異世界・ウルスマキナ編

第13話 リインカーネーション

二度目の異世界の出張から10日ほどが経っていた。

自宅のベッドで寝ていた俺に、緊急の指令がかかったのは大雨の日だった。


近未来研究所・地下8階の指令室に向かうと部屋は異様な雰囲気に包まれていた。

職員、研究員、マリナ、そして英美、一様に研究所内の大画面パネルを見ている。


「ああ、もしかして今入ってきた人間が『アメンダー(修正者)』の遠野大智か」

ノイズの入った声は『REINCARNATION(リインカーネーション)』と英語の文字が書かれた研究所の大画面パネルから聞こえる。


「アメンダー?っていうか誰だ、お前?」俺は画面から聞こえてくる男に尋ねた。


「私か…そうだな、そっちでは多分、転生人って呼ばれている存在だろう」


「なっ!!?転生人?どういうことだよ、英美」俺は思わず隣にいた英美に声を掛ける。


「……私たちよりはるかに文明レベルが高い異世界に行った転生人が何らかの方法でイッカンの存在を知り接触してきた、そんなところかしら」英美は険しい顔をしながら画面を見つめている。


「さすがだよ。桜庭英美。補足すれば、私はある人物から聞いた仮説をもとに理論を組み立て、イッカンに接触したのだが」


「…人物?」英美が言う。


「会いに来たら話そう。遠野大智そして桜庭英美、二人で来い。私は機工世界ウルスマキナで待っている」


「は?」俺だけじゃない、部屋にいたほとんどの人間は俺と同じ反応をしたはずだ。英美を除いては。


「何を考えている。私たちに接触してくるくらいなんだから、どういう組織かくらいは知ってるでしょ?」


「大体は。…しかし私はあなたが欲しいある人の情報を持っているし、さらに言えばイッカンが発足した本当の理由も知っている」


「!!」一瞬、英美の顔が歪む。


「それでは異世界にて待つ」大画面パネルから映像はプチンを切れた。


リインカーネーション、はじめてのケースだ。そもそも相手側がイッカンに接触してくる上でメリットはあるのか?それだけ自分たち側の戦力に自信があるとかか?


「遠野くん、2時間後に出発するわよ。転送準備をして」


「待ってください英美!これはどう考えても罠です!」マリナが英美に言う。


「心配は有り難いけれど、今回はどんな理由があろうと行くわ。あの人物には聞きたいことがある」


「無茶です、賢いあなたなら分かるはず!!大智からも何か言ってください!」


「……なぁ英美、お前はまだ俺に話してないことがあるのは分かる。その上でお前のことを信じるけどいいか?」


英美は俺の目を見つめて頷く。何か確信を持った目。昔からそうだ、こいつは人に一番大事なことを話さない、でも必ず結果を出す。そういう奴だった。


「分かった。じゃあ行くよ」


「大智!?」マリナが駆けよってくる。


「悪いマリナさん…。でもこいつが何の勝算もなしに行くとは思えないんだよな」



「よく分かってるじゃない遠野くん」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

◆2時間後・近未来研究所


「遠野くん、今回からこれを持っていって」英美から小型のアタッシュケースが渡された。


「ええー。アタッシュケースにしては小さいけど邪魔だろ?今まで通り、ポーチにでも入れてくよ」


「ふふん。うちの武器開発室を舐めないで欲しいわね」そう言うと英美がアタッシュケースの取っ手部分にあるボタンを押した。


まるで某猫型ロボットの道具のように一瞬でケースはキーホルダーサイズになった。

「これで不満?」

「いいえ。全く」俺はキーホルダーサイズになったケースをスーツのベルトループに引っ掛けた。



異世界転送装置・オクルクンに英美と共に歩いて行くと、マリナがオクルクンのすぐ傍に立っていた。

「どうかお二人とも御無事で」


「うん、なんとか頑張ってみるよ」


透明なオクルクンの中に入る。職員や研究員、皆が立ち上がって英美の方を見ている。

「お前、意外と慕われてんな」


「意外は余計よ。転送場所は異世界・ウルスマキナ。文明レベルは地球に換算すると2300年レベル。準備はいい?」


「いつでも」オクルクンの透明な扉がゆっくり閉まる。


「転送開始!」


ビー、ビー!!!!

オクルクンの中が赤く点滅する。

「何事?」英美が男性のオペレーターの一人に声を掛ける。


「異世界からの転送障害が発生!!予定転送地点と違った場所に転送される危険が!!」


「やっぱり罠かよ。……転送中止はできないのか」隣にいる英美に言う。


「無理ね。今中止すれば分子レベルで転送される私たちの身体が最悪、消滅する可能性があるし」英美は冷静に答えた。肝が据わっているというか何というか。


「英美、大智!!」マリナが叫ぶ。

研究所内がすごいバタバタしているが、専門用語が飛び交い、よく分からないことになっている。


「頼りないけど、しっかり守ってよ。遠野くん?」


「…あー、はいはい」


他人事のような言葉を最後に俺たちの意識は異世界に飛ばされた。

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