔を押さえながらガトーを罵倒するマリア。
ルイーズも悶絶している。
「人の外見を見て笑うからそうなるんだ!!」
ガトーが一喝するがその外見故に全く迫力がない。
「さあ行くぞお前たち、どうせ汚れるんだからシャワーなんぞ浴びる必要はないぞ」
「はあ!? 何言ってるんだよオッサン!!」
マリアはガトーの言っていることが理解できない、それを見かねて元が口を出してきた。
「次の仕事の事だよ、お前さん方はそのガトーちゃんの冒険に同行するのだ」
「何だって!?」
「そういう事だ、ほら急げ!!」
「ちょっと!! 少しくらい休ませなさいよ!!」
マリアとルイーズはガトーに背中を押されて店の外へと追いやられてしまった。
「はあ……それで? どこへ行こうっていうのよ?」
全てを諦めたマリアはワゴン車を運転しながら助手席のガトーに問いかける。
「お前さん方が破壊した屋敷があっただろう? そこへ向かってくれ」
「えっ!? 私達、いまそこから帰って来たばかりなんだけど!?」
「仕方がないだろう!! そこが俺の目的地なんだから!!」
マリアの疲労度がさらに増した。
バックミラーで後部座席を見ると、ルイーズとアッシーは寄り添ってうたた寝をしていた。
気が付くといつの間にかガトーも鼻提灯を膨らませ熟睡していた。
「いい気なものだわ……」
山奥のマンション跡まで片道約四時間……マリアの孤独なドライブは続いた。
そして四時間後、マリア一行は再びマンションを訪れていた……と言ってもマンションは瓦礫と化しているのだが。
「こんな所に何の用があるってのよ……」
アリアは口をアヒルの様にとんがらす。
「まあ待て、確かこの辺に……」
ガトーがある一点の瓦礫を退け始める。
「ほら、お前さん方も手伝え!!」
「しょうがないな~~~ルイーズ」
「はい~~~」
ガトーの指示に従い、ルイーズが瓦礫の撤去を始めた。
彼女は持ち前の怪力を駆使しててきぱきと瓦礫を簡単に退けた。
「ほほう、お前さん大したものだ……見どころがあるぞ」
「それはどうも~~~」
「おおっあったあった……俺はこれを探していたんだよ」
瓦礫が取り除かれたその場所には黄金に輝く土管が現れたのだった。
土管は井戸の様に上に向かって口を開けており、覗き込んでも底を伺い知ることが出来ない程真っ暗だった。
「何なのこれ……?」
マリアは言葉を失った、目の前の物は配管工である彼女が嫌という程見てきた土管その物なのだが、日光を反射して神々しく輝く様はまるで宝物のように彼女の目には映ったのだ。
「お前さん方に屋敷を破壊させたのはこの黄金の土管を地上に現すためだったんだよ……構造上どうしても土管の上の建物を多少は壊さねばならなかったんだが、全壊させてしまうとは元の言っていた通り、流石じゃなお前さん方」
「何よ、嫌味?」
「いやいや、褒めてるんだよ」
ガトーがにやりと笑う。
「それで? この土管が何だっていうの? 掘り出して商人にでも売るの?」
「馬鹿を言いなさんな、この土管は地下世界へと繋がる入り口なんだぞ?」
「地下世界!? ちょっとどういう事!? そんな話、聞いた事がないんだけど!? 」
マリアは仰天した、それが本当ならとんでもない大発見だからだ。
「そりゃあそうだろう、この事実を知る者は少ないからな」
「地下世界ってのはどういうところなの!? お宝とかあるのかしら!?」
マリアは呼吸を荒くし、目の色が変わる……もし希少な宝石や金銀財宝があるのならそれを持ち帰る事で借金の返済どころか一生遊んで暮らせるかもしれないと考えたからだ。
「恐らくは……俺も文献でしか知らないが、その異世界には美しい姫が修める王国があるらしいのだ」
「王国……そんなのお宝の気配満々じゃない!!」
マリアの瞳にドルマークが浮かぶ。
「あんた行くんでしょう!? その王国に!!」
「ああ、もちろん……」
「じゃあ私達も連れて行きなさいよ!!」
「ああ、もとよりそのつもりだったが……」
「そうと決まればさっさと行くわよ!! ほらアッシー!!」
「わわっ!! ちょっと待っ!! あーーーーーーっ!!」
マリアはアッシーを捕まえるとポイっと黄金の土管の中に彼を投げ入れてしまった。
「ほら、ルイーズも」
手をルイーズに差し出す。
「だ、大丈夫~~~?」
ルイーズは涙目だ。
「大丈夫じょぶ!! 行きゃあ分かるわよ!! それ!!」
「あれ~~~~~~!!」
二人は手をつないで一緒に土管へと飛び込んだ。
「やれやれ……騒がしい旅になりそうだ……」
ガトーは首をすくめ頭を振ったのち、マリアたちを追って土管へと飛び込んだ。
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