物分かり悪くてごめんなさい


「ちょっと、この子全然起きないんだけど…、どうしてくれるのよ」


 エルフの少女を気絶させたユーラに対して、フィアが怒鳴る。

 ユーラの方はといえば、いやそんなこと言われてもと言わんばかりの表情をして人差し指で右頬を掻いていた。勿論局部は丸出しで。


「いやそんなこと言われても」


 遂には言った。

 少しは反省の色を示すも、特にどうしようもないというような表情を悟ったのか、フィアはユーラを責めるのを諦め、エルフの少女に両手を仰いで風を送る。なんと原始的だろうか。

 ユーラはきまりが悪くなったように頭を書きながら静かにその場を立ち去った。その事に気が付いた者は誰一人として居なかった。




 --------------------




 およそ一時間後―――


「んっ…、ここは…?」

「あっ、目が覚めたみたいね。おはよう」


 エルフの少女が目を覚ました。

 目を覚ましたエルフの少女に向かって、フィアが声を掛けた。

 エルフの少女は、目覚めたばかりで状況がよく分かっていないのか、辺りを見渡し、目をパチクリさせた。

 少女は軽く呼吸をすると、おおよそ落ち着いたようだ。

 そんな少女を見て、フィアが尋ねた。


「名前を教えてくれる?まだ聞いてなかったから…」

「あっ、私は、メーナといいます」

「メーナちゃんね。宜しくね。それで、依頼のことなんだけど…」

「ちょっ、待て待て待て待て待て!!」


 不自然さを一切感じさせずに仕切り始めたフィアに対して、思わずサカイ達はツッコミを入れた。

 そのツッコミに対してフィアは、そういえば私ここの責任を負ってるわけでもなかったわ、てへっ♡みたいな顔をした。

 彼らがアイコンタクトを取り合っている間にアルトが、待ってましたと言わんばかりの顔をした。そして…、


「んんっ、さて、依頼のことなんだが、メーナさんは、自身の母親を探して欲しいと、そういうことなんだね?」

「はい、そうなんです」

「つまりそれって、どういうこと?」

「「「自分で聞いといて!?」」」


 アルトは、仕切り始めたのは良いものの、根本から理解していないようだった。それにはアルトのことを尊敬してやまないスター達も喫驚仰天であった。

 そしてスターは思った。


「(この人結構バカなんじゃ…)」


 と。

 マイマイがふと横を向くと、スター達の困惑した表情に気付いた。


「ごめんね〜、うちの団長だんちょ、みんなが思ってるほど出来る男じゃないんだ〜。なんかもう出落ち感が否めないけど我慢して」


 そう言い終わると、右目を閉じウインクした。その表情に、マリトは釘付けになった。

 恋多き男、マリト。実に単純明快なり。(ただしマイマイはサカイの彼女である)

 そうこうしている間に、サカイ、フィア、べマーラ、カズヤの4人は、着々とメーナから話を引き出していた。


「私と父、そして母は、ここから西におよそ15キロ離れた“ハイローナ”という街に一軒家を建てて3人で暮らしていました。その日々は、とても幸せでした。でも、ある日…」




 --------------------




 メーナは、その日の出来事を、詳細に語り始めた。


「それは、何もない平穏な朝でした」


ここはハイローナにあるメーナの自宅。木材を中心に建てられた、レトロな雰囲気の一軒家である。


『おはよう、メーナ』

『お父さんおはよう。お母さんおはよう』

『おはよう』


 いつものように、両親におはようと言う。そして、朝食を食べ始めた。それが起こったのは、その時だった。


『おいっ!リアナって女は居るか!!』


 何人かの男が、家の扉を蹴破って入って来た。リアナというのは、メーナの母の名前だ。

 その男達は、母を探していた。理由は、分からない。

 それを見たメーナの父がいきなり入って来た男達の前に立ち塞がった。


『リアナは私の妻だ。急に現れたお前達は無礼極まりないが、一応訊く。妻に何の用だ』

『それを言ったら言う通りにしてくれんの?』

『それは分からん』

『ほう…。ふんっ!』

『ぐはぁっ!』


 メーナの父の言葉を聞くや否や、先頭にいた男が、頬を殴った。


『何をする…』

『いやぁ、お前があんまりにも舐めた態度を取るもんだから…、つい?』

『貴様…』

『まあ良いや。取り敢えずその女…、俺らにちょうだい』

『何を…、良い訳無いだろう』

『ふーーーーーん、あっそ』


 そう言うとその男は、服の内側に潜ませた短剣を取り出し、父の腹に突き刺した。

 父の腹部からは、血が大量に溢れていた。メーナとその母は、怖くて裏に隠れていたのだが、その光景を見た母がメーナの方を向いて言った。


『お母さん、あの人たちのところへ行ってくる。メーナは絶対に出て来ちゃ駄目よ。分かった?』

『嫌だよそんなの!!嫌だ!!』

『しっ、聞こえちゃう。私はどうなったって良い。あなたに危害が及ぶのはどうしても嫌なの。お願い分かって』


 メーナはとても悲しそうな顔をして言う母の姿を見て、静かに頷いた。


『ありがとう』


 男達は、足元に倒れた父を見て、


『あーあ、もうくたばっちゃったよ。つーまんねぇの。早く出てこないともう一人もっちゃうよ?ここに子供がいることくらい、知ってるんだぜ』

『待ちなさい!私はここよ』

『おっ、やっと出て来たか。待ちくたびれたぜ。なんでお前が連れ去られようとしているかは、分かるよな?』


 メーナの母は、とても怯えた様子だったが、その言葉に、頷いたようにも見えた。

 メーナは、母が連れ去られて行く様を、何も出来ずただ泣きながら見ていることしかできなかった。床には、水溜りが出来ていた。




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 メーナは一通り話し終わると、


「母がどうして連れ去られたのか、それは今も分かりません。もしかしたらもう生きていないかもしれない。それでも、このままさよならなんて嫌。せめて、どうして連れ去られたのかくらいは知っておきたいの」

「なるほど、分かりました。アルト、どうする?」

「つまりその男達をぶっ飛ばせば良いのか」

「話聞いてた?もういい。その依頼、我々が責任を持って成し遂げてみせます」

「本当ですか!?ありがとうございます」


 メーナは、涙を流してサカイに感謝した。

 アルトの顔がなんだか不服そうだったが、サカイは気にしない事にした。

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