ピンチは人を変える

「さて、紹介も済んだことだし本題に入ろうか」


 その瞬間、場の空気が凍りついた。

 ピリついた空気を感じ、カズヤは周りを見渡した。その場にいる全員が真面目な顔つきになっている。何が始まるのかと、少しばかり緊張した心持ちになった。


「話があると言って来てもらったのだが、その話というのは、討伐の報酬についてのことだ。あのモンスター、レオは殆ど苦労なく倒すことが出来た。しかし我々はこれを正式な依頼であると考えている」

「「「!?」」」


 スター一団の3人は、丸くなっていた体を急に起き上がらせ驚いた。とっさの判断で呼びつけてしまったのは確かだが、てっきりボランティアだと思っていた。

 然し乍ら助けてもらった手前、ここで拒否をする訳にもいかないので、スターは恐る恐る、


「ちなみに希望金額は…」


 と尋ねた。アルトは少しばかり頭を抱えたのち、


「今回はサカイが討伐してくれた。サカイはどう思う?」

「うーん、あれは討伐ランクC+の割と上級モンスターだからなぁ…。あんなのがふらついてんのがおかしいんだよ。あ、そういえばレオ討伐のクエストあったよね。あれ幾らだっけ?」


 それを聞いたマイマイは確認をするためか別室へと移動した。

 暫くするとマイマイが戻って来て、


「5メートル級のやつが1万7千ユンドだったよー」

「マイマイありがと。5メートルが17いちななだろ…、だったらキリ良く2万で!」

「にっ、2万ユンド!?まじですか…」


 スター一団の3人はその数字を聞いた途端目を丸くした。カズヤにはそれがどれくらいのものなのかサッパリ分からなかったが、直ぐには払えないということだけは理解した。


「どうしよう、マリト今どれくらい持ってる?」

「400ユンド」


 スターは、たったそれだけ?と言わんばかりにマリトを見ていた。


「お前はどうなんだよ」

「700ユンド」

「大して変わらねぇな」

「俺の方が少し多いからな」

「いやそこドヤるとこじゃねぇし」


 2人分を足しても1200ユンド。全然足りない。スターは最後に切れそうな紐に縋り付くように、


「フィアさんはどれくらいあるんでしょうか」


 と尋ねた。フィアは腰に掛けているお金の入った袋を外すと、袋を開けて中を覗いた。すると顔を流れる汗の量が一気に増えたのが見てとれた。そしてゆっくりとスターの方を見ると、口を噤ませながら、


「300ユンド…」

「「1番無かった!!」」


 なんとなく予想はついていた。何故ならば、お金のこすれる音が殆どしなかったからである。スターは自分たちの財力に頭を抱えながらも、最後の希望を繋ぐように、


「ちなみにですけどカズヤくんは?」

「財布に8万円入ってるんですけど使えますか?」

「何それ初めて見た。勿論使えないよ」


 3人分を足しても1500ユンド。到底届く額ではない。スターの絶望が自分たちへの失望に変わった。

 因みに、1ユンド=1円である。それはもうご都合主義だ。仕方ない。

 カズヤは3人の方を向いた。今朝までの歓喜とは全くもって別人であった。少し老けたのではないかとまで思った。

 一方のスターは失望を通り越して世の中の理不尽に愚痴を吐き始める始末。挙句にはカズヤに対して使えねぇと悪態をつきだした。

 あまりにも気まずい空気が流れているのでアルトはサカイに対して、


「もう少し下げてやっても良いんじゃないか?」

「いいや、譲れないね。一度決めたことは曲げない主義なんでね」


 このやり取りで、更に場の空気が重くなり、遂には誰も言葉を発さなくなった。


「へぇー、あのモンスターレオっていう名前なんだ。知らないなぁ」

「カズヤくん、ややこしくなるからちょっと黙ってて」


 スターはそっとカズヤを抑えた。




 重苦しい雰囲気のまま、5分程が過ぎた。その時、空気を打破するかのようにアルトの腰が光り出した。そして取り出したのは光り輝く青い石。それを見たカズヤは、


「スターさん、あれは一体何ですか?」

「あれは通信連絡用の石だよ。俺も持ってる。仕組みは全然知らないけど」

「ちょっと、静かにしてください」


 マイマイに注意されて2人は黙り込んだ。


「はい、こちらアルト一団のアルト。どうなさいましたか?」

「おおアルトくん。私だ、ガルロだ。今、スタロード採石場にいるのだけど、モンスターが暮らしている領域に入り込んでしまったみたいで、ひいっ!助けて欲しいんだ」


 直接聞いていなくても響くくらい危機的状況なのが伝わってくる。アルトは目をかっ開いて、


「分かりました。直ぐに向かいます。出来るだけ動かず、見つからないよう隠れていてください」

「わっ、分かった。宜しく頼む!」


 アルトは石を腰にしまうと、


「よし、今直ぐスタロード採石場に向かうぞ!準備をしろ。スター一団の皆様も一緒に!」

「あ、はい」


 スターは言われるがままに立ち上がり鎧を整えた。一行が外に出ると、二頭で引くであろう馬車が止めてあった。


「さあ、後ろに乗って!」


 アルトは荷台に乗るよう促すと、馬に乗り込んだ。サカイも隣の馬へと乗り込んだ。


「行くぞ!」


 アルトとサカイがが手綱を引くと、馬は勢いよく走り出した。




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 パシッ、ヒヒーン!


 スタロード採石場の入り口へ着くと、アルトとサカイは息ぴったりに手綱を引き、馬を止めた。空かさずベマーラが繋がれている紐を引っ張り近くの木へと括りつけた。


「急げ、ガルロさんが心配だ」

「アルト待って」

「どうしたんだマイマイ」

「ユーラが居ないわ」

「あの野郎…」


 アルトは静かに拳を震わせた。同時にカズヤは、アルトはもう諦めているように感じた。




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「ふい〜、極楽極楽。あんな危険なところ行けるかっつーの」


 皆の予想通り、ユーラは再び風呂に入っていた。




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「もうあいつはいい、早く助けに行こう」


 アルトが中へ入っていくと、続けてみんなも入っていった。

 中には特にモンスターの影は見当たらず、スムーズに進むことが出来た。しかし、入り口から500メートル程進んだところから急にサイクロプスの群れが現れた。

 強行突破も懸念されるほどの数である。


「ちっ、数が多いな…。どうするアルト?」

「なんだサカイ、怖いのか?」

「そんな訳ねぇじゃん」

「とにかく薙ぎ倒すしかない!」

「アルトならそう言うよな」


 アルトとサカイがサイクロプスの群れに突っ込んでいくと、スターとマリトも続けて向かっていった。するとサカイが、


「ようお前ら、出来るだけ倒しておけよ。それでちゃんと換金しな。はっはっはー!」


 サカイの言葉は2人を現実に引き戻しながらも、妙にやる気にさせた。それをエネルギーに次々とサイクロプスを倒していった。フィアとマイマイも魔法で4人を援護する。時に回復、時に攻撃を。


「頑張れー!みんな頑張れー!」


 かく言うカズヤは勿論何もしていない。と言うより何も出来ずただ応援しているといった方が正しい。




 サイクロプスを倒しながら進んでいくと、ひぇー!という悲鳴が聞こえるようになった。その悲鳴を頼りに奥へ向かうと、今までのやつらの3倍はあろうサイクロプスが現れた。先頭陣は進みを止めると、じっとそいつを睨みつけていた。

 ジリジリと少しずつ距離を縮めていくも、攻撃体制にはなかなか移れず、焦れったい時間が過ぎる。すると痺れを切らしたのかサイクロプスが右拳を大きく振った。その衝撃で先頭の4人が後方へ吹き飛ばされた。

 4人が吹き飛ばされて、先頭になってしまったフィアとマイマイは自身の杖からエネルギー弾のようなものを放つ。しかしあまり効いていない。

 もうどうしようもないと2人が思ったその時、側に居たベマーラが腰から二丁の拳銃を取り出してサイクロプスの胸めがけて銃弾を打ち込んだ。

 胸に攻撃を受けたサイクロプスはその箇所を抑えながら土煙を上げ倒れ込んだ。ベマーラは安堵の表情を浮かべた。

 しかし、完全に倒せてはおらず、サイクロプスはベマーラに攻撃をしようとしていた。それを見たカズヤは恐れながらも咄嗟にサカイの近くにあった槍を拾い上げ、


「うぉぉぉ!!」


 と叫びながらサイクロプスの額にある目に思いっきり突き刺した。サイクロプスは辺りが揺れるほどの咆哮を上げると、一切動かなくなった。


「うう…うう…」


 ふとカズヤが横を見ると、老人が1人震えていた。


「おお、助けてくれてありがとう。何かお礼をしなければ」

「いえ、お礼なんてそんな」

「えっ、お礼!?是非是非!!」


 カズヤが断ろうとしたその横から、さっきまで倒れていたスターが顔を出した。老人は急に出てきたスターを鬱陶しがり、顔をしかめた。


「おい、良い空気台無しになったでしょうが」


 カズヤは少し切れ気味に言った。

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