第13話 育てる難しさ

「パパ!パパ!スゴイの!ぜっけいなの!」

「………………………あぁ…絶景だな…」


さて、この気持ちをどう説明しよう。


俺達は確かに地下から外へ出れた。それは間違いない。


シオンを肩車しながら大地を踏みしめて歩いた。それも間違いない。


そして今俺達は崖の上に立っている。


シオンを降ろして崖下をのぞき込む。

そこにはゆっくりとした速度で穏やかに流れる水…岩に流れを遮られキラキラと水しぶきが舞い上がり海へ続くであろう感じられる河………





ではない。



「………雲じゃん」

「くもなの?」


雲が流れていた。


上を見上げると晴れ渡った空に漂う雲。

下を見下ろすと晴れ渡った空に漂う雲。


「おかしいな…」

「スゴイのー…くもおいしそうなのー!」


ぱたぱたはしゃぐシオンを捕まえ首をかしげる。




「あぁ…確かに地上に出たのは良かったよ。だけどさ…上空にある地上に出るとか予想外過ぎるわ…」


異世界クオリティがスゴイ。

浮遊島とか…大丈夫だよな?このまま宇宙に旅立ったりしないよな?


頭の中に有名なアノ曲が流れ出した。

女の子は降ってきたのではなく引き抜いたのだが…


「すぐ隣にも陸地があったから気付かなかった…」


そして隣の陸地に渡る為の橋が掛かっていた。


「明らかに人工物だよな。て事は誰か住んでるのか?」


「パパ!パパ!早くぼうけんなの!」

「あぁはいはい。それじゃ隣の島に行こうか」


シオンと手を繋ぎ橋を渡る。


「どうやって渡したんだこの橋…」


しっかりとした作りに頑丈そうなロープが幾本にも渡り固定され島同士にアンカーの様なもので繋がれている。


「流石にこの高さから落ちたら死ぬよな…」

「大丈夫なの!パパはシオンのオゴリにかけて助けるの!」

「ありがとな。だけど驕りじゃなくて誇りな?俺もシオンを誇りにかけて助けるよ」


ギューと抱きつくシオンに笑いかけ橋を渡りきった。


「っふぅ。流石に緊張したな」


さて先に行くには前方の森に入らないと駄目そうだな。


「……虎とかいないよな?」


ポツリとあの時の恐怖がぶり返してきた。


「慎重にいこう」

「しんちょーなの…」


森に入る。

この世界に落ちて来た時の森より陽が余り入ってこない。


「パパ、コレ何なの?」

「ん?虫っぽいな。カブれるかも知れないからポイしなさい」

「はーい」


ポイッと放り投げカナブンみたいな虫は飛んでいく。


「シオンほら水」

「ありがとなのー…ングング」


プハァっ!とビールを一気飲みした親父みたいなシオンを撫で、手に水をかけ洗ってやる。


「今は何時位なんだろ。森の中で野宿は勘弁してほしいな…」


まだ陽は出ているがいつ沈むか分からない。

最悪に備えて食べられるものを見つけたい所だ。


「……肉……せめて食べられる植物を…」

「しょくぶつなの?シオンなの!たべるの?」

「いやいやいやいやシオンは食べないよ!てかシオンは植物に分類されるのか?」


名前 シオン

年齢 0才

種族 マンドラゴラ種


ん?いきなりシオンの情報が出た。

1度触れたら次からは自由に見られるのか?


種族のマンドラゴラ種をタップする。


【マンドラゴラ種】

植物の魔物に分類される。知能はかなり低く、大きさは40cm程で紫の葉、白い蔦が特徴。一生を土中で過ごす個体も少なくない。普段は土中に埋まり引き抜かれた瞬間に叫びを上げる。その叫びを聴いたものはあまりの声量に発狂死するか音波により身体を破壊されるかして死亡する。身体から分泌される体液はあらゆる状態異常を治し身体を癒す。また若返りの秘薬の原料になることから遥か昔に乱獲され、今では幻の魔物として伝承に残っている。


「え?…魔物?」


まさかの分類に驚く。


「まものなのー?」

「あ、いや魔物…も食べられるのかなって思ってたんだよ」

「まものー!たべるの!おいしそうなの!」

「マンドラゴラ種って肉食なのか…?」


なんかシオンと違う情報が所々あるな…知能は低くないし身長も120cmはある。


うわ!あの叫びってめちゃくちゃ危なかったんじゃん!


え?今俺の生命力いくつあんの?


生命力 : 3020/1160


どわっ!!めっちゃ減っとる!!え?この減りやばくない!?1160が本来の俺の生命力だから……6回位死んでない俺?

しかも回復してない?本来の生命力を突破したらその分は消えるだけなのか……




……他に情報は無いっぽいな


「ん?そういやあの人形や虎にも触ったよな」


虎のステータスを念じるが表示されない。

人形も同様に表示はされなかった。


「…何故だ?1度表示しないとダメなのか?それとも時間制限?……分からないな」


「パパー、これ食べれるのー」


シオンから声をかけられ考えるのを中断した。


「どうした?その木の実が食べられるのか?」

「食べれるのー毒とか無いのー」


シオンから手渡される青い木の実を見る。


「なんか大きめの金平糖みたいな形だな」


シオンの言葉を信じて1口齧る。


「ん?んん?これは…」


皮は厚めで胡瓜みたいだが甘酸っぱい果実が口をサッパリさせる。


「うん。なかなか美味いな」

「おいしいの!」


シオンの後ろに実が沢山付いている草から何個かもぎ取り今晩はこれで凌ぐことにする。


「よく毒がないって分かったなー。助かったぞ」


シオンにお礼を言い頭をグリグリ撫でる。


「エヘヘー。ひとくち食べればわかるのー!」


その言葉で固まる。


「シオン!何でも口に入れたら駄目だ!もし毒があったらどうする!!」


咄嗟にシオンを怒る。


「ぴっ!あ、ご、ごめんなさいなの……。でも…グスッ…でもシオンはどくはだいじょーぶなのぉ…ぎがないのぉー」


ぐすぐすと泣き初めてしまった。


「毒が…効かない?………あ!状態異常を治す……なるほど…」


状態異常を治す体液を持つシオンならあらゆる毒に耐性があるのかもしれない。


「ごめ…んなさい…なのぉ、シオンのこと…きらいになっちゃヤなのぉぉ!」

「ご、こめんなシオン!俺の早とちりだったんだ!」


本泣きになってきたシオンに慌てて抱きしめ頭を撫でながら謝る。


「ごめん俺が悪かった。だから泣き止んでくれ」

「ふぇ…シオンのこときらいにならないの?」

「あぁ嫌いになんてなるもんか。寧ろシオンが俺を嫌いにならないか不安だよ」

「パパを嫌いになんてならないのぉ!大好きなのぉ!」

「ありがとな、ごめんな?」

「グズッ…いいの。ゆるしてあげるの」


よしよしと必死であやす。


「パパ…ねむくなってきたの」

「お、そうか。そしたら寝ていいぞ?」

「このまま寝たいの。パパあったかいの…」

「このままはマズイな……あ、シオン背中はどうだ?」

「んゅ。パパに抱きつけるならなんでもいいのぉ」


抱っこのまま散策するのは危ないのでシオンを背負って歩く。


「あぁ失敗したな…怒鳴るのは不味かった…言い聞かせるように優しく言わないと…まだ小さいんだから俺が気を付けないと…」


シオンの寝息を聞きながら反省する。


「……暗くなってきた…ハァ……野宿するしかないか…」


夕陽が沈み赤みがかっていた森が暗くなる。


これ以上進むと危ないと判断し野宿を決めた。

周りを見渡し大きめの木を見つけたので、そこを今日の野営地に決める。

シオンをそっと降ろし、座ってから抱っこに抱え直した。


「ふぅ……」


溜息を吐き晩飯の木の実を齧り空を見る。


「星が…綺麗だな……」


木々の隙間から見える星は俺が住んでいた場所とは見える数も輝きも違っていた。


「ありきたりな言葉だけど宝石箱みたいだ…」


数多の星を見上げ目を閉じる。

シオンの温度を確かめ俺は意識を落とす。


感覚だけは薄く、細く、鋭くしながら…

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