第19話 心の底の更に下
訓練所へと冒険者達と降りた。
なかなか広いな…学校のグラウンド位か?地下によくこんなに広いの作ったな。
「ウイ…。お前が強い事は知っているが…この人数を相手に1人では難しいだろう。私と2人で闘えばある程度は善戦できよう」
この人数ではいずれ力尽きるとジェバルが協力を申し出たが
「ジェバル。これは俺の喧嘩だ。そして人種の俺だけでやらねぇと何も変わらねぇだろ?」
「いやしかし…それで死んだら…」
「死なねぇよ。こんな奴らに殺されてたまるかよ。それにコイツらは人種が弱いからこんなに見下してんだろ?ならここで今コイツらをぶちのめさない手はねぇよ。なにより…」
そう、人種が見下され、俺が見下されようとも
「俺の大切な
ウイから怒気と殺気が溢れる。
冒険者達が驚き後ずさろうとする…が直ぐに相手が人種と思い出しまた見下す。そして格下に驚かされた屈辱を怒りに変える。
「何時でもいいぜ?まずはてめぇかクソ鬼?それともまとめてかかってくるか?」
「テメェは……オレがゴロズゥ!!」
鬼人がその巨体と丸太の様な筋肉を引き絞り飛び掛ってくる。そして放たれた砲丸の様な拳を身体でいなし避け、拳は地面を轟音と共に抉った。
「はっ!流石脳筋…力は凄いが単純な攻撃だな?」
「オォォ!!!グォォォオオオ!!」
挑発し続けるウイに理性が吹っ飛んだように吠える鬼人。そして同じ攻撃を幾度も繰り返しては避けられ地を抉ってはまた飛び掛る。
さて、どう攻めたもんかな。受け止めるとか論外だしプロレス技も効きそうに無いしな…なら一度ド肝を抜いてやるか…
「ほら来いよウスノロ?一発当てんのに何時まで掛けるつもりだ?あ、手加減してくれてんのか!うれしいな〜」
更に挑発し続ける。
「グォオォォォァアァァァァア!!!!!」
鬼人の踏みしめる大地が爆発したように砕け一瞬で距離が縮まる。
相変わらずの突進しての拳を突き出すだけだが巨体と拳、そしてその脚の爆発力は無視出来ない。
迫り来る拳、冷静に対処すればさほど怖くない。
そのパワーとスピード利用させてもらう。
拳を避けるが自分の身体は相手に潜り込ませる。避けた拳に手を添え下方へずらしその動作と一緒にしゃがみ込む。腰は相手に密着させてもう片方のウデを相手の首にかける。
『そうするとホレ。面白い位に吹っ飛ぶだろ?ハッハ!俺はお前を鍛えてやってんだ。感謝しろよ?』
『お前は家畜だ。俺が育ててやってんだ。逆らうな、嘆くな、お前の全てが俺の物でお前は俺に献上し続けろ!』
『お前に大切なモノなんて必要ないだろ?』
昔に言われ続けた言葉を思い出した。
「ガッ!?ォォォォオオオオオオ!!!?」
己のスピードとパワーで吹っ飛び、高速で壁に突っ込む。
周りが驚きの声を上げて目を見開く。何せ自分の1.5倍程ある巨体を人種が投げたのだ。しかも無傷で…そして投げられた鬼人は壁に埋もれ動かない。流石に自分の力にスピードを上乗せされた攻撃はかなり効いたようだ。
「……ハ…ハハ………んじゃ……フルボッコタイムはいりま〜す。ではまず壁に刺さったクソ鬼を引き抜きに行きま〜す」
ヘラヘラと笑いながら鬼の元に向かうウイを見て違和感を感じる。
「…ウイの奴…様子がおかしい…?」
明るく喋ってるように聞こえるが…感情が篭ってない。
そしてウイが鬼人の元に辿り着き、ズボッと引き抜き地面に放り投げる。
「はい。次は〜手足の関節外しま〜す」
バキッ!ゴリッ!という音に眉を顰める冒険者達
「ほんで〜気を失ってるっぽいので起こしま〜す」
鬼人の顔を地面に何度も叩き付ける。
「ガッ!?グォォッ!!」
「グッモ〜」
「デ…デメェ…」
「は〜い。もいっちょド〜ン」
「グブッ!?」
鬼人の顔が地面をバウンドし戻って来たところを髪を掴む。
「んで次は仰向けにして馬乗りになりま〜す」
「おぼ…覚えで……」
「聞きませ〜ん」
「グォアッ!?」
「あ〜最後は皆さんの〜ご想像通りに……」
ゴス!ゴス!と鬼人の顔を殴り出す。
「泣いてションベン漏らして生まれてきたことを後悔しても………全力で殴り潰す…」
殴る音が徐々に大きくなり速度も上げる。
ひたすら無言で繰り返し繰り返し只殴り続ける。
「「……………」」
誰も声を出せない。
響くのは顔に拳が打ち込まれる鈍く重い音と鬼人が漏らす苦痛の呻き。
誰もが目を離せない。
狂気に染まった様な目で口元を歪めながらひたすら無言で殴り続ける人種を。
誰一人として動けない。
動けば次にあそこで殴打され続けるのは己だと確信してしまったが為に。
「「………………………」」
長い…確かに決闘で相手を殺してもそれは罪にならない…だがあそこで行われているのはなんだ?……少なくとも決闘なんかじゃない。只の一方的な暴力だ。
「……ィ……ウイ…。……ウイ!!」
誰かが声を上げた。未だ殴打を繰り返す人種に寄っていき肩を掴み止める。
「……次は…アンタか?」
ゆらりと立ち上がり振り返る。
その顔を見て息を飲み、更に動けなくなる。
顔中を返り血で真っ赤に染め目に生気はなく見開かれ…口元は三日月の様な弧を描いている。
アレは…なんだ…?人種?……違う!一体…一体俺達は何を相手にしてるんだ!?
冒険者達は気づかない。震えて噛み合わない歯が鳴らす音を。恐怖を抑えようと誰もが己の身体の何処かを押さえているのを。
「なぁ…アンタか?……アンタが俺を縛るのか?アンタが俺の心を壊すのか?アンタが俺の居場所を奪うのか?アンタが俺の大切な……」
「…ゥ…ウイ…ウイ!!私だ!!しっかりしろ!!ウイ!!!」
ナニカが俺を揺らして叫んでいる。
駄目だ排除しないとまた奪われる。
そんなのはもう耐えられない…赦さない…
邪魔をするヤツは消してしまえばいい。
そうすれば俺はまた……
「パパ!!」
小さい衝撃を胸に感じた。ゆっくり手を伸ばし触れる。
「パパ!やなの!怖いの!!どこかにいっちゃやなのぉ!!」
「…あ………あぁ…?…
「……ゆか…り?パパ!シオンはシオンなの!!」
シオ…ン…?……シ…オン………シオン…
「あぁ……シオン……」
胸で涙を流す少女を抱きしめる。その温もりが段々と落ちていた感情を引き上げてくれた。
「……スマンなシオン。心配かけたな…」
「大丈夫なの…パパはずっとシオンと一緒なの!」
「……あぁそうだな…ずっと一緒だ」
あぁ…今度はこの温もりを絶対守りきってやる。
「ウイ…。落ち着いたか?」
そうだ。ジェバルもいたんだった。なんかジェバルにもなんか言ったような…
「……すまないジェバル。面倒かけた。俺、変な事言ってただろ?忘れてくれ」
「あぁ…お前の過去を詮索なんてしないから安心してくれ」
「……助かる」
ジェバルに頭を下げ礼を言う。
「ハァー……あー…スマンな。なんか冷めちまったから今日はおひらきで。後日相手になるよ…」
ジェバルとシオンを除く全員がビクッとする。
「そんじゃま、おつかれさん」
手をヒラヒラさせ訓練所から出ていく。
「あー取り敢えず屋敷まではまだフード被った方がいいよな?」
「そうだな。そうして貰えると助かる」
「パパ!!やたいなの!3本なの!!」
風呂で約束した事を覚えてたか…
「ハハッ分かってるよ。なら今日の飯は屋台にするかジェバル?」
「む?私はそれでも構わんぞ?」
ジェバルの賛同もあったので飯は屋台巡りだな。
「やたいがゴハンなの!?やったの!!パパ大好きなのー!!」
「ありがとさん。ほれ、ジェバルにお礼をいいな?」
「トリさんありがとなの!!」
「…私の奢りなのか?というかトリさん……」
ジェバルがなんかショックを受けた顔をしている。トリさん扱いはキツイのか?
「トリさんもシオンの事おじょーさんってよぶの!」
「あぁ…そうだったな。なら私の奢りでシオンには旨いものを食べさせよう」
「……ん?俺は?」
そんなやり取りをしながら屋台を巡り始めた……
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