第25話 呪文の実戦
作ってしまった山から逃げるように離れ、今は平原のど真ん中にいる。
「さて…ここまで離れれば取り敢えずはいいか。ウイ君、これを飲みたまえ」
投げ渡された瓶に入った紫の液体。
「うぉっと。ん?なんだこりゃ?」
「それは魔素補充剤だよ。減った魔素をある程度回復してくれるんだ」
魔素補充剤をチャポチャポ振り説明してくれる。
「お、そんな便利な物があんだな!んじゃ……ング!ング!んぐっ!?」
「あっ!?」
キュポッと蓋を取り、一気飲みする。
……形容し難い味がした。
煮詰めたユンゲルに焼肉のタレ?他にも色んな味が1度に襲いかかる。
「オゥブッ……!!?グ……ゥエ」
「あぁ…最後まで聞きなよ。まったく……まぁ今ので分かったけど恐ろしく不味い。ソレはもう一種の兵器みたいなモノだよ。まぁ効果は確かだからソレをまず飲める様にする事が魔法使いの第一試練だね」
コレは洒落にならない…兵器と言う言葉が納得できる。
「…まぁ、大半は吐いてしまったけど多少は吸収しただろ。ウイ。今の魔素保有量を確認してみろ」
ジェバルにそう言われデバイスを開く。
魔素保有量:180/600
「あ、ホントだ100回復してる」
「確か上限が600だったね?まったくホントに信じられない数値だよ。ほら今度はちゃんと飲みなよ?」
もう1本投げ渡された。
「………マジですか?」
「「マジだ」よ」
「それに何気に高いだよソレ?」
うわぁ…高い金払って飲む兵器を買うとか……
震える手で蓋を開ける。
そして少量ずつ口に運び…
「ぅ…ん…ぅぷ……うぅ……ング!ング!………ング!ぷふぅ……」
ある程度慣れてから一気に流し飲み込む。
「おぉ……凄いな。ウイ君の気合いをみたよ」
「素晴らしい根性だな」
二人して褒めてくれたのでサムズアップで答えた。
「なんの合図だい?」
「……うぷ…あぁ…やってやったぜ!とかまぁ成功したとかそんな感じの意味だ」
「ほお?なかなかいい合図だな。私も使うか」
ジェバルが気に入ってくれた。
「私も気に入ったよ。さて、ウイ君さっきの山なんだが…恐らく当分、下手したら一生あそこまでの呪文は使えないよ?」
「は?なんでだ?」
「あぁ色んな事が起こりすぎて説明してなかったんだけど最初ウイ君は魔素保有量が2000以上あったね?まぁ…こんな量は異常過ぎるんだよ。よく身体が持ったものだよ…何かで過剰補給したとしか思えないね。生命力も同じだよ?」
過剰補給?地下にいた頃から既にそんくらいあったし…そん時食ったのは…ゼンマイ…結晶の水…後は………
「………カツ丼……」
絶対コレだと思う……いや他のも無いとは言いきれないけど何故か確信出来る。
「かつどん?それが原因なのかい?」
「あぁ……恐らく、いや断言できる」
なんせ大地母神の特製カツ丼だ。
「また食いたいが多分当分無理だろうな……」
実はね?メッセージが届いたんですよ…幸子から……内容は…
【ウイ様。お母さんのカツ丼は美味しかったですか?とても美味しかったでしょう?美味しかったに決まっています。それは私の口に入るべきカツ丼だったのですよ?それを貴方は食べたのです。私のカツ丼を貴方が。許せますか?いいえ、許す事などできません。出来るのであれば滅ぼしてしまいたいです。滅です。キルです。輪廻転生から外して永遠に餅つきしてやりたいですよ?えぇ……ですがそんな事しては貴方をこの世界に落とした意味がありません。私の……私の……!!私のカツ丼を返せぇぇぇぇぇぇえ!!!!!!】
もうね…深夜にコレ見たから本気で叫んだよね。シオンに凄い心配された。
それからもちょくちょく送られて来たんですよ。それもただ一言【 カツ丼 】……ただコレだけね?もう怖すぎたから迷惑メッセージフォルダを作ってそこに割り振ったけどな!
「ィ…ん……ウ…君…ウイ君!」
「はっ!?」
「どうしたんだい?そんな遠い目をして…目が死んでいたよ?」
「スマンがその話題には触れないでくれ」
真剣な目でリシアに頼んだ。
「あ、あぁそこまで真剣な目で見られたんだ。もう振らないよ」
「スマン、また逸れた…えっとそれであの呪文がもう使えないって話だったな」
「あぁ、そうだね。…過剰補給した分は回復しないんだ。ウイ君の上限が600あるなら600まで、それ以上は吸収されないよ。……方法はないことは無いけどあそこまでの異常な供給量は古代の遺産か神の食べ物に近いよ…」
うわぁ、何気に当てたリシア先生に脱帽だわ……
「まぁそれでも600もあるなら結構強力な呪文も使えるけどね」
「んで、次は何するんだ?」
「そうだね。概要と実践と来たら……次は実戦だね!」
そう言い放ち、俺を指差しマントをはためかせた。
…
……
…………
「はい。というわけてやってきました【ネルデ渓谷】!ここでは盗賊の住処があってね?ソレを殲滅させてしまいたいのだよ」
いきなりこんな所に連れられ、そんな事をのたまうリシア。
「えっといきなり対人?……つうか俺に人を殺せと?それにシオンが危ないだろうが!」
喧嘩ならそれなりに慣れているから構わない。だけど殺人など慣れている筈もない。
そしてそんな危ない所にシオンを連れていくのは許可できない。
「ん?いや、全員殺せとは言わないよ?捕まえて奴隷にすればお金は貰えるからね。だけど抵抗が激しすぎるとコチラもそれなりに力を振るわないといけない。そうしないと殺されるのは自分だよ?後、シオン君は私が護るよ。結界を張って察知しにくく攻撃を防げるようにする」
ならシオンは大丈夫そうか……。
それに……そうだよな……ここは異世界。人死になんて日常茶判事なのかも知れない。
殺らなきゃ殺られる……それがこの世界か…
「俺は制圧の方で頑張るよ」
「………油断だけはするなよ」
ジェバルにそう心配され俺は軽く頷いた。
「あ、ちょい待ち…少し復習したいんだ」
渓谷の森を進む途中で皆に声をかける。
さっきは土の呪文を試したがやはり他のも試したい。
「流石にまだ使った事のない魔法をいきなり唱えるのは不安があるから少し練習させてくれ」
「ふむ、分かったよ。だけどあまり大きい呪文はダメだよ?」
「オッケー」
さて…植物魔法と木魔法を試すか…
まずは植物…そこら中に生えている草の1束に狙いを付けイメージする。
テレビで見た事のある植物の早送り成長。
草が伸び青く、そして季節が変わり茶色に枯れる……
狙いを付けた草はイメージ通りに成長し枯れた。
なるほど…イメージの感覚が分かってきた。
次は木…
今度は木の枝を操るイメージ。クレイムービーの木を思い出し、ウニョウニョさせる。
………よし成功。
「……凄いな…草は分かるが、木の枝を簡単に動かすなんて……想像力が高いんだな」
ジェバルがそう褒めてくれた。
「よし、これならなんとかいけそうだ」
「そうだね。早くしないと盗賊の根城で休めないよ?」
え?他人の家を乗っ取る気満々なんだけと…
まぁ散々悪さしてる奴等だから乗っ取る位はいいか。
そして生い茂る草を払いながらもやっとその場所を見つけた。
「洞窟の前に門番っぽい奴……中が根城か」
歩きながら色々呪文の実験をして分かった事。
植物魔法や木魔法は既に生えている物しかまだ呪文に使用できない。
そして地魔法は地面があれば使うことが出来る。
「門番なら植物魔法でいける…か?」
「ふむ、なら試してみたまえ。何かあれば私達で対応するよ。…その前に『風の精霊よ、許可なきモノの侵入を防げ』『水の精霊よ、姿を隠せ』」
リシアが唱えると同時に俺らの周りに膜が張る。
「これは?」
「さっき言っていた結界だよ。私の許可があるまで姿を隠して外敵等の侵入を防げるんだ。まぁ耐久力があるけど、ここら辺の魔物じゃ侵入出来ないから安心するといいよ」
ならシオンは大丈夫そうだな。
「シオン?少しの間ここで待ってて欲しいんだけど…」
「…パパいっちゃうの?やなの!シオンも行くの!ひとりはやなの!」
シオンの涙が溢れてきた。マズイな…どうしようか…
「……シオン。なら私が残るがどうだ?街で買った食べ物も多少あるぞ?」
ジェバルがそう言ってシオンの気を引く。
「んゅ?…たべ…たいの。だけどパパともいっしよにいたいのぉ…」
シオンが葛藤している。あと少しか?
「よし、ならこうしよう。ジェバルと一緒にいい子で待っていたら街で屋台巡りをするか。シオンが好きな物を食べていいぞ?」
「っ!そ、それはなんでもいいの?お肉のくしやきと、お肉をはさんだパンと、お肉のではさんだお肉でもいいの!?」
見事に肉尽くしだなシオンさん…
「あ、あぁ全部食べていいぞ?」
「わかったの!ジェバルとまってるの!そうぞうしたらお腹へったの〜、ジェバルなんかちょうだいなの〜!」
よし、堕ちた。
「あまり食べすぎるなよ?んじゃ行ってくる」
「パパがんばるのー」
シオンの応援を受け、リシアと2人で盗賊の根城に向かった。
門番の近くの草むらに隠れる。二人は何かを話しているようだな。……警戒とかは殆どしてないっぽい。1人座ってるし…
そしてその二人の上には岩肌に沿うようにツタが這っている。
「……あのツタを利用してみる。リシア、サポート頼むぞ」
「さぽーと?」
「あぁ……えーと手助け、補助とかそんなんだ」
「分かったよ。さぽーとは任せて」
イメージ…ツタが伸びる……
そしてツタが伸び始めソロソロと門番に近づく。
………門番に絡みつき拘束するイメージ……
ある程度伸びた所で門番に向かいツタが飛び掛って絡み付いた。
よし!後は…葉っぱで口を被う……
……あっ!?クソしくった!
葉っぱが口ではなく顔に張り付く。
突然の異常に門番が暴れ始め、応援を呼ぼうとする。
「『風の精霊よ、音を閉じ込めよ』」
瞬間リシアの呪文が門番達の音を遮断した。
「ふぅ…たすかったぞリシア」
「これくらい簡単さ」
リシアに礼を言いながら駆け出し、門番に当て身を食らわせて気絶させた。
「ハァ…取り敢えず二人」
ツタを足して更にグルグル巻きにして動きを封じる。そして草むらに転がした。
「後は……洞窟の中か…」
警戒しながら二人で洞窟の中に足を踏み入れた…
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