再探険の風

 再探険の日になった。


 前回の探検での失敗をふまえ、懐中電灯を持っていくことになった。

 両親の寝室に防災袋が置いてあることを知っていたので、彼はそこからそっと懐中電灯を抜きとった。


 返すのは土曜日、母が昼食を作る間にやろうと思った。

 勝手に持っていったことではなく、探検したことがばれたら叱られそうな気がしたからだ。



 昼過ぎ、少年は家を出た。

 もちろんこいしも一緒にいる。

 門の前で大きく息を吸った。

 しっとりとしていて、きもちがよかった。

 空は夏らしく真っ青で、遠くに大きな入道雲があった。


 ちいさな冒険者たちは小学校の西門で落ちあった。

 水筒と帽子と双眼鏡、そして懐中電灯を見せあい、忘れ物がないことを確認すると、学校の南にある丘へ向かった。



 斜面をのぼり、ちっぽけな自然公園のすみっこにあるけもの道を歩く。

 ブナかシイの枝を拾ったようへいが、それを少年に投げてよこした。

 武器だ、と言う。

 友はそれで蜘蛛の巣や蔓をなぎはらいながらずんずん進んだ。

 少年はそれを杖の代わりにした。


 ところどころにある看板と記憶を頼りに雑木林を通ると、徐々にやせた竹が生えだした。

 やがて竹の茎は太くなり密集しだした。

 竹藪に囲まれていた。

 蝉の声がかすれて風の音が目立ってきたころ、遊歩道からコンクリートの道に出た。



 異変に気づいたのは少年だった。

 音がこの前と違ったのである。

 竹のざわめく声がいつまでも鳴りやまず、加えて笛のような甲高い音が上空からきこえた。


 竹の合間から見える空は鉄色のどんよりとした雲で覆われていたが、少年には半透明の巨人が藪に迷い込んだ子らをつけねらっているように感じられた。



「ようへい、やめよう」

 少年は口を開いた。

 意気揚々と前を歩くようへいが、ばつの悪そうな顔をして少年を見た。


 そこでようへいも笛の音が耳に入ったのか、急速に表情がくもったが、少年のおびえた顔を見てからは得意げな顔になって笑った。

「こわいのか?」

「ちがうよ。そうじゃなくて、がするんだ」

「それがこわいっていうんだ。お前の予感はアテにならないからな。そのくせ本当に起こりそうな顔して言うから、俺たちをこわがらせるんだ」


「でも……」

「なんとでも言え。何度でも止めろ。それでも俺は行くぞ。俺は大冒険者なんだ!」

 ようへいは大股で歩きだした。



 少年は心細くなってこいしをにぎりしめた。

「ちょっと、いたい!」

 こいしが叫んだ。

「ぼくは、いけないことを言ったのかな」

 少年の声は弱々しく、今にも泣きそうな気配をはらんでいた。


 こいしは声をきくなり呆れはてた。

「さあ? そう思うなら、ヘラヘラ笑ってあいつの尻でも追いかければ?」

 少年は不満そうにようへいの背中を見た。


「それじゃあ、ぼくの言うことが正しいって思うなら?」

 こいしは吐息でももらすような調子で答えた。

「アンタの予感が的中したときのために、あいつの隣にいてやればいいじゃない」

 少年はしばらく考えたあとで、こいしをやさしくにぎった。


 少年自身、予感が具体的になにを意味するのか理解できていなかったわけだが、友人と一緒にいていいのだと気づくとうれしかった。


 友の横に立つと、友は軽い暴言と一緒に彼を迎えた。

 彼は友人の顔から安堵を読みとった。



 トンネルの入口にたどりついた。

 溶けかけた緑のプレートを見上げる。

 竹の葉っぱが数枚風に流されてコンクリートの地面に落ちた。

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