第28話 2回目の…
泣き声が聞こえる…
誰の泣き声だ?…聞いたことがある。
そうだ…昔、確か親父が死んだ時に…
(うぇぇ…おと、おとぅさぁん……うぁぁぁ!!おとぅさぁぁぁぁん!!)
(……あぁ…あなたぁ…なんでぇ…わたしは……あなたがいないと……うぅぅぅ…)
泣きながら棺にしがみつく二人を、俺は少し後ろから父の遺影写真を見つめていた。
悲しくないわけじゃない。
ただ、幼い心ながらも泣いている二人を見て、男の俺まで泣き叫んでは父が悲しむだろうと思った。だから涙を必死に堪えた。
(初は男なんだから妹を守んないとな?)
そんな親父の言葉を思い出し、棺に掴まり泣いている
まだ7才で死というモノをよく分かってなかった紫にどっかのヤツが詳しく教えやがった。
二度と話せないと。二度と…会えないと。
葬儀が終わり、アパートの部屋に戻った。
紫は泣き疲れて寝てしまった。
母はひたすら無言で家に着くと床に座り込んで動かなかった。
呼びかけても反応が薄い。その日は何も食べずに眠った。
次の日、母の知り合いと言う人が来て俺達の食事と母を慰めてくれた。
そんな日が何日か続き、少し母が持ち直してきた。
(私が…貴方達を育てなきゃ…しっかりしないと…)
そう自分に言い聞かせるように呟き、働いていたパートの仕事に復帰した。
ガキってのは身近なモノが何か欠けてしまった奴を見るとイジメの標的にする残酷な生き物だ。
父という身近なモノが欠けてしまった俺達も例外ではない。
キズを抉る言葉にイタズラ、暴力。
暴力に関しては俺の運動神経が良かったおかげで全て返り討ちに出来た。
…だが、そいつらは妹も標的にする。
必死で守った。授業中は無理だが、紫のクラス担任に何度も訴えて気を付けてくれるよう頼んだ。
登下校は必ず一緒に帰った。
家に帰る。暗い部屋に電気を付け、冷凍してある夕飯を温め直して食べる。
紫は家族の前以外では笑わなくなった。
母は朝早くに出て俺達が寝た後に帰って来る。
頭を撫でる感触に起き、母におかえりなさいと伝える。笑って俺達を抱きしめてくれた…その温もりに嬉しくなる。
そんな生活を一年程続けただろうか…俺が10歳の誕生日を迎えて少し経った日。
珍しく母が早く帰ってきた。
……隣に知らない男を連れて…
(君が初君と紫ちゃんだね?俺は●●●というんだ)
爽やかな顔で笑い、俺らに手を振った。
名前が…思い出せない……おかしい…なぜだ?…あんな………こんなにも……コイツに!!
憎悪と殺意を抱いているのに!!!!何故!!!!?
∵∵∵∵∵∵
「ぁぁぁぁあああ!!!」
身体が勝手に跳ね上がる。
目の前の●●●に手を伸ばして掴みかかる。
だが手は宙を掴み、目の前には誰もいない。
「ハァ!ハァ!…あ………れ?」
いきなり場面が切り替わり混乱し、周りを見る。
「此処は………何処だ?」
土壁で作られた部屋?え?蝋燭?……レトロっつーか原住民みたいな部屋だな……なんで俺はベッドで寝てるんだ?
「んゅぅうぅ……パ…パパ〜!!いきなりなにするの〜!!シオン、ころころってなってゴンってなったの!イタイの!」
女の子がベッドの端から涙の浮かんだ顔を覗かせ怒っていた。
「は?……え?」
「パパがいきなりガバーって起きたからシオン落ちたの!!びっくりしたのー!!」
「あ、あぁ。それは……わるかった?」
「むぅ〜!あたまいたいのー!パパなでてほしいの〜」
思わず謝り、こちらに頭を出してきたので思わす撫でる。
「えっと…ここは?つーか君はいったい…」
誰だ?と聞こうとした時、扉が大きな音を立てて開いた。
「ウイ君!どうしたんだい!?」
「ウイ!凄い叫びが聞こえたが!?」
見知らぬ二人が慌てて入ってきた。
「は?えっと……誰ッスか?つか…コスプレ?羽って……」
羽を付けている赤髪の男を見てドン引きする。
え?なにここ…なんかヤバい奴らに拉致られたの俺?
「な………ウイ!?……私が分からんのか?」
「……やっぱり…まだ戻らないか…」
「いやいや…そんな、いい歳して羽付けてる人に知り合いなんかいないっスよ?…ソレ、恥ずかしくないんスか?」
「ぬなっ!?」
なんかショック受けてる?いやいや、どう考えても赤髪で30位のオッサンが羽着けてたら誰でもドン引きするでしょうよ…センスヤベェな。クルリン以上に光過ぎてて直視出来ねぇよ……
「……おい、リシアよ…まさか」
「…………あぁ。それで間違いないと思うよ」
「え?なんスか?……そっちのアンタも凄い髪色っスね、緑とかよくそんな綺麗に染められたっスね?」
ん…水色の瞳?…あぁ外人かー。色素薄いから綺麗に染まったんだな。鳥男は赤髪だけどアレくらいなら『
「ウイ君のいた所ではこの髪色はないのかい?」
「ん?あぁ…俺らは基本黒髪だし。外人には金髪とか茶髪、あとは白髪?…つか普通知ってるっしょ?それになんで俺の字名を知ってんスか?アンタら誰?」
変な事を聞いてくる女に少し警戒する。
「なるほど…あぁ、すまないね。私は……リシアだよ……」
「私は……ジェバルだ」
「あぁ、やっぱ外人さんッスか。俺はウイじゃなくて…………アレ?俺は……俺……なんでだよ…俺の…名前……」
自分の名前が思い出せない……何故だ!?いや…俺は!…俺の…名前…!!?
「なぜ……!?お、俺の事なのに!?なんで?…なんで出てこねぇ!?」
頭が痛む……わけが分からない。思いだそうとすればするほど遠ざかっていく…!
「っ!?ウイく…!」
「パパ〜!シオンはシオンなの!忘れちゃダメなのー!!」
リシアの言葉を遮ったシオンに我を取り戻す。
「え……し…おん?あ、あぁ…キミの名前か。シオン…か。いい名前だな?」
「んゅ!パパがつけてくれたの〜!シオンもきにいってるの〜!」
シオンがにへーっとした顔で笑う。
「そうか…シオンはパパが大好きなんだな?」
「だいすきなの〜!パパはシオンのパパでシオンはパパのシオンなの!」
そう言ってベッドによじ登り、俺に抱きつく。
「………ん?どうした?シオンのパパは何処にいるんだ?」
「んゅ?パパがシオンのパパなの!」
そう言って更にギュッと力を込めてきた。
「……………んん?」
「ウイ君…すまない。ちょっといいかい?…シオン君?すまないが、少々ウイ君と二人で話したいんだ」
「ダメなのー!リシアはキケンなかおりがするの!シオンのはなは…」
「ジェバル氏が甘いものを持っていたよ?」
「ジェバルいくのー!たべたいのー!」
え?この子チョロ過ぎない?この先心配過ぎるぞ……
そう言って二人は部屋から出て行った。
「……さて。軽く現状の説明と質問させてもらっていいかい?あぁ、頭痛がしたら直ぐに考えるのをやめなよ?自分の名前とか今考えると危なそうだ。だからウイ君と呼ばせて貰うよ?」
「あ、あぁ…うぃっス」
そう言いながら椅子を引き寄せ、向かい合って座る。
うわ…この娘、よく見るとめちゃくちゃ可愛いなオイ……胸が少し…かなり残念過ぎるけど。いや、まさかコレが一部で有名なオトコの…!?
「その目も二回目だね…私は女だよ?」
「っ!?な、なんのことっスかねぇ…」
「ハァ…まぁおいとくよ。まず質問するよ?この場所は分かるかい?」
「え?いやいや、分かるわけないっしょ?何処よココ」
「ココは洞窟。盗賊の根城だよ?」
「……はぃ?盗賊って…え?泥棒の集団的な?そのアジト?洞窟が?」
盗賊ってなかなか日本じゃ聞かねぇぞ?ヤクザとかその下の組織か?…つか俺もしかして人質?
「まぁ…そんな感じ…かな?もっとタチが悪いけどね。あぁ安心しなよ。もう盗賊は全滅したよ?」
その言葉に安心した。
「次は……君は何処から来たんだい?」
女の目つきが鋭くなった気がする。
唾を呑み口を開く。
「俺は…東京って所だけど…あ、地名分かるスか?有名だから日本に来た外人なら知ってると思うんスけど…」
「………トーキョウが地名、そしてニホンが国か……聞いたことがない…やはり…そうなのか?」
ブツブツと何かを呟き考えはじめた。
「これはまた後で聞くか…すまないね。そうだね次は…君の過去を聞いても?ちょっと前にウイ君が『
と、いきなりそんな事を聞いてきた。
「いや、まぁ…それ位なら……『
「……なるほど、そういう意味だったのか…そしたら何故…」
また考え込んだな…だけど美人ってどんな仕草でも絵になるな…眼福だな
「……そうだ、俺も聞きたいんだけどいいスか?ココはその盗賊…の根城なんだよな?何処にあんの?東京じゃねぇんスか?」
「あぁ、すまない…癖でね。つい考えてしまうんだよ。…そうだね、ココはスライフォードって言う浮遊島にあるんだよ」
「……………は?」
え?まさかの外国!?イミフなんだけど!?なんで?え?なんで俺が国外に拉致られてんの!!?そんなヤベェ組織に喧嘩なんて売ってないんですけど!!
頭が混乱しまくってもう良く分からない。
「……地球のどこら辺にこの国あんスか?……スマホでちょっと教えてくんねスかね?」
とりあえずざっとでいいから知りたい。ハァ…どれ位遠いんだよ……ピザとかないけと飛行機乗れんかな……
「あぁ……これは確定だね……」
「は?なにが確定なんスか?」
なんか決定的な事でも言ったか?
いや、もしくはパチスロとか競馬?
「ウイ君……私はチキュウって世界は知らない。スマホって言うのも分からないんだ。……この世界はゼプニス。様々な亜人種と魔人、魔物が居る世界だよ」
「…………………………あい?」
そんな良く分からない事を言い出した…
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