第18話 マスター・マリオネット

旧居住区から一番近いブルーチューブに乗り、車は空へと上がっていく。


「ニム、コクーンまでのルートはお前に頼るけどいいよな」助手席で俯いているニムに声を掛ける。


「……ああ、任せろ。一緒に倒すぞ、機皇帝を!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオ!!!!

空中にいるはずなのに車に地響きのような振動が伝わってくる。


「なんだ?」

後方を振り向くと高層ビルがまるで生き物のように車を追ってくる。


「はぁ!?ビルがこっち目がけて飛んで来てんですけど!!??」


「機皇帝の力だ!!スピード上げろ!!あのビルを振り切るぞ!!」ニムの声に急かされるように俺は車のアクセルを目一杯まで踏み込んだ。


120キロは優に超えたスピードで後方からのビルの強襲を回避したが、今度は前方からビルが隕石のように飛んでくる。


「次のブルーチューブを左に曲がれ!!ビルに当たったら一溜りもないぞ!!」


ハンドルを左に大きく切り、枝分かれしていたブルーチューブの左側に移る。

間一髪でビルの攻撃をかわす。

しかしビルは追尾を止めず、むしろ空中に飛んでくるビルの数は増える一方だった。


「キリがない!!どうにかならないのか、これ!!」

車の速度はすでにマックスまで達していたが、ビルの追尾のスピードは加速しているような気がした。


「コクーンからこの都市全体を操っているんだ!機皇帝を倒さない限り延々に追い続けてくるぞ!!」


都市全体を操る力!?とんでもない力だ。皇帝という地位に立てているのもそれ故なのだろう。


「じゃあ、コクーンに乗り込むしかないだろ!!」


枝分かれするブルーチューブを使いながらビルを回避していく。


「ああ!!次のチューブを右に曲がれ!!車で行ける最高地点まで飛んで、そっからはあたしがあんたをコクーンまで持ってくから!!」


「分かった、頼んだ、ニム!!


チューブは程なく最高到達点まで辿り着いた。コクーンは目の前にある。

ニムが助手席から俺の腕をつかむ。


「しっかり掴ってろ!!」


ボシュ!!

ニムが背中に付いているブースターで空を舞い、コクーンの上層部まで一直線で飛んでいく。

飛び立った瞬間、乗ってきた車はビルによって木端微塵に大破した。



シュ―――――――――ン。

コクーンの透明な繭を通過する。壁や窓ではない。何か薄い膜のようなものに身体が触れるのが分かった。


降り立ったのは最初コクーンで目覚めた時にいた王座の間だった。

「機皇帝は?」俺があたりを見回すと部屋に人の姿はなかった。


「気を付けろ、大智。誰か来る…」ニムが指さす方向に目をやる。


「あいつは…」


扉が開き、現れたのはベイグマンと呼ばれていた軍服のサイボーグだった。

右手にはガトリング砲、左手には身の丈ほどあるチェーンソーのような武器を持っている。


ベイグマンは部屋に入るや否や、右手のガトリング砲をぶっ放してきた。


「うぉおおおお!!!!!!」咄嗟に近くの柱に身を隠す。


「なんだ人間、お前無敵なんじゃないのか?」一緒に身を隠したニムが聞いてくる。


「俺が無敵なのは機皇帝からの攻撃だけだ。この世界に最初から住んでる奴らの攻撃を喰らったら普通に死ぬ」


「マジかよ!お前、弱いんだな…」


「言うなよ……」


「出てこい、侵入者ども!!このアンドリュー・ベイグマン大佐が直々に抹殺してやる!!」

ベイグマンは変わらず、ガトリングを撃ち続けている。



「仕方ない…。機皇帝は任せたからな、大智」

ニムが立ち上がる。


「ニム?」


「データベース、接続。回路切断、N-2101型、オーバーヒート」

ニムの目が灰色から赤色に変わり、腕や脚の関節部分から白い煙が上がる。

「お前に救ってもらった命だ、道は開いてやるよ」


ドンッ!!!

ニムは風を切るように飛び出し、あっという間にベイグマンの懐に到達した。


ドゴォ!!!

「ぐはぁ!!!」

光速の右手がベイグマンの腹部にヒットする。


「旧サイボーグ風情がぁ!!!」ベイグマンはチェーンソーを振り下げるが、ニムには全く当たらなかった。


「はんっ、機皇帝撃退用に改造された身体だ。そこいらのサイボーグと同じにされちゃ困るんだ、よ!!」

バコーン!!!

チェーンソーの重みでバランスを崩したところにニムの渾身のかかと落としが直撃する。


「…くかっぁ!!」

ベイグマンの身体が揺れ、その巨体がズシンと鈍い音を立てながら地面に倒れる。


「すげぇ…すげぇぞ、ニム!!一瞬で倒しちまったじゃないか!!」


「へへ…。すごいだろ……」

そういってニムは膝をついて、その場で沈黙してしまった。

ニムの身体からは先ほどとは比べものにならないほどの煙が吹き上がっていた。


「おいっ!」


「ぐいやぁああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

俺が駆け寄ろうとしたとき、ニムの背後で伸びていたベイグマンが奇声を上げて起き上がった。ベイグマンはそのまま、チェーンソーでニムに襲いかかった。


ガルルルルルルルルルル!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

「うぁああああああああああああ!!!!!!!!!!」

ニムの叫び声が部屋に響く。

左腕が切り取られる。ベイグマンはさらにニムの髪の毛を掴み、つるし上げた。

「ニム!!!!!!!!!!!」

俺はアタッシュケースのボタンを押し、ケースの中からC・バレッドを取り出した。

「フリーズだ、アメンダー(修正者)!!」聞き覚えのある声が王座の奥から聞こえる。


「ノーマン!!」


「それ以上動くな。あのガラクタサイボーグの首をもぎ取るぞ」


「どうなってる?そこの軍人はニムが倒したはずだ!」


「くははっ…!!この世界はほぼすべてが機械で造られている。その機械、全てを操る力・マスター・マリオネットが僕の力だ!!当然、機械で身体の半分が造られているサイボーグも例外ではない!!」


「この世界に生きているサイボーグも自由自在ってわけか……!」


「分かったなら、そのC・バレッドとかいう拳銃を捨てろ。お前はもう終わりだ、アメンダー」


ニムの首にはチェーンソーが当てられている。あと数ミリ動かせば、完全に殺される。


「止め…ろ…。あたしに構うな…!!撃て、大智!」ニムが振り絞った声で言う。


「黙れ、ガラクタ」


「うがぁ……!!!」ベイグマンの太い腕がニムの首を絞めつける。

俺はその場に屈み、C・バレッドを置こうとした。


「その必要はないわ、遠野くん」

俺の目線の先には悠然と立つ英美がいた。

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