永久機関編
第21話 ブラックボックス
異世界ウルスマキナから帰還した1週間後、開発室の通路を曲がると英美がマリナとともに歩いていた。しかし何か様子がおかしい。
「英美、どういうことです!?なぜいきなり!!」
「……」英美はマリナの言葉に目もくれず、まるで無視するようにエレベーターに乗り込んだ。
「岡田康男が死んだのはいつです!?何故黙っていたのです!!」
!?今、マリナはなんて……?
英美は何も語らず、エレベーターの扉は閉まった。
エレベーターの前で留まるマリナの前に駆け寄る。
「マリナさん、今の話、どういうことだ?何があったんだ?」
「大智……。偶然、佐久間というドクターが職員と話をしているのを耳にしました。岡田康男が死亡したと。すでに岡田康男はこの施設内にはいないと」
「…そうか…。それで英美に」
確かに突然すぎる。事がことだけに極秘裏に進むのは分からなくはないが、マリナは別だ。
彼女には事の顛末を見届ける権利はあるはずだ。
「……大智、どうして英美は…」
英美に直接聞きたいが、あの調子じゃ、聞き出せるものも聞き出せない。
「あの人も一筋縄ではいかなそうだけど……」
午後13時半
近未来研究所・3階・医務室
扉をノックする。
「佐久間さん、俺です。遠野です」
扉はすぐに開き、相変わらず妙な色気をまとい佐久間満が中から出てきた。
「おや、遠野くん。……それと、マリナ・スティングレイさんかな?」
俺の隣にいたマリナの方に目をやる。それで何かを悟ったのか、佐久間は俺とマリナを医務室の中に入れた。
「…佐久間さん、前から疑問に思ってたことがあるんだ。俺が今まで会ってきた転生人は3人。岡田康男、望月花帆、そして野間賢児。このうち、望月花帆は新しい生活を送れるように組織が保護しているのは知っています。でもほかの転生人のその後というのを俺は聞いたことがない」
そう、その後、あの人間たちはどんな人生を歩むのか。やはりこの国の法律によって裁かれるのだろうか?
「正直、私から話せることは少ないけどいいかな?」
俺は頷いた。
「君たちがここに来たってことは岡田康男が死んだという事はもう伝わってるね?」
「…やっぱり、事実なんですね」
「ああ。ここにいる間、転生人の健康管理は私に一任されている。その上で事実を話すならば、岡田康男は拷問を受けていた」
「え?」
佐久間の優しい口ぶりから、矛盾したような言葉が漏れる。
「主に体に電流を流す拷問。それは岡田康男の身体を見てすぐに分かった。しかしね、私はそれを敢えて黙認していた」
「どうして?」
「それが最善の選択だからだよ」
「……英美はなぜそのことを私たちに教えてくれなかったのでしょう?彼女は厳正な処罰をしてくれると約束をしてくれました。しかし、私は岡田康男の遺体を見ていません。あまりに唐突すぎる。…実感が湧かないんです、私は」
マリナが顔を歪める。
「英美くんがどこまで考えているのかは分からないけれど、この国は恐るべきものを『負債』として抱えてしまった。それを清算するには目に見える結果が必要だ。多くの組織がそうであるようにね」
「目に見える結果が岡田康男の死……」
「『永久機関』は自分たちの目に見える結果を欲している。すまないね、私も共犯だ……」
佐久間は珍しく歯切れの悪そうに、椅子を回転させて俺たちに背を向けた。
何かが引っかかる。
ふと時計に目がいく。午後14時過ぎ。昨日まで毎日のようにこの時間帯に医務室を訪れていたはず。
俺たちは前情報なしで、この医務室来たはずだ。
「……佐久間さん、花帆ちゃんのカウンセリング、昨日で終わったんですか?」
「……」佐久間がうなだれたように頭を下げる。
「…永久機関ってどこにあるんです。花帆ちゃんは今どこにいるんだ!!」
椅子から思わず立ちあがる。
「場所は英美くんしか知らない。国家の最重要秘密組織だ」
「大智、英美はまだ研究所内にいるはずです。止めましょう!!」
「ああ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます