野郎はみんな色気付く
カズヤの装備品が決まったところでマリトが、
「俺も装備を新調しても良いですか?」
と言う。
だが、サカイは目つきを尖らせた。
「おい、それはまさか俺の金じゃ
「そっ、そのつもりです。お金無いんで」
「…。堂々と言うなよ…。まるでお前が正しいみたいじゃねぇか」
サカイはハァ、とため息をつく。
そして険しい顔をしながら暫く考える。考える。考える。考える…
暫く考えた末、ここでゴーサインを出しておいたほうがいいのでは無いかと思った。
「よし、仕方がない。絶対返せよ、何らかの形で」
「何らかの形…?」
「ああ」
サカイは軽く頷くと、選んでこいと言わんばかりにマリトの背中を押す。
「良いんですか!?」
「良いんですかってお前、どう考えても確信犯だっただろ」
サカイは諦めと呆れと微笑ましさが錯綜した表情でそう言った。
その会話を聞き、日常の安心感を覚えながらもカズヤが水を差す。
「確信犯って政治的信念に基づいて犯罪を行うことだからサカイさん使い方間違ってますよ」
「えっ、マジで!?恥ずかしー!!」
「だからこういう時は“故意犯”という言葉を使うと良いですよ」
「あんま変わんねぇな。意識するの面倒だから確信犯使い続けるわ。って
サカイはカズヤがリズムを崩したことに大きな声でツッコミを入れた。その時、店主から睨まれた気がし、背中を震わせた。実際気のせいではないのだが。
一方のマリトは気に入った胸当て式の鎧を手に取り、店主に話しかけていた。
店主は割と肩幅のある目つきの鋭い大柄の男だった。鼻の下に携えた白髭が、その厳つさに拍車を掛けている。
「これ、すごく気に入ったんですけど、誰がどこで作られたものなんですか?」
「…」
店主は、マリトの質問に対して何も答えない。そればかりか、マリトの方向を見ようともしない。
鋭い目つきで睨まれるマリト。
その鋭い目つきが、マリトを怯えさせる。
しかし、どうしても誰の作ったものなのかを知りたかったマリトは、機嫌が悪いのかもしれないという可能性を考えながらも再度話しかけた。
「すいません、こちらの鎧はどなたが作られたものなんですか?」
…返事が無い。
不思議に思い、マリトは店主に近寄ろうとした。すると…、
「グガッ!」
「あ…れ…?寝て…、なっ、目を開いたまま眠っている!!」
マリトは頭部に落雷したような衝撃を受けた。この世に目を開いたまま眠る奴がいるのかと。
そんなマリトの姿を見たカズヤがまたもや、
「ちょっとくらいなら目を開いたまま眠る人が多いという話はしたほうがいいですかね」
「いや、今回は無しの方向でお願いします」
カズヤがマリトの方が気になり近寄って行った後、少し経ってからサカイも側に来た。
「何やってんの?」
「いや、この人が目を開けたまま眠ってて…」
そのマリトの困惑した表情を一蹴するように、
「起こせばいいじゃん」
「いや、でも」
「分かった分かった。俺がやる」
そう言うとサカイは店主に更に近づき、
「ジョーゼンさんおはよーう!!」
「うわあああああああああああっ!!」
割と大きめの声で言った。
その声に驚いた店主―――ジョーゼンは、よほど心臓にクリティカルヒットしたのか、思いっきり飛び上がった。そして座っていた椅子から転げ落ち、体を床に打ち付けた。
「
「おいおいジョーゼンさん大丈夫かよ…」
「いや確実にお前のせいだよ!」
サカイが、体を打ち付けて痛がっているジョーゼンに手を差し伸べた。
優しく声を掛け、尚且つ手を差し伸べて来たサカイだったが、ジョーゼンからしたらそもそもこうなった元凶なので、その手を払い己で立ち上がった。
「あーあ、全く何なんだよ」
「この子がジョーゼンさんに聞きたいことがあるんだってさ」
「ふーん。そうか」
ジョーゼンの気持ちを自分に向ける演出をされたマリトは、怯えていた先程よりも幾分気持ちが軽くなり、気を取り直して再度問う。
「あの、僕が今手に持ってる鎧はどなたが製作されたものなんですか?」
だがしかし先程よりも口調が丁寧になっていた。やはり多少引きずっているようだ。
その質問にジョーゼンは、
「それは、ガルロという職人が作ったものだ。彼はこの辺りだと結構腕の立つ職人でな。いきなりそれを選ぶとはなかなかセンスが良いじゃねぇか。寧ろセンスの塊だぜ」
「マジすかー?あはははー。サカイさん俺センスの塊だってー」
「あーはいはいそうですか…って、ガルロ!?」
ひたすら喜び照れるマリトを横目にサカイが驚く。ガルロとは、スタロード採石場で出会った老人のことだ。別に対して驚くことでも無いのだが、サカイはあることを思い出し後悔していた。
それは、サイクロプス討伐の際に、今度お礼をしてやるといった約束をガルロとしたんだという話をカズヤから前に聞いていたことである。
それで、ガルロの店に行けばカズヤの武具を揃えられたんじゃないかという事を思ったのだ。返してもらう予定にはなっているとはいえ、現時点で所持金を減らしたのはサカイなのだ。やはりそこはケチりたい。
「ふっふ〜♪」
そんな事を考えているうちに、マリトは買い物を済ませていた。
それを見たサカイの顔つきが、だんだん険しくなっていった。そしてどんどん赤くなっていった。
そして内に溜まっていたものを吐き出すかのようにわなわなと腕を振り言った。
「ちくしょう!!俺も装備買う!!」
「え、結局買うんですか。さっきお金使うの嫌だみたいなこと言ってたのに」
「うるせぇ!別にそんな事言ってねぇよ!心も体もズタボロにするぞ童貞!!」
「どっ、童貞じゃないし…。童貞感がちょっと人より強いだけだし!」
マリトはちょっと泣き出しそうだった。
その
「それ流行りそうですね。流行語大賞狙いましょう」
「なんだそれ」
「流行語大賞っていうのはですね…」
「「カズヤうるせぇ!!」」
渦中のサカイとマリトが息を揃えて言う。結構名コンビかもしれない。
そしてサカイが、
「カズヤの奴動じねぇ。さてはあいつ童貞じゃないんじゃ…」
誰にも聞こえないほど小さな声で呟いた。そして、少し悔しそうだった。
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