少女の捜し物編

ちゃんと勉強しておけば良かった

「あぁ…、あぢぃ…」


 サカイは、照りつける日差しに、完全にへたりきっていた。


「なんでこんなに暑いんだよ…。もう少し優しくなれよ!なぁ、太陽さんよォ!!」

「ちょっと!あんたさっきからうるさい!こっちまでだるくなっちゃうでしょ」

「うるせぇ年増女!」

「あんたと一個しか変わらないんですけど」


 いつの間にそんなに距離が近くなったのか、フィアとサカイが犬猿みたく言い争っていた。

 カズヤ、サカイ、フィア、ベマーラの4人は、緑豊かな森を静かに歩いていた。




 遡ること2時間前――――


 アルトは、朝早くからみんなをリビングへと呼び出していた。


「おい、ユーラは?」

「まだ寝てます。全然起きませんでした」

「風呂じゃないなら今日は許す。寝かしてやれ」

「えっ?アルトが優しい!天変地異が起きるんじゃ…?」

「うるさいぞサカイ」


 煽るサカイを黙らせるために、頭を軽く殴ると、アルトは喋り出した。


「みんな、朝早くにすまない。最近、リリハの森に出掛けた人達が盗賊に襲われるという事件が多発しているらしい。そこで、今回はそいつらを捕まえる依頼を受けた。早速向かうぞ」

「アルトさんと一緒に仕事が出来る!嬉しい!」

「スター、何か言ったか?」

「いっ、いえ何も!」




 前と同じようにアルトとサカイが馬車を引いてリリハの森へと向かった。

 リリハの森に到着すると、ベマーラが近くの木に手綱を括り付けた。


「マイマイ、カモフラージュの魔法をかけておいてくれ」

「分かった」


 アルトに言われてマイマイは、馬車に対して辺りの景色と同化させる魔法をかけた。

 魔法がかけ終わったことを確認すると、アルトは、


「さて、リリハの森は結構な広さがある。そこで、二手に分かれて盗賊を探すことにする。マイマイ、スター、えーっと…」

「マリトです!」

「…マリトくんは俺に付いて。残りはサカイに付いて捜索してくれ」

「名前覚えてもらってなかった…」


 マリトのテンションは、誰がみても分かるほど下がりきってしまった。




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 カズヤ達4人は、あれから更に歩き続けた。

 照りつける日差しは、どんどん体力を消耗させる。方位磁石は全員が常備していたが、ここがどこなのか分からないし、盗賊の居場所など全く見当がつかない。ただただ疲れるだけだった。

 気付けば、太陽は殆ど自分達の真上で輝いていた。

 根気良く歩き続けていると、ふと、「ぐぅ〜」っと誰かのお腹が鳴った。


「おい誰だよこんな時に!」


 1番疲れているであろうサカイが、その音に苛立ち声を出した。

 少しばかり重苦しい空気が流れ、沈黙になった。

 その空気に耐えきれなくなったのか、ベマーラが小さな声で、


「あの…、わた…」

「僕です!僕のお腹が鳴りました。ごめんなさい!」


 そのベマーラの声を遮ってカズヤが名乗りを上げた。

 カズヤのあまりに堂々とした態度に、場の空気が一気に軽くなった。


「ふふっ、カズヤくん、もういっそ潔いわね!」

「はぁ…、仕方ない。飯にするか。だがこんな中途半端なところじゃ食べにくい。少し水の音がするからそこまでは進もう」

「やったー!昼ご飯だ!」

「カズヤうるさいぞ」


 サカイは、軽くなった空気に従って、少し休憩することにした。




 やっとの思いで水場である川まで着くと、サカイは持って来ていた藁のような材質のシートを広げ、用意されていた弁当箱を取り出した。そして中に入ったおにぎりを分配した。

 カズヤはおにぎりを受け取ると、口を大きく開いてそれを頬張ろうとした。するとその瞬間右肩をポンポンと叩かれた。


「ふぇっ!?」


 カズヤはいきなりのことに背中を震わせ驚いた。触れられた方を向くと、そこにはベマーラが居た。


「あの…、カズヤくん。さっきは庇ってくれてありがとう。私あの時凄く恥ずかしかったから…」

「いやいや、女の子には出来るだけ恥をかいて欲しくないですから。それを助けるのが男の仕事です!」

「ううん、それでもありがとう」


 そう言うとベマーラは、頬を赤らめながらフィアの方へと行ってしまった。


「やばい…。すごいドキドキした」

「なんだなんだカズヤくん。恋か?恋なのか?お?」

「うるさいですよサカイさん」

「はいはい、ごめんなさいね〜」


 サカイは、カズヤの重要な秘密を握ったような微笑みを浮かべて、持っていたおにぎりを頬張った。




 1時間ほど休憩すると、4人はまた盗賊を捜索するため歩き出した。

 生物は水辺の近くに住処を作る習性があるということで、川の上流に向かって歩いて行くことにした。

 途中で水を汲みながら進んでいるとフィアが、


「みんなちょっと待って、なんか声が聞こえない?少し静かにしてみて」

「そうか?」


 フィアの言葉を聞いた3人は、静かに耳をすました。すると、


「うう…。うう…、助け…て…」


 少し遠くから女の人と思われる呻き声が聞こえた。


「どうする?」

「いや、放っておこうぜ」

「でも、助けてって」

「取り敢えず行きましょう!」


 カズヤはそう言うと一目散に声のした方へと駆け出した。


「あっ、おい待て!カズヤ!」

「とにかく追うわよ!」


 続けたフィアもカズヤを追い、走り出した。ベマーラも、それに続く。


「たく、面倒臭せぇ」


 サカイも結局、頭を掻きながら3人を追った。




 4人が声の元へと辿り着くと、そこには透き通るような白い肌で、傷を負った髪の長い少女が倒れていた。

 少女は微かな吐息を漏らし、いまにも消えて無くなりそうなほど弱っていた。


「耳が長い…人間じゃないってことかなぁ。エルフ?シルフ?異世界アニメ観て勉強しておけば良かったぁ…」

「おいカズヤ、お前は何の話をしている?」

「このきめ細やかな肌は、エルフだわ。歳はよく分からないけど、見つけちゃった以上はとにかく治療が必要ね。でもこんな所じゃ…」


 怪我人を見つけ緊迫した状況にオドオドしていたベマーラは、焦って辺りを見渡していた。すると少し先に小屋があることを発見した。


「フィアさん、あそこに小屋が…」


 ベマーラは、小屋を指差しながらフィアに伝えた。


「でかしたわベマーラちゃん!ありがとう。あとでよしよししてあげる。サカイ、カズヤくん、慎重にこの子をあそこまで運んでくれる?」

「分かりました」

「了解!」


 エルフの少女の上半身をカズヤが、下半身をサカイが持ち上げると、慎重に小屋へと運び出した。


「これ、持ち方変じゃないか?」

「なんとなくですけど、この方が彼女への負担が少ない気がして」

「ああ、そう」


 小屋へ着くと、フィアは入り口の扉を開けた。

 中に入るや否やフィアは、中心に垂れていた電灯の紐を引っ張った。すると、パチパチと音を立てて明かりが灯った。


「良かった。電気は生きてるみたいね。さて、治療するわ。少し待ってて」

「ああ、頼むぜ回復担当さんよ」

「ありがと。でもいつもマイマイちゃんに煽られてるからって私を煽ってんなら後で殴るわよ?」

「うるせぇ、煽ってなんかいませんよーだ」


 フィアを治療に専念させるため、残りの3人は一言も喋らない姿勢を貫いていた。その気遣いに少し嬉しくなりながらフィアは回復魔法をエルフの少女に当て続けた。

 するとその時、閉じていた扉が勢いよく開かれた。


「おいお前ら!俺たちの拠点で何やってる!」


 4人が入り口の方を向くと、武器を携えた屈強な男達が、こちらを睨みつけていた。

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