人生調子に乗ってはいけない

「あの…、何ですかこれは」

「君の歓迎会だよ」


 そうスターは言うものの、転移した場所から1kmほど歩いた場所にある少し大きめの木の下で、軽く火を焚いた程度であった。


「改めて、我らのパーティにようこそカズヤくん!これから宜しく!あ、まだ自己紹介をしていなかったね。俺は団長のスター。剣士だ。前線で戦っている」

「次は俺!マリトだ!剣士だ!」

「簡潔で良いね!」

「ありがとうスター!」

「(何なんだこいつら…)」

「私はフィア。ウィッチよ。このパーティでは主に後ろから2人をサポートしているわ。」

「パーティは俺たち3人。でも今日から4人だ。君を入れてね」


 あたりは少し寒くなってきた。太陽は沈みかけ、風が出てきた。カズヤは暖房が恋しくなってきた。風邪をひく心配が頭を過ぎったので、スターに問いた。


「寒くなってきましたね。拠点みたいなものは無いんですか?」

「いや、無いよ。なんで?」

「あ?」


 スターは、普通に当たり前のことを答えたつもりだったので、カズヤの形相が不思議でならなかった。

 カズヤもまた、スターのとぼけたような顔が不思議でならなかった。


「なんで無いんですか?」

「いや、なんでって…、俺達旅の一団だし。寝床は毎日違うよ」

「えっ!?きつくないっすか?」

「全然きつくない!てか疑問符多いよすごく疲れる質問責めか!!ニーズねぇよ!!」

「すぴー…」

「あ、れ…?」


 ふとマリトが横を見ると、まるでこの面倒なくだりから逃げるかの如くフィアが早々に眠っていた。


「あーあ、フィアちゃん寝ちゃったよ…。グダクダしてたから飽きちゃったのかな?ま、俺達も寝るか。あ、歓迎会ゆるゆるになっちゃったね。そこに今朝獲れた牛の肉あるから食べてね。おやすみ。すぴー…」

「スターずるい!俺も寝る!」


 カズヤは、2人が眠るのを見て、少し微笑ましい気持ちになった。


「はーい、おやすみなさーい。ってえぇぇぇ!!ちょっと待てやー!!パジャマも無いし寝袋みたいなのも無いしどーやって寝るのさ!下ゴツゴツするし!てかまず歓迎会は!?ちょ、みんな起きてぇぇぇ!!」




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 ピィ…キュルルル…


「ん…、体が痛い。どこだここ」


 カズヤは小鳥のさえずりで目を覚ました。そこは見知らぬ風景。カズヤは脳をフル回転させ、昨日の出来事を思い出そうとしていた。


「夜中にカレーを食べようとしたら、いきなり景色が変わって…、確か昼だったなぁ。で、ドラゴンを追い払って…ダメだ…頭が痛い。いや、これはきっと夢…」

「おはよう」

「ってうわー!夢じゃなかったぁ!」

「朝からどうしたんだい、カズヤくん?」

「えっ、と…。スターさん?」


 カズヤは、あまり働いていない脳で恐る恐る名を尋ねた。


「うん、スターだけど?」

「はぁ、良かった。で、今日は何をするんですか?」


 カズヤは考えても状況が変わらないことを何となく察したので、諦めることにした。


「うーん、ノープラン。あ、でも先に進めば適当なモンスターに遭遇するだろうから、そいつを倒して食材を得よう!よし、決定」

「殺してぇ…」

「何、怖いんだけど」

「(声に出てたかぁ…)」

「2人で何楽しそうな話してるのさ、俺も混ぜてよ」


 いつの間にか、マリトとフィアも目覚めていたらしい。パーティが全員目を覚ましたのは、現地時間で9時のことであった。かなり遅めである。その時カズヤは思った。ここの事情はよく分からないが、少なくともこいつらはダメだと。


「で。今日は何するの?スター」

「うーん、ノープラン。あ、でも先に進めば適当なモンスターに遭遇するだろうから、そいつを倒して食材を得よう!よし、決定」

「(一字一句違わず答えてる…逆にすごいな。何が逆なのかはサッパリ分からんけど)」




「よし、準備しよう!あまりタラタラしてると日が暮れるから」

「いや、日は暮れないよ!?」

「良いねカズヤくん!ツッコミ役が板に付いてきたね!試した甲斐があったよ。合格だ」

「何の試験だ!」


 朝っぱらと言うほど朝っぱらではないのだが、朝っぱらから疲れたカズヤであった。


「本当にこいつら大丈夫なのか…?」


 カズヤは小声で呟いた。




 カズヤは1番後ろを歩いていた。全くの無防備のため前線に出るのが怖いというのもあるが、何よりも3人といるのが気まずかったのである。途中、フィアに沢山話しかけられたが、全て空返事で返答していた。そのうちフィアも諦めたのか話しかけなくなった。

 スターとマリトは、今日はいつもより良い食材が手に入ると嬉しいなんて幸せな話をしながら歩いていた。するとその時、


「ぐへっ、なんだよ急にー!!」


 ふと、先頭のスターが歩みを止めた。勢い余ってマリトが背中にぶつかってしまった。

 スターは、前方を睨みつけていた。それに気付いた3人は、スターの見つめる方に目を向けた。するとそこには、1体の獣が居た。

 体格は6mほどだと思われる。口には大きな牙を生やし、全身に生える赤色の毛は逆立っていた。目は金に輝き、その形相は一行の足を硬直させた。


「ちょ、これヤバいんじゃない?」


 まず口を開いたのはマリトだった。一応剣士らしく剣を抜き、構えてはいるものの、向かって行く気配はない。

 1番動揺しているのはカズヤだった。ほんの数秒前まで食い物の話を楽しそうにしていたのに、今この瞬間の不穏さといったら背中が凍りつくほどだった。


「怖気付くなマリト!俺がついてる!絶対倒せる!フィアやカズヤくんだって居るんだ!きっと大丈夫!ねっ、カズヤくん!」

「えっ?僕何もできませんよ!武器もないし魔法も使えない。術も無いですし」

「えっ、お前何しに来たの!?」

「いやこっちが聞きてぇわ!!」

「もういい!この場所に行って応援呼んで来い!」


 スターにそう言って渡されたのは、何やら地図のようなものだった。


「アルト…一団?何ですかこれは」

「ここいらじゃ有名な一団で、弱いパーティの手助けをしてくれる人達なんだ。そんなに遠く無いはずだから呼んで来て!」

「いや、地理関係分かんない!」

「いいから早く!今ヤバいの!!」


 スターは真剣な眼差しで叫んだ。


「くっそ、もうどうにでもなれ!!」


 カズヤは、書き記されている場所と思われる方向へと、自分を信じて走り出した。もう何も考えていない。ただひたすらに危機を乗り越えること以外は。


「(自分でもびっくりするくらい迷いなく走れてる…。これは一体…)」


 一心不乱に走り続け、遂に地図に記された場所へと辿り着いた。辺りは特に何も無く、大人数で攻め入ったならば直ぐにでも陥落しそうな雰囲気であった。強いて言えば丘の上にあり、来たる者に関しては直ぐ分かるということくらいが利点と言えようか。

 カズヤはインターホンを探した。しかしどこにも見つからない。何故なら、無いからである。仕方がないので扉の前に立ち、


「すいませーん、吉田と言います!誰か居ますかー!!今、うちのパーティがピンチなんです!助けてくれませんか!!」


 しかし、返事はない。


「誰か居ませんか!!助けて欲しいんです!」


 またもや返事はない。


「あの、お願いです!!助けて下さい!!」


 全く、返事はない。カズヤは、もう誰も居ないのではないかと思った。そして、ダメ元で最後に最大の声で、


「誰か居ますか!!助けて下さい!!」


 すると、勢いよく扉が開き、


「うるせぇ!!俺は今 至福の時を過ごしてるんだ!邪魔すんな!帰れ!」


 バタン!

 いきなり男が現れたかと思うと、その瞬間に扉は閉じられた。

 カズヤは驚きでその場に沈み込むように腰を落とした。


「ああ…、全裸の男の人に怒鳴られた…」


 カズヤはまたもや、状況が飲み込めずにいた。

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