第17話
触手がラインに向かうのを防いだ巧実は、すぐさま持っていた鉄パイプを化け物に向かって投げつける。
それは簡単に弾かれてしまうが、その間にラインを工場の外まで引っ張り出すことに成功した。
「ライン、大丈夫か?」
「バカ……何で戻って来たの」
ラインは腹の痛みを必死に堪えながら、戻ってきた巧実を叱る。
「馬鹿はお前だ! こんな無茶して、死んだらどうする!」
「それでも私がやらなきゃならないのよ。妹がしでかしたことなんだから」
巧実の手を押しのけて立ち上がろうとするライン。しかし、体に蓄積したダメージのせいで、立ち上がれない。
「今は休んでろ。俺が引き付けとくから」
「無茶言わないで。魔法が仕えない巧実が、何をしたって無意味に決まってるでしょうが。それより早く逃げなさい、あいつがこっちに来るわ」
化け物は工場からゆっくりと移動し、屋外へと出てきた。その際に、工場の入り口を激しく破壊し、一部が化け物の上に降り注ぐ。しかし、化け物はそれをものともせずに、悠然と移動してくる。
「お前置いて逃げる訳無いだろ」
「何でよ! 元々はただの他人でしょ。ちょっと試験の対象者になっただけで」
「好きなんだからしょうがないだろ!」
「なっ!?」
巧実の突然の告白に、ラインの顔が真っ赤に染まる。
「好きな奴放っておいて、ただ待ってるだけとか出来る訳無いだろうが! 良いからラインは黙ってろ!」
巧実は、口をパクパクさせているラインを背負い、工業地区の建物の間を進んでいく。
後ろからは、激しい破壊音が続いてくることから、後を追って来ているのは分かった。
巧実は、このまま工業地区を逃げ回ると、周りの建物が壊滅すると判断し、近くにある川沿いへと逃げることを選択した。
「ど、どこに行くつもり?」
「河川敷に出る。このままじゃ周囲が全部潰されかねん」
埃が舞い上がって月明りを遮り、ぼんやりとしか見えない道を駆け抜ける。
ラインはいつの間にか巧実の首に腕を廻していた。
「どうして私なの?」
「え?」
「だから、どうして私を好きになったのよ」
河川敷へと向かう途中、ラインは背中から巧実に問いかける。その問いかけに、巧実の体温が上がるのをラインは感じた。そして今の自分もそうなのだろうと思う。
「知らん。気が付いたら目で追ってた。お前の落ち込む顔を見てると辛かった。まあ、それを意識したのは、由美に聞かれてからだったけどな」
「由美ちゃんに?」
「ああ、ラインの事好きなんだろってストレートに問いただされたよ」
その時のことを思い出し、巧実もまた恥ずかしくなる。まさか同級生に、自分の好きな人のことを率直に聞かれることなど、普通は経験しない。
「私は魔女よ」
「知ってる」
「巧実とは生きてる時間が違うわ。同じにすることも出来るけど、私は魔女として生きていきたい」
お伽話に出てきた魔女が、いまだ生きていると言うことはそう言うことだ。魔女の寿命は途方もなく長く、一般人とは比べ物にならない。
「…………」
「でも――。最初は試験の為だったし、アーチから守るためだったけど、一緒に暮らしていて楽しかったわ。由美をけしかけてる時は、なんだか少しもやもやした気持ちがあったの。由美と二人で歩いてる巧実を見てると、なんだか寂しかったの」
最初はただの気のせいだと思っていた。けどそれは偽りのない本当の気持ちで、由美が巧実に興味が無いと分かったとき、少しだけホッとしている自分がいた。アーチが巧実と結婚すると言ったとき、絶対に阻止したいと思った自分がいた。新しい作戦が思いつかないなんて言っていたが、実際は巧実が誰かと恋仲になるのが嫌で、頭が回っていないだけだった。
自分は魔女だからと、そう意識して押し込んでいた気持ちの蓋は、巧実の告白によって簡単に取り外されてしまった。
巧実に告白された時、とても嬉しかった。触手から助けてくれた時、とても嬉しかった。背負われている今も、心臓がどきどきしている。この想いは、もう自分でも止めることが出来ないと、巧実の首にまわされたラインの腕に力が入る。
巧実は背中に押し付けられたラインの胸から、行動が高まるのを感じた。
「私も、巧実のことが好き。由美にも、アーチにも、他の誰にも渡したくない!」
「それが分かれば十分だ!」
河川敷へと駆け下り、草陰にラインを降ろす。
「どうするつもり?」
ウッドプレディエータは、その巨体をゆっくりとうねらせながら巧実たちを追って来ていた。しかし、巨体故に、その一歩は大きく、意外と速度は出ている。ウッドプレディエータは、ラインの魔力を追って来ていた。
「見たところ、アーチを助け出せばなんとかなるんだよな?」
最初見た時よりも、アーチの体がむき出しになっていたことから、巧実は化け物の倒し方を予想する。
「ええ、アーチが魔力の供給源になっているの。だから、アーチをあれから引き離せば、後はどうとでもなるわ」
「ならやることは簡単だ。俺がアーチを助け出す」
「なに血迷ったこと言ってるの! 私でも無理だったのよ!?」
「お前一人ならな。けど今は俺がいる」
「一般人のあなたに何が出来るのよ!」
「ラインの代わりに走ることぐらいは出来るだろ。ライン――」
そう言うと、巧実は座っているラインに視線の高さを合わせ、まっすぐに見つめる。それを受けてラインは先ほどの告白を思い出し恥ずかしそうにしながらも、しっかりと視線を受け止めた。
「俺に魔法を掛けろ。あいつからアーチを助け出せるような魔法を」
「なっ!? 何言ってるのよ! そんな危険な事――」
「危険でもやるしかない。それにお前言ったよな。こっちには物語を作りに来てるって」
「今の状況で何よ」
「今の状況だからだよ。良く見てみろ。ここには魔女と、化け物に捕まったお姫様と、それを助けようとしてる王子様がいるんだぞ?」
自分のことを王子様と言うことに気恥ずかしさを覚え、耳まで真っ赤にしながら巧実は言う。今この状況こそが、物語としては最高に盛り上がる場面だと。
「魔女が王子様に魔法を掛けて、お姫様を助け出す。最高の物語じゃねぇか。まあ、王子様が惚れたのは、魔女の方だったけどな」
「……バカ」
ラインは小さくつぶやくと、目を閉じる。そして再び目を開いたとき、その瞳には決意が宿っていた。
「分かったわ。もうそれ以外にアーチを助ける方法もないしね。巧実に私とアーチの命、預けてあげる」
「任せろ。俺が必ず助け出す」
ラインはその言葉を信じて、正面に立つ巧実に杖を向けた。
◇
河原まで迫ってきたウッドプレディエータは、ラインの魔力を見つけて興奮していた。
先ほどまでよりも触手の量も多くなっている。
それを見る巧実の姿は、周りがうっすらと金色に光っていた。
「巧実、あなたに掛けたのは身体強化の魔法よ。それ以外なんて、初めて掛けられて使えるようなもんじゃないわ。だから今あなたは馬鹿力を持っただけの一般人。攻撃されれば痛いし、当たり所が悪ければ死ぬわ」
「それだけあれば十分だ」
巧実はその場でトントンと軽く跳ね、体の調子を確かめる。
「さて、王子様の活躍、ちゃんと見てろよ」
「巧実の役目は助け出すだけだけどね。安心しなさい。攻撃魔法は苦手だけど、しっかり仕留めてあげるから」
「締まらないこと言うなよな。んじゃその言葉を信じて、行きますかね!」
河川敷の坂をウッドプレディエータが下りきったところで、巧実が走り出す。
その速度は、短距離の世界記録保持者も真っ青の速度だ。巧実自身には、その速度のせいで強烈な空気の抵抗が襲いかかるが、身体強化された体はその抵抗を無視して突き進む。
ラインの魔力によって魔法を掛けられた巧実は、ウッドプレディエータにとって敵だ。
迫ってくる魔力の存在に気付いたウッドプレディエータも、触手を伸ばしてその存在を捕まえようとする。
無数に迫る触手を、巧実は全て紙一重で躱していった。
普通なら迫りくる触手に体が竦んでしまっただろう。しかし、巧実は父親の暴力的とも呼べるほどのお仕置きのおかげで、そうはならなかった。
迫る触手をしっかりと見て、軌道を読み切る。服までは掠っても、体には決して当たらないギリギリのラインを潜り抜け、巧実は一気にウッドプレディエータの懐に潜り込む。
「アーチ!」
ジャンプ一息に、アーチの埋まっている場所に飛び込んだ。
アーチはまだ意識を取り戻すことなく、ぐったりとしていた。顔色も大分青くなっている。魔力を取られ過ぎた影響だ。
ぐったりとしたアーチの脇に両手を滑り込ませ、引き抜く。しかし下半身がしっかりと胴体に埋まってしまっているため抜けない。
「くそっ。このままじゃ無理だな」
取りつかれた体から、巧実を引き離すために触手が迫る。
巧実は無理することなく一旦離れ、ラインに声を掛けた。
「ライン、アーチの下半身が完全に埋まってて抜けない! もう少し掘り出さないと無理だ」
「分かったわ。イル・ステラ・トゥーラ・ロット、彼の者に壁を撃ち掃う力を! ライン・リーズ・カティナリオが願う!」
詠唱と共に、巧実の右手に光が集中した。
「それで殴りなさい! 今、巧実の手に触れた物は爆弾みたいに吹き飛ぶようになってるわ!」
「物騒だな、オイ!」
今自分の右腕に、平然と壁を壊せる力があることに多少の恐怖を覚えながら、巧実は再びウッドプレディエータに迫る。
ウッドプレディエータも今度は簡単に近づけまいと、先ほどよりも触手を多く、より激しく振り回す。そのせいで、先ほどのように潜り抜けながら行くのは難しい。
どうするか瞬間だけ悩み、巧実は自らの右腕の力を試してみることにした。
「とりあえず、一発!」
触手が巧実に迫る直前、巧実は自らの足もとに向けて右手を振り下ろす。
直後、激しい爆発と共に河川敷の砂利が吹き飛び、激しい土煙を巻き上げた。
触手は土煙の中をゴウゴウと風を切りながら振り抜ける。しかし、その場に巧実の姿は無かった。
巻き上げられた土煙で、ラインの視界もウッドプレディエータの視界も悪くなる。しかし、もともとあまり視界を頼りにしないウッドプレディエータは、気にすることなく触手を振り回す。
ウッドプレディエータは、その触手の先にある感覚器官で周囲の状況を確かめている。木のような体型をしているだけあって、周囲が見にくいためそのように進化したのだ。
触手が周囲を確認するように動き回る。しかし、そのどこにも先ほどまで自分と戦っていた存在を確認できない。
ウッドプレディエータはそれを逃げたと判断した。
そして自分が追いかけていた魔力に標的を変更する。
ゆっくりと動きだし、標的に向かう。その直後、再び激しい爆発音が聞こえた。
そして足もとが盛り上がり、吹き飛び、ウッドプレディエータをその衝撃で押し倒す。
あまりにも突然の出来事に、ウッドプレディエータは何が起きたのか分からなかった。当然だろう、いきなり足もとが爆発したのだ。
「ああ! 死ぬかと思った!」
そしてその空いた穴から砂まみれの巧実が姿を現す。
巧実は、最初の爆発で出来た穴に落ちていた。爆発の衝撃が予想以上に強く、そのまま出来た穴に落ちてしまったのだ。そして運の悪いことに、周りの土が崩れ、巧実を生き埋めにした。かろうじて出来た隙間に潜り込んだ巧実は、隙間から外の様子を確認し、ウッドプレディエータが頭上を通り過ぎたところで、再び右手を使い、頭上の土を吹き飛ばしたのだ。
近距離でその衝撃をもろに受けた巧実は、全身ボロボロだ。もしラインの身体強化の魔法が無ければ、確実に死んでいただろう。
「ライン、こいつ威力強すぎねぇか!? こんなので殴ったらアーチごと吹き飛ぶぞ!?」
「大丈夫よ! 威力はちゃんと調整してあるから。あの胴体意外と硬いのよ!」
「これで威力調整してんのかよ!」
ダイナマイト並みの威力で押さえている方だと言われ、巧実は突っ込まずにはいられなかった。
「とにかく今がチャンスよ! あいつ倒れて動けなくなってる!」
ウッドプレディエータは木のように長い胴体をもち、頭上に大きな葉のような物をはやしている。そのため一度倒れるとなかなか起き上がれないのだ。
普通ならば触手を総動員して立ち上がるのだが、今はその触手で敵を遠ざけることもしているため、起き上がれないでいた。
「分かってる!」
立ち上がるために使っている触手を除いた、残りの触手が迫ってくるが、その程度ならば強化された巧実の体がいとも簡単に躱してくれる。
そして胴体の上に立ち、一気にアーチの元へと駆け上がる。
「これで!」
そしてアーチの腕をつかむと、ウッドプレディエータの胴体を思いっきり殴りつけた。
閃光と激しい音がして、胴体が爆発を起こす。その衝撃で、巧実は胴体から吹き飛ばされるが、同時にアーチをウッドプレディエータの胴体から引き抜くことに成功する。
空中でアーチを抱きかかえ、右手が地面に着かないように注意しながら落下した。
「ライン! アーチは助けたぞ!」
「なら後は、私の番ね!」
巧実は倒れたまま、土煙の向こう側にいるラインへと声を掛ける。
ラインはそれに答え、杖を一振りする。
「風よ。吹き飛ばしなさい!」
その言葉と同じように、突然河川敷に強烈な風が吹き荒れる。そして土煙を瞬く間に吹き飛ばしてしまった。
そこで巧実が見た光景は、浮かぶ箒の上に立ち、マントをはためかせながら杖を構えるラインの姿。その姿は、どこまでもかっこよく見えた。
「これでトドメよ。イル・ステラ・トゥーラ・ロット、炎の厄災よ。ライン・リーズ・カティナリオの願いに従い、目の前の障害を焼き払え」
ラインの頭上に、夜だと言うのにもかかわらず真っ赤な太陽が現れた。その太陽は、ラインの言葉に従い、倒れているウッドプレディエータへと直撃する。その瞬間、辺りが昼に変わった。巧実はその輝きに思わず目をつむる。
次の瞬間、巧実がこれまでに聞いたことの無いほど重い音が河川敷に響き渡り、激しい熱波が巧実たちに襲いかかる。
巧実はとっさに右手を使い、地面を殴りつけることでその熱波を吹き飛ばし、同時に自分たちも熱波の発生源であるウッドプレディエータの元から距離を取った。
しばらくその場でアーチを庇いながら蹲り、魔法の余波が収まるのを待つ。
そして、余波が完全に収まったところで目を開けると、そこには社会の教科書で見たような光景が広がっていた。
一面の焼野原。パチパチと魔物だったものの燃えカスが爆ぜ、草の生い茂っていたはずの河川敷は、綺麗に全てが土色になっている。
川も熱波で激しく揺さぶられ、大きく波を作り出していた。
そして地獄絵図のような河川敷の上に、悠然と立つ一人の魔女。その魔女は、ゆっくりと箒で巧実たちのもとに降りてくると、汗をぬぐうような動作をして、ふぅと息を吐いた。
「やっぱり攻撃魔法は苦手ね」
「お前の苦手って……もしかして威力調整が苦手ってことなのか?」
巧実の言葉にラインが不思議そうに首を傾げる。
「何言ってるの? 当たり前じゃない。授業の時は、威力調整が出来なくてよく練習場を壊しちゃったのよ。そのたびに先生に怒られるから、苦手になっちゃったのよね」
やれやれとでも言いそうな表情で、ラインは首を横に振った。
その姿に巧実は口をあんぐりとさせるしかなかった。
◇
さすがに派手にやり過ぎたと言うことで、巧実たちはアーチの回復を待たずに一旦その場を離れることにした。
と、言っても箒に三人は乗せられないため、徒歩での移動だ。
アーチを巧実がおんぶし、ラインは箒を杖替わりにして歩く。
「ねぇ」
「ん?」
巧実たちの間に言葉は少ない。先ほどの戦闘で疲れているのもあるが、それ以上に、勢いで告白してしまった恥ずかしさがあるのだ。
「あの言葉って本当なのよね」
「ああ。お前は嘘だったのか?」
「もちろん本当よ」
「そっか、よかった……」
巧実がホッと息を吐く。ラインはもじもじとしながら巧実のその様子をうかがう。
「あのね、こういうのって勢いも大事だけど、しっかり面と向かって言って欲しい物なのよ」
「ああ、それは分かってる。ただその前に――」
ラインが言おうとしていることは、巧実にも理解できた。
先ほどの告白は、ラインをおぶさっての状態で、叫ぶように言ったのだ。それではロマンに欠けると言うものだろう。
ラインもそれを気にしてか、遠回しにやり直しを要求してくる。
しかし、巧実の体力はもう限界だった。
ある程度歩き、河川敷にある草野球場へと到着したところで、巧実はアーチを背中からベンチへと降ろす。そして自分もそのまま別のベンチへと倒れ込んだ。
「もう限界だ。少し休ませてくれ」
「え? ちょっ!? ちょっと!?」
ラインの魔法によって強化されてはいても、限界を常に出しきっていた巧実の体は、すでにへとへとだった。
そしてベンチに横になった途端、寝息を立て始める。あっけにとられてそれを見ていたラインは、ただ声を上げることしかできなかった。
◇
次に巧実が目を覚ました時、そこはベッドの中だった。それも自分の見慣れた天井が見える。
「ここは、俺ん家?」
天井は毎朝起きるときに見る自分の部屋の物だった。
ゆっくりと体を起こすと、全身にピンと張るような痛みが走る。
「くぉっ!? これは!」
間違いなく筋肉痛だった。そのまま再びベッドへと倒れ込む。
そして首だけ動かして周りの状況を確かめる。
「十時か」
枕元にあるデジタル時計は、二十二時を示していた。日付は変わっていないことから、その日の夜だと理解する。
「アーチ、大丈夫だったかな?」
自分が眠る直前、まだ気を失ったままだったアーチのことが心配になった。その時、扉がノックされる。
「今声が聞こえたけど、眼が覚めたの?」
扉を開けて入って来たのはラインだ。
「おう、全身筋肉痛で動けないが」
「まあ、その程度で済んでよかったじゃない。身体強化って、後に響く魔法だから、下手すると後から骨が折れたりするのよ。巧実は骨が固いのね」
「笑い話で済む話か!? そんな危ない魔法掛けたの!?」
「だって、アーチを助けられる魔法ってそれしか思いつかなかったんですもの」
少し拗ねたように唇を尖らせながら、ラインは枕元までやってくる。
「そう言えばアーチは?」
「もう目を覚ましてるわ。今は体力と魔力の回復の為にベッドで横になってるけど」
「そうか。よかった」
その後、ラインから巧実が寝ている間に何があったかを聞く。その話によれば、目を覚ましたアーチとラインで、一緒に眠ったままの巧実を家まで運んだと言うことだった。
起き掛けで重労働をやらされたアーチは愚痴をこぼしていたが、自分のしでかした事の罰だと言うことで、しぶしぶ手伝っていたらしい。
由美には、ラインから連絡を済ませてあるとのことだった。
それでねと言って、ラインは懐からペンダントを取り出した。それはラインたちの試験を見守るものだ。そのペンダントは今――
「光ってる」
「うん、このペンダントはある条件が達成されると光るようになっているの」
「ある条件?」
「……試験の終了」
俺達の間に、小さな沈黙が生まれた。
「……すぐに帰るのか?」
「それがルールだから。アーチのも光ってたから、この後アーチと一緒に帰ることになるわ」
だからアーチを休ませていたのだとラインは言う。
「そっか……寂しくなるな」
なんだかんだ言って、ラインが来てからの生活は活気に満ちていた。父親もどこか楽しそうだったことを思い出しながら、巧実は天井を見る。
その姿に、ラインは何を思ったのか、巧実の顔を抱きしめた。
「ごめんなさい。せっかく告白してくれたのに」
「いいさ。もう二度と会えないって訳じゃないんだろ? ちょっと遠距離恋愛になるだけじゃないか」
「うん、そうよね。必ずまた戻ってくるわ」
巧実が体を起こそうとしたため、ラインはそれを手伝う。そして正面から向き合った。
「ライン、俺はお前のことが好きだ。だから俺と付き合って欲しい」
「ええ、喜んで」
ラインの望み通り、正面から思いをぶつける。ラインはそれを受け入れ、嬉しそうに涙を流した。
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