第40話:譲れないもの

 リリィの艶やかだった桜色の髪は乱れに乱れ、赤黒い血が疎らに付着て汚れている。

 服はボロボロに破け派手な衣装の面影はなく、むき出しになった肌には無数の傷があった。

 手当されていない傷が流した血が床を赤く染めていた。


「お前……確か、一度あった」


 入口で固まるノエとアイリーンの一歩前に出て菫が慎重に声をかける。

 リリィはノエが怪我をして千鶴の家に泊まっていた時、一度だけあった存在だが、足元までの長い桜色の髪、千鶴とリリィお互いに信頼している雰囲気が伝わり印象に残っていた。

 大怪我をした状態のリリィに本来ならば駆け寄って手当をしたいが、手負いの獣のように全ての存在が敵だと言わんばかりに殺意と敵意を蹲った身体から放っており、不用意に近づいたら喉元を噛みちぎられそうだった。


「リリィだな」


 菫に声をかけられて初めて自分以外の存在に気づいたとリリィは傷だらけの顔を向ける。赤に塗れた顔には透明な滴が瞳から零れ続けていた。


「どうしたんだ」


 硬直から解かれたノエが心配そうに近づく。

 菫はノエを静止するべきか迷ったが、認識されたことでリリィの殺意は薄れていた。万が一殺しにかかってくるのならば間に入って止めればいいと判断する。

 仮にリリィの実力が高くとも満身創痍の身体では上手く動くことは叶わないだろう。


「一体何が起きたのか、教えてほしいんだぞ」


 ノエが訪ねてもリリィは答えない。


「もしかして……千鶴君に何かあった」


 驚きながらも冷静に周囲の様子を観察していたアイリーンが布を両手で握りしめながら訪ねるとリリィの瞳が揺れ動いた。


「……何があったんだ」


 あたりか、と判断した菫はなるべくリリィを刺激しないよう平坦な声で訪ねるが、リリィは喉を強く爪が食い込むほどに握りしめたまま答えない。

 菫はどうしたものかと迷っていると、アイリーンは床の夥しい血の全てがリリィのものではないのに気づく。

 無数の引き出しが落下しひっくり返っている中に輸血用のパックがあった。拾い上げると穴が開いていてそこから零れ血が広がる。

 酸化と新鮮な血が床で混じりあう。

 周囲を見渡す。

 金銭から、簡易的な応急処置の道具に筆記用具、保存用の食事、手ふきといくつも転がっているが中でも輸血用パックの量が多い。

 薬師としての仕事を考えても所持量は異様だった。

 ただでさえ治療をするのが適当な千鶴だ。そこまで念のためにといって仕入れているとは思えない。

 ならば、導き出される答えは一つ。


「もしかして、千鶴君。吸血鬼だった?」


 吸血鬼であれば、血を補給するのに必要以上仕入れても不思議ではない。

 アイリーンの言葉に、リリィが満身創痍の身体に鞭をうって襲いかかる。


「えっ――」


 距離を詰めたリリィの掌に握られたナイフがアイリーンに突き刺さろうとした瞬間菫が割って入りナイフを受け止める。

 殺意と唸り声をあげながらリリィがナイフに力を籠めるが、傷だらけの身体ではどう頑張っても普段のような力は出せず、菫を退かしてアイリーンを切り殺すことが出来ない。


「リリィ。千鶴は、リリィを助けるために吸血鬼だってことを教えたのか」


 リリィの背後に立ったノエの言葉に、リリィは動きを止める。

 正面にいる菫とアイリーンはリリィの感情の動揺が読み取れた。


「オレは吸血鬼だ。オレは吸血鬼か人間かを判断できる。だから、オレは千鶴が吸血鬼だって知っているんだ。リリィも、吸血鬼だってことも……知っているぞ」


 ノエの言葉にリリィは驚愕する。

 リリィから見ればまだ幼い子供が吸血鬼が人間と行動をしていることも驚きだが、人間か吸血鬼かを感覚で判断できる吸血鬼の数は非常に少ない。

 リリィも千鶴も吸血鬼だった事実に菫もアイリーンも衝撃を受けたが、開きかけた口を閉じる。ノエに任せるのが最善だ、と。


「お前……」

「オレはわかるんだ。だから知っていた」

「……そうか」


 リリィは気力だけで立っていた力を失いささくれた床へ座り込む。アイリーンを殺せなかったナイフが床に転がる。

 ノエは千鶴が吸血鬼だと知っていた。

 吸血鬼に吸血される苦痛を、血の渇望を我慢してまで千鶴は自分の正体をリリィに告げなかった。

 だが、リリィがアイリーンを殺そうとした動作は千鶴が吸血鬼だと知ってのものだ。

 苦痛を享受してリリィに血を上げ続けた千鶴が、吸血鬼だと告白する状況があるとすればそれは――リリィを助けるためとしか考えられない。


「リリィ。何があったのか教えてほしいぞ」


 ノエの言葉に、呼吸を荒くしながらリリィは頷く。


「千鶴は……ころ、された……。俺を、助けるために、殺された……俺のせいで、殺されたんだ」


 弱弱しい声。瞳から大粒の涙が零れる。

 状況から考えて推測出来ていたことだが、それでもノエは息をのんだしアイリーンは千鶴に見せようと思っていた素顔を隠すかのようにフードを深く被り、菫は瞼を瞑る。


「お前は、知っていたんだろ? どうして、千鶴は……千鶴はどうして俺に吸血鬼であることを、内緒にしていた」


 答えを求めなくてもリリィはわかっていた。

 それでも縋るような瞳でノエへ尋ねずにはいられなかった。


「リリィが、大切だからだ」


 ノエがまっすぐな瞳でリリィを見上げて澄んだ音色で告げる。


「それ以外にあるわけない」

「……」

「千鶴は言っていたぞ。リリィが大切だから吸血鬼であることを絶対に隠すって。僕が吸血鬼だと知ったら、リリィは吸血するのをためらうかもしれない、それは嫌だって。人間も吸血鬼も誰がどうなろうと興味はないけど、リリィだけは違う。リリィだけは大切だって」

「ち、づる……」

「だから、リリィを助けるためなら千鶴はどんなことだってしたんだ」

「……知ってる……でも、俺は」


 リリィは両手を床につけて顔を伏せる。


「……俺は……殺そうと、した」

「誰をだ?」


 ノエだけに心中を吐露したいかのように、声を絞り出す。


「誰でも良かった。誰かを殺したいと思った時に、殺せる人間がいればよかった。人を殺すと心が楽になるんだ。だから、昨夜も誰かを殺したくてたまらなかった。けど、相手が悪かった……殺そうとした相手は、審判だったんだ」


 審判の言葉に菫は眉を顰める。

 吸血鬼が審判を殺そうと狙うなど自殺行為もいいところだ。


「俺では審判に勝てなかった……殺されそうになったとき、千鶴が無理矢理割り込んできたんだ。割り込んで……俺を魔術で逃がした」


 乱暴にあつかった魔術はお世辞にもうまいとはいえないものだったけれども、千鶴の暖かさをリリィは感じた。


「初めて、俺はその時、千鶴が吸血鬼だって知ったんだ。馬鹿だよな……俺を見捨てれば、千鶴は何食わぬ顔をして生きていられたのに。俺が人を殺したいと思わなければ、千鶴が殺されることはなかった。俺が殺そうとした相手が審判じゃなければこんなことにはならなかった……俺の、せいだ」


 殺害衝動にかられ、千鶴の元へ向かう前に人を殺そうと街をふらついた。

 きっと仕事が終わったら行くといったのにも関わらず中々やってこないリリィを心配し千鶴は探しに出かけたのだろう。

 そして殺されかけているリリィを発見して割り込んだ。

 死ぬとわかっていて、死ぬために、割り込んだ。


「俺のせいだ……俺が、千鶴を殺したんだ」

「リリィのせいじゃないぞ」

「俺のせいだろ」


 リリィがノエの両肩を掴んで揺らす。


「違う」


 ノエの断言に、何故だと声を荒げる。


「それだけは違うぞ。だって、リリィのせいで千鶴が死んだんだったら、なんのために千鶴は死んだんだ」

「……」

「千鶴はリリィを助けたくて、助けたんだ。だから、リリィのせいなんかじゃないぞ」

「うっ……」

「千鶴はリリィを助けることも、見捨てることもできたんだよな? だったら、リリィを助けることを選んだ千鶴に対して、リリィは俺のせいだなんていっちゃダメだ。ダメなんだぞ」

「……それでも」

「それでもリリィが俺のせいだって思っちゃうのはわかるぞ。でも……リリィのせいなんかじゃないからな」


 リリィはノエの両肩から手を離し、つらそうに喉元へ手を当てる。枯れるほどに涙は零れているはずなのに一向に止まらない。流れ続ける。


「リリィさん。酷なことを聞くけど審判は誰だったの」


 アイリーンの言葉にリリィは彼の名前に殺意を込めて答える。


「イクス」


 ノエはどうしてと表情を歪め、菫は固まり、アイリーンはやはりかと瞼を伏せる。

 

「リリィさん。ならやはり千鶴君はリリィさんを助けたかったんだよ。殺されるとわかっていても、リリィさんを助けたかった。何故ならば、千鶴君は審判のイクスを知っていた。知っていて、割り込んだんだ」

「な――」

「審判の前に、イクスの前に姿を見せればどうなるか覚悟したうえで、千鶴君はその道を選んだ。どうしても君に生きてほしかったから」


 そういえばとリリィは思い出す。

 千鶴はリリィが殺そうとうした相手が審判であることもその男の名前も知っていた。会話を盗み聞きしていたとは思えない。

 ならば元々審判のことを知っていたことになる。


「なぜ」

「イクスが菫ちゃん……彼の、復讐相手だったから。そして僕はそのことを千鶴君にも伝えていたからだよ」


 アイリーンが菫のほうを指さす。元々ノエたちと一緒にいたことは告げないでおいた。

 今のリリィに告げれば、この場にいる全員に襲いかからないとも限らない。


「自分が殺されても千鶴君はリリィさんを助けたかった。それだけだよ」

「……バカが……俺は千鶴を……」


 千鶴がリリィを守りたい、生きていてほしいと願うのと同様リリィも同じことを願っていた。

 幼いころから千鶴とリリィは一緒にいた。

 リリィが血に飢えていた時に出会った。

 吸血鬼であると知ったうえで忌避することもなく千鶴は笑って血をくれた。

 人間の血がまずくて飲みたくないとわがままを言う子供に、なら「僕の血は美味しいかもしれないよ」といって血を差し出してくれたのが千鶴だった。

 今思えば、その言葉の真意は吸血鬼の血なら飲めるのではないかと思ってのことだったのだろうとリリィの心は荒れる。

 吸血鬼で血を失うことが苦しいのを知りながら笑って、血をほしいと云えばどうぞといって血をくれた。

 吸血鬼であることを告げないで。ずっと人間の振りをして、血を求めるリリィに答え続けた。

 千鶴の笑顔を見続けたいのに、脳内から千鶴の笑顔が消えていく。

 路地裏で気絶から目覚めたリリィは這って千鶴の元へ戻った。

 すでに審判の姿はなく、その場にあったは無残な千鶴の死体だけだった。

 残酷に殺され、血に塗れ傷だらけの千鶴の顔が忘れられない。

 気づいたときには、千鶴の家で蹲っていた。どうやってここへ来たのか記憶も定かではない。

 リリィは喉元を抑える。渇望する血を求める症状がうるさい。

 床にあふれて血の池を作っている輸血パックの血をなめたいけれども、吐き気がしてなめたくもない。

 相反する感情にずっと支配されている。


「リリィさん。審判と殺し合ったのなら魔術は使ったんでしょ……喉、かわいているんじゃないの」


 リリィが睨みつけると、アイリーンは怯む。事実を事実として指摘されたくなかった。


「俺の血をやるぞ」


 菫が申し出たがリリィは首を横に振る。


「人間の、血なんて、飲んでたまるか……俺が、飲みたいのは……のみたい、のは」


 ――千鶴の血だけ。

 もう叶わないことだけど。

 叶わないと思えば思うほど悔しくて辛くて悲しくて。

 それなのに血を渇望するこの身体が憎くて憎くてたまらない。

 すっと、白い肌が横に突き出された。


「なら吸血鬼の血をどうだ?」


 袖をまくったノエが笑顔で云う。


「千鶴の血より美味しくないだろうけど、でも人間の血が嫌なら、吸血鬼の血を飲めばいい」

「おい。ノエ」


 菫の制止が聞こえるがノエは柔らかく微笑む。


「オレは吸血鬼だ。だから、人間の血を飲みたくないリリィに血をあげるんだ。喉が乾いたら、つらいだけだ。オレは吸血鬼だから、それを知っている」


 ノエは知っている。大けがをして千鶴が助けてくれたとき、千鶴が語ったリリィの言葉を。

 リリィが千鶴に吸血鬼だと知られたくない本心を語ったのを。

 大切な人にさえ――大切な人だからこそ――誰にも本音を打ち明けなかった千鶴が、吸血鬼だと知っている自分に語ってくれた言葉を覚えている。

 だから、一度しか姿を見たことがないリリィのことをノエが放っておけるわけがなかった。


「好きなだけ、飲めばいいぞ」


 人間の血を飲みたなくないのならば、せめて吸血鬼の血を飲めばいい。

 その言葉に後押しされて、リリィは手を伸ばす。

 渇望が限界だった。

 ノエの血は、千鶴と同じ吸血鬼の血。

 ノエの腕を引っ張る。バランスを崩して前のめりになって倒れそうなノエの腰を抑えて首筋に牙をたてる。


「っ――!」


 ノエは初めて吸血される感覚に表情を歪ませる。

 奇妙な快楽と血が失われる渇望が同時に襲いかかり、思わず身を捩じろうとするがリリィに抑え込まれる。

 血への渇望を我慢し続けていた反動で我を忘れたようにリリィは血を貪る。

 千鶴の血のように美味しいとは感じられないが、人間の血のようにまずいとも感じられない不思議な味と感覚だった。

 美味しいとは思わないけれど、満足感に満たされる。

 美味しいとは思わないけれど、血を吸いたくないとは思わない。

 血が体内を満たしていく。

 充足したのでリリィが首筋から牙を抜き取る。牙から血が流れた。

 ノエは倒れるように身体をリリィへ預ける。

 小柄な子供の姿をしているノエ相手に血を吸いすぎたとリリィは思いながらも消え去った渇望で身体は満足していた。


「ノエ!」


 菫が駆け寄り、腕を出す。


「血、飲め」

「……いい、のか?」


 ノエが朦朧としながら訪ねる。


「ダメな理由はないだろ」

「ありがとう、だ」


 リリィに身体を預けたまま、ノエは菫の腕にかぶりつき吸血する。

 菫は不思議な感じだった。フェアに血をあげたときのようなむず痒いのような変な感覚はなく、ただ血が抜けていくよう感覚しかない。程なくしてノエが牙を抜いて笑った。


「菫、ありがと」

「どういたしまして。全く吸血鬼が吸血鬼に血をあげるなんて無茶するなよ」

「無茶じゃないぞ。千鶴はずっとやっていたんだから」


 菫は柔らかく笑ってからノエの頭をなでた。ノエは気持ちよさそうに瞼を閉じる。

 リリィはノエの身体を菫に預けてから血が付着した口元を、辛うじて残っていた袖で乱暴に拭うが余計に血で汚れるだけだった。

 アイリーンがハンカチを差し出す。


「こっちの方がきれいだよ」

「……そうだな」

「吸血鬼の血は、どうだった?」

「普通。まずくは……なかった……飲めない、わけでも……ない」

「そう、良かったね」

「あぁ……けど」

「けど? ノエ君になんて云うかって? そりゃ、素直にありがとうでいーんじゃない」


 アイリーンの言葉にリリィはうなずき。ノエの方を向く。

 向いた気配が伝わったのか、閉じていた瞼をノエが開いた。菫はなでる手をはなす。


「ノエ。ありがとう」

「どういたしまして、だ」

「……菫、とかいったな」

「なんだ?」

「俺は千鶴を殺した審判を殺したい」


 ノエの表情が変わったのにリリィは気づかない。


「お前も、その審判を殺したいとそこの奴がいっていただろ」

「アイリーン」


 そこの奴じゃない、とアイリーンが名前を名乗る。


「お前の復讐に、俺も混ぜてくれないか。俺も一緒に復讐させてくれないか」

「一人で殺したいんじゃないのか……?」

「一人で殺したい。この手でぐちゃぐちゃにしてやりたい。けど、俺はすでにあいつを殺そうとして殺せなかった。あいつの方が強いんだ……俺一人では勝てない。お前も目的が復讐だというのならば、俺もお前と一緒に復讐がしたい」


 一人で殺したくてたまらない。

 けれども、それが叶わないのならば――もっとも殺せる方法を選ぶだけだった。

 殺せないよりかは、殺せた方がいい。

 真剣な眼差しに、菫は黙る。

 どう返答すればいいのかがわからない。

 菫も一人で復讐をしたいが、アイリーンがずっと情報屋としての信条や信念を曲げて隠していたのは一人で挑めば、復讐叶わず返り討ちにあうとわかっていたからだ。

 実際、ノエが殺されそうになっていて割り込んだ時、フェアが魔術を行使して助太刀に入ってくれなければ殺されていただろう実力差は感じ取っていた。

 菫は瞼をつぶり深呼吸する。

 何を優先すべきか、何の感情を選ぶべきか。

 復讐は捨てられない。

 大切な親友を殺したイクスを許すことはできない。

 葵は大切な幼なじみで親友で相棒。彼女との大切な親友としての時間をイクスは壊した。

 ひどく、残酷な方法で。

 人間の葵を、壊して殺して捨てた。

 許せない。ノエを傷つけたことも当然許せない。千鶴を殺したことも許せない。

 どのような理由があったとしてもイクスを許せることなど何一つとしてない。


「わかった。一緒にイクスを殺そう」


 殺すという言葉を告げることが子供をあやすように抱きしめているノエを傷つける言葉だったとしても譲れないから正直に告げる。


「ありがとう。なら、俺はすこし……休む。傷が痛い」

「僕が包帯とか巻いてあげるよ。千鶴君のような治療はできないけど応急処置くらいならできるから。終わったら休むといいよ」


 アイリーンが差し出した手にリリィは抵抗することなく捕まり、中の診察室へと入っていく。

 菫はノエの身体を抱きしめながら


「ノエ。イクスを殺されてほしくなかったときは俺を殺せよ」


 告げる。嫌だ、とノエは首を横に振る。


「菫を、殺したくなんてない。でも、イクス……。イクスは、千鶴を……殺した、千鶴が……でも、でも……イクスは、オレを助けてくれた……イクスは、オレに……優しかったんだ」

 

 ノエが泣きそうな声で、イクスとの思い出と、イクスが千鶴を殺した事実に混乱した心のまま吐露する。


「そうだな」


 菫の記憶にだって残っている。だがイクスはノエを傷つけたし殺そうとした。

 優しかった思い出だけで全てを塗りつぶすことはできない。


「けど、俺はイクスを殺す。復讐をする。これだけは譲れないんだ」


 イクスは殺さなければ、心に渦巻く感情に菫は決着をつけることはできない。


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