少年は転移する
カズヤは洗い物を済ませると風呂に入り寝巻きに着替えた。そうこうしているうちにお腹がすいて来たので、余っていたカレーを食べようと思い火にかけた。
暫く火にかけると、カレー特有の少し鼻につく良い香りが漂ってきた。
「さて、そろそろかな」
そう言ってコンロのスイッチを切ろうとした時、急に目の前に丸い団子のような生物が現れた。いや、生物なのかすら定かではなかった。
胡麻粒のような目らしきものがあり、上も下も分からないような見た目だ。そしてそれはいきなりカズヤに向かって、
「おめでとう!君は異世界へと召喚される権利を手に入れたよ!今直ぐレッツゴーだ!」
と言った。突然現れたそいつの言うことを、カズヤは全く理解出来ず、目をパチクリさせている。
困惑はあったものの、理解したい気持ちはあったので、
「あの、それはどういうことですか?意味が分からないんですが…」
「意味が分からなくても良い!君は異世界に行くんだよ!」
「……………。ハァ!?嫌だ!えっ、すごい強引!全く聞く耳無いじゃん!俺は今からこのカレーを食べるんだ!」
激しく首を振りながらカズヤは、鍋の持ち手を強く握った。
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ゴォォォォオ!!
マリトが召喚と叫ぶと、目の前に大きな陣が現れて、激しい轟音が鳴り響いた。
そして、強烈な閃光を放ち、カズヤが現れた。手にはカレーの入った鍋。横には勿論、団子のようなあいつも居る。
カズヤは少しだけ辺りを見渡すと、2回瞬きをした後、ただ呆然と立ち尽くしていた。先程まで吉田家のキッチンに居たのに、急に見晴らしの良い平原に立っているのだから無理もない。
カズヤのその後ろ姿を見たマリトは、ニヤリと口角を上げ、言った。
「さあ!あのドラゴンを倒すんだぁぁ!!」
マリトに声を掛けられたものの、カズヤはピクリとも動かない。それどころか、口を大きく開いてただただ首を傾げるばかりだった。
動かないことを不思議に思ったマリトは、先程より大きな声でもう一度、
「さあ!あのドラゴンを倒すんだぁぁ!!」
しかし依然動かない。あまりにも動かないので、不思議を通り越して不審に思った。そしてフィアはマリトに、
「ねえ、全く動かないよ。もしかして失敗?」
「いや、そんなはずは…。ちょ、おいお前!おい!」
そうこうしているうちに、ドラゴンは咆哮をあげ、目の前に突然現れたカズヤに巨大な右腕を振りかざしてきた。
それに気付いたマリトは、更に大きな声で、
「お前!危ない!上!上!!」
その声に気付いたカズヤは、見上げて我に帰った。
「えっ?あっ!何だこいつ!でかっ!うわー!!」
ひたすら喚きながら、咄嗟に持っていたカレーの鍋をドラゴンに投げた。
その鍋は、真っ直ぐにドラゴンの目へと飛んでいった。まるで、吸い込まれるみたいに滑らかに。
その目に当たった瞬間、ドラゴンは呻き声を上げ、その場から羽ばたいて何処かへ飛んでいってしまった。
それを見たスターは、マリトに向かって、
「凄いぞマリト!あんな大きなドラゴンを追い返す技を身に付けていたなんて!改めて尊敬するよ!」
「そんなに褒められると照れるなぁ。ありがとう」
「いつ覚えたんだ?」
「実は…、」
「あの…」
「ここ最近毎日夜に抜け出して技を教わりにいってたんだよ」
「あの…」
「いや、何処にだよ」
「あの!!!」
「「うわぁ!!びっくりした…」」
あまりにも放ったらかしにされたカズヤは我慢が出来なくなり声を荒らげた。
「うるさくしてごめん…って、え??」
「ここは何処ですか?」
「なんでそんな事聞くの?君はさっき召喚されたモンスターだよね」
「いや、モンスターじゃないです。人間です」
「人間なの?」
「はい」
「あー、えーっ、と。お名前仰って頂いても良いですか?」
「吉田、カズヤです」
「珍しい名前だね。いや、そんなことはどうでもよくて、いやどうでもよくはないんだけど、取り敢えず状況を説明して欲しいんだが」
「そんなこと言われても僕だって分かりませんよ」
「そうか…。うーん…」
スターは、フィアの方を向いて首を傾げた。同じくフィアも首を傾げた。
「うーん…」
そして今度はマリトの方を向いて首を傾げた。同じくマリトも首を傾げた。
「うーん…」
そして最後に、カズヤの方を向いて首を傾げた。カズヤも釣られて首を傾げる。
スターは更に首の曲げを深くした。それに合わせるようにカズヤも曲げを深くした。
そして3回首を折った後、何かを閃き首を元に戻した。カズヤも同じようにしたが、急に戻したので首が痛み、思わず押さえた。
スターはカズヤの両肩を掴み、
「よし、分かった!お前、俺達のパーティに入れ!」
「いやスターさん、それはいきなりすぎませんか?」
「良いんだよマリト、こいつ結構役に立ちそうだろ?」
「は、はぁ…」
「私の仕事増えちゃうわね。ま、仕方無いか」
「何でフィアまで納得してんの!?」
「だってしょうがないじゃない」
「いや意味分かんない」
「水を差すようで悪いんですが、僕の気持ちは無視ですか!!」
「うん。無視だね。ようこそカズヤくん!!」
スターの一言にとどめを刺され、強引に強引を重ね、カズヤはパーティに入る事となった。
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