第14話 スカイコクーン
目を開けると、俺の前を車が走り過ぎていった。
「車が空飛んでる……」
数十台もの車が何か細くて青いパイプを頼りに空中を縦横無尽に駆け回っている。
転送された場所は何かの建物の屋上に見えるが、ビルや建物の造形も地球とはかなり異なっている。
周りのビルや建物はガラス張りというよりか丸みを帯びた筒状の建物で、高層のビル同士が色のついたパイプのような透明な筒で繋がっている。
「さすが文明レベルが300年も進んでいるだけあるわね。日本の渋滞問題もこうもしなければ変わらないでしょうね」仕事場と何一つ変わらないスーツ姿で腕を組み、英美はその光景を見ていた。
「どこに転送されたんだ?」
「分からないわね。さっきから研究所とも通信ができない状態だし」
「まじか…」
<<本日の労働は終了しました。居住区に帰還してください>>
街に何かの放送が流れる。
ウィィィィィィィィィィィィィィィィィィン
何かの動作音と共に建物が動き始める。
「何だー!?」
地面が揺れている。
俺と英美が立っていた建物は横のビルにどんどん迫っていた。
「おいおい、このままだと隣のビルと衝突するぞ!」
「いや、違うわね。くっ付くのよ、建物同士が」
「くっ付く?」
英美の言った通り、空中に乱立していた建物同士が合体し、一つの大きな塊になった。異世界ウルスマキナの夕焼け色に染まった空が見える。
「とりあえずこの建物から出るわよ。どこかにエレベーターみたいなものがあるでしょ」
「お前、お化け屋敷とか行ってもまるで動じずに出てくるよな、絶対」
ブィィィィィィィィン。
「なんだ、この虫?」目の前にいるハエのようなものを手で払う。
建物内のパイプ状のエレベーターに乗り地上まで降りると、俺たちと同じように建物から大勢の人間が出てくる。
「おそらくこの人たちは居住区に向かうのね。そこで転生人の事について聞いてみましょう」
「そんな簡単に行くかね」
◆異世界ウルスマキナ・第9ブロック/居住区
辺りの住宅から白い煙が上がる。先ほどの近未来のようなビル群とは打って変わって随分とローテクな居住区で転生人の情報は案外簡単に見つかった。
「ああ、機皇帝のことね。この世界全体の王様だよ」
片目がター〇ネーターのように機械の義眼になっている叔母さんが親切に答える。
ここに来るまで地球にいるような生身の人間とは出会わなかった。この世界の住人は皆、身体のどこか一部が機械のような外装をしていた。いわゆるサイボーグというやつだろうか?
「その機皇帝はどこに行ったら会える?」英美がまるで物怖じせず聞く。
「あはは、田舎者かい、お嬢ちゃん?あれ見なよ」
叔母さんが日の落ちた空に指を指す。高層ビル群のさらに上、空中に浮かぶ細長い繭のようなものが見えた。
「機皇帝のいるスカイコクーンは絶対不可侵。軍の上層部か、大臣クラスじゃないと入れないよ。大臣たちはスカイコクーンの下層に住んでるし、私たちサイボーグが会うのはほぼ無理だね」
「あら、残念ね。色々ありがとう」
「あいよ」
「どうすんだよ?転生人に会うにも一苦労だぞ」
「軍の上層部って言ってたわね。つまり軍はスカイコクーンに行ける術を持っているわけでしょ?」
「軍ねぇ」
「まぁいいわ。今日のところはとりあえず宿を探しましょう」
「金ないぞ」
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異世界ウルスマキナ・第8ブロック/ホテル・ミネルヴァ
「ご宿泊はお二人で。部屋はダブルとツインどちらに致しましょう?」全身サイボーグのホテルマンが言う。
「シングルで、二部屋。前払いで」英美はそういうとポケットから財布を取り出し、諭吉を二枚カウンターに置いた。
「おい、日本の金は…」
「かしこまりました。こちら302号室と303号室のカードキーになります」
部屋でシャワーを浴びた後、ホテルの12階にあるレストランに向った。
「なぁ、さっきの金、どういうことだ?」
「言葉が通じたり、このスーツ姿が異世界に行って普通に通じるのと一緒よ。彼らには一万円がこの世界で言う紙幣や金に見えている。これもイッカンの技術力よ」英美はそう言ってステーキのようなものを口に運んだが一口食べてフォークを置いた
「はえー、近未来研究所の開発室ってあそこだけオーバーテクノロジー過ぎやしないか?」
「その開発の理論をほぼ完成させた前任者の後を継いだに過ぎないけれどね」
「ふぅん」
ドォォォオオオン!!
「おおぅ!!?」
ホテルの外で何かが爆発した音が聞こえた。
「あれよ」
窓の外から英美が指を指す。
見れば、遠くの方で煙が数か所から立ち上っている。
「あそこって何がある場所だ??」
「あの辺は第2ブロック。機工軍の基地がある場所よ」
「いつの間に調べたんだよ!?」
「行くわよ。何が起こったか調べる」
「ゆっくり休む暇もないな……」
ホテルのフロントにこっちで言うタクシーのようなものを呼んでもらい乗り込む。
「運転手さん、第2ブロックの基地近くまでお願いします。行ける所まででいいので」
運転手がエンジンをかけると、近くにあった車より遥かに細い青いパイプに乗っかり、まるで遊園地のアトラクションのように瞬く間に空中に上っていた。
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