見つけにくいものですか?


 こちら側を見て男達がジリジリと距離を詰めてくる。サカイ達は少しずつ後退りしながら男達を睨みつけていた。

 するとふとその中の一人が、カズヤ達の後方で倒れているエルフの少女を見つけた。そしてそいつは一番前に立っていたサカイに問うた。


「おいお前、そこに倒れているエルフの女はどうしたんだ」

「すぐ近くで倒れてたから介抱しているだけだ。何か文句でも?」

「いや、介抱してるの私なんだけど」


 妙に威圧的な男の態度に腹を立てたのか、サカイは更に一歩前へと出、目の前の男を睨みつけた。そこでは当然のことながらフィアの言葉は届いていないし、勿論視界にも入っていない。

 先の威圧的な態度も虚しく、男は更に続けた。


「今すぐそいつを渡してもらおうか」


 サカイは、男の言葉を聞いた後、妙に意味深なを作り、


「この女の子の事は全く知らないし、特に情が湧いているわけでもないから、はいはいどーぞと言いたいところなんだが、残念ながら俺は一度やり始めたことを投げ出すのが凄く嫌いでね。大変申し訳ないんだけど、渡すわけにはいかないなぁ」

「いやだから、何であんたがカッコつけるのよ」


 サカイは、こちらの事情をろくに聞かずに話を進めようとする男達に苛立ちを見せた。やはりフィアの言葉は届いていない。

 男達は全くもって話が進まないことに焦れったさを感じ、考えを変えたような表情を見せる。


「仕方がない、強行突破だ」

「何だと!?」

「聞こえなっかたのか?力尽くで奪い取ると言ったんだ」

「いや、言ってないですよね」

「んだとコルァ!!やっちまえ!!」


 カズヤはつい、いつものくせで軽いツッコミを入れてしまった。そのせいで余計に男達の怒りを買ってしまったようだ。




 男達は全員、短剣を所持していた。基本となる攻撃力もそれなりのもので、いくらサカイがかなりの実力者でも、さほど広くないスペースの中、エルフの少女に付きっきりのフィアを守りながら戦うのは難しく、苦戦を強いられていた。

 カズヤは今回も何もできずに見る専門に徹していたし、べマーラは自分の弾が外れた時の代償を考えて、引き金に手を掛けることを躊躇ためらっていた。

 そんな訳で、実際に男達とやり合っているのは、サカイ一人だけだった。それでも、味方の誰一人にも傷を負わせず、まして指一本も触れさせないその戦いっぷりは、彼の実力を表現するのには十分すぎる程だった。


「くそっ!あんな槍を向けられたらエルフに近づけねぇ」

「かと言ってあっちも俺達には下手に攻撃できないみたいだからな」

「どうする、応援を呼ぶか?」

「よし、頼むぞ」


 男達が何やらヒソヒソと話した後、一人が通信連絡用の石を取り出した。

 それに気づいたサカイは、行動を阻止しようと男達に向かっていった。


「援軍でも呼ぶ気か!そうはさせん!」

「おっと、今は攻撃はさせないよ」


 連絡を取っている所に攻撃をさせないように、男たちはサカイの目の前に立ち塞がった。


「これじゃあ援軍を呼ばれてしまう…」


 流石のサカイも自分たちの置かれている現状をピンチだと感じ、頬に汗を滴らせていた。そして少しずつ後退りをしていた。そんな中、


「よし、今、下方の探索をさせていた奴らを呼んだ。これで勝負をつけてやる」

「あわわわ…、どうしましょう…」

「カズヤうるせぇ!」


 絶体絶命の状況に置かれた中、少しずつ足音がするようになった。援軍が向かっているのだと察したサカイ達の表情は、更に険しくなっていった。

 それとは裏腹に、男たちの顔はどんどん晴れやかになっていく。

 先程よりも明るい男たちの顔も、サカイ達の焦りを加速させるには十分すぎる材料だった。

 暫くの間、サカイが男達を睨みつけ、沈黙の時が続いた。

 援軍が来る前にカタをつけようと、サカイが飛び出した次の瞬間、


「待たせたな、お前ら」


 明るく希望に満ちた声が聞こえた。


「待ってました!」


 しかしそれに歓喜したのはサカイ達ではなく、男達だった。彼らの援軍がやってきたのだ。


「ははは!これでお前らもおしまいだな!さあ、エルフを渡してもらおうか」


 男たちは先程にもまして威圧的になり、こちらに詰め寄って来る。合わせてサカイも後退りをする。するとその時、


「ぐはぁーーー!」


 援軍たちの後方で、何かが切りつけられる音と、絶叫が聞こえた。


「何事だ!?」


 突然のことに男達は困惑した。どんどん絶叫が増えていく。


「おらおらおらおらぁ!」

「ぐわぁ!」


 何があったのかが気になる野次馬スピリットでカズヤは窓を開け外を見た。

 そこには、見知った、頼りになる男の姿があった。


「アルトさん!」


 男達を切りつけていた者の正体は、アルトだった。その後ろにはスター、マリト、マイマイも居る。

 さっきまでこちらを見ていた男達の意識は、もうとっくにアルト達4人に向けられていた。

 それを見たサカイは室内に居た男達を槍で倒し、べマーラに指示を出した。


「べマーラちゃん、やっちゃって!」

「…、はい!」


 べマーラはサカイの指示を聞くと、瞬間、銃を取り出し小屋を出、次々と男達を倒していった。

 アルト達4人も、剣や魔法を駆使して男達を倒していった。敵の数は急激に減り、遂には自ら命を断つ者まで出てきた。結局、その場に居た者達は全滅してしまった。




 アルト達4人はサカイに駆け寄った。サカイはその4人を引き連れて小屋へと戻った。

 小屋へと戻ると、フィアがエルフの少女に回復魔法をかけ続けていた。未だに少女は戻る気配がしない。余程の傷を負ったのだと見て取れる。

 それを見ていたマイマイが、


「私も手伝うよ」


 と言ってフィアの隣の座り、少女に回復魔法をかけた。


「うう…、うう…」

「頑張って」


 少しずつ呻き声をあげる少女に対して、フィアとマイマイは声を掛けながら回復魔法を当て続ける。

 それを、状況が分かるサカイとカズヤ、状況が分からないアルト・スター・マリトが見守る。

 真剣な面持ちで2人が回復魔法をかけ続けると、少女がそっと目を開いた。


「ん、んん…」

「「やったあ!」」


 フィアとマイマイは、少女の目覚めを喜び両手を握り合わせた。

 少女は自分の体を起き上がらせ、辺りを見渡すと、少し困惑した表情を見せた。もれなく知らない人に見られていることを確認すると、


「ここは?」

「ここはリリハの森の中にある小屋だよ。近くで倒れていた君をここまで運んだんだ。そちらのフィアさんとマイマイさんが、傷付いた君を看病してくれたんだ。」


 カズヤの言葉を聞いた少女は、急に青ざめ、震えながら尋ねた。


「あの…、私を負っていた盗賊達は一体どこにいるんですか?私、追われているんです」

「盗賊?もしかして今の奴等か。それなら俺達が倒したぞ」

「本当ですか!?ありがとうございます!」


 少女はそう言うと勢いよくサカイに抱きついた。サカイはとても嬉しそうにデレた。


「…この野郎」

「抑えてマイマイ!」


 マイマイは怒りで拳を震わせていた。

 自分の置かれている状況がさっぱり分からないアルトは、仲間外れ感が否めないことに悔しくなったのか、急に口を開いた。


「どうして追われているのかは分かるのかい?」

「いえそれが、全く分からないんです」

「そうですか…」


 アルトは、仲間外れ間から脱しようと首を突っ込んだことを、少し後悔した。それを見たサカイが、助け舟のようなものを出した。


「だが例えば、その盗賊とやらが俺たちが追っている奴等だったとしたら、どうだ?」

「この子から金目の物を奪うために追っていた?」

「そう」

「なるほど!そういうことか」


 アルトは一人で納得し、満足したのかニヤニヤしていた。

 一連の話を聞いていた少女の顔からは緊張が消え、寧ろ笑顔になっていた。そして一度大きく息を吸い込むと、真剣な顔を作った。


「あの、皆さんにお願いしたい事があるんです」

「お願いしたい事?」

「一緒に、母を、探してもらえないでしょうか」


 その言葉に、場の和んだ空気が冷たくなっていくのが感じられた。

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