絶賛ケンカ中

 その後はエアコンを使って部屋の温度が快適な涼しさになり、スウェットから半袖半ズボンに着替え、徐々に俺の体調も快復していった。ようやく落ち着いた俺達は、テーブルで向かい合いながら冷たいお茶を飲んでいる。


「んで、今日は何しに来たんだ?」

「遊びに来たのよ」

「いや、遊びって何をするんだ?」

「これ、というのは特に」

「おいこら」

「なによ。別にいいでしょ。昔はお互い家に行ってから何しようか話したじゃない」

「それは子供の頃の話だろうが。なにか? 今から公園で遊ぶつもりか?」

「するわけないじゃん」

「だろ? 俺達ももう子供じゃないし、今でもそれをやるなよ。こっちだって暇じゃない。予定があるんだ」

「予定って?」


 そりゃあ、テレビ観たり漫画読んだりゲームしたり寝たり……あっ、これ暇だ。


「と、ともかく、せめて目的は明確にして来い」

「目的なんか無くても、こうしてお喋りすればいいじゃん」

「んなもんスマホでいいだろ。電話でもラインでも」

「バカね。直接会って話をするのが女の子の嗜みなのよ」

「俺は男ですがね」

「ここにいるのはあんただけじゃないでしょ。レイちゃんだっている。ところで……」


 一拍置いてから、栞が辺りをキョロキョロ見渡しながら聞いてきた。


「レイちゃんはどこ? 姿が見えないんだけど」

「ああ、まあ、ちょっと……」

「何よ、歯切れが悪いわね」

「ああ、実はな――」

「まさか……家出?」

「家出違う。それは無理。俺から離れられないからな、あいつは」


 レイは俺に取り憑いた幽霊だ。おそらく、彼女の願いを叶えるまではずっと取り憑かれたままだろう。


「じゃあ何? またエロDVDでも見つかって怒られた?」

「ちげーよ!」


 見つかる所か手にも触れられねぇよ。あれからレイの目は厳しくなったし、持ってたのは前にお前が来た時にレイと一緒に全部粉々にしたし。ああ、俺のマイ・スウィート・ハニー達が……。


 憩の品が無に帰した。思い出すだけで涙が止まらない。


「んで? 本当は?」

「ああ。まあ、別に大した事じゃないが……」

「どうせケンカとか、そんな事じゃないの?」

「……お察しの通り」


 レイが姿を見せない理由。それは、前日にレイとケンカをしてしまったからだった。以前はそうでもなかったのだが、最近はケンカをしたり不機嫌になると姿を現さなくなるのだ。


「そんな事だと思った。悟史があんなバカな事してて、レイちゃんが止めないわけないもんね」


 ああ。レイなら間違いなく邪魔――止めに入っていただろうな。


「まったく。私が遊びに来る前に何やってくれてんのよ。これじゃレイちゃんに会えないじゃない」

「そう言われても、ケンカしたんだからしょうがねぇだろ」

「しょうがねぇ、って……レイちゃん、遊びに来たよ。顔出してくれない?」


 栞が呼び掛けるが、レイは姿を現さない。


「反応なし、か。これは相当怒ってるんじゃない?」

「ほっとけよ。どうせ二、三日で顔を出すから」

「そうなの?」

「……たぶん」

「たぶん、ってなによ」

「いつ出てくるかなんて知るかよ。しばらくすりゃ顔を見せるだろ」

「しばらくじゃ遅いわよ。今日会いに来た 私が意味ないじゃない」

「何でいきなり来たお前に合わせなきゃならん」

「こういうのはさっさと謝るに限るわ。悟史、謝りなさい」


 何で俺が謝るの?


「何よ、その顔。どうせ悟史が悪いんだからさっさと謝る」

「俺は悪くない」

「いいや、悟史が悪い」

「ケンカの内容知らないくせに勝手に決めつけるな」

「ほう。なら、そのケンカの発端は?」


 俺は昨日の一連の流れを栞に話始めた。

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