第13話
体育の授業。巧実は迫りくるサッカーボールを受け止めながら、冷や汗を流していた。
明らかに自分に向かってくるボールが危険な軌道に変わるのだ。
「これもアーチの魔法か?」
一人呟きながら、ボールを仲間へとダイレクトでパスする。それと同時に走りだし、ワンツーで戻ってきたボールを再びダイレクトにゴールへと叩きこんだ。
同時に、コートの外から歓声が聞こえてくる。クラスの女子たちだ。
今は三時間目、体育の授業は、隣のクラスとの合同で行われている。現在は女子が休憩、男子はサッカーの試合をしていた。
ナイスゴールと背中を叩くクラスメイトの攻撃を適当にいなしつつ自分の陣地へと戻っていく。そこで見事ワンツーを決めた相手、裕也とハイタッチを交わした。
「相変わらずいい運動神経してんな」
「お前もナイスパスだったぞ」
「伊達に友人は名乗ってないからな。ほれ、女子にも手振ってやれ」
裕也は、観戦しているクラスメイトの女子たちに向かって手を振っている。それに合わせて歓声も大きくなっていた。微妙に隣のクラスのはずの女子たちからも声が聞こえてくる。それほどまでに、彼女を作った今でも裕也は人気なのだ。
「俺はお前とは違うっての。俺が手を振っても白けるだけだ」
「巧実は自己評価が低すぎんだよ」
謙遜なのか、自己認識が甘いのか、そんなことを思いながら、裕也は呆れたように笑う。そして強引に巧実の腕を取って持ち上げされた。
「お、おい」
裕也の突然の行動に、巧実は慌てる。しかし、裕也に抗議をしようとしたところで、コート外から「ナイスシュートよ、巧実!」とラインの声が聞こえてきた。その声で巧実の抗議は中断される。
裕也はその歓声を聞きながら、自慢げな表情で巧実を見る。
「ほらな」
巧実は裕也から視線を逸らしつつ、小さくため息を付いて、手を振った。
◇
強引に手を振らされている巧実を見ながら、笑うライン。その横では彩音が嬉しそうに裕也に手を振り返しており、反対側では由美が、のんびりとグラウンドを眺めていた。
ラインたちがいるのは、校舎からグラウンドへ降りる際に坂になっている芝の上だ。そこにはラインたち以外の女子生徒たちも集まっており、各々に男子たちに声援を送っていた。その対象はもっぱらが裕也である。
「巧実君も実力はあると思うんだけどね」
持ってきた水筒から水を飲みつつ由美が呟く。
「巧実君はあんまり目立ちたがらないから」
「裕也の隣にいてそれは難しいと思うわよ」
裕也が自然と目立ってしまうのだ。その隣を平然と歩いている巧実にも、何かと視線は集まってしまうものである。その時点で地味や目立たないといった目標を立ててもかなり難しい物なのだが、巧実はそれを実現しようと頑張っていた。
「でも裕也君もその事分かってるみたいだから、自分が目立って巧実君が影に入るようにはしてるよね?」
「今は真逆の事してるけどね」
巧実が諦めたのか、自発的に手を振るう。ラインはそれに答えて、大きく手を振り返す。
「巧実君もかっこいいんだけどね」
「まじめすぎるからモテないと?」
「彼女とのデートより、勉強を優先させそうって思っちゃうんだよね。ほら、好きな人には何よりも優先してもらいたいじゃない?」
「ああ、巧実なら間違いなく勉強を選ぶわね。私と勉強どっちが大事みたいな選択でも、ためらいなく勉強を取りそうだわ」
「さすがにそこまでは無いと思うけど」
ラインの言葉に彩音が苦笑する。
「そう言えばラインさんは巧実君の事どう思ってるの?」
「私?」
突然の質問にラインは目を丸くする。
「留学中って言っても、もう一週間近く一緒に暮らしてるんでしょ?」
「そうだけど、本当にそれだけね。学生寮に暮らしてるのと、さほど変わらないんじゃないかしら?」
朝起きれば巧実がご飯を用意しており、弁当を用意しており、一緒に学校へ行く。帰って来れば巧実は部屋に戻って勉強を始め、自分は部屋で計画を練る。夕食の時に再び一緒に食べて、リビングで少し休憩した後にまたそれぞれの部屋に戻ってしまう。
思い出してみれば、留学生と言う割には何もしてなかった。
「じゃあ恋人より仲間とか友人とかそっち?」
「そうねぇ」
ラインから見ると、巧実は被験者という言葉の方がしっくりするかもしれない。そんなことを思いながら、彩音の問いに適当にうなずく。
「もしかしてイギリスに好きな人とかいるの?」
やはり彩音も女の子。他人の恋には興味があるのだ。ラインがあまりにも淡泊な反応しかしないため、地元に恋人や好きな人がいるのではないかと考えた。
その言葉に、周りのクラスメイトも目ざとく反応する。
「なになに? ラインさんの恋人の話?」「ラインちゃん誰か好きな人たいの?」「もしかしてもう付き合ってたり?」「イギリスだと婚約者とかもういたりして!」
いつの間にかクラスメイトの呼び方はカティナリオさんからラインさんやラインちゃんに変わっていた。留学して一週間経つ間に、自然とラインがクラスに溶け込めた証拠だ。
「そんなのいないわよ。私には目標があるしね」
女子たちの期待の目をサラッと躱す。
「目標?」
「一流企業に入ることよ!」
その目標に、周りの女子たちから「えー」っという声が上がる。
「なんだか現実的すぎるよ」
彩音も女子たちと同意見で、ラインの目標に苦笑する。
「もっとお嫁さんとか、いい恋がしたいとか無いの?」
「一応そういう気持ちはあるわよ? 私も女の子ですもの。でも今は就職ね」
「お金が欲しいの?」
「お金よりも、その先ね。お金で買える物が欲しいのよ。これ以上は言わないわよ?」
なんだかなし崩し的に全部話して強い舞う羽目になりそうだったため、ラインは釘を打つ。女子たちはちぇっと小さく舌打ちしながら散らばって行った。
それを見送りながら彩音が再び問いかけた。
「じゃあ、目標の為に恋してる余裕は無いって感じなのかな?」
「だいたいそんなところ。でも他人の恋なら応援するわよ?」
と、言うより巧実には、誰かとくっついて幸せになってもらわないと、現実問題として困るレベルで応援している。ある意味人生を掛けているようなものだからだ。
「だから彩音にも一つアドバイスしてあげる」
「なに?」
「最近何も進展が無くて悩んでるでしょ?」
「な、何でわかったの!?」
自分の密な悩みを突然バシッと言い当てられ、彩音は顔を真っ赤にしながら目を驚く。
「フフフ、私に分からないことは無いのよ」
ラインは冗談っぽくそう言い、彩音の耳元に口を近づけた。
「それでアドバイス。マンネリ化してる時には一歩進むべきよ。裕也君って彩音ちゃんの事大好きみたいだけど、大好きすぎて動けなくなってるみたいだし。ここは彩音ちゃんから一歩踏み込んでみないさい」
以前行ったタロット占いの魔法には、占う人物の悩みや気持ちがタロットに現れるようになっていた。そこからラインは裕也の恐怖心を読み取った。
現状が楽しいために、一歩を踏み出せない。恋愛なら良くあることだ。まして裕也は意外に思うが初めての恋人と言うことで、悩んでしまっていた。
そこに彩音の不満が合わさって、ちょっとずつだが関係がぎくしゃくしてくる未来が予想出来たのだ。
二人の相性自体はかなり良かったため、ラインは二人の関係を崩させないためにアドバイスすることを選んだのだ。
「大丈夫なのかな? 裕也君、積極的な子とか嫌いじゃないかな?」
彩音が行動を起こせない不安の中には、今までの裕也の行動が原因の部分があった。
裕也が中学時代ことごとく振っていたのは、全員が女子からの告白だったのだ。その中でまるで目立たない自分が選ばれた。そのため彩音は、裕也が積極的な女の子が苦手なのではないかと考えていたのだ。
実際は、ただ裕也が中学生のころは、恋愛よりも遊ぶことが楽しくてしょうがなかっただけなのだが、彩音にはその事が分からなかった。
「大丈夫よ。好きになった子が近づいて来てくれたら、誰だって嬉しいものよ」
「そ、そうかな。そうだよね」
「来週ぐらいからお弁当でも作ってあげれば? 男は胃袋を掴めって言うし」
「うん、やってみる――あ、でもラインちゃんは胃袋掴まれてるよね?」
覚悟を決めた彩音は、ふとラインがいつも持ってきている弁当の事を思い出す。それは巧実が持ってきているものとまったく同じもので、明らかに巧実が作ったものだった。
「う……私はほら、恋とか関係ないから」
昨夜妹が、料理の為だけに結婚を迫ったことを思い出しながら、やはり包丁ぐらいは使えるようになるべくかと考えるのだった。
◇
試合が終わり、それぞれにクラスメイトが活躍したメンバーの元に集まって来る。
もちろん巧実たちのクラスでは巧実と裕也だ。この二人がツートップとなって入れた三点は、そのままクラスの勝利につながっていた。
次々に来るハイタッチを受けながら、巧実は少しずつ輪の中から逃げていく。
完全に輪から抜け出した所で、声を掛けられた。
「長瀬、ちょっといいか?」
「あ、はい」
声を掛けてきたのは体育教師だ。
「こいつを倉庫に片づけといてくれ。片づけたらそのまま戻っていいぞ」
「ラッキー、了解です」
わざわざ面倒な挨拶や、教師の話しを免除されると言うことで、巧実は意気揚々とボールを蹴りながら体育倉庫に向かった。
体育倉庫はグラウンドの端、ちょうど校舎の影になる場所にある。そのため普通ならば不良のたまり場になっていてもおかしくない場所だ。
しかし日宮学園は、一応は進学校と言うことで不良は希少生物扱いになっており、ほとんどお目にかかることは無い。おかげで体育倉庫もただの体育倉庫のままだ。
ガラガラと重い扉を開け中に入る。
中は独特の埃っぽさと匂いが充満しており、あまり長居したいとは思わない。それは巧実も同じで、開けた扉から中を覗き込むように体だけを入れ、ボールを籠に向かって投げる。そのボールは見事籠の中に入って行ったが、中にあった他のボールによってはじき出されてしまった。
「チッ、跳ねたか」
もっと回転を掛けとけばよかったと思いながら、体育倉庫の中に入りボールを再び籠の中に入れる。
「さて、次の授業は確か古典だよ――なんだ!?」
頭の中にある時間割を確認しながら、体育倉庫を出ようとした時、突然扉がガシャンと音を立てて閉ざされた。そしてガチッと何か聞きたくない音も聞こえた。
「マジかよ!?」
扉を開けようとするが、全く開く様子はない。ドアの隙間から覗けば、鍵が掛けられていた。
「これってアーチの仕業だよな……」
突然扉が閉じ、鍵がかかるなど、どう考えても普通ではない。むしろこれ以外に何が魔法なのかと言いたくなるような現象だ。
「どうしたもんかね」
体操服の為、携帯は持ってきていない。直接教室に戻っていいと言われたため、生徒たちが気付くのは教室に戻って、次の授業が始まってからになるだろう。そうなると、かなりの間体育倉庫で待つことになる。
それでも一日閉じ込められたりすることが無いだけマシだと自分を慰めながら、巧実は近くにあった走り高跳びに使うマットに腰を下ろす。
「アーチは本当に何をしたいんだ?」
今朝から確実になどもアーチの魔法が襲って来ている。しかし、どれも自信が不幸になるような物ばかりだ。対象者が不幸になれば、成績はその分悪くなるはずで、それでは本末転倒のはずなのだ。
今の所はラインが何とか助けてくれているが、それでも限界はある。
「マジで分からん」
これまでの行動を考えてみても、どうしてもアーチの考えが読めなかった。
「とりあえずは――」
助けが来るまでの時間、二十分以上はあるその時間をどう使うか、巧実はそれを考えることにした。
◇
巧実がいないことにラインが気付いたのは、女子組が更衣室から戻ってきた時だった。
「あれ? 巧実は?」
裕也に尋ねても、裕也は見ていないと言う。
「そう言えば、授業の終わりから見てないな」
「片づけかしら?」
「つってもボールしまうだけだし、こんなに時間掛かんねぇだろ」
「そうよね」
その時点で、ラインには一抹の不安が過ぎっていた。今朝からのアーチの魔法を考えれば当然の事だろう。
「私ちょっと探してくるわ」
「別に大丈夫だろ。どうせトイレとか行ってるんじゃねぇの? っておい!」
裕也が話している時、すでにラインは教室を飛び出して行ってしまった。
それを見送った彩音が裕也に近づく。
「ラインさん、どうしたの?」
「なんか巧実が見当たらないから探しに行くってさ。俺は大丈夫だって言ったんだけどな」
「ラインさん、巧実君の事やっぱり好きなのかな?」
「やっぱりって?」
「授業中に好きな人いるかとか聞いてたの。その時はいないって言ってたけど――」
「ありゃ、意識してないタイプか」
教室に入ってきて最初に巧実を探したり、いないと分かればすぐに探し始める。傍から見れば、まんま好きな人に対する行動だ。
「胃袋しっかり掴まれちゃってたんだね」
「なんだそりゃ?」
「ふふ、なんでもないよ。あのね、来週から――」
ラインのアドバイス通り、彩音は一歩を踏み出すべく裕也に提案をした。
◇
教室を出たラインがまず向かったのは職員室だ。そこにいるはずの体育教師に巧実の居場所が聞けないかと考えた。
「失礼します」
職員室の扉を開けると、一瞬先生たちの視線が集中した。そしてすぐに離れていく。留学生とはいえ、一週間もいると大抵の先生が顔を覚えているのだ。
ラインはその場で体育教師を探す。そして一番窓際の席にその姿を見つけた。
「先生、少しいいですか?」
「ん? どうした」
「巧実がまだ戻って来てないんですけど」
「そうなのか? 巧実にはボールの片づけを頼んだんだが。そのまま教室に戻っていいって言ってあったし、お前たちより先に戻ってるはずだぞ?」
「そうですか。失礼しました」
体育教師の言葉を聞いて、ほぼ巧実の場所が分かった。ラインの予想は体育倉庫。アーチの魔法で捕まっている可能性が高いと考える。
「今から急げば四時間目には間に合いそうね」
職員室から出る際にチラッと見た時計では、四時間目までまだあと五分ある。
ラインは廊下に出ると、全速力で走り出した。
◇
ボーっとし過ぎて少し眠くなってきた頃、突然体育倉庫の中に光が差し込んだ。
「うわ、まぶし」
「巧実! 大丈夫!?」
「ん、ラインか?」
逆光になって姿が殆ど分からない。暗い体育倉庫にずっといたせいで、外の光が余計に眩しいのだ。そんな中で、巧実は声を頼りに体育倉庫を開けた人物に問いかける。
「ええ、教室に戻ってもいなかったから急いで探しに来たの」
「そうか、助かった。アーチに閉じ込められたっぽくてな」
体育倉庫から出たところで、ラインに閉じ込められた経緯を話す。
ラインはそれを聞いてから、まず間違いないと断言した。
「鍵をかける魔法自体は、初歩の初歩だしね。それならアーチでも数秒もかからずに出来るわ」
「俺がボールを片づける所まで操られてたら別だけど、そうじゃないならアーチは俺たちの近くにいるってことになるな」
「今もどこか影から見てるかもしれないわね。本当に何を考えてるのかしら?」
「倉庫でずっと考えてたが、全く分からん。やってることが完全に矛盾してるんだよな」
「そうなのよね……って、それどころじゃなかったわ。後三分で授業が始まるわよ!」
校舎に貼り付けられた巨大な時計の時刻は、授業の開始三分前をしめしていた。そしてそれを巧実が見ている間に残りが二分になる。
「ヤバい! 急ぐぞ!」
「ええ!」
誰もいなくなった校庭を、巧実とラインは全速力で駆け抜けた。
◇
なんとか授業に間に合い、無事に昼放課を迎えた。現在は巧実、裕也、ライン、彩音、由美の五人で昼食を取っていた。
「マジで閉じ込められてたのか」
「ああ、ラインが来てくれなかったら四時間目に出られなかった」
裕也はパンを、巧実は弁当を食べながら三時間目の最後の時のことを話す。
「しかし、誰がそんなことしたんだろうな? お前いじめられてんの?」
「さあな」
あながち、いじめられていると言うのは間違いではないのかもしれないと思う。
その場合、犯人はアーチで確定しているのだが。
「けど、鍵まで掛けるなんて悪質だよね。下手したらずっと閉じ込められたままになるんでしょ?」
「危険すぎます」
「そうよね! 悪質だし、陰湿だし、ほんとどうかしてるとしか思えないわ!」
彩音と由美が漏らした言葉に、ラインが強く賛同する。しかも、やけに大きな声で周りに聞こえるように言っていた。
「ラインちゃん熱くなってるね」
彩音はそれを、巧実がいじめられて怒っていると取った。当然それは恋愛に直結される。
「これで気付いてないんだから、不思議だよな」
裕也も彩音の意見に賛同する。その二人を見て、由美はどういうことかうっすらと気付く。そして楽しそうにプリプリと怒っているラインを見ていた。
二人の言っている意味がよく分かっていない当事者の二人は、巧実が淡々と、ラインはがつがつと同じ彩で纏められた弁当を食べて行った。
そして五人ともが昼食を食べ終わったころ、由美が鞄の中から本を取り出す。
「これ昨日話してたアルバム、私のおすすめの写真持って来たよ」
「お、マジか。見せてくれよ」
裕也に続いて彩音やラインもそのアルバムに視線を移す。由美は机の上にアルバムを置いて、その場で一ページ目から捲っていく。
「これが学校の近くで取った花で、こっちのが校庭に迷い込んでた猫ちゃん」
アスファルトの隙間から咲く一輪の白い花や、校庭の木陰で気持ちよさそうに眠る猫。噴水で水浴びをしている小鳥や、木に引っ掛かり、風船が変形して書かれていた顔が変な顔になっている物など、アルバムの中からは可愛いものや、面白いものが次々と出てくる。
それを見ながら、ラインや彩音はきゃあきゃあ騒ぎ、裕也は笑っていた。そして巧実は、あることに気付いて戦慄していた。
「由美、これお前が全部取ったのか?」
確認の意味も込めて巧実が尋ねる。
「うん、携帯のカメラでね」
「最近の携帯って画素数凄いのばっかりだよね。綺麗に取れて良いな」
「ラインちゃんのは撮れないの?」
「私のまだ古い機種なのよ。ガラケーってやつ?」
ラインがポケットから取り出したのは、スライド式のまだボタンがある携帯だ。
「今ならスマホも大分安くなって来たよ?」
「そうなのよね。そろそろ変えようとは思ってるけど、とりあえずは向こうに帰ってからになりそうね。契約とか海外ですると色々面倒くさいし」
「そっか、そう言えばラインちゃんって留学中だったっけ……」
彩音がすっかり忘れていた様子で言う。それを聞いて、裕也もうなずいた。
「ラインさんって日本語上手すぎるし、何だか昔からいたみたいに馴染んじまってるんだよな」
「それ分かるわ。幼馴染みたいな気分になっちゃうよね」
由美が裕也の意見に同意しながら、うんうんと頷いていた。そして少しさびしそうな表情になる。
「後一週間で、もうお別れになっちゃうんだよね……」
「テスト期間に入ると、あんまり遊べなくなるしな」
裕也も残念そうに天井を見上げた。そこでラインは、昨日巧実と話していたことを思い出す。
「そうだ巧実」
「ん?」
「ほら、昨日話してた事、遊びに行くのと勉強会の話」
「ああ、そうだ。お前ら明日暇か? 明日ラインと買い物に行く予定なんだが、テスト前だしみんなで遊ばないかって話になってさ、一緒にどうだ? んで日曜は家で勉強会するって計画してるんだが」
「お、いいね」
巧実の提案に真っ先に賛成したのはやはり裕也だった。それに続いて裕也が行くなら当然と彩音も賛成する。
「勉強会って巧実君の家でやるんでしょ? そんなにいってお邪魔じゃない?」
「大丈夫。どうせ親父は遅くまで帰ってこないだろうし」
「ならお邪魔させてもらおうかな?」
「なら全員参加ね」
ラインが嬉しそうにまとめて、昼放課は終わりを迎えた。
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