第17話 突入
◆サイドEMI
英美が監禁された部屋はスカイコクーンの最上階にあたる場所だった。英美は特に拘束される訳でもなく、この部屋に入れられた。おそらく立地上、逃げ場はないと踏んでいるのだろうと英美は思った。
「」
部屋は装飾から高級感に溢れ、大型のディスプレイ、バーを模したカウンター、清掃の行き届いたダブルベッド、ベランダにはプールまである。
ピッ。ガチャ。
部屋の扉が開く。そこからバスローブ姿のノーマン・E・ベルクールが現れた。
「やぁ、英美、僕の部屋は気に入ってもらえたかな?」
「如何にも急に金を持ってしまった凡人が、金持ちの理想を具現したような部屋ね」
「まぁそう言わないでくれよ。これから一生住む家だ。愛着を持って貰わないと困る」
「ふん。条件よ、お前が知っていることを話しなさい。転生人・野間賢児」
ダンッ!!!
英美の身体を野間がベッドに押し倒す。
「そう早まるなよ、‘あの男’を知ったところでもうどうも出来ないんだ。それよりまずは二人の仲を深めようよ」
野間の細い腕が、蛇のように英美の身体に巻きつく。
「……」英美の表情は変わらない。
「やっと…やっとだよ…」
野間の手が英美のシャツのボタンの間から入る。
「ん?なんだ、この感触は…」
ピシュッ!!!
「イタッ!!!」野間の腕に銀のか細い針が刺さる。針を抜くと、その痕からは血が溢れ出た。
バゴォ!!「うっ!!」野間が英美の顔を殴る。
「おい僕は皇帝だぞ……。そして君は僕の伴侶だろう!!??僕にこんな傷をつけるんじゃない!!伴侶らしく僕に尽くせ!!いいな!!」
「皇帝?くだらない。貴様のような俗物、異世界で生きる価値すらない」
「な…んだとぉ!!」
ビー、ビー。
『皇帝』部屋に何者かからの野太い声が流れる。
「取り込み中だ!!後にしろ、ベイグマン!!!」
『いえ、それが早急にお伝えしなければならない事態が…』
「なんだ!!」
『アメンダー・遠野大智が廃棄場から脱出しました』
「なにぃ!!」
「ほら行かなくていいの、野間くん?あいつはどんな手を使ってでもあなたを殺しにくるわよ?」英美は笑いながら言う。
「何故そう言いきれる!!」激高した野間が言う。
「だって怖くないもの。あなた(転生人)なんか」
「ふん、帰ってきてからゆっくり可愛がってやるよ、エミィ」
野間は扉に自分の親指を押し当て、ロックを解除すると扉から出て行った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
通気口はそのままスカイコクーンの外に通じており、ニムの背に掴りながら地上に降り立った。
「あー、死ぬかと思った…」
「ははは!大智、髪の毛が全部逆立ってるぞ!」ニムが指を指しながら笑う。
「笑うなよ……。にしても、どうするかな…。英美の奴、絶対あのスカイコクーンって建物の中に捕まっているだろうし…」
「仲間が捕まってるんだったな。でもあたしはもう飛べないぞ。さっきのでメインの電源かなり消費したからな」
「んー。なんかいい手ないか、ニム?」
「はぁ~、なんだお前。あの機皇帝と同じ地球人なんだろ?なんか知恵を働かせろよ」
呆れたようにピンク色の髪を掻き上げる。
空まで行く手段。浮く、飛ぶ…。俺の目の前に車が走り抜けた。そしてその車は青く発光するパイプの上に乗っかり空中へと昇って行った。
「あ、いいこと思いついた。車で行こう」
「無理だな。スカイコクーンまでブルーチューブは伸びてない。行けて近くの高層ビルまでで……。……いや、そうか。案外いいかもな」
「マジか!じゃあ車をどっかでレンタルして」
「お前、本当に何も知らないんだな。この世界の車は全て個人の認証制。レンタルなんてものはないぞ」
「じゃあどうする?」
「ついて来い。私の知り合いに裏稼業をやってる奴がいる」
第9ブロックの居住区のもう使われていない排水溝を通り、さらに奥に進んだ場所に行くと、積み上げられたスクラップの中で大きなテントのようなもの張られている場所が見えた。
「おーいザム爺―!!いるかー!!生きてたら返事しろー!!」ニムがそう声を上げると、汚れた作業服を着た白いひげの生えた老人のサイボーグがテントの中から出てきた。
「ニム。ニムじゃないか!!」白いひげの老人は驚いたように駆け寄ってくる。
「ようザム爺、元気してたか?」
テントからはザム爺と呼ばれた老人だけでなく、次々とサイボーグが現れ、ニムに話しかけている。しかし、現れたほとんどのサイボーグが身体のどこかを欠損している状態だった。
「ここにいるサイボーグは皆、旧式のサイボーグさ。お前も昨日街にいたなら知ってるだろ?反乱を起こしたのはここにいた奴らがほとんどだ」俺の横に逃げてきて、ニムは説明した。
「機皇帝に逆らっているサイボーグたちってことだよな?だから皆、ケガしてるのか…」
「そうさ。機皇帝は旧型のサイボーグをこの世界から一掃しようとしてる。最初のうちは旧型と新型の共存がどうとか言ってたくせに、使うだけ使ったら旧型には容赦なしだ。許せないだろ?」
「要するにやりたい放題ってことだな」
「ああ。ここの皆は機皇帝を倒す為だったらどんな協力でもしてくれるぜ。勿論、車の手配もな!」
「おお!なるほどね!」
「ニム。お前と一緒に連れ去られた子らはどうなった?」ザム爺が言う。
「あたし一人だけ何とかこの人間に助けられた。…機皇帝の扱いは酷いもんだったよ……」
「……そうか。いや、お前だけでも無事でよかった…」
「そんな気を落とすな、爺さん。皆の仇はしっかり取ってきてやるよ。この人間は機皇帝を倒せる」
用意された車の運転席に乗り込む。運転席は予想よりもずっと地球のものに似ていたので操縦は出来そうだった。
ドゴオー―――ン!!!!!!!
出発する直前、旧居住区の入口付近の排水溝から爆発音が轟く。
「なんだ?」俺は背後のバックミラーを覗く。
「軍の奴らだ…!!くそっ、どっかから付けられていたのか!?」助手席のニムが言う。
「旧居住区のサイボーグども!機皇帝により強制排除命令が出た!!これより貴様らを排除する!!」
「機皇帝……!!ふざけるな、なにが排除命令だ…!!」ニムは怒りを隠せずに車から出ようとする。
「その御仁と行きなさい、ニム!!軍はワシたちが食い止める」
「ザム爺!あたしもここで戦う!!」
「ならん!!ニム、お前には異世界の御仁をコクーンまで案内するという大事な役目があるはずだ!!」
「っ…!!」
「行ってください異世界の御仁!!そして機皇帝を必ず倒してくださいませ!!」
俺は頷き、車のペダルを思い切り踏み込んだ。
背後のテントからは悲鳴と銃声が上がる。
車はスピードを上げ、旧居住区を後にした。
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