第26話 狂った心とチカラ
盗賊の根城に入る。洞窟の壁に反響し、笑い声が微かに響いてきた。
「いるな……何人だ?」
「すまない。索敵は苦手なんだよ…」
二人で体を潜め、通路の影へと隠れる。
…ん?盗賊の足が地面に付いてるなら、もしかしていけるか?
地面に手を付ける。
地面の振動を感知するイメージ……
モヤっと何か浮かぶが直ぐ霧散してしまった。
……ダメか。
「仕方ない……慎重に行こう」
洞窟内部は入り組んでいるのか声が反響して居場所が特定できない。
隠れながら歩いていると、分岐している通路の先に扉を見つけた。
慎重に近づく。
「…ここは?」
「……音はしないね。中に入ってみるかい?」
耳を扉にあて物音がしないか確認をする。
少し悩むが中に危険なものがあるなら今の内に処分したいと思い、入ることにした。
「あぁ…開けるぞ」
扉をゆっくりと開ける。
灯りがないのでよく見えないな…
「中に入ろう…灯りは私が付けるよ」
リシアに頷き、少し開けた扉の隙間に身体を潜り込ませて扉を閉める。
「…うぐっ!?」
「……うぅっ!?…凄い…臭いだね…」
暗いから分からないが何か腐ったような、アンモニアの臭いのような、そんな色々な臭いが混じりあったような臭いに吐きそうになる。
「……灯りを…付けるよ?……『火の精霊よ、灯れ』」
流石のリシアも緊張しながら呪文を唱える。
そして灯りが照らす。
「………ッ……ッッ!!!!!?」
「……これ………は…」
目の前の光景に言葉が出ない。
そこにあったモノ。
ソレはかつては動き、笑い、生活をしていただろうモノ達。
無数の女性の死体……
嬲られ、凌辱され、ストレス発散の為にか殴られた後が幾つもある死体もあった。
……欠損のある死体も……
「し、信じ…れねぇ……や、ヤツら…こ…な…こんなに…」
「……………最低……だね」
あまりの惨状に俺は満足に言葉を喋れない。
そしてリシアは沸き上がる感情を抑えて呟く。
「ウイ君……悲しいけどね。コレが平然と
リシアがそう呟くが目の前の惨状に思考がグチャグチャになっていてその言葉にきづけない。
大きすぎるショックに目の前が暗くなっていく。
「ヤツら……こんな…こん…な」
「ウイ君?…ッ!?気をしっかり持て!そんな状態では君が殺されるぞ!」
オレ…が殺され…る?イヤだ…まだ死にたくない…
掠れる視界で気を持ち直そうとした時…
その中で一つの亡骸を…見つけてしまった。
…小さな……女の子?……まだ、まだ11、12歳の…少女じゃないか…
身体には無数の痣に凌辱の後が痛々しく残っている。
動悸が止まらない。全身から汗が吹き出る。
目を背けたいのに動かない。
震えが激しくなる。呼吸ができない…
既に光を宿さないその目が……開くことの無いその口が………
動いた気がした。
(……タスケテ……オニィ……チャン…)
「あぁ……ぁぁぁあ……ゆ……かり…」
「ウ、ウイ君?ウイ君!!しっかり…」
「ァァア……ぁあぁ…アァぁぁぁあァァァァァァァァァァアあぁぁァぁぁぁああアァぁあ!!!!!!!!!!」
心が壊れた。目の中で火花が散る。身体が熱い。頭が沸騰する。
目の…目のまえ…目の前に!?ゆか、紫が!!ゆかりがぁぁあ!!!しししししん…で!死ん…で!!!!?死んで!!!!!!!
「あぁぁあ!!…ああぁぁあ!!!ぁぁぁあああああああ!!!!!!!」
「ウイ君!!ウイ君!!!しっかりするんだ!!!どうしてしまったんだ!!!」
何も聴こえない…何も分からない……
視界は血の色…彼女の流した血が…全てを赤く…紅く…視界を染める…
「くっ!仕方ないっ!ごめんよウイ君!」
女が手刀を放ってきた…条件反射で掴む…
誰だ…仇か…?いや…女なら…コレの原因ではない……関係ない。
女の手を引き、投げた。
…じゃぁ、誰だ?誰が…コレを?誰が……!!!誰が、誰が!だれが誰がダレが!!………誰が紫をォォぉおオおぉぉォぉ!!!!
∵∵∵∵∵
この部屋に入り、火を灯した惨状に私も流石に怒りでおかしくなりそうだった。
私も一応は女だ。こんな惨い事など許せるわけがない……
ウイ君の様子がおかしかった。
死体を見慣れていないような感じがした。
だから少し、カマをかけてみた。
しかし、私の探りに彼が反応することは無かった。
刺激が大分強すぎたのだろう…彼の目はだんだんと虚ろになりふらつく。
意識を失う寸前だった。
私は焦って呼びかけた…そして、多少だけど瞳に光が戻って安心したんだよ。
だけど束の間、彼の瞳が見開かれる。
その視線の先にあったのは…まだ11、2才の少女……あんな小さな女の子まで……ホントに最低だね…
見ていられず目を逸らした瞬間、またウイ君に異変が……いや異常が起こった。
「あぁ……ぁぁぁあ……ゆ……かり…」
そんな言葉を呟いた。
ゆかり?……兄妹か?いや…そんな考察をしている場合ではない!
「ウ、ウイ君?ウイ君!!しっかり…」
しっかりするんだ!
その言葉は最後まで言えなかった。
「ァァア……ぁあぁ…アァぁぁぁあァァァァァァァァァァアあぁぁァぁぁぁああアァぁあ!!!!!!!!!!」
彼が発狂したように叫ぶ。
涙を流し頭を抱え蹲る、だが目は少女を見つめて離さない。
なんだ!?彼女の何がウイ君にここまでの…!!
「ぁぁあ!!……ああぁぁあ!!!ぁぁぁあああああああ!!!!!!!」
「ウイ君!!ウイ君!!!しっかりするんだ!!!…どうしてしまったんだ!?」
ウイ君の叫びは止まらない。
抱えた頭に爪を立てたのか血が流れた。涙にも血が混じり始めている。
マズイ……このままでは…!!
「くっ!仕方ないっ!ごめんよウイ君!」
気絶させる為に首筋への手刀を放った。
だが彼は簡単に掴んた。
予想を超えた反応に驚く私を彼は投げ捨て、扉の横に飛ばされ倒れた。
そしてウイ君の叫びが響き渡ったのだろう…
洞窟内から怒号と駆けてくる足音が幾つも聞こえてくる。
マズイ…実にマズイぞ。
今の彼を護りながら、何人いるか分からない盗賊を相手になんか出来ない。
だが私が彼をココに連れてきてしまった。
置いて逃げる、そんな選択など取れるはずもない!
盗賊達は片っ端から部屋の扉を蹴破っているようだ……徐々に怒声と足音が近づいてくる。
呪文を唱える準備をする。
いつでも反応出来るよう腰を落とす。
「命をかけないと厳しいね…」
そして、とうとうこの部屋の扉が蹴破られる。
「ハッハー!!!見つけたぞ!女ぁ!てめぇが侵入し…」
下卑た笑いを浮かべた盗賊が私を見つけ、寒気が走る目で見た。にやけながらその手を私へと伸ばし…
「キサ……マら……かぁァぁあァアあ!!!」
私の後ろから飛び出したウイ君に顔を潰された。
……文字通りに
「あぁアぁぁぁァぁあああぁぁあ!!」
馬乗りになり既に骸になった盗賊を更に潰す。
石を纏ったその拳で…何度も何度も何度も…地面と男の顔が一体化するまで何度も殴る。
「ヒッ!?な、なんだてめぇは!!」
騒ぎを聴きつけた盗賊が集まってきた。
「あァぁぁァァぁア!!!シ…ね!!シネぇエエ!!!」
そして一瞬で肉塊になる。
更に肉塊を増やしに彼は扉の向こうに行ってしまった。
私はヘタリ込みながら、走り去って行く彼を震えて見ていることしか出来なかった…
私は彼にナニをしてしまったんだ…?
∵∵∵∵∵∵
視界が真っ赤に染まり火花が散っている。
ゴミを潰さなければ…二度と蘇らないようにグチャグチャに…!!
見つけた。扉を開けて入ってきた男が女に手を伸ばした。
ころす!殺す!!コロす!
グローブをイメージした。
荒い石を纏った拳で力任せに叩きつける。
1発…顔が潰れた。
2発…頭が破裂した。
3発…完全に中身がなくなり平たくなった。
4発、5発…6発…7発8発9発…………
こちらに向かって走ってきた男が叫ぶ。
すぐに潰した。更に3発当て、完全に潰す。
まだまだいる筈だ…探して、潰して、殺し尽くさなければ……
更に3人見つけた。
足にも石を纏い蹴りを使って3人を潰す。
次は2人いた…肘まで石を纏って潰した。
4人……6人……15人……
何人潰したかもう分からない。
身体が熱い…頭が熱い…額が物凄く痛い…
あぁ、関係ない…… 潰す、潰す…潰す…
広い場所に出た…更に8人見つけた…
「な、ななんだ!なんだよテメェは!!……小さいが、その二本角……鬼人か?…その手足はなんだ!?」
何か言っている……鬼人?……知らねぇ…潰す…
「お、お頭ぁ!あぁあの鬼人の石みてぇな…手足…真っ赤だぁ…お、俺らの仲間の血だぁぁあ!!ま、まさか…もう全員!?」
「おい!!テメェらぁ!!!怯えてんじゃねぇ!!相手は1人だ!!剣、槍、斧は前にいけ!呪文を使えるやつは後ろだぁ!!」
なんかでけぇゴミが吠えてる…
…ウゼェ……潰れろ。
地面を殴る。プレス機をイメージ。
ゴミの下の地面が円形に盛り上がる。
「むぁ!?」
そして天井の土も真下に円形に伸び
「ちぃっ!『闇よ!俺をすり替えろ』!!」
何かを唱えるとでけぇゴミが他のヤツと入れ替わる。
「きゅぺっ!?」
そいつを挟み込んで潰した。
「くっ!?バケモノがぁっ!!」
でけぇゴミが騒ぎながら広場の扉に走り出した。
誰一人逃がさねぇ…
また地面を殴り、次は扉を埋めた。
ヤツらは諦めたのか叫びながら襲いかかってきた。
剣ごと潰した、槍ごと潰した、斧ごと潰した。
残りは4人……呪文を唱えている。
炎が飛んできた。殴って散らす。
尖った土が突き出てきた。殴って砕く。
風が吹いた。肩を斬られ血が吹き出る。
……鎌鼬か
目を凝らす。微妙な風の歪みが見える。
拳を振りかき消した
近づく…ゆっくりと。
呪文を更に唱えて来たが全て拳で消した。
雄叫びを上げ、杖を突き出してくる。
踏み出して躱し、鳩尾に肘を入れる。
そのまま打ち上げる。落ちてきた所で顔に拳を捩じ込み潰した。
斧を持ったでけぇゴミが横腹に切り込んで来た。
膝と肘で挟み砕く。
勢いを落とさずに膝で肘を蹴り、拳をでけぇゴミの顎に飛ばす。
「『闇よ!入れ替えろっ!』」
瞬間、別の奴と替わる。そのまま顎から頭を潰される。
「なんだよ……テメェみてぇな鬼人聞いたことねぇぞ!!誰なんだよテメェはっ!!?」
何を言ってるのか分からない。
俺の事を言ってんのか?
「俺…は『
頭が痛い…額が痛い…何かが伸びている…?
あぁ…どうでもいいや……
後2人…でけぇゴミは自分と他人を入れ替える事が出来るようだ……それなら…
狙いを別の1人に定める。ソイツがの残りのストックだろう。
視線を向けるとまた炎の玉。掴んで潰す。
足を振り上げる。
そして地面を抉って蹴り飛ばす。
イメージ。槍。
飛ばされた土が太い槍と変化し魔法使いを標本の様にする。
後1人…再度視線を戻すがそこには既に誰も居ない。
…逃げやがった?
自分の入ってきた入口を塞ぎ忘れていたのを思い出し振り返る。
「きゃあっ!!」
そして、悲鳴と共に飛び込んできた光景…
「へ、へへ……おい!動くんじゃねぇぞ!!糞鬼野郎!!動いたらこの女をぶっ殺す!!テメェの仲間だろぅ!!ひへっ!ひへへへへ!!!」
あぁ……あぁ…どこまで……どこまで俺を……怒らせれば気がすむんだ!
あァぁア!!額が痛い……頭が熱い……身体が熱い……痛い!!イタ!!いたい!!!
メシメシと額から音が聞こえる。
「え…!?き、キミは…誰……なんだい……?まさか…いや……そんな……!」
女が言葉を発すると同時に地を蹴った。
「へひっ!………へ?」
一瞬で消えたウイを探す。
周りを警戒し、女を盾にしようと捕まえた腕に力を込め…力を……込め?
「……はえ?」
違和感を感じ、腕を見る。
女がいない。左肩から先が無い。
女に押し当てていた斧を持つ右手首から先がない。
「ひゃ…ぎ…ギャァァぁぁあアァア!!?手が!?俺の腕がぁ!!?」
噴水のように血が吹き出す。
そして横から顔を掴まれた。
「ガッ!?」
「たじ……か…呪文っ…でのは、イ…メージ…が大事なん…だヨナ?」
途切れ途切れで言葉を放つ。
ミシリと握力が増し、頭蓋が軋む。
「ギァァアアア!!?」
「ご…ウじて…ると…イメージ…なんで、でぎ…ねぇ…ダロ?」
更にミシリ、ミシリと潰れそうな激痛にもがく。
手がないので掴むことも出来ずただもがく事しかできない。
「びゃめっ!?びゃべでぇぇえ!!」
更に手の力を徐々に強める。
「ビャガァァァア!!!?ァアァアア!!」
ミシ、ミシ、ビキ…そして
「ベフュッ!?」
変な声と共に潰され、頭部の無くなった身体が地面へと落ちた。
首から吹き出す血を浴びる。
頭の無くなった残骸を見て、口角が自然と釣り上がった……
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