第四章…「青の世界、水の都。【2】」


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 フィア達と話す時は、口調が違うのに友人たちと話す時と、同じ感覚で話ができる。

 これはあれか?

 男が女性に対して話をする時、緊張してしまうのと同じで、男であるドゥーと話をするのに、俺は緊張でもしているのか?

 俺の頭に僅かな動揺が走り、ドゥーが安全に船に乗せようと差し伸べた手を無視して船に乗り込む。

 男と話をするのにいちいち緊張するって…、嫌というか気持ち悪いな。

「じゃあフィア、どう案内すればいい?」

「リータさんは、しばらくはエルンさんの医療術室で生活する事になると思いますので、そことフェレッツェの一直線上にある大まかな生活に役立つ場所と、街の有名な場所を教えて回るつもりでした」


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「了解だ。…しかし、もうお天道様が天辺を過ぎているってのに、それだけ回ってたら日が暮れる前に変えるのは無理だろ、どうするんだ?」

「そこは問題ありません。今日はフェレッツェの寮で寝ますので。いろいろと回ってから、最後にフェレッツェへお願いします」

「なるほどね。了解、任された。じゃあ行くぜ。「イクステンツ」観光だ」

「・・・。イクステンツとは?」

「ん? あ、あ~。そこまで覚えていないって事は、基本的に何も知らない事を前提に教えていかねぇとな。イクステンツは、この国の名前だ」

「ごめんなさい…。私が不甲斐ないばかりに…」

 驚いた表情を見せてもすぐに笑顔になるドゥーと、申し訳ない表情を見せて慌てるフィア。


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 そう謝られると、なんかこちらがいじめをしているような感覚に襲われる。

 俺はそんなことは無いと、彼女の肩に手で手をのせて落ち着かせる。

「じゃあ気を取り直して、行こうか」

 力強く漕ぎだされた小舟、耳に心地良い水の音を立てながら進んでいった。


 ほとんど変わり映えのしない風景、さっきも言ったように石造りの建物ばかりだけど、時折木造の建物も見られる。

 案内される所は、イベントをやる事が多い広場や、店が多く連なる商店街のような場所。

 たまに見える大きな建物は、大体が学校だったり病院だったり、公共施設が多いらしい。


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 一般家庭の家は、そのほとんどが平屋、2階建てにしたり木造にしたりするところはそれなりの金持ちだそうだ。

 商店街にあるのは、洋服店や置物店、ガラス細工の店等、ほとんどが雑貨店のような印象を受ける。

 それに、見てきた店の中に飲食店というモノがあったようには見えなかった。

 それどころか、肉屋とか、魚や、八百屋と言った食材店も見当たらない。

「飯屋?」

「ええ。雑貨屋などは見られるけれど、飲食店や食材店がない。私たちって食事を取らないの? そういえば意識を取り戻してから、何かを食べた記憶がありませんが」

「さすがに何も飲まず食わずじゃ生きて行けねぇよ」


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「食事は取りますよ。魔力機関が未成熟な子供は1日3食、成熟した場合は1日1食、食事を取る回数が少ない影響で食材を買う頻度が多くなく、お店も必然的に少ないのです。この時間帯は…、たぶんお店はどこもやっていないですね。大体夕暮れ時に出始めますので」

「食事を取らなくなるのは、また魔力機関の影響なのね」

「はい。基本的に生命維持や肉体維持に必要なモノは、魔力機関を通して得る魔力で補えます。食事は、子供は未発達が故に魔力で補いきれないモノを補うため、大人に関しては単純に空腹を補うためですね」

 栄養系が魔力で補える…か。

 魔力の万能さに驚くし、補えるのに腹が減るのは、なかなかに痒い所に手が届かないな。

 ・・・腹が減るって事は血糖値の問題か?


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 そっち方面の知識なんて、俺自身持ち合わせてないから、それっぽい単語を出してみただけだが、そのせいか余計理解するのが面倒だ。

 なんかややこしい。

「まぁないならないでいい。これだけ水に恵まれているなら、よく食べられるのは魚?」

「はい」

 なるほど、魚か。

 塩焼き、煮つけ、たたき、フライ、天ぷら、刺身に丼ぶり、一言に魚と言っても食べ方は様々だ。

「そういや…、まさか姉さんがあのフェリス・リータだったとはな、驚いた」

「私はそんなに有名人なの?」

 正直、「あの」なんていう呼ばれ方は、どこか穏やかに欠ける。

 悪い気はしないが、良い気もしない。


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「そうだなぁ…。強さで言ったら軍生の中ではトップクラス、優秀だから軍の作戦に参加する事もよくあるって兄貴が言っていた」

「兄?」

「ダイさんのお兄さんで、軍人であると共にフェレッツェで戦闘技術の顧問をやっている方です」

「ふ~ん…。というか、さっきから軍とか軍生とか…、あまり穏やかじゃないわよね」

「そりゃ~。街の風景を見てれば平和そのものだが、この国は長らく「戦争状態」だからな」

「・・・そう」


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 自分が有名人かどうか以上に穏やかじゃない単語が聞こえた気がする。

 そういえば、フェリスは何か大怪我をして、あの医療術室に行く事になったんだっけか。

 ならその怪我の原因は、その戦争…。

 軍の作戦に参加するぐらいなら大いにあり得る話だ。

 戦争と言う単語事態には悪い印象しかない。

 しかしゲーム上での戦争と言うものはむしろ心が躍る、それは非現実の上で成り立っているという前提があるからだ。

 これは夢で、俺自身はその戦争というモノを、一種のイベントのように感じてい節があり、これからどのように話が進み、どのように変化していくのか、ゲーム感覚で興味を引かれている。


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 だが、フェリスとしての自分は、その戦争と言うモノに何かしらの恐怖を感じているようだ。

 自分の手の平を見れば、その強そうな手は小刻みに震えている。

 その戦争を体験した事のない俺と、その戦いの場で負傷したフェリス、この震えはその差、感情と体の反応の相違なのだろうか。

 ややこしい設定だ。


 ドゥー達の案内でわかった国の事、この「イクステンツ」は、共存を大切にし、あの見守りの樹を中心に広がる、人種と竜種が共に助け合いながら暮らす国だ。


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 太陽の向きの影響で、木陰が出来ないエリアに住宅街や森林エリア広がり、木陰が出来るエリアに軍関係の訓練エリア等の軍事施設広がっている。

 住宅街は言うまでもなく、俺が案内されていたエリア。

 森林エリアには、農作物やこの国で必要不可欠な木材を得るための植林場がある。

 この国の大半は水に覆われていて、水上に出ている土地が少ないそうだ。

 その影響で、植林をする場所も少なく、家等に使われる材料は石関係が多くなったとか。

 なら埋め立ててしまえばいいという考えも浮かんだけど、それは国の決まりで無理らしい。

 石を並べて石畳となり、人の住む場所が築かれているのも一緒じゃないかとも思うが、それとこれとは別らしく、埋め立てはその土地を作り変える事、石で場所を確保するのは元々ある場所に作り上げる事、似て非なるものらしい。


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 その為か、いくら成長が早いと言っても、植林をする場所が多いというわけではなく、木材はとても貴重なモノだとか。

 それに国の「共存」という対象は自然に対しても有効であり、木材を得るために植林をするが、それも必要以上に行う事はせず、木材が貴重となる原因の1つらしい。

 そして、これから向かうのはフェレッツェ、この国の存続がかかったモノの1つ、そこでその説明をしてくれるそうだ。

 街の方は、案内と入っていたが、そんなに見せるようなところも無い気がする。

 元々歩いて案内し、丁度良い時間になる様に考えていたらしいが、船と言う足のおかげで、予定よりかなり早く終わった。


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「早く来すぎたな」

「はい…」

 担当者がいないっていうのも便利な言葉だな。

 まぁ実際にそうだったらしいが…、夢の世界でも、時間と言うモノはちゃんと守れって事だ。

 そりゃあ約束というのは守るためにあるし、時間を決めてあるなら、それに合わさないとな。

 とまぁそんな訳で、予定の時間まで闘技場の方へ行く事になった。

 それもフェリスの記憶を取り戻すため、自身が訓練していた場所を見れば、記憶が戻るかもしれないという理由なのだが、正直無理だろうなと心の中で思う。


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「というか。部外者が入ってきていいの?」

 俺は自分の隣を歩くドゥーを見る。

 フェレッツェ近くの停船所に小舟を止め、風に乗って綿が飛ぶかの如く…、流れる川に乗って当てのない旅に出る葉っぱの如く…、平然と彼は俺達に付いてきていた。

「闘技場は観戦席なら誰でも入れるようになってんの。それに完全な部外者ってわけじゃないしな、俺」

「でも、元軍人は「元」なので関係者ではありませんよ?」

「フィアはたまにキツい事を言うなぁ。でも、今回は観戦席に行くんだから、その事は横に置いといてもいいだろうよ。まぁその事はいいとして、姉さんはこの辺を見て何か思い出せる事はないのか?」


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「ない…な。というか、さっきから姉さん姉さんと言っているけど、別に私より年下という事じゃないですよね?」

 今まで兄と呼ばれて生きてきた身だ。

 急に姉さんなんて呼び方をされて、嫌ではないが、違和感を覚える。

「嫌だったか? なんかフェリスは名前で呼ぶより、姉さんて言った方がしっくりくるんだが。まぁ歳に関しちゃそうだ。俺は66。姉さんはフィアと同い年だから28だったか。ざっと38歳分人生の先輩だな」

「へ~、66か。6…えっ!? 66!」

 見た目はいっても20代後半だ。

 66?


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 全然そういう風には見えない。

 だがしかし、フィアも子供のような容姿で28なのだから、彼のような若さで66というのも、この世界ではアリだとでもいうのだろうか。

「そんなに驚く事かね?」

「あ~。エルンさんに私の歳の事を聞いたらしいので、そっちの事も理解していると思っていたのですが、まだだったようですね」

「・・・と言いますと?」

「魔力は人の老化にも影響を与えるのです。不老不死は無理でも魔力機関が成熟している者とそうでない者とでは、1年間で成長する速さが5倍程違います。魔力機関が成熟した者にその老化抑制の影響が出ます。「((実年齢-成熟年齢)÷5)+成熟年齢=肉体年齢」と言った所ですね」


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 実年齢と肉体の年齢が、この夢の世界では比例しないという事か。

 完全に俺の常識から外れた事柄だ。

 じゃあ28らしいフェリスもその計算でいくと、肉体つまり容姿は17歳後半という事に…。

 後は成熟時期で前後するだろうから…、どうなっても肉体年齢は16~18、つまりjk年齢…。

 なんか急に罪悪感が…。

「驚くならわかるが、なんで落ち込んでんだよ」

「…あ~、こっちの話。それで、その計算だとドゥーは25歳て事かな?」

「正確には26だ。ちょいと成長が遅かったもんでね」


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「1歳も2歳も変わりはしない」

「そうだな。と…、着いたぞ、お2人さん」

 石造りの通路を歩き、階段を何階分か上った先にあったものは、映画やゲームで見るようなコロシアムだ。

 石で作られた観客席、中央には円形の戦闘エリア。

 俺の知る身近なモノで例えるなら、陸上競技場だな。

 下を砂地に、観客席は向斜状で後ろの人でも見やすい設計になっている。

 フェレッツェの裏手に作られたそれは、話によればイクステンツの中で一番大きい建物らしい。

「迫力があるな」


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「国を守る「剣」や「盾」を育成する場所だとかで、設計士が頑張ったんだと。それが建築家やら石像彫刻家やらに伝染して、張り切り過ぎた結果らしい」

 柱に人の姿が彫り込まれていたり、戦闘エリアの方には剣士の石像が四方から見守るかのように設置されていたり、なんか住宅街とかと比べて異彩を放っているように思う。

 闘技場と住宅街では、印象が変わるのも当然だが、とりあえず閑静な住宅街や賑やかな商店街、それがこの国にもある事がわかった。

 そしてそれらとはまた違うモノ、戦うという闘志をこの闘技場からは感じる。

「まぁ訓練だけじゃなくて、多目的に使われている場所でもあるからな。ある意味この力の入りようは、良い方向に転がっていると思うぞ」


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「ふ~ん…」

ドサッ!

「うわっ!?」

 改めて闘技場を見渡し、戦闘エリアで、今まさに戦いが繰り広げられている事に気付いた時、視界の隅に何かが通過すると同時に、近くの観客席に激突した。

「な、なに?」

 思わず隣にいたフィアに軽くしがみ付きつつ、俺は飛んできたモノに目を凝らす。

 巻き上げられた砂埃が収まり、そこに見えてくるのは鎧を着こんだ男…だろうか、とにかくいかにも騎士って感じの人がそこにいた。

「よくもまぁ人をぶっ飛ばせるなぁ」


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「ぶ、ぶっ飛ばす?」

「あそこの人の事ですよ」

 ドゥーの言葉に疑問を浮かべる俺に、困り顔を浮かべつつ、フィアは闘技場の中心を指さす。

 砂が敷き詰められたいかにも足場の悪い戦闘エリア、そこに数人の鎧を着た人に囲まれた少女。

 自分の背よりも長い得物、ハルバートとでも言えばいいだろうか、それを振り回して、迫りくる鎧連中をあしらっている。

「なにあれ…」

 その少女は、前方の相手の武器を弾き、別の相手へ得物を振り下ろして地面に叩き付けた。


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 後ろから迫る相手が振り下ろす剣を左手の篭手で叩き飛ばし、右手で持った自身の得物を振り上げて相手を観客席の方へと叩き飛ばす。

 何十メートルも先にある観客席に叩き付けられて、俺達のすぐ横に飛んできた人と同じように砂埃を巻き上げる。

 振り上げた得物を、威力をそのままに、後ろで体勢を立て直した相手に振り下ろして、それを沈黙させる。

「うわぁ…」

 驚きとかそういうのはどこかに吹き飛んで、その少女の戦いぶりに引くばかりだ。

「だ、大丈夫ですか? リータさん?」

「え? あ~、うん。大丈夫。ごめんなさい、しがみついたりして」


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 心配そうに覗き込んでくるその顔を見て我に返った俺は、すぐにフィアから離れる。

「しかし、強いな。同じ軍生じゃ数人束になっても敵わないか…。下手すりゃ軍人相手でも引けを取らんかもな」

 フィアを横目に、俺は戦っている少女を見る。

 全身ガッチガチに鎧を着こんだ相手に対し、少女は胸当てに篭手、膝から下の具足と…その装備は軽装で、右手と左手とで篭手の形が違うのが気になるが、それよりも俺が目を引かれるのは、やはりあの尻尾だろう。

 俺の尻尾より少々刺々しい見た目で、青黒い甲殻と鱗。

 左腕の…二の腕の中間辺りから指先まである篭手は、その尻尾と同じ色だ。


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 少女は、濃い赤紫のボブカットヘアの髪をたなびかせながら、縦横無尽に動き回る。

 尻尾があるという事は竜種で、竜種は身体能力が優れているらしいからあんな動きが出来るのか。

 大きな武器を片手で振り回すだけでもすごいのに、それを持ったままでも一度跳べば数メートルは軽く超える。

 オリンピック選手も顎が外れるレベルの跳躍力だ。

「やられてる人たちは大丈夫なの? こっちまで飛んできた人もそうだけど、それ以外の人たちもピクりとも動かない…」

「大丈夫。不慮の事故以外で死人が出るようなものは訓練じゃないから」

「・・・でも…」


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 ドゥーが嘘を言っているとは思わないが、目の前で起きている事で死人が出ないとは思えなかった。

「姉さんの反応は見ていて初々しくていい。だがまぁ初見であれじゃ、そう思っても仕方ないか」

 苦笑しつつドゥーは飛ばされてきた剣士の方へと歩いていく。

「大丈夫ですよ、リータさん。あの武器は本物ではありませんし、それにどんなに致命傷になりうる攻撃でも、そうならないようにしてくれます」

「・・・言っている意味がよくわからないのだけど…」

「姉さん、ほれっ」

 フィアの言葉に首を傾げている時、ドゥーが剣士の使っていた剣を拾い上げて、それを俺の方へと放り投げる。


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 刃物を投げるなとツッコミを入れる間も無く、何とか剣の柄を掴んだ。

「あ、危ないだろ! 危険物なめるな!」

「危険物? よく見ろって。その剣に刃なんてついちゃいねぇよ」

「ん…?」

 ドゥーに言われるがまま、手に持った剣を見る。

 確かに彼の言っている通り、その剣に刃はついていなかった。

 これなら確かに、人を「斬る」事は出来ないだろう。

 だが、なんだ…、違和感を覚える。

 感覚とかそういうモノではなく、その見た目と言うか、剣の形があやふやと言うか…。


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「・・・?」

 剣を両手でしっかりと持ち、首を傾げながら見続ける。

 見た目はただの剣だ。

 ファンタジー系の作品で、序盤の旅のお供として登場する「ロングソード」と言った所、ゲームじゃ作品によっては最初から最後まで役立つ名剣でもあるソレ。

 だがそれは見た目の話、その剣の種類をカテゴライズするならの話だ。

 俺が感じる違和感を具体的に言えば剣の輪郭、それほど大きくない画像データを、拡大して見ているようなそんな感じだ。

「それで…、この剣はどう特殊なの?」

 何かが変な事は見ていてわかる。


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 しかし、これが死人の出ない訓練にどう生かされているのか、それがわからない。

「食い入るように見てるんだから、その剣が普通じゃない事は気付いてるよな。答えを言うなら、フィアが言っているようにその剣は本物じゃない。正確に細かく言うなら、鉄とかを打って作られたのが本来あるべき姿なら、その剣はそれらの材料を使わず魔力だけで作った紛い物だ」

 また魔力…、良くも悪くも魔力に依存した世界だな…。

「それで…? それと死なない事とどう関係してくる?」

「仕組みを説明するなら、そうだな。細かい事を言い始めたらキリがないから、死なない理由だけ説明しておこう。その武器は魔力体であるが故に、人を感知する。人は常に体内に魔力を吸収し続けているから、それを利用するわけだ。相手の体に接触しそうになった時、風の性質の魔力が反応して接触時の緩衝材の役割をする。まぁそれで足りない場合は、土の性質が反応して、相手側の接触面を強化する。それでもダメと判断されたら武器が壊れる」


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「ん…ん~…?」

「要は全力でやっても相手が怪我をしないように武器自体が調整してくれるって話だ。まぁそれでも使う奴によっては、そこで伸びてる奴みたいにここまで飛んでくるがな」

「それで逝っちゃいそうなんだけど…」

「まぁ今の所、死人は出ていない。ここまで飛んでくる衝撃を受けたなら、土の性質でその肉体自体に影響が出ないように調整されてるさ。それにこれも案外使いようだ」

「と言うと」

「風の性質だけで足りている時は実際の戦闘なら軽傷でまだ戦える。だが土の性質が発動する程なら、攻撃を受けた側は実際の戦闘なら重傷を負っており状態になる。骨折なり切断なりな。武器が壊れたなら、力の入れ過ぎ、後先考えなさ過ぎって判断。それに土の性質が発動していた場合は強化以外に固定の特性が入る。簡単に言えば動かなくなるんだ。実際の戦闘なら俺は死んでいた…腕が無くなっていた…て具合に現実味が増して訓練に身が入るって訳だな」


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 なるほど…、なるほど?

「まぁ人が死なない武器と思っておけばいいんだよ。人に傷を負わせられない以外は普通の武器と変わらない」

「ふむ…。・・・あ」

 持っていた剣が切っ先からヒビが入り、地面に落としたガラス細工のように弾け飛ぶ。

 はじけ飛んで行ったものが体に当たってもなんの痛みもない、霧吹きで水を吹きかけられた程度の感触だ。

「あとは、使ってた奴の魔力で形を保ってたから、そいつの手から離れると基本的に壊れる」


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 そして手に残ったのは、形が崩れて消えていく白いパロトーネだった。

「その武器を作るために、特注されたパロトーネ。本来例外はあるにしても、個人で複数の性質を帯びた魔力を作り出す事が出来ないからな。その為のパロトーネだ」

「パロトーネ…。マーセルが怪我を治してくれた時にも使っていた。後はファルガが濡れた髪を乾かす時。結局このパロトーネって…なに?」

 使う所は何回か見せてもらったし、使った後に無くなる事も分かっている。

 しかし、結局のところ、これが何かと言う説明を受けていない。

「パロトーネは、一言で言えば水筒の魔力版…かな」

「水筒…」

「別の言い方をするなら、魔力を結晶化させたモノだ。用途としては性質を持った魔力をパロトーネとして保持して、使いたい時に使う感じ。さっき言った通り、基本的に個人が自分の力だけで使える魔力性質は1つだ。パロトーネは元々それを補う目的で作られたモノ。水の性質を持つ魔力を使える魔力機関持ちが火とか土を使いたいって時にパロトーネを使うんだ」


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「なるほど。ありがと」

 水筒、自属性以外の魔力を使うための入れ物…か。

「どういたしまして。・・・と、向こうも終わったみたいだな」

 ドゥーの説明に聞き入っていたせいで気付かなかった。

 訓練と言う名の戦闘が終わり、下で1人立っているのは、あの竜種の少女。

 フィアという例もあるから、年齢的に少女であるかどうかはわからないが、とりあえず今の所…少女だ。

 俺達がしゃべっている間、フィアはいつの間にか下の方へと移動して、一番戦闘エリアに近い観客席で、少女の方を見ていた。

「あれは知り合い?」


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