第15話 戦火の基地
暗くなった空は基地の近くだけが燃え移った火で赤く染まっている。
基地周辺はやはり軍部のサイボーグによって封鎖されていた。その周りには野次馬が詰めかけている。
「廃棄サイボーグの反乱だってよ」野次馬の男性が言う。
「怖いわね、もう。活動限界の年数を超えたんだから旧式のサイボーグはさっさと廃棄処分されればいいのに」中年のマダムが愚痴をこぼす。
「大丈夫だよ。きっと機皇帝が何とかしてくれる。あの人は私たち新型サイボーグたちの要望を何度も叶えてきてくれたじゃないか!」
「旧型サイボーグの反乱ってことか。なんか色々あんだな、この世界も」
「この群衆に紛れて基地に忍び込むわよ」
「人の話聞けし……」
軍の監視の目が薄い封鎖場所を通過し、基地の中に入った。
「あれ見て、遠野くん」英美が指さす方向には東京タワーのような細長い塔が天高く伸びていた。
「ああ、さっきホテルから見えて気になってたんだ。あれ基地の中の建物だったのか」
「おそらくあれがスカイコクーンに行ける交通手段よ」
「え?だってコクーンはちょっと離れた場所にあんだろ?」
コクーンはどちらかと言えば基地から少し離れた空中に浮かんでいた。
「いえ、最初に転送された屋上覚えてる?あれ、動いたでしょ?」
「そうか!基地にあるタワーの頭上にコクーンも移動してくるってことか!」
「そういうこと。行きましょう」
歩き出そうとしたとき、軍の施設の中からマシンガンのような銃を構えたサイボーグが3人ほど現れた。
「!!貴様ら、軍の人間か!!排除する!!!」
「まっ…!!」
手を伸ばすが、あまりに突然のことで動作が追いつかない。銃口は全て英美に向けられている。
ダダダダダダダダッ!!!!!!!!!!!!
発射音が轟く。
「英美!!」
反射的に閉じてしまった目を開けると、倒れていたのはサイボーグの3人だった。
「無事か?」英美に声を掛けると大丈夫と言って頷いた。
「大丈夫ですか?二人とも」
声のするほうに振り向くと痩せ細った男があまり似合わない銃を構え、立っていた。
大きな眼鏡に、男にしては伸ばした髪の毛が顔にかかっていて、腕まくりした手首は驚くほど細い。軍の制服を着ていなければ基地の人間だとは思わないだろう。
「軍の人?あんたが助けてくれたの?」俺が尋ねる。
「いや、何か一般市民に見えたので咄嗟に。不味かった、ですかね?ハハ」ずれた眼鏡を掛けなおしながら男がこっちに歩いてくる。
「いえお陰で助かったわ。ありがとう」英美が軍服の男に手を伸ばした。
「機工軍のノ―マン・E・ベルクール2等兵です。よろしく、ハハ…」
ノーマンと名乗った男はそう言って英美の手を握り返した。
「安全なブロックに避難してほしい所なんだけど、さっきみたいにどこかに反乱分子が潜んでいるかもしれないし、セントラルタワーに案内します。あそこは基地の中でも一番守りが厳重なので」
「ん?セントラルタワーって、あそこに立ってる塔みたいなやつ?」
「はい、そうです!」
「なぁ、この軍の男、使えんじゃないの?」俺は英美に耳打ちするように言った。
「…そうね。上手く忍び込めればいいけど」
「こっちです。先導しますので、はぐれないように注意してくださいね」
セントラルタワーの足元は確かに多くの軍部の人間で溢れていた。睨んでくる軍の人間を掻き分けて行き、タワーの自動ドアを開く。
「やぁ、道中何も無くて良かったですよ」
「ノーマンさんのお陰だよ。…あの、俺たちは大丈夫だから、もう持ち場に戻ってもらっていいからさ」タワーに忍び込めたのは良いとして何とかこの軍人から離れないと。
「ハハ、まだ仕事が終わってないんでここを離れるわけには行きませんよ」
「へ?」
ガッ!!身体が押し倒され、地面に叩きつけられる。
「あだだだっ!!!何だよ、いきなり!!」
「まったく同じ地球から来た人間とは思えないほど馬鹿だな、アメンダー(修正者)」口調の変わったノーマンが俺を見下すように口を開いた。
「リインカーネーション……」隣で体を羽交い絞めにされている英美が意味深なことを言う。
「え?何て??」俺が聞き返す。
「さすが、勘づいたか。まぁ、もう遅いけど。………異世界ウルスマキナ、僕の世界にようこそ、英美。歓迎するよ」
英美に歩み寄っていくカオルの姿を最後に視界がブラックアウトする。
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