第15話 浮遊都市フェルべ

ジェバルと共に森を歩く。


「しかし怪我で動きが鈍ってたとはいえまさか人種に負けるとは思わなかったぞ」

「まぁ人種だと思って侮ってたし、怒りで動きが分かりやすかったからな」

「すまなかったな…しかしあの様な体術は見たことがない。誰に習ったのだ?」

「……恩人だよ」


筋肉質のバーテンダーを思い出し少ししんみりする。


「それよりジェバルの住む街は後どの位で着くんだ?」


もう2時間程は歩いた気がする。


「もうそろそろ森を抜ける。そしたらすぐに見えるぞ」


ジェバルの言うと通り10分程で森を抜けた。


「おぉ……あれが街か」


確かにすぐに見えた。壁で囲まれその向こうには建物の屋根や城が建っているのが分かった。


「では門に向かうぞ。検問が入るが……ウイは身分証など持っているか?」

「俺もシオンも持っていない」

「そうだろうな…すまぬがウイ達は私の奴隷として中に入ってもらう。何せここでは人種や植人種など滅多に見ないからな。私の所有となれば面倒無く入れる。勿論奴隷紋など刻まないので安心してくれ」

「あぁ構わない。シオンもいいよな?」

「かまわないの!」


両手を上げて返事をするシオンを撫でながら門に近づく。


「ようジェバル。依頼は終わったのか?」

「あぁどうにかな。ほら身分証だ」


門番と知り合いらしく話しながら身分証を渡す。


「そういやお前が外に出てから貴族共が……ん?おいソイツは劣種じゃねーか。そっちは植人とか…珍しいのを連れてるな」

「あぁ依頼の途中でちょっとな…私の奴隷にだ」

「あぁ…所有物奴隷なら身分確認はいらねーな。つーか葉っぱの腰巻のみって…おい。街で面倒起こすんじゃねーぞ劣種」

「……あぁ」


門番の言い方に腹が立つが堪える。


…てかそうだよ。俺のこの格好で街中に入るのか……恥ずかし過ぎるぞ!!


「……ウイには屋敷で新しい服を渡す」

「わりぃ。マジで助かる…」


街中に入るとやはり好奇の視線が突き刺さり嘲笑が聞こえる。


「あぁ…恥ずかしい…穴があったら入りたい…」

「穴に入るの?シオンといっしょに土の中で眠るの!あったかいの!」

「シオン…それだと俺は土葬になるよ…」

「ウイ。着いたぞ」


ジェバルに声を掛けられ前を見ると屋敷の門が見えた。


「おぉデカい屋敷だな」

「没落してしまったが元は貴族だったのでな。今は冒険者としてこの屋敷を維持するのに必死だよ」


豪邸とまではいかないが少し古びた感じがいい雰囲気をだしている。


「冒険者?なんか惹かれる名前だな」

「冒険者も知らぬか…本当に地下で暮らしていたのだな」


屋敷に入りたリビングの様な部屋に案内された。


「そこに座ってくれ……とそうだな先ずはウイの服を持ってこよう。少し待っててくれ」


少しして服を何着か持ってきた。


「昔来ていた服だがサイズは合いそうだ。もう着ることも無いから貰ってくれ」

「すまない助かるわ。やっと原始人みたいな格好から離れられる……」

「ゲンシジン?まぁその格好では好奇の視線を集めすぎるからな」


隣の部屋を借り着替えた。


「パパかっこいいの!」

「うむ。見た目は多少軽薄そうだがこれから変に思われはしないだろう」

「……軽薄っていうなよ…」


チャラくて悪かったな!あんたが着てた服だろ!


「まぁいいや。この浮遊島の事を教えてもらっていいか?」

「あぁ。この島はスライフォード。大小二つの島を繋いでいる。そして此処は浮遊都市フェルべ。鳥人が多いが他の亜人種も住んでいる」

「さっきの冒険者ってのは?」

「あぁ。冒険者とは簡単に言えばなんでも屋だ。魔物の退治やその素材の納品。薬草等の採取や修理、調査等様々な仕事を引き受ける者達だ。達成証明を渡せばその場で報酬が支払われる。またどんな者でもなれるが故に粗暴な連中も多く喧嘩なども多いがな」


なるほど。フリーターみたいなものか。


「冒険者登録すれば身分証を発行してくれるぞ?人種の登録はオススメしないがウイの強さなら問題ないだろう。登録しておいたらどうだ?」

「そうだな…これからいろんな場所に行くと思うし登録しとくか。日銭も稼がないといけないしな。何処で登録するんだ?」

「あぁ。それなら私の用事が済んだら案内したいが…明日でもいいか?今日は屋敷に泊まってくれ。勿論飯も付けるぞ」

「お!それは助かる!さんきゅージェバル!」


街に入ったはいいが無一文の俺達にはかなりありがたい!明日登録したらすぐに依頼を受けて稼がないと…。


「さんきゅう?ウイは知らない言葉をよく使うな」

「あぁすまん。ありがとうって意味だ」

「いや気にするな。礼と詫びも込めているんだ。それとこれもその内だ。貰ってくれ」


テーブルの上に袋が置かれる。


「これは?」


ふくろを開けるといつか見たような銀と銅の丸い板が何枚かはいっていた。


「少ないが使ってくれ。これから用事を済ませてくるのでお嬢さんを連れて買い物でもしたらいい」


なるほど、硬貨か。価値はどの位だろう…後で調べるか。


「あぁそうだ…頭にこれを被れ。人種と知られる面倒な事になるかも知れん。それを着ければ多少顔が隠れるだろう」

「取り付けフードか。色々すまないな」

「気にするな…では少々出てくる。夕刻過ぎ位には戻るだろう。余りハメを外しすぎるなよ?」


ジェバルを見送り最初に何をするかと考える。


「…まぁ出てから決めるか」


そう呟きシオンの手を引いて外にでた。



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