第9話 真実の弾丸

タツキとロンがいたのは街の中央広場の噴水近くだった。

二人の姿は昨日、道で見かけた石像と同じように石のように固まってしまっていた。

「くそ!!やっぱり教団のやつらの仕業じゃねぇか!!あいつら、ぶっ潰してやる!!」激高し、走り出したバンの腕を俺は掴んだ。


「バンさん、証拠も何もないのに動いたら教団の思う壺だ。冷静になってくださいよ」


「じゃあどうしろって言うんですか!このままだと教団は街の人間をどんどん石にしていっちまう!!」


「とり…?」声のする方を向くと、マリナが広場の地面に膝をついていた。


「マリナさん?」


「この地面に書いてある文字、『とり』って書いてあります。おそらく二人のどちらかが書いた言葉。…鳥、石化…もしかして」

マリナの言った通り、地面には『とり』不自然な言葉が書かれていた。しかし…



「マリナさん。この言葉の意味が分かるってこと?」


「コカトリス。……私のいた世界では人を石にできる魔物はそう呼ばれていました。その目から出る怪光線を見ると、人は一瞬で石になったと聞きます。ただ……」


「それだ!!魔物をつかって教団は人間を石にしていたんだ!!」バンがマリナの声を遮るように言った。


「いや、待ってください。もし、コカトリスだとしたら手足だけ、足だけというのは考えられません」マリナがバンを静止した。


なるほど。コカトリスは一瞬で人を石にするし、もし仮にコカトリスの仕業だとしたら街の人間の間で騒ぎになっているはずだ。だってマリナの話じゃあ、コカトリスは目から光線を出すんでしょ。そんなの噂になってないはずが……。


「あ!!」


「どうしました大智?」マリナが驚いた顔で俺を覗いてくる。


「…バンさん。教会で昨日みたいな儀式は次いつ開かれますか?」


「へ…へい。儀式は毎日欠かさず、午後の13時から開かれてるはずでさぁ」


「午後13時、あと3時間もある。……二人とも一旦宿屋に戻ろう。教団の悪事を暴けるかもしれない」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

午後13時・時計塔大教会


「お集まりの皆様、本日も聖女とともに石化病救済の儀を始めたいと思います」

大司祭・アモウスが教会の祭壇の近くで話し始める。アモウスの横には人形のように無表情の望月花帆が座っている。

教会内は昨日と同じように、石化病の患者たちで埋め尽くされていた。


「それでは一人目、前へ」

アモウスに言われ、茶色のフードを被った人間が祭壇に歩いて行く。


「供物を」


ジャラ。

フードの男は足元に金貨の入った袋を置いた。

その袋の中をアモウスは確認し、「よろしい」と呟いた。

「それでは救済の儀を始める。汝、聖女の下に跪きたまえ」


男は無言のまま、石化している箇所を出し、望月花帆の座る祭壇の傍に跪いた。


「祈りを捧げよーーー!!!」


ステンドガラスの奥が輝きはじめる。やがて光は教会内を包み込み、数秒もすると消えていった。


「汝、祈りは通じたか?」アモウスが満足そうな顔で尋ねる。



「……ああ。おかげさまでなぁ!!!」

バンは被っていたフードを脱ぎ、石化が治った左手で魔法銃を構えた。

「!!貴様、自警団の!!」


「今だ!!バンさん!!」俺はバンに呼びかけた。


「あいさぁぁぁ!!!」バンは魔法銃の引き金を引いた。


ズドンッ!!!!

銃身から飛び出した弾は火を帯びていた。火球となった弾は教会中央のステンドガラスを直撃した。


バリィィィィィィン!!!!!!!!!!!!!!!


ガラスの奥にいたのは体長3メートルはあるかという怪物だった。

首はニワトリのようだが、肩から竜のような羽が生えている。そして飛び出そうな赤い眼球、あそこから光線を発していたのだろう。


「きゃあああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!1」


「ま…魔物だぁぁぁあああああ!!!!」


教会内に悲鳴が上がる。

「皆、聞いてくれ!!街の皆を石にしていたのはこの魔物だ!!自分たちが石にした市民を聖女の力で治す!!これは教団の自作自演だったんだ!!」バンが叫ぶ。


「え?教団が!?」

「うそ、信じていたのに!!」

「か…金だ。金を返せぇ!!」

「今まで俺たちを騙していたんだな、この野郎どもは!!」

「よくもぉ!!」

大聖堂に礼拝に来ていた群衆たちから非難の声が上がる。


「アモウスさま、どうしたら…!!」黒ローブの男の一人がアモウスに言う。


「ぐぐぐ……。黙れ、愚民どもがぁ!!…こうなれば、今ここにいる人間全員、コカトリスの餌食にしてくれる!!それで証拠は隠ぺいだぁぁぁ!!」


「ギルガァァァアァァアァァ!!!!!!!!!!」コカトリスが咆哮し、ステンドガラスの奥の部屋から飛び出してきた。


「やれぇ!!コカトリス!!」


コカトリスは首を捻り、鋼のようなくちばしで襲いかかってきた。

「きゃぁあああああ!!!」

「に…にげろぉぉぉぉ!!!!!!


ガィィィィィィイン!!!!!!!!!!!

「大智の言った通りでしたね!」

マリナは身長ほどもあるランスでコカトリスの攻撃を受け止めた。

手に持ったランスはマリナの元々異世界で持っていたスキル・武送(ぶそう)による

ものらしい。


「読みが当たってよかった。ガラスの向こうにいなかったら、多分バンさん、ヤバかったよ」

俺は胸を撫で下ろした。


「それでは大智の手筈通り、私は自警団と共にコカトリスの相手をしましょう。望月花帆は頼みます!」


「頑張りまーす!」


俺は群衆を掻き分けるように望月花帆がいる祭壇に向かい走り始めた。

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