農協おくりびと (42)次回は・・・

「次回は・・・」弁慶姿の祐三が、ジロリと3人の独身男たちの顔を見下ろす。

「次回は・・・」と、僧兵姿の独身男たちが生唾を飲み下す。

期待に満ちた独身男の熱い目が、いっせいに祐三のもとへ集まる。


 「いや、駄目だ。やめておこう。

 次回のおいしい話を、いまここで公開してもはじまらん。

 だいいちお前たち3人は、次も呼んでもらえると思ったら大きな間違いだ。

 だれを選ぶかの権利は、俺が握っている。

 呼ばれた人間を受け入れてくれるどうかは、彼女たちが決める。

 よって次回は、彼女たちに承認された人間だけが、参加できることになる。

 話は以上だ。質問はいっさい受け付けん」


 それだけ言うと、どかりと祐三が腰を下ろす。

「えっ、ええ~」という大きな落胆の声が、男たちの間でいっせいに爆発する。


 「そ、そんな、殺生なぁ。

 だってもう次回の計画は、祐三さんと妙子さんの間で決まっているんでしょ。

 それを明らかにしないというのは、卵を前にした蛇の生殺しと一緒です。

 公開してください。お願いしますから」


 「とくにお前は駄目だ、松島。考えてもみろ。

 戒律の世界に生きている尼さんに、いきなり結婚を迫るような野暮な男に

 次回のお呼びはかからない。まっさきに不合格だな。

 残念だが、お前の立場は補欠だ。

 だれか欠員が出たら招集してやるが、いまのところはキャンセル待ちの立場だ」


 「そんなぁ・・・いまから補欠だなんて、殺生過ぎます。大先輩!」


 「しょうがねぇだろう。身から出た錆だ。

 そうだな。お前の家に有る8人乗りのワンボックスを提供するというのなら、

 考えてなおしてもやってもいいぞ。

 次回は少しばかり、大きな車が必要になるからな」


 「大先輩。もしかして最初から、うちの8人乗りのワンボックスが目当てですか?」


 「分かってんじゃねえか。それならそれで話が早い。

 7人乗りのワンボックスならあちこちに有るが、8人乗りの新車は珍しい。

 お前がどうしても運転したいというのなら、仲間にくわえてやってもいいぞ」


 「ということは、次回は8人でどこか遠くへ、出かけるわけですね!。

 いいですねぇ、大賛成です。

 喜んで、みんなのために運転手になります。

 で当然の事なのですが、となりには圭子ちゃんを乗せてくれるんでしょうね」


 「馬鹿やろう。やっぱりお前は連れて行かねぇ。補欠に格下げだ。

 そういう不謹慎なことばかり平然と言うから、初対面の女子たちから嫌われる。

 圭子ちゃんだって勝手に決めつけられたら、おおいに迷惑だ。

 独身の男はお前だけじゃねぇ。

 3人いるんだ。となりに誰が座るかは、そのときになってから俺が決める」


 駄目ですか、やっぱりと、松島が下を向く。

「あんたはストレートにものを言いすぎるから、点数が下がるのよ」と

ちひろが、やんわりとフォローする。


 「さて。松島以外の7人は、無条件で行けるという事で話がついた。

 次回は、今週末の仏滅の日。

 斎場に勤めている2人も仏滅なら、有休がとりやすいだろう。

 行く先は、出雲崎の良寛記念館と紅ズワイカニ。

 9月の半ばになると秋に向けた農作業で忙しくなるが、9月に入ったいまの時期なら

 農家の連中も休みが取りやすい。

 忙しくなる前の骨休めだと思って、参加してくれ。

 集合は朝の8時。ただし尼僧の2人は、午後9時が門限だから余裕をもって

 戻って来られるスケジュールにする。

 で・・・問題は松島だが、助手席に座るのが誰でもいいというのなら、

 運転手として、あらためて参加を許可しょう。

 どうだ。異存ないか。その条件でいいというのなら、お前も参加しろ」



(43)へつづく

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