争いは好まぬって嘘

 ガラガラガラ…


 カズヤたちは、アルト、サカイの操縦する馬車に揺られていた。

 カズヤたちが乗っている所謂荷台は、古くなっていたただの荷物運びのものを一団が譲り受け多少の修繕を施して使用しているので、中が空洞になっているのだが、篭っていてとても暑い。

 そんな状況なので、揺られる側は各々思いつく限りの愚痴を垂れていた。


あちぃ…、死ぬ…、てか死ね」

「サカイ!この暑さなんとかならないの!?」

「ならんな。諦めろババア」

「ババっ!あんた後で絶対殺す。五回は殺す」

「えっ、五回も!?」

「私のサカイくんにそんなこと言わな…」

「「「「「いやマジでうるさい」」」」」


 フィアを止めようとしたマイマイは、その発言をみんなから止められていた。

 確かにそんな暴言を吐きたくなる程に中の温度は上昇していた。御者席ぎょしゃせきと比べてもそことはまた違った暑さがあった。




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 メーナの故郷であるハイローナまではほとんど何も景色が変わらない平原が広がっていた。所々に大木や岩があったが、暑さをしのぐには全くもって不向きだった。

 一行は先ほどから全く変わらない景色に嫌気が刺していた。操縦しているアルト、サカイでさえも迷ってしまうかもしれない恐怖にビクビクしていた。

 暑さで思考がぶっ壊れてしまいそうになりながら進んでいたその時…、


「お前ら、今すぐに馬車を降りろ!!」


 盗賊らしき剣を持った男らに声をかけられた。

 アルトはサカイにアイコンタクトで合図をし、馬車を止めた。中にいるカズヤ達はその場に留まらせ、サカイと共に二人で盗賊に対峙した。


「あーあ、面倒臭めんどくせぇ。盗賊との遭遇率高いなオイ。もはや運命論かよ」


 サカイが気だるさを身体中から滲み出すように言った。

 サカイの独特のノリは、大抵の人に受け入れられないらしい。対峙している盗賊たちも、表情から苛立っている様子がうかがえる。

 そのうち痺れを切らしたのか盗賊の一人が二人に剣を振りかざして来た。それに反応したアルトは、自身の背負っている大剣を抜き、つかの先端でそいつの腹を殴った。殴られた男はその場にうずくまった。

 アルトは男を見下ろし、


「無駄な争いは止めろ。余計な労力を使うだけだ」

「くぅぅ…」


 アルトは仲間が倒されてざわついている盗賊たちの方を向き更に続けた。


「俺は戦うのが大嫌いだ。もちろん誰かを傷つけるのもな」


 それを聞いて横にいるサカイがうんうんと頷いていた。

 馬車までは話し声が聞こえてくるので、マイマイは思った。そして言った。


「いや、絶対嘘でしょ。だってすんごいニヤニヤしてるもん」

「た、確かに…」

「ハァ…、ハァ…、ハァ…」

「アルトの息遣いがどんどん荒くなってる。大丈夫なのかなぁ」


 アルトは自分の発した言葉とは裏腹に、どんどん気持ちの高鳴りを見せていた。

 その態度を察した盗賊たちは、少し怖気付きながらも、各々武器を構える。


「ここを通るには通行料が要る。ああ、力づくで突破しようとしても無駄だぞ。今迄強行突破を図った奴らで生きて帰った奴はいない。素直に金を置いていけ」


 向こうに緊張の色は確かに見えるものの、依然として態度は変わらない。

 心の中で少し乗ってやるかと思ったサカイは、盗賊たちに問うた。


「因みになんだが、その通行料ってのはどれくらいなんだ?」

「ほう、やっと払う気になったか。最初から素直にそう言えば良いんだ」


 焦れる盗賊に対して煽りを孕んだ顔でサカイが続ける。


「いや、早く教えてくださいよ〜」

「ちっ、5万ユンドだ。ここを通る冒険者ならそれくらい持ってるだろ。早く払え」


 その会話を聞いていたカズヤが疑問に思ってフィアに聞く。


「ここに来る人たちはみんな5万ユンドくらい持っているんですか?」

「ねぇあんたそれわざと聞いてるの?」

「え?」

「…カズヤ、とりあえず謝っておけ」

「ご、ごめんなさい」


 値段を聞いたサカイは、その返事を一度飲み込んだ。


「ふ〜ん」


 そしてそれを理解しきった後、にこやかに、


「えへへ、聞いただけ♪」

「ああっ?舐めるな!!」


 散々煽られた盗賊たちは怒り心頭になった。そして構えた武器を強く握ってこちらへと向かって来た。

 横で聞いていたアルトは軽く溜息を吐くと、


「お前らと戦って生きて帰った奴はいない…、か。、ね。サカイ!!」

「合点!」


 アルトは持っていた大剣を足元に落とすと、サカイと共に向かって来る盗賊の元へ走る。

 両者が入り乱れると、アルトとサカイは盗賊たちの攻撃を華麗に避け、的確に拳を入れていく。

 そのうちに、相手が攻撃に移る前に片をつけ始めた。

 小気味好いテンポで敵をなぎ倒していくと残り一人になった。


「さて、あと一人。お前だけだな」

「ま、待ってくれ。助け…」

「知るか。散々人を殺して来たのに殺されないだけありがたく思え」

「うわぁあああ!!」


 アルトは最後の一人に渾身の右ストレートを打ち込んだ。それを食らった男は十メートルほど中を舞い飛んでいった。そしてそのまま気絶してしまった。


「うわー!!凄いですねー!!」

「でしょ。どうよ」

「なんでマイマイさんがドヤ顔するんですか」


 感心しているカズヤに誇らしげになるマイマイにマリトがすかさず突っ込んだ。

 そんなやりとりはつゆ知らず、サカイらは転がった盗賊たちをどうするか話し合っていた。


「全員漏れ無く気絶してるけど、どうするアルト?」

「ギルドに連絡しておくか。うん、そうしよう」

「勝手に決め…、あ、うん。分かった」




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「あ、もしもし、ギルドのお姉さんですか?」

『いえ、お兄さんです』

「じゃあ結構です。ありがとうございました」

『いや待て待て待て待て待て!!そんな訳にいきませんよ。要件はなんですか』

「実は、街からストレイフォレストに向かう道を塞いでいた盗賊たちを捕らえたので処理してほしいなって」

『分かりました。向かいます』

「お願いします」


 サカイがギルドに連絡をしている間に、みんなで盗賊たちを縄で縛り付けていた。


「おっ、お前ら有能だね」

「あとは放っておいても大丈夫だろ」

「じゃ、行くか」


 アルトはみんなを荷台に乗せると、再びメーナの故郷に向かって馬車を漕ぎ始めた。


「さて、この先のストレイフォレストって森を抜けるから、そうしたらみんなでハイローナに入ろうな」

「「「「「「……」」」」」」

「ダメだった?」

「「「「「「……」」」」」」

「ごめんなさい」


 アルトのギャグが盛大に滑り、場が和んだのだが、ストレイフォレストに入る直前でアルト、サカイの二人は急に馬車を止めた。


「おい、全員武器を構えろ。空気が重い」


 アルトのちょっと前とは違う態度、急な言葉にカズヤ達は息を飲んだ。

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