第8話 石化の病

「すいませんでしたぁぁ!!まさか教団と戦う側の人たちとは思いもしませんでぇ!!」


先ほどとは打って変わり、俺たちの前で土下座をした男は自警団・ケルベロスの団長・バンというらしい。


「いや、別に。俺らもこの街の事情も分かってなかったし」マリナがボコボコにしたせいでむしろこっちの方が悪く思えてきた。実際、それに助けられたんだけど。


「街の人間も教団の胡散臭さは分かってるんでさぁ。でも教団は石化病を治せる力を良いことにこの街で好き放題やってるんです。俺らはそれが許せなくて」


「あのさ、石化病ってなんなの?」


「え?」バンは戸惑った顔で聞き返す。


「あ、いや、俺ら海を渡ってきたんだ。だからその石化病ってのがなんなのか分からなくて」


「ああ、そうだったんすね。石化病は半年くらい前からこの街で流行りだした病気です。これですよ」そう言ってバンが左手の手袋を外すと、すでに手首まで石化が進んでいる状態だった。


「!…本当に石に」


「その名の通り手先、足先から時間をかけて石に変わっていく病です。特効薬が見つからなくて、絶望していたところに教団の聖女・エウリアが現れたってわけです」


「…なるほど。タイミングが良すぎるってわけか」


「へい。教団が石化病の何らかの情報を持ってるとは思うんですが…」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


その日は自警団の一人が営む、近くの宿屋に宿泊した。

「すみません、部屋が一部屋しか空いておりませんでぇ」頭の禿げた自警団の男が申し訳なさそうに言う。


「ああ、そうなの…」


「私は構いませんよ?サダルトリアの騎士団の時は性別などあってないようなものでした」

マリナは構わないようだ。でも俺は残念ながら眠れないだろう。


部屋に入ると英美から通信が入った。

『遠野くん、さっきの自警団の話からするに石化病と奇跡の力は君の言うとおり、繋がっている。まだ推測でしかないけど、今回の件、すべて教団が絡んでいるはず』


「やっぱりな、でどうするんだよ?」


『望月花帆を拉致して逃亡すればすべて丸く収まるけど、転送場所まで逃亡のリスクが高い。とりあえずは教団のことを詳しく知ることが必要ね』


「上手く接触できるように頑張るよ…」


『よろしくね。…今日はもう通信しないから、マリナと親睦でも深めなさい』

ニヤニヤと心底面白そうな顔で英美はスマホの画面に映っている。


「おい、何もないからな」ああ、もし通信してないなら0・1%くらい可能性としてはあったかもしれない。しかし英美、お前が通信を完全に切るなんて真似をするとは到底思えない。

『じゃあ、おやすみ』

通信は切れた。

俺はベッドに横になり、ため息をついた。

「お疲れ様です。大智」横に座っていたマリナが言う。


「いや、マリナさんこそ。さっきはありがとう。助かったよ」


「私の役目は大智を守ることです。お気になさらず」


目が点になった。これが騎士というものなのだろうか。日本でこんな言葉を言える人間はいないだろう。やはり生きていた世界が違うとこうも変わるものなのだろうか?


前の会社では少なくともここまで信頼できる上司も信頼してくれる後輩もいなかったな。



夜が深くなっていく。窓の外、さらに山奥からオオカミに似た遠吠えが聞こえる。

異世界での初めての夜が更けていく。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「おい、タツキとロンが帰って来ないってどういうことだ!?」

「それが分からないんですって!!」

翌朝、起きて宿屋の一階に降りていくと自警団の人間とバンが言い争っていた。


「バンさん、どうかしたんですか?」眠い目を擦りながら、俺は尋ねた。


「ああ、悪い。起こしちまいましたね。……実は昨日の深夜、教団の教会にうちの若いのを二人見張りに向かわせてたんすよ。そしたら朝になっても帰ってきてないみたいで」


「バン兄貴、大変だ!!」宿屋に自警団の一人が飛び込むように入ってきた。


「今度はなんだ!」


「二人が…。タツキとロンが石になっちまった!!!」

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